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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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鍵が掛かっていない図書室のドアに手をかけ、黒尾君は少しだけ硬い声で「......じゃあ、開けるぞ?」と事前確認をとる。
恐る恐る横へスライドしていくドアの向こうを木兎君の後ろからドキドキしつつ見つめると、見慣れた廊下へ繋がっていた。
部屋と部屋がくっ付いている可能性もあった分、廊下を見た瞬間に少しだけほっとしてしまう。なんだか随分久し振りに見るような気さえした。
「おお!廊下じゃん!やったな!」
「これでちゃんと1階だったらいいんだけどな......」
「なんですぐそういうこと言うのー?ヤメテヨー」
「さっきの玄関へは、ここを出て左に曲がるんだよね?」
「うん。でも、まずは窓の景色確認しよう」
現れた廊下にまずは私達三年生が出て、後から二年生の二人が図書室から出る。
孤爪君は直ぐに窓の外を覗きに行き、彼にならって私と黒尾君、木兎君も一緒に窓際へ足を進めた。
「......ああ~~~......こりゃ1階じゃねぇな......」
「なんでやねん......」
窓から見えた景色に、黒尾君と私の落胆する声がもれる。
1階であるはずのここからは、コンクリート敷きの地面がなぜか3メートルほど下に見え、暗闇の中でも明らかに1階の景色でないことがわかったからだ。
「ここ、どこの廊下?」
「......木兎さん、教室のプレート照らしてください。俺は孤爪の方照らすんで」
「......ありがとう、助かる」
ガッカリと肩を落とす私の後ろで、赤葦君がテキパキと指示を出す。
ここは外灯の光が乏しく、懐中電灯で辺りを照らさないと文字が読みにくいようだ。赤葦君が見つけてきたもう一つの懐中電灯が早速役に立った。
梟谷コンビの灯りと孤爪君の校内案内図により、どうやらここが西棟の2階であることがわかる。
先程の音楽室が西棟の3階だったから、中央棟の1階を経由してその下の階に出てしまったようだ。
何が何だかもうよくわからない。
「......構内図通りなら、右に行けば階段と渡り廊下があると思う......」
孤爪君の言葉に、全員が右を見る。
木兎君が灯りを向けるも、30メートル程暗くのびた廊下の先を照らすことはできなかった。
「まぁ、左は行き止まりっぽいもんなぁ」
「......行くなら、右でしょうね」
木兎君が左方向を照らし、赤葦君が小さく溜息を吐く。
私もそちらへ顔を向ければ、左方向の廊下の先は10メートル程で壁になっているようで、必然的に右にしか進めない形状になっているようだ。
とりあえずここで立ち止まっていても仕方がない。先程の図書室で見つけた延長コードを斜め掛けに身体に巻き付け、一先ず両手の自由を得てから「じゃあ進もう」と発言しようとした、矢先。
右方向の廊下の奥からカタカタカタ......と何かが動くような音が聞こえ、一斉に全員がそちらへ顔を向けた。
何か硬い金属のような物が擦り合う音が連続して鳴り続け、一気に心拍数が上がり恐怖が身を包む。
「なにっ?何!?何の音!?」
「っとと......おいミケ、落ち着けって......」
「......近付いてきてる訳ではなさそうだけど......」
「暗くてよく見えねぇな......」
「.............」
咄嗟に隣いる黒尾君のTシャツの裾を掴むと、少しよろけた黒尾君がそんな無茶振りを寄越す。
その横で孤爪君と木兎君が冷静に音のする方を観察しているようだったが、懐中電灯が照らす先は相変わらず真っ暗な廊下しか見えない。
何となく聞き覚えがあるような金属音なのに、聴覚記憶だけでは全く思い出せそうになくて焦りと恐怖だけがどんどん心を支配していった。
黒尾君のTシャツを握り締める右手は小刻みに震えだし、どうしようと考えれば考える程思考回路が雁字搦めになっていく。
怖い。どうしよう。怖い。怖い。
「.......シャッターの、下りる音......?」
「────ッ」
瞬間、今まで黙っていた赤葦君がぽつりと声を零す。
どうやらこの音が何の音なのかずっと考えていたようで、思い当たる動作音がここでヒットしたらしい。
きっと私だけでなく、ここに居る全員が「ソレだ!!」と納得しただろう。
だけど、私はそう思ったと同時に黒尾君から手を離し、暗い廊下を真っ先に走り出した。
「えッ!?おいミケ!?どこ行く気だ!?」
「ミケちゃん!?一人じゃ危ねぇよ!!」
「ここ閉まる方がヤバい!!みんな走って!!」
「ハァ!?」
突如走り出した私に黒尾君と木兎君の声が掛かるが、私は全速力で暗い廊下の先へ急ぐ。
説明も何も無い私の言葉に三年生の二人は怪訝そうな声を上げるが、察しのいい二年生の二人が私と同じように走り出したことにより、何とか全員着いてきてくれたようだった。
「え、何!?何なの!?キンキュージタイ!?つーかスリッパ走りにく!!」
「多分、階段近くの防火シャッターが閉まってるんです!」
走りながら混乱している木兎君の慌てた声に、いつもよりずっと余裕が無い赤葦君の声が返答する。
「ソレが閉まって、教室のドアも廊下の窓も開かなければ、俺ら袋小路ですよ!」
「ふくろこーじ!?」
「閉じ込められるってことな!あとスリッパは脱いで持ってろ!とにかく走れ!!」
背中から聞こえてくる梟谷の二人の会話に、黒尾君がすかさずフォローする。
全速力で走りながらも普通に会話ができるんだから、やっぱり現役運動部の体力は素晴らしい。
「!!」
一番最初に走り出して、そして短距離走だったら割かし速い方である私が音の鳴る場所......赤葦君の予想通り、防火シャッターが下りている所へ一番乗りで辿り着いた。
シャッターは既に半分ほど下りていて、頭を胸あたりまで下げなければ通れない高さになっている。
この中で一番背の低い私がそうなのだから、男バレの四人はもっと屈まなければきっと通れないはずだ。
これはまずいと思いながらもシャッターの停止ボタンを探す。
こちら側には見当たらず、下りてくるシャッターを潜り向こう側を探してみるも、一向にそれらしき物は見当たらない。
そもそも懐中電灯がないので、暗がりでものを探すなんてこと自体が酷く難しかった。
「あああ!!もおお!!」
停止ボタンを探す間もシャッターは無常に下り続ける。
ついには私の腰辺りまで下がってきてしまい、慌ててシャッターに両手を掛けて非力ながらに妨害行為を始めた。
脚と腰と腕に力を入れ、下がるシャッターを押し留めようと奮闘するも、私なんかの力では全く歯が立たない。
「とーまーれぇぇえ!!」
「御木川さん!!」
カタカタカタと容赦なく下がってくるシャッターに力の限り抵抗していると、スライディングをするように赤葦君がシャッターの下を潜ってきた。
その後直ぐに体勢を立て直し、私と間隔をあけて同じようにシャッターを抑えてくれる。
少しだけ両手にかかる負荷が減り、赤葦君の腕力に場違いながら驚いた。
「木兎さん!大丈夫ですか!?」
「ヘイヘイヘーイ!!」
切羽詰まった赤葦君の声とは対照的に、木兎君の明るい声が響く。
赤葦君と同じようにスライディングで潜ってきた木兎君は、「セーフ!!」と楽しそうに笑いながら立ち上がり、私の隣りに来てシャッターを押し上げた。
途端、金切り声のような音を立ててシャッターが軋み、膝小僧くらいまでだったシャッターが太もも辺りまで捲れ上がる。
木兎君の凄まじいパワーに思わず目を丸くしていれば、孤爪君と黒尾君がギリギリのところで滑り込んできた。
「ヨシ!全員揃ったなー!?御木川ちゃん、手ぇ離していいよ!」
「え、あ、はい......」
元気な木兎君の声に圧倒され、素直にシャッターから手を離す。
思い切り力を入れていたことで両腕にはふわふわとした感覚が付き纏い、暫くは腕に力が入りそうになかった。
その後木兎君は赤葦君にも手を離せと指示を出し、最後に自分がゆっくりとシャッターから手を外す。
私達三人......否、ほとんど赤葦君と木兎君の力により大きくひしゃげた防火シャッターはそれでも確実に廊下までの距離を詰め、ヒト一人入れない所まで下がると力尽きたように全く動かなくなった。
試しに押し上げられるか木兎君と黒尾君、赤葦君が手を掛けてみたが、一度下りた防火シャッターをこじ開けるのはだいぶ骨が折れるようで、誰かが怪我をする前に辞めようという孤爪君の意見もあり、ソレにはもう触らないことになった。
「ッあ゛ァァ、疲れたぁ......」
階段前の廊下にどっかりとお尻を着けて座り、黒尾君が脱力するように天を仰ぐ。
その様はまるで残業終わりのサラリーマンのように見え、ふきだす前に片手で口元を隠すと同時に孤爪君が「......クロ、オヤジくさい」と露骨に顔を顰めながら爆弾を投下した。
音駒の幼なじみ二人がやいのやいの言い合いを始める横で、梟谷コンビは我関せずと言ったように雑談をしている。
「にしてもミケちゃん、マジでファインプレーだったな。俺、あかーしに言われるまで全然気付かなかったもん。えーと、ふくろこーじ!」
あと、めっちゃ足速いのな!追い付けなかった!と明るく笑う木兎君の言葉に、眉を下げて笑う。
「いやいや、私は怖くて走り出しただけだったから。木兎君が居なきゃ、シャッター閉まっちゃってたよ」
先程の行為を思い出しながら「本当、凄い力だったね」と返すと、木兎君は得意げに笑って右腕を曲げて立派な力こぶを見せてきた。
興味本位でそれに触らせてもらうと、自分のものとは全く違う触り心地で驚愕してしまう。
カチカチだ。いや、これ本当にカチカチだ。
「え、え......!?これ、筋肉?え、何コレ、すご......!」
「おあ、ちょ、それはくすぐった、アン♡」
「喘ぐな木兎w」
人間の体ってこんなに固くなるの!?と本気で驚く程に木兎君の上腕二頭筋はしっかり育っていて、衝撃の余り摩ったり揉んだりしてしまう私に木兎君は悪ふざけを始め、黒尾君は可笑しそうにふきだした。
しかし、私の探究心と好奇心の炎は今だメラメラと燃え盛っている。
「ちょ、え?なに、どうなってんの?ここに何が詰まってるの?え、コンクリート?」
「やめろミケwツッコミが追いつかねぇw」
「......御木川さん。実は木兎さん、こっちの方が凄いんですよ」
先程までの恐怖はどこへやら、木兎君の腕に夢中になっていると今度は同じ梟谷の赤葦君がこちらにゆるりと近寄り、おもむろに木兎君の下肢部分を指さした。
「そうなの?え、触っていい?木兎君ちょっと触るね?」
「ちょいちょいちょいあかーし!そこはマジでくすぐったアァンッ!」
「ふあーッ!すげーッ!なんだこれ〜ッ!?」
赤葦君から示された場所、太ももの裏辺りの筋肉を押せばこちらも確かに驚く程硬い。太ももなのになんで硬いんだ。
余りにも自分の身体と違い過ぎて「なんで?すごい!なんで!?」とはしゃぎながら木兎君の下肢を触れば、木兎君はついに私から離れて赤葦君の後ろへと逃げるように回ってしまった。
「ミケちゃんのバカ!えっち!もう俺お婿にいけない〜!」
「え!じゃあ私のお婿に来ればいいよ!ね!」
「全ッ然よくない!!」
パッと顔を輝かせる私に対し、真っ赤な顔をして涙目の木兎君は赤葦君を盾にしてキッパリとお断りしてくる。
その様子を見て赤葦君は「残念でしたね」とちっとも残念じゃなさそうな顔でしれっと零し、黒尾君はお腹を抱えて大笑いしていた。どうやら今のやり取りが相当ツボにハマったようだ。
そんな中、一人テンションを思いっきり下げているのは音駒の二年生......孤爪君だったようで、わいわい盛り上がるこちらの茶番を酷く冷ややかな目で黙って見ているのだった。
ゲームクリアは大前提
(でもこのパーティー、不安しかないんだけど......)