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デフォルト:安住 晴【アズミ ハル】都内の印刷会社の営業部所属。
推しはMSBYブラックジャッカルの木兎選手。
最近の悩み:「いつか推しの印刷物の製作を担当したいけどなかなかチャンスが巡ってこないこと」
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先日の中華料理店での赤葦さんとのご飯会は、漫画の“メテオアタック”の話とバレーボール選手の木兎光太郎の話で盛り上がり、お互い明日も仕事があるので終電少し前にお開きとなった。
木葉さんからドタキャンの連絡が来た時はどうしようかと思ったが、この場合はまぁ仕方ないだろうと一旦腹を括り、美味しい中華料理と美味しいお酒の力を借りて趣味の合う友達との時間をめいっぱい楽しむことにした。
彼女云々のことを抜かせば、赤葦さんとは話が尽きないし、多分笑いのツボとかも似てるし、何より大好きな木兎光太郎のことをたくさん話せるのが嬉し過ぎて、楽し過ぎて、本当に最高の時間だった。
だからつい、この人に彼女が居なければとか、そうじゃなくて私が男だったらとか、いやむしろ赤葦さんが女の子だったらとか、色々と阿呆なことを考えてしまったものの、“たら”とか“れば”とかそんなもしもの話をしてもどうしようも無いだろうと何処か冷静に思い直して、結局小さなため息を吐くだけに終わる。
人生、そう上手くはいかないものだとは知っていたけど、これはまた実にややこしい局面に立たされてしまったものだ。
古今東西、人間関係というものは本当に難しくて、複雑で、考えれば考える程放り投げたくなってくる。
「.............」
.......あぁ、木兎光太郎に会いたいなぁ。
画面越しじゃない、木兎光太郎のバレーが見たい。
光が、音が、熱が、空気が、ダイレクトに伝わってくるあの空間に行きたい。
目が眩むような明るい照明の下、光り輝く笑顔を見せて、天高く構えた指鉄砲を宙に放つ。
大きな身体をめいっぱい使って、全力で『楽しい』を可視化する、木兎光太郎がいつも以上に恋しくて、思い焦がれて仕方なかった。
▷▶︎▷
「木兎さんの試合、観に行きませんか?」
あれからまた仕事が忙しくなり、三人でのご飯会が暫く振りとなった本日。
回転寿司のチェーン店で待ち合わせて、案内されたテーブル席で各々好きなお寿司を食べていると、タブレットでえんがわの炙りを注文した赤葦さんが唐突にそんなことを提案した。
サーモンを口に入れた状態では喋ることが出来ず、ひとまず目を丸くして赤葦さんを見ると、彼のとなりでお茶を飲んでいた木葉さんが「え、なに、急にどうした?」と私の疑問をそのまま伝えてくれる。
「MSBYの試合が、また東京であるんです。チケット販売はもう直ぐで......勝手ながら、お二人と一緒に観に行けたらと思いまして......」
「行きます!いつですか?スケジュール死ぬ気で合わせます!」
「お前、本当木兎好きな......w」
赤葦さんの言葉に食い気味で同意して、仕事のカバンからスケジュール帳を取り出した私に木葉さんが可笑しそうにふきだす。
教えてもらった日にちにシルシを付けて、どこが一番休みやすいかを考えていると、笑っていた木葉さんが少し落胆した調子で声を掛けてきた。
「......あー......悪い、そこら辺は俺無理だわ」
「え!何でですか?」
「研修と丸被りしてる。その間、俺東京居ないんだよね」
「えぇー!そんなぁ......」
「.............」
木兎光太郎が東京に来ることが嬉しくて浮き足立った気持ちが、木葉さんの言葉でシュルシュルと萎んでいく。
このメンツで木兎光太郎のナマの試合を観られたら最高だろうなと思った矢先のことだったから、たまらずガクリと肩を落とした。
「まぁ、お前らで行ってきたらいいんじゃね?」
「は?何言ってんですか?」
「え、そんなキレる?つっても仕方ないだろ、研修休めねぇし......」
「......いや、そうじゃないですけど......」
「.............」
ここであまりにも勝手な木葉さんの発言に思わず雑に聞き返してしまい、その後の返答に顔を顰める。
木葉さんのスケジュールが合わないことはもう仕方ない。だけど、それで赤葦さんと二人で試合観戦に行くっていうのは、普通に無いだろう。
だって、赤葦さんには彼女が居るのだ。
いくら趣味が合うからと言って、彼女が居る男性と二人で出掛けるという行為は、少なくとも私にとっては絶対にやりたくないことである。
平たく言えば、彼女可哀想じゃん!もう少し配慮して!とどうしても思ってしまうのだ。余計なお世話なのかもしれないけど。
「......あ、ワリ、俺ちょっと電話してくるわ」
「どうぞ」
「......いってらっしゃい......」
ここで木葉さんのスマホが着信を知らせ、おそらくそれは仕事の連絡だったんだろう。
画面を確認した木葉さんは、短く断りを入れた後に足早に席を立ってしまった。
残された私と赤葦さんはテーブル席で静かに対峙する中、とてもじゃないけどすぐ側で流れるお寿司のお皿に手を伸ばす気にはなれなかった。
「.............」
「.............」
「.............あの、安住さん」
「......はい」
何処と無く居心地の悪い空気が辺りを包む。
それでも、落ち着いた声で言葉を寄越してくれた相手にこちらも極力落ち着いて返事をすると、赤葦さんは掛けている黒縁メガネをゆるりと掛け直した。
「.......すみません、単刀直入に聞きます。俺と二人じゃまずい理由って、何ですか?」
「.............」
問われたそれに、頭の中で衝撃が走る。
聞き間違いだと思いたいものの、この距離で話しているのだからどう考えても聞き間違える要素は無い。
それに、赤葦さんの声は話し方が上手いのか、発声の仕方や滑舌がいいのか、とても聞き取りやすいものだから、余計に。
「.............」
「.............」
勝手にショックを受けている私の前で、赤葦さんは静かに腕をついてこちらを見ている。
切れ長の目から真っ直ぐと伸びる視線は、まるで照準を合わせるレーザーか何かのようだ。
「.............」
「.............」
「..............あくまで、私の価値観が物差しになるんですが......」
「.............」
以前、同期で友人のカナに言われた言葉をぐるぐると思い出しながら、ついに本人から聞いてしまったことにため息を吐きつつ、ゆっくりと言葉を零す。
「彼女が居るヒトと、二人で出掛けたくありません」
「......え?」
おそらくここが潮時だろうと判断した私の言葉を聞いて、赤葦さんは眼鏡の奥の瞳を丸くする。
まぁ、当然だ。本人達が全く気にしないことを他人の私が気にしているのだから、これはもう立派な“大きなお世話”だ。
「......赤葦さん達は、気にしないのかもしれませんが、......ごめんなさい、私には、どうしても無理で......それに、木兎光太郎のバレーは絶対、一挙一動見逃したくないし、物理的にも精神的にもめちゃめちゃ集中して観たいので......だから、赤葦さんと二人では、絶対に行きません」
「.............」
今までぐるぐると悩んでいたものを、一気に吐露した。
話していく内に段々何やってるんだろうなと思ってきてしまい、言葉が少々トゲトゲしくなってしまった気がする。絶対に、とかは言わなくてよかったな。
おかげで、赤葦さんは言葉を失ったままで、この場の空気はより重いものになってしまった。
でも、もしこれで赤葦さんがなんだコイツと思ったとしても、逆にそんな気を遣わなくていいですよと返してきたとしても、私の気持ちはコレで変わらない。
彼女持ちの赤葦さんとは、絶対に二人で出掛けない。
「.......すみません、感じ悪いですね。私今日は帰ります」
実に居た堪れない沈黙が続き、今この場に居ない木葉さんには申し訳ないけど、さっさと帰り支度をして財布を取り出した私に、赤葦さんはハッと顔を変えた。
「え、ちょ、ちょっと待ってください!」
「......とりあえず、五千円置いときますね。足りなかったら後日請求してください」
「安住さん!」
五千円札をテーブルに置き、カバンを持って立ち上がると少し鋭い声で名前を呼ばれる。
初めて聞く赤葦さんの威圧的なそれに、歩きかけた足を思わず止めてしまった。
......いや、でも、この状況で話すことは何も無いし...下手をすれば、一方的に赤葦さんを責めるようなことを口にしてしまいそうだから、なるべく対話は避けたい。
そう思い直して、些か失礼だけど「じゃあ、お疲れ様でした」とこの場からの退出を切り出そうとすると......赤葦さんは起立したまま、ひどくはっきりとした声音で驚きの言葉を寄越した。
「俺、恋人居ません」
「.....................はい?」
おれ、こいびと、いません。
耳ではしっかりと聞こえたものの、頭がちゃんと解釈するのに時間が掛かり、たまらず聞き返してしまった。
予想を大きく超えた展開に呆気にとられてしまえば、赤葦さんは「本当です。今付き合ってる方は居ません」と再度同じ内容を真っ直ぐに伝えてくれた。
「.............」
「.............」
「.......ぇ、と......不躾にすみません。それは、最近、別れた、とか......」
「いえ、前の恋人と別れたのは二年ほど前です。ここ最近は仕事ばかりしてましたから......」
「.............」
暫くの沈黙の後、おずおずとではあるものの赤葦さんのプライベートに突っ込んだ質問をしてしまえば、顔色を変えずにしっかりとした返答をしてくれた。
.......二年前に、別れた?
え、待って?なんで、どういうこと?
頭の中で混乱の波がどんどん大きくなっていく。そういえば、どうして私は赤葦さんには彼女が居るって思ってたんだっけ?
「.............」
「.............」
「.............」
「.............すみません、俺、何か思い違いさせてしまうようなこと......」
「悪い悪い、ただいま~......って、え?なんでお前ら立ってんの?なに、何かあった?」
「.......どういうことだ木葉秋紀ぃ!!」
「うおッ、え、何事!?」
赤葦さんを見たまま固まっていると、席を外していた木葉さんが帰って来る。
それと同時に、赤葦さんには彼女が居ると教えてくれたのは木葉さんだったことを直ぐに思い出し、反射的に木葉さんに詰め寄った。
しかし、今の話を全く聞いてなかった木葉さんは目を丸くするばかりで欲しい答えを全然くれない。
理不尽だとは知りながらもつい怒ってしまえば、赤葦さんが「とりあえず、座りましょう。お店にも迷惑です」と落ち着いて咎めてくれたので、ひとまず怒りを押し込めて再び着席した。
赤葦さんも木葉さんも席に着き、周りの視線も幾分か和らいだところで、おそらく全ての元凶であろう木葉さんへの尋問を始めるのだった。
Mr.器用貧乏との答え合わせ
(さぁ、1か10まで説明してもらおうか!)