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デフォルト:安住 晴【アズミ ハル】都内の印刷会社の営業部所属。
推しはMSBYブラックジャッカルの木兎選手。
最近の悩み:「いつか推しの印刷物の製作を担当したいけどなかなかチャンスが巡ってこないこと」
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「────ぁ......」
「!!」
赤葦さんからの告白に、気付いたらはらはらと涙が零れていた。最近涙腺が緩くなっていて本当に恥ずかしいなと思いながら、勝手に零れ落ちるそれを拭っていれば、向かいに座る赤葦さんはサッと顔を青ざめる。
「......な......泣く程、嫌ってことですか......!?」
「っ、ち、違くて!」
何やら盛大な勘違いをしていそうな相手に慌てて首を横に振り、そうじゃなくてと前置きしながらゆっくりと今の心境を伝えた。
「......ちょっと......混乱、して......だって、......だって全部、なくしたと思ってたから......」
「え......」
「......じゃあ、去年私が、気持ちを告げたことで......赤葦さんは、傷付いてないんですね......?」
「......はい。むしろ感極まってました。......まぁ、その後地獄に落とされましたが、これまでのことを考えれば当然の報いです」
「............」
年甲斐もなくグズグズと泣きながら、一番気にしていたことを本人に確認すると、赤葦さんは相変わらず真っ直ぐな言葉を届けてくれる。
......ああ、そっか。赤葦さん、傷付いてなかったのか......。
「............よかったぁ......」
「────」
彼の返答を聞いた途端、心の中でずっと重しになっていたものがスッと消えた気がして、たまらずほっと息を吐いた。心優しい赤葦さんを傷付けてなかった。信頼を、裏切っていなかった。その事実がたまらなく嬉しくて、安心して、次から次へと涙が出てくる。でも、よかった。本当に、本当によかった。
「............安住さん」
昨年からの胸のつかえがやっと取れて、心の底から安堵していると、向かいの席に居る赤葦さんはおもむろに立ち上がり、こちら側まで来ると私の前にゆっくりと膝を着いた。
「え、え?あの、何......」
「好きだ」
「!?」
椅子に座っている私と、膝を着いた赤葦さんとの距離は先程よりもずっと近く、その距離間で真っ直ぐ見つめられながら告げられたその言葉に、心臓が大きく脈打った。
「......木葉さんにも、治さんにも、コート寄越した奴にも、......木兎さんにだって、渡したくない。俺だけがいい。俺だけが、一番近くに居たい。心も、身体も、全部」
「......っ、」
「......安住さんだけなんだ、本当に。安住さんの全部が欲しくて、俺の全部をあげたい。もっと色々知りたいし、俺のことも知ってほしい」
流れるような動作で左手を取られ、まるでどこかの国の御伽噺かのような体勢で、砂糖菓子みたいな言葉を申し分無く寄越される。そんなことには全く慣れてないしがない営業マンの為、あっという間に頭と顔が熱暴走した。
「......叶うなら、ずっと一緒に居てほしい。バレー観戦以外にも、もっと色んなところに一緒に行きたい。色んなことを、もっと話したい」
「............っ、っ!」
左手を包む大きな手が熱くて、冬なのに頭も顔も身体も全部熱くて、どうしていいのかわからない。いい歳してぼろぼろに泣く姿なんて見られたくないのに、眼鏡の奥の綺麗な瞳からどうにも目が離せなくて......パチンと思考が弾けた途端、膝を着いて座る赤葦さんに縋るように抱き着いた。
「............わ、私も......赤葦さんのこと、好きです......!」
「!」
「......連絡もしないで、逃げて、ごめんなさい......っ......もう、会ってくれないかと思った......っ」
「......そんなこと、絶対にしません」
普段とは違い、私より低い位置にある赤葦さんに被さるように抱き着き、自分の気持ちを吐露しながら子供みたいに泣き続ける。そんな私の背中をあやすようにぽんぽんと軽く叩いてから、赤葦さんはそのまま力強く私を抱き締めた。
「......ただ、逃げられるのはもう二度とごめんです。今後、音信不通になるのだけは勘弁してください」
「......はい......すみませんでした......」
「......安住さんは、俺に何か伝えておきたいこと、ありませんか?」
「............」
隙間も無い程にぎゅっと抱き締められて、赤葦さんの体温に包まれながらもそんな釘をしっかり刺されてしまい、改めて反省を口にすれば今度は向こうから私に何かないかと尋ねてきた。少し黙って考えて......いつぞやカナから指摘されたことがふと頭に思い浮かび、言うか否か悩んだ末に念の為伝えておくことに決める。
「......えと、あの、私......その、すごい心狭いんです......こ、恋人が、女の子と二人で食事するとか、出掛けるのとか、......長電話とか、ちょっと嫌で......仕事だったら仕方ないけど、それでも先に、話しておいて、ほしくて......なんて......」
「......それ、心狭いんですか?恋人同士なら当然の事ではと思うんですが......ああ、そういえば、俺に彼女がいるって思ってた時も何かと距離取られてましたもんね」
「その節はどうもすみませんでした!」
「......俺は、仕事でも嫌ですよ。何なら木葉さんとのサシ飲みとか、木兎さんに頬染めてるのとか、正直だいぶ面白くないです」
「え」
「......こういう事なら多分、俺の方が狭量だと思います。思ってたよりだいぶ独占欲強いみたいで」
「............」
簡単な恋愛観の目線合わせをしたつもりだったのに、なんだか凄いことを聞いてしまった気がする。思わずきょとんと目を丸くする私を見て、赤葦さんはまた小さく笑ってからするりと眼鏡を外した。
「......今日は沢山話しましょう。安住さんのこと、もっと教えてください」
「............」
初めて見る眼鏡を掛けてないその顔は、温和そうな色を潜めて鋭く洗練された美しさみたいなものを感じる。当たり前だけど、私は赤葦さんのことをまだまだ全然知らないんだなと思い知りながらその端正な顔を見つめてしまえば、赤葦さんは少しずつ距離を詰めてきた。
「......赤葦さんのことも、教えてほしいです......」
「勿論。喜んで」
すぐ近くまで迫った赤葦さんに自然と瞼が落ちると、自分とは違う熱が丁寧に唇に重なる。瞳を伏せると同時に涙がぽたりと落ちてしまい、再び開けると赤葦さんの頬に涙の雫が付いてしまっていた。ああ、しまったと思って指で彼の頬を拭えば、一度口元を離れた熱を少しだけ性急に重ねられ、びっくりしている間に何度も交わしてしまった。
「......安住さん、明日も休みですよね?何かご予定はありますか?」
「......え、と......いえ、特には......赤葦さんは?」
「俺も休みなので、明日どこか行きませんか?」
「え、行きます!」
暫くして、少し息が上がってきた頃に赤葦さんからそんな誘いを寄越された。私の休みを知っているのは多分カナから聞いたんだろう。こういう所も抜かりないのが彼女だからだ。相変わらずやり手だなと思いながら、思いがけず明日のデートが決まったことに胸を踊らせていると......全く想定してない言葉を、赤葦さんは何食わぬ顔で寄越してきた。
「......じゃあ、明日も会うんですから今日は泊まっていってください」
「え!?」
思わずぎょっとしてしまい、目を丸くして相手を見るも、赤葦さんは涼しい顔でほんのりと首を傾げる。か、可愛い......じゃなくて、いや、流されたら駄目だ!流石にお泊まりはちょっと無理だ!
「......いや、それは、ちょっと......スマホも気になりますし......」
「なら、明日出かける前に安住さん家に寄りましょう」
「え、や、でも、......ご迷惑ですから、泊まるのは流石に」
「大歓迎ですよ。今夜は木兎さんの試合沢山見ましょう、解説は俺です」
「ん゛ッ......!!」
なるべく失礼のないようにお断りしようと思うのに、目の前にとんでもなく魅力的なエサをぶら下げられ、気持ちが大きくぐらりと傾いた。え、ウソでしょ、年初めの木兎光太郎会とかめっちゃやりたい。しかも赤葦さんの解説付きとか最高じゃん。最近木兎光太郎まともに見てなかったし......
「............いや!やっぱり駄目です!何も準備してないし今日は帰ります!」
「何の準備ですか?」
「お、お泊まりセットとか!」
「あの鞄には入ってないんですか?」
「ん゛ッ......ぜ、全部は揃って無いので!実家にあるものもあるので!」
「例えば?」
「......ね、寝巻きとか!」
「そんなの、俺の貸しますよ」
「畏れ多いので大丈夫です!」
「俺は構いません。......というか、むしろ着てください」
「!?」
「......俺の服着てる安住さん、見たいです」
「み°ッ」
グラグラと揺れる理性を無理やり留めて何とかかわしているとしてるのに、突然の爆弾発言にたまらず言葉の弾丸が途切れてしまった。一気に顔が熱を帯び、言葉を詰まらせた私の隙を好機に変えて、赤葦さんはここぞとばかり追い打ちを掛けてくる。
「......年末年始会えなかった分、一緒に居たいんです」
「!!」
「......それに俺、12月誕生日だったんですよ」
「!?」
「......だから、今日は帰らないで、俺の服着て、バレー観戦しましょう」
「............」
ね?とどこか煽情的に笑われて、長くて綺麗な指に前髪を梳かれたと思えば、おでこに軽くキスを落とされた。......これ、完全におねだりし慣れてる動きだ......!
「............赤葦さん、もしや結構猫被ってました......?」
「............」
今までの赤葦さんの印象は真面目な硬派というか、あまりこう、ハニートラップみたいなことは出来なさそうなイメージだったのに、とんだ誤算だった。そういえば、この人大手出版社の人気漫画雑誌の担当編集者様だったこと、すっかり忘れてた......。
「......そうですね。結構格好付けてたのは認めます」
「............」
「......思ってたのと違って、がっかりしましたか?」
「!」
意外と押しの一手でグイグイ来る相手に戸惑いがちにそんなことを聞けば、赤葦さんは先程外した眼鏡をテーブルの上から取り、再び掛けながら少し自重気味にそう返して来る。見慣れた眼鏡姿の赤葦さんを眺めて、その変わらぬ格好良さに思わずため息を吐いた。
「......その言い方、ズルくないですか......赤葦さんにがっかりする女の人とか、居るなら見てみたいです......」
「そうですか?高校の部活の女マネの先輩方には、よく呆れられてましたけど」
「......それはちょっと、その方達が特別というか......それより、本当にその高校どうなってるんです?木兎光太郎も居たんですよね?もしかして芸能系列とかだったりします?」
「いえ、普通の私立高校です」
「......あ、分かりました。木兎光太郎の言う、“普通”ってやつですね?」
「いえ、これは“平均的な”の意味で使いました」
「えぇー?」
「......ですが、バレーは強豪でしたよ。学生時代の木兎さんのバレー、鑑賞されますか?俺、DVD持ってます」
「え!見たい!見たいです!......あ!もしや赤葦さんとのセットプレーとか見られます!?」
「!」
ここで話題が高校時代のことになり、当時の高校バレーの試合観戦が出来るというあまりにも魅力的なカードに思わず飛び付いてしまった。
「木兎光太郎と赤葦さんのバレー、当時見られなかったの本当に悔しくて!だから是非とも拝見させてください!あ、もしや木葉さんもいらっしゃいますかね!うわ、超気になります!楽しみです!」
「............」
「そういえば高校バレーとプロって違うところあるんですか?見る前に予習しといた方がいいとかあります?......あ、そうだ、スマホ無いんだった......」
「............ふ......」
もう見られないだろうと思っていたものがころりとこの場に差し出され、興奮しながらあれこれ考えるも調べ物をする為のスマホが自宅にあることを思い出し、一気にテンションを下げてしまえば赤葦さんが可笑しそうにふきだした。そのままくすくすと笑われ、今までの忙しない振る舞いを少し恥ずかしく思っていれば、相手は目元を甘く緩めたまま、ゆっくりと私と視線を重ねた。
「......バレーボールを、木兎さんを、120%で楽しんでくれる安住さんが好きです」
「!」
「......あの日の非常階段で、あなたに逢うことが出来て本当によかった」
「............」
赤葦さんの言葉に、あの日の光景がふわりと蘇る。気の乗らない合コンを抜けて、カラオケの非常階段の踊り場で木兎光太郎の試合をスマホで見ていた私の後ろから、この人は突然現れた。まるで、夜の森を音もなく滑降する梟みたいに。
「......あの時の言葉、もう一度俺に言ってもらっていいですか?」
「え?」
「......あの時は、驚きのあまり何も返せなくて、ずっと心残りだったんです。でも、今なら......“ありがとうございます。あなたは俺が幸せにします”って、ちゃんと応えられます」
「............!」
あの時の言葉なんて、私は何を言ったっけと首を傾げた矢先、続いた言葉にある一言が思い浮かぶ。......そうだ、確か、素性の分からない赤葦さんに、高校時代木兎光太郎のセッターをやっていたと言われて、私は、この人に、
「......“て、言ったら......どうします?”」
「............」
120% 4 U
(............“この幸せ者!”)
End.