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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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梟谷と黒尾君、私の四人の悪ふざけが終わり、とりあえず図書室には戻れなくなったので渡り廊下を渡るか、現在地点である西棟の階段を昇るか降りるかを相談し始めた矢先、つい先程まで冷ややかな目を向けていた孤爪君が「ちょっと待って」と話し合いにタンマを掛けた。
どうしたのかと黒尾君が聞くと、孤爪君は細くもしっかりした指を渡り廊下の先へ向ける。
「向こう側、シャッター降りてない?」
「え?」
孤爪君の発言に、全員が今一度しっかり渡り廊下の先を見る。
パッと見では暗くてわからなかったが、よく見てみると銀色の細い柵のようなものが向こう側にうっすら確認できた。
「オイオイ、マジかよ......」
「暗いから、全然気が付きませんでしたね......」
「ちょっとぉ......なんであんなの下りてるの......」
黒尾君、赤葦君、私の順で感想を漏らせば、懐中電灯を持っている木兎君が「とりあえずあっち行ってみようぜ!」と意気揚々と提案を述べる。
得体の知れないものに近付くのは嫌だけど、現状を把握しておかないのもやっぱり困る。
おそらくこの場にいる全員がそう思ったのだろう。木兎君の意見に反対する人は一人もいなかった。
静かな渡り廊下を五人で渡り、丁度中央棟に辿り着くところで鉄製の柵のようなシャッターが降りている。
格子状になっているので先の景色は見えるものの、人が通れるような隙間は全くない。
試しに力づくで突破できるかどうか全員でやってみたが、それは無慈悲な程全く動かなかった。
「ウソでしょ......さっきシャッター問題クリアしたばっかじゃん......」
「つーかこのシャッター、何の為にあるんだろうな?柵状だから防火じゃないだろうし......防犯?」
「これで一体何の犯罪を防ぐんです?」
「デスヨネ~」
冷たく閉ざされた鉄製のシャッターにガクリと項垂れていれば、隣に居る黒尾君と赤葦君が淡々と考察する。
「.......なんだか、檻みたいだ......」
「!」
「オイ研磨、不安にさせるようなことを言うんじゃありません」
ぽつりと恐ろしいことを呟いたのは孤爪君で、思わずぴくりと肩を揺らしてしまうと直ぐに黒尾君がそんなことを言ってくれた。
「ミケが泣いちゃうでしょうが」
「いやいや泣かないし?まだ大丈夫だし?」
しかし、後に続いた黒尾君の言葉にたまらず直ぐに否定の意を返す。
そういう余計なことを言うんじゃないよと黒尾君にひっそり伝えようとした矢先、おもむろに木兎君が私の近くへやって来た。
「ミケちゃん大丈夫?俺の胸、貸したげようか?」
「.......非常に魅力的なんだけど、流石に恥ずかしいので。あと本当に泣いてないので」
まるで「welcome!」とでも言うように両手を広げられ、ついさっきまで私から逃げてたくせにと思いながらも丁重にお断りをする。
基本的に木兎君は人が良いんだろうなと思っていれば、今度は黒尾君がニヤニヤと笑いながら「じゃあ俺の背中貸してやろうか?」なんて悪ノリしてきた。
「いや、私まだ妊娠したくないので......」
「お前俺の事何だと思ってたんだ」
「というか、そもそも黒尾君が余計なこと言うから!」
私の冗談に露骨に顔を顰める黒尾君だったが、元はと言えば黒尾君の発言のせいで始まった茶番である。
少しくらい言ってやんないと私の気が済まない。
「俺は何も貸しませんよ」
「.............」
黒尾君と言い合いになりそうなところで、赤葦君がバッサリとそんな言葉を告げた。
思わず私も黒尾君も、そして近くに居た木兎君も赤葦君に視線を寄せる。
「.......あー、うん。それでいいんだけど、わざわざ言うことなくない?心の中でよくない?」
スン、とした顔をしている赤葦君にたまらずそんな言葉を返せば、少し離れたところに居る孤爪君が可笑しそうにふきだしたのが見えた。
この二年セッターコンビ、さっきから何となく思ってたけど、なかなかにクセが強いらしい。
「あ!もしかして俺の見つけたカギの出番じゃね!?」
「!」
赤葦君と孤爪君にタダならぬ気配を察知していると、木兎君が唐突にそんな明るい声を上げた。
カギってなんだっけ?と一瞬きょとんとしたものの、そういえば先程の図書室で木兎君が小さなカギを見つけていたことを直ぐに思い出す。
成程、もしかしたら有り得るかもと少しだけ希望を抱きながら木兎君の取り出したカギを見て、シャッターに鍵穴が無いか探し始めた。
「......木兎さん、残念ながらこれ、上に上げるタイプのやつですよ」
「え?」
「と、言うと?」
「.......カギでどうこうできるものじゃないです」
木兎君と二人で色々探ってみたものの、赤葦君の見解でガックリと肩を落とす。
突破口を見つけられたかもと思っていた分、大分ショックだ。
「えぇ〜......じゃあコレ、何のカギだよ~......」
「いや、俺に言われましても......」
「.......あ。なぁなぁ、コレってさァ」
「?」
あからさまにしょぼくれる木兎君に赤葦君が僅かに困ったような顔をしていると、辺りをふらついていた黒尾君がふいにこちらへ声を掛けた。
何か見つけたのかと全員が黒尾君へ顔を向けると、黒尾君は壁に設置された四角い小さな箱のようなモノをトントンと指で小突き、その扉をパカッと開ける。
懐中電灯に照らされたそこには、六角形の穴が空いていた。
「え?何これ?」
「ウッソだろ......お前、コレ見てピンとこねぇの?何にも?」
「?」
率直な感想を述べた私に、黒尾君はガクッとよろけて苦笑いを浮かべる。
いや、そんなこと言われても、突然六角形の穴を見せられて「はい、これは何でしょう?」みたいなことを聞かれて、上手く答えられる人が居るんだろうか。
「.......六角レンチみたいなモノがあれば、シャッター上げられるかもしれないね」
「え!?」
まじまじと箱の中を見ていれば、後ろから孤爪君がそんなことを言ってきたのでたまらず振り向いた。
私と目が合うと相変わらず華麗に逸らされてしまうが、黒尾君はパチンと指を鳴らして「流石研磨。そういうこと」と孤爪君を褒める。
「これ、本来はレバーか何かをココに差し込んで、手動で回してこのシャッター動かすんじゃねぇかな?」
「.......あぁ......!確かに“あげる”・“さげる”ってちっちゃく書いてある!」
黒尾君の言葉に思わずテンションが上がる。
成程、そしたらこのレバー、もしくは六角レンチみたいなモノがあれば、シャッター問題が解決する訳だ!
「それにしても、よくそこが開きましたね。鍵とか掛かってなかったんですか?」
「あ~......まぁ、それは......コレで、ちょいと」
「.............」
赤葦君の言葉に、黒尾君は少しだけ言いづらそうな様子を見せつつ、ハーフパンツのポケットから先程図書室から拝借していたドライバーセットをちらりと見せた。
どうやらしれっとピッキング的なものをやってのけたらしい。
「.......お巡りさーん!!」
「ヨシきた!現行犯逮捕だー!!」
「だーッ!!絶対ぇ騒ぐと思ったお前ら!!マジでヤメロ!!」
赤葦君と黒尾君のやり取りを見て、私が取るべき行動はただ一つ。
お巡りさんを呼べば直ぐに木兎君がノッてくれて、黒尾君が嫌そうに声を荒らげる。
この茶番のトリガーとなった赤葦君は相変わらずスン、とした顔をしていて、少し遠くに居る孤爪君は可笑しそうに肩を震わせていた。
▷▶︎▷
一先ず鉄製のシャッターから離れ、西棟を散策することにした。
六角レンチみたいなモノを探すのと、もしどこかの教室に入れたらまるっと移動できる可能性もあるので、別に渡り廊下を通らなくても大丈夫なんじゃないかという孤爪君の考えの元でとりあえず動こうとなったのだ。
今居る二階は先程全力疾走して突破した防火シャッターが降りているため、探せる部屋が二つだけになっている。
始めにその教室......化学実験室と準備室を調べようとしたところ、残念ながらどちらも施錠されていたので中に入ることは出来なかった。
念の為辺りを探してみてもここのカギは見つからず、木兎君が持ってる小さなカギでも開かず、黒尾君の工具セットを使っても開かなかったので、とりあえず一旦上の階に移動することに決めた。
西棟の三階は先程も訪れた音楽室であるはずだ。
しかし、さっきから教室の配置があべこべになっている為に、本当に三階が音楽室であるのかどうかは行ってみなければわからなかった。
薄暗い階段を登り、三階へ辿り着く。
木兎君が懐中電灯を照らすと、そこには「音楽室」と書かれたプレートが確認できた。
「おお、ちゃんと音楽室だぞ!さっき居たとこじゃん!」
教室の配置が孤爪君が持ってる校内図通りであることに対し、木兎君が嬉しそうな声を上げる。
試しに扉のガラス張りの小窓から中を覗いてみると、本当に先程まで居た音楽室だった。
「でも、カギは開いてねぇな......」
黒尾君が扉を開けようとすると、どうやら施錠されているらしくガチャガチャと金属音が鳴るだけで扉は開かない。
「さっき出て行く時、誰かここの鍵を閉めましたか?」
「.............」
赤葦君の問い掛けに、みんな一様に口を閉じる。
確か、ここから出る時は音楽準備室のドアから出て行ったはずだ。
音楽準備室のカギを見事探し当てられたことに気を取られてて、多分全員音楽室のカギを掛けるなんてことはしてなかったと思う。
「.......さっきの防火シャッター......ううん、一番初めの視聴覚室の停電から、ちょっと思ってたんだけど......」
固く閉ざされた音楽室を前に、孤爪君がぽつりと呟く。
その声はとても小さいはずなのに、この状況ではなぜかはっきりと聞こえた。
「.......もしかして、俺ら以外にも誰か居るんじゃないの?」
「.............」
孤爪君の静かな発言を聞いた途端、この場がシン、と静まりかえる。
多分、ここに居る誰もが同じようなことをチラッとでも考えていたからだ。
だけど、一人だけで思っていたことを誰かが口にしたことで、その考えはより色濃いものとなってしまった。
私達以外にもこの学校には誰かが居て、シャッターを降ろしたり電気を消したり、ちょこちょこ加減の知らないイタズラをしてくるというなら。
「だっ、誰かって誰......!?え、敵!?」
「おお、敵か!!」
「いや、敵ってなんだよ」
パッと思い付いたことを口走れば、ノリのいい木兎君は相変わらず直ぐに肯定してくれる。
反対に、黒尾君にはしっかりとツッコミを入れられてしまった。
帰りたいのに邪魔してくる奴はみんな敵だと黒尾君に意見すれば、顎下に片手を当てた赤葦君がおもむろに口を開いた。
「......もし、これらが全部人の仕業だったら、非常に手が込んでるというか、かなり壮大なスケールですよね......多分、ウチでも厳しいんじゃないでしょうか」
「え!ウチが無理なら音駒なんてもっと無理じゃね!?」
「おいコラ木兎。わかっててもそういうことは心の中で言え」
赤葦君の見解に、木兎君は思わずと言った感じで正直な感想を口にする。
それに対して黒尾君が諌めるような言葉を告げると、今回は素直に「あ、ごめん」と謝罪を述べた。
しかし、直ぐに金色の瞳をきらめかせ、話をより嫌な方向へと持っていく。
「じゃあ、もし人がやってる訳じゃないなら......オバケとか!?」
「やめて!!人にして!!最終的には何事も人間が一番怖いんだってお母さん言ってたから!!お願いだから人にして!!」
「え、お、おお......?え、そうなの......?」
「......一概には言えませんが、邦画のホラーはそういうネタが多い気がします」
「いや、その前にミケのお母さん、一体何があったんだよ?w」
今までなるべく考えないようにしていた「オバケ」という単語に我慢出来ず、声を荒げて人の仕業にしてくれと頼み込むと、木兎君は気圧されたようにたじろいだ後、隣りに居る赤葦君に確認を取っていた。
赤葦君も赤葦君で、冗談なんだか本気なんだかよくわからない表情でそんな言葉を返してくる。
唯一笑っているのは私以外の音駒の二人で、ツッコミを寄越した黒尾君の後ろで言い出しっぺの孤爪君がまた可笑しそうに肩を震わせていた。
だけど、私にとっては全然笑い事ではないので少しムッとした顔を向けると、孤爪君は直ぐに気が付きサッと視線を逸らしてから、何とも気まずそうな様子を見せてくる。
「.............」
「.............」
そろそろ目を見て話してくれてもいいんじゃないかと言おうとした矢先、黒尾君が気を利かせるように「ま、とりあえずここに居ても仕方ないし、一階とかも行ってみますか」と話題を少しだけ変えてきた。
黒尾君の提案に相変わらずイエスマンな木兎君が肯定し、じゃあ階段を降りようという流れになる。
「.......悪いな、ミケ。研磨のヤツ、ちょっと人見知りが強いんだ」
「.............」
階段を降りてる途中、ふいに黒尾君が隣に来てボソリと小声でそんなことを囁いた。
ちらりと視線を寄越すと、黒尾君は何とも色っぽい苦笑を浮かべる。
笑う男と泣く女は信じるなと誰かに聞いたことがあるが、なまじ顔のいい男にこんな風に笑われたら、誰でもコロッと流されちゃう気がする。
「.......黒尾君は、有罪確定だね」
「え、なんで?」
思わずため息を吐きながら思考をそのまま口に出すと、黒尾君はその切れ長の目をキョトンと丸くして聞き返してくるのだった。
いつも心に右ストレート
(対人だったら物理攻撃出来るけど、オバケじゃ太刀打ちできないじゃん!)