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デフォルト:安住 晴【アズミ ハル】都内の印刷会社の営業部所属。
推しはMSBYブラックジャッカルの木兎選手。
最近の悩み:「いつか推しの印刷物の製作を担当したいけどなかなかチャンスが巡ってこないこと」
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「アズは地元静岡だっけ?今年は帰るの?」
「......んー......まだ悩み中......親からは帰ってこいって連絡きたんだけどさァ......」
「何か予定あるの?」
「......折角の貴重な連休だし、推しフェスをしたい」
「え、また木兎光太郎に会うの?やったじゃん」
「そんな訳ないじゃん。美味しいもの食べて、美味しいお酒飲んで、家で試合動画一気見するんですぅ」
「......あぁ、アカアシさんと?」
「ひーとーりーでーすー......あ、じゃあカナ来ればいいじゃん。一緒に推しフェスしよ!」
「私彼氏と過ごすから無理」
「えぇー!私と彼氏どっちが大事なの!?」
「彼氏」
「即答!でもそういうとこ好き!」
仕事終わりに同期の友達であるカナとメキシコ料理店に寄り、トルティーヤに野菜や肉を挟みながら目前の年末のことを話していた。
彼女とは何度か合コンに行ったけど、最終的に木葉さんの先輩であるエーアガイツ製薬の方とお付き合いすることになったらしい。
「でも、向こうも彼女居ないんでしょ?じゃあ何の問題もないじゃん。誘えばいいのに」
「.......いや、問題ありまくりだから。ていうか、前も話したじゃん。赤葦さんは私が“友達”だから、仲良くしてくれてるんだって。私が赤葦さんに恋愛感情持ったら、もう今みたいに普通に会ったり喋ったりできないよ」
「ふーん......」
ここでふと話の矛先が少し嫌な方向へ向き、へらりと笑いながら当たり障りのないことを返せば、カナは赤ワインを飲みながら小さく相槌を打つ。
「.......それは、随分難儀なことで。......まぁ、アズがぜ~んぶ我慢すれば丸くおさまるもんねぇ」
「......何その言い方。文句あるならはっきり言ってほしいんだけど」
形のいい唇を釣り上げ、どこか含みのある言い方をする相手にたまらずムッとした顔を向けると、彼女はワイングラスをゆっくりとテーブルに置いた。
「.......向こうに彼女が居るって話に悩んで、ソレが嘘でも結局距離感に悩んで......そんな人とこのままずっと“いい友達”続けて、本当にしんどくなんない訳?」
「.......そ、れは......」
「お互いフリーの今はいいかもしれないけどさ......向こうに本当に彼女出来たら、アズは何もしないでさっさと身を引くの?“彼女可愛いね、おめでとう”って笑って祝福すんの?」
「.............」
遠慮ないカナの言葉に、心臓が嫌な音を立てる。
この間、木兎光太郎の試合を見に行った時に私は赤葦さんの気持ちを優先したいと確かに思った。
赤葦さんが私と友達で居たいなら、私もそれでいいと思ったのだ。
赤葦さんは素敵な人だし、優しいし、木兎光太郎の話も呆れず聞いてくれる寛大な人で、私にとっては本当に魅力的な男性だけど......でも、赤葦さんが私の気持ちを望まないなら、それはもう捨ててしまおうと考えた。
......だけど、もし本当に赤葦さんが他の女の子と付き合うことになったら、私は“友達”としてちゃんと祝福してあげられるのだろうか?
「.......それが出来ないなら、“都合のいい友達”なんかやめちまえ」
「っ、そんなんじゃない!」
私の深層心理を的確に抉るような発言に、思わず大きな声が出る。
途端、しんと静まり返る店内にはっとして、とにかく落ち着こうとグラスの水を一気にあおった。
「.......そりゃあ、さ?......確かにカナの言う通り、赤葦さんに彼女出来たら......正直、普通にやだし......祝福なんて、多分、出来ないけど......でも、赤葦さんに失望される方が、もっとやなんだもん......」
「.............」
「......ずっと友達で居てくださいって言った私が、本当は赤葦さんのこと好きでした、なんて......赤葦さんからしたら、この嘘吐きってなるじゃん......騙されたってなるじゃん......」
「向こうだって彼女居るって騙してたじゃん」
「それは木葉さんが勝手にしたことで、赤葦さんは関係ないし......!」
一つ深呼吸して、ぐるぐると暴れる思考回路を整えながらゆっくりと胸の内を口にする。
赤葦さんの彼女が居る居ないで少しいざこざはあったが...要は、赤葦さんは私に恋愛感情を持って欲しくなかったという単純な話だ。
そしてそれは今も同じで、赤葦さんは私と友達同士だと思ってるから、近い距離で笑ってくれるのである。
「木兎光太郎の話が出来れば、それでいいし......たまに会って、ご飯食べて、笑ってくれれば、それで......」
「......でも、向こうに彼女出来たら、アズはソレ出来ないんでしょ?ていうか、それでいいって一体何の我慢?何の努力?何かアズに返ってくることってあんの?」
「.............」
「......私さ、アズのそういう、相手のこと考えて先回りできるところ結構好きだけど......恋愛って、コンペと同じだと思ってるから」
「え?」
私の余計な一言で、余計な感情で赤葦さんとの関係を崩してしまうのは嫌だと思ってるのに、カナはカナでどうやら思う所があるらしい。
私が目を逸らしていたこと、耳を塞ぎたくなるようなことをありったけぶつけてくる。
「主張と主張、価値観と価値観のぶつけ合い。......だから、仮にアカアシさんが本当にアズと友達で居たいって思ってても、アズがそれに従順することは無いんだよ。あくまでそれは向こうの主張や価値観であって、こっちが無理にそれに合わせることは無いでしょ」
「.............」
「それこそ逆に無理してずっと合わせてたら、どんどん歪んでくるかもしれない。我慢して、我慢して......最後にアズだけが泣くなら、私はそんな男といい友達で居て欲しくないし、むしろアズのことをちゃんと想ってくれる男を探せと思う」
「.............」
「.............」
「.............」
「.............しようか、合コン」
「は?」
彼女の話も一理あるけど......でも、やっぱり、とぐるぐる思考を回していれば、話は思いもよらないところに着地した。
突然の展開についていけずきょとんと目を丸くしていれば、相手はうんうんと頷いてから鞄から自分のスマホを取り出し、目にも止まらぬ速さで右手を動かし始める。
「最近そのアカアシさん界隈としか会ってないでしょ?それが余計選択肢狭めてるのかもよ?」
「......い、いや、それはちょっと、話違くない......?」
「大丈夫。私セッティングするから、アズは何もしなくていいよ」
「え、えぇー......?や、やんなくていいよ別に......」
「コレやったら私もう何も口挟まないから。ね?」
「.............」
ね?と言いながらも、おそらく速攻で合コンの計画を立てているカナを止める術を、残念ながら私は持ち合わせていなかった。
呆然と彼女を見つめる私の手元には、折角包んだタコスがすっかり汁気を帯びてしなしなになり、哀愁を漂わせていた。
▷▶︎▷
同期の友人による男女比4対4の合コンは、クリスマスや年末等の一大イベントを目前にした時期に開催したからか、いつにも増して参加者のテンションが上がっていた。
先日の流れであまり気乗りしないままのこのこやって来た私も、美味しい料理に美味しいお酒、楽しい話題に少しずつ気分が浮上していき、とりあえず今はこの楽しい空気に浸かってしまえと半ば開き直ってしまう。
トークテーマがそれぞれの趣味の話になり、バレー観戦と木兎光太郎の話をしたら広告会社の男性の一人が木兎光太郎を起用したポスターを作ったことがあると話し出し、たまらずその人と意気投合してしまった。
「それでさ、散らばった資料木兎光太郎が一緒に拾ってくれて。ただでさえ撮影押してて、現場もピリついてたから絶対ぇキレられるって思ったんだけど、あの人にっこり笑って“はいどーぞ!”って渡してくれてさぁ。俺男だけど、普通に落ちたよね」
「あの笑顔は老若男女もれなく落ちますって。国が傾くレベルです」
「美女じゃないんだw」
その人の話からまた一つ木兎光太郎の魅力を知ってしまい、ふんすと鼻息を荒くしながら言い切ってしまうと相手は可笑しそうにふきだした。
「でも、安住さんて木兎光太郎のバレーの試合、見に行ったことあるんだよね?いいなぁ」
「絶対見に行くべきですよ、超格好良いですから!」
「だよな~。でも、一人で行くのちょっと勇気要るし......よかったら、今度一緒に行かない?」
「......そう、ですね!予定が合えば、是非......」
へらりと笑いながら、内心失敗したなと項垂れた。
仕事の時は話の流れをしっかり読んで、相手が何を望むのか、何を言いたいのか、何を聞きたいのかを考えながら話すのだけど、今のは完全にミスった。
明らかにデート目的になりそうなことに、木兎光太郎の試合を使いたくない。
一先ずこの話を打ち切りたい気持ちで「すみません、ちょっと御手洗行ってきます」と断り、スマホとハンカチを持って緊急退避を決めた。
御手洗に行ってからも直ぐに戻る気になれず、電話をする振りをして一旦店の外に出る。
ここの居酒屋は建物の5階にあり、エレベーターの横に備え付けの非常階段があった。
鍵は掛かってないようなので、静かにドアを開けて外へ出る。
コンクリート造りの狭い階段を数段降りて、人がぎりぎりすれ違えるような広さの踊り場で足を止め、手摺に腕をつく。
「.......寒......っ」
途端、12月の風が顔を中心に襲いかかり、たまらず顔を顰めた。
上着持ってくれば良かったなと思っていれば、手元のスマホが小さく着信を知らせる。
「.......え......」
カナにバレたのかと思ったら、着信相手はまさかの赤葦さんで思わずぎくりと身体が強ばった。
電話に出るか出ないか少し悩み......どっちにしろうだうだ考えるならさっさと出てしまおうと思い、応答ボタンをスライドさせる。
「.......はい、安住です」
《......こんばんは、赤葦です。夜分遅くにすみません、今電話大丈夫ですか?》
「.......あ、はい。大丈夫です」
《......あの、都合悪ければ言ってください。別に急用ではないので......》
「いえ、大丈夫です。ごめんなさい、ちょっとお酒飲んでて、ぼんやりしてました」
《......もしかして木葉さんと飲んでます?2人で?》
「あはは、違いますよ。木葉さんと飲む時は、赤葦さんにもちゃんと声掛けますって」
電話に出ると、聞き心地の好い低音が耳元で聞こえ、生真面目な印象を受ける話し方で言葉が紡がれる。
その声に場違いながらも少しほっとして、小さく笑ってしまった。
「......今日は職場の人と友達です。ここの居酒屋、タコの唐揚げがめちゃめちゃ美味しいので、今度木葉さんと一緒に行きましょう」
《......もしかして、合コンですか?》
「.............」
あえて伏せたことを、賢い相手は直ぐに見抜いて叩き付けてくる。
だけど、今はその話をしたくなかったので、ふらりと話題を他所へズラした。
「.......そういえば、赤葦さんと初めて話した時も非常階段でした」
《......居酒屋の非常階段に居るんですか?ちゃんと上着着てます?》
「ふふふ......そうだ、聞いてくださいよ。今日木兎光太郎の撮影現場に居た人とお話しして、木兎光太郎、すごく良い人で格好良かったって。その話聞いて、改めて惚れ直しちゃいました」
《.............》
「やっぱり、木兎光太郎は最高ですね。一生推します」
《.............》
「.......すごく、好きです。きらきらしてて、優しくて、格好良くて......」
《.............》
「.............本当、大好き......」
《.............ッ、》
木兎光太郎のことを話しているのに、耳元で赤葦さんの声が聞こえてるからなのか、......最後の方だけ、うっかり赤葦さんの顔を思い浮かべながら話してしまった。
もしかして、結構お酒が回ってるのかもしれない。
《.............安住さん。あの、俺、》
「あれ、何してんのこんな寒い所で」
「!」
後ろから声が掛かり、びっくりして振り向くとそこには先程まで話していた広告会社の男性が立っていた。
しかしすぐこちらが電話中なことに気が付くと、「ごめん電話か!失礼......あ、コレ着てな。流石に風邪引く」と半ば自分のコートを押し付けるようにして、再び戻ってしまう。
彼の手元にライターらしきものが見えたので、もしかしたらタバコを吸いに来たのかもしれない。
だとしたら、悪いことをしてしまった。
「......すみません赤葦さん。じゃあ、戻るんで......」
《.......どこの居酒屋に居ます?名前と場所教えてください》
「え?」
《今から迎えに行くので、場所を教えてください》
「.......は?」
《あと、その上着はさっさと持ち主に返してください。優しさか牽制かわからないので、くれぐれも下手なこと言わないでくださいね》
「......え......と......あ、赤葦さん?もしかして、酔ってます?それとも暫く寝てないとか?」
《睡眠は足りてませんが素面です。早く場所を教えてください》
「.............」
電話を切ろうとしたのに、思わぬ展開にたまらずスマホを落としかける。
一体いきなりどうしたんだと混乱しつつ「え、大丈夫です。友達居ますので、その子と帰ります」と伝えても、「俺が心配なんで、迎えに行かせてください」の一点張りだ。
「大丈夫です。ちゃんと帰れます。赤葦さんの体調の方が心配なので、今日はもう寝てください。人間、寝ないと死にますよ」
《......安住さんに会わないと心配で眠れません。迎えに行きます》
「.............」
耳元で聞こえる甘い言葉に、たまらず心が舞い上がって......そして、一気に急降下した。
......ああ、やっぱり、全然だめだ。私は、赤葦さんのことを、ずっと、
「.............好きです......」
《......え?》
「.............私、赤葦さんのことが好きです......」
《.............な......》
「......友達で居てください、なんて......嘘吐いてごめんなさい。あの時は心からそう思えたんですが、......ごめんなさい、無理でした」
《え、あ、......ちょ、っと待ってくださ》
「騙してごめんなさい。だから、迎えは結構です。おやすみなさい」
一方的に言い捨てて、通話を切る。
そのままスマホを放り投げたかったが、少しの理性がそれを留めて電源を落とすだけにした。
ふと手元にある男性ものの上着が目に入り、ああ、完全に終わったなとしっかり認識した途端......自分の体温を含んだ生温い涙が、次々と頬を伝った。
恋人未満で友達未満
(1%でも貰えたら、全部欲しくなる。)