CATch up
name change
デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「電気を!つけます!」
「おわッ、びっくりした」
音楽準備室から図書室へと足を踏み入れ、真っ先に私が明かりをつけに急ぐ。
懐中電灯を持っている木兎君が「えー」だか何だか不満そうな声を上げたが、聞こえないフリをして問答無用で部屋の明かりをつけた。
きっと孤爪君のことだから、ここも調べたいとか言い出すに違いない。
真っ暗な図書室をウロウロするなんて真っ平御免だ。
「音駒の図書室、ちっちぇえな~」
「木兎さん。うちの図書室が大き過ぎるんですよ。おそらくこのくらいが一般的です」
明るくなった図書室をぐるりと見回し、他校生の木兎君は相変わらず歯に衣着せぬ発言をする。
それにすかさず赤葦君がフォローに入ると、音駒生の黒尾君が「そーだそーだ」と合いの手を入れた。
「フーン。で、またカギ探せばいいの?」
「......いや、別に鍵じゃなくてもいいけど......ここも、少し調べておきたいかな......」
「調べるって、見た感じ本しかねーぞ?」
「うん......」
木兎君、黒尾君が孤爪君に聞き、孤爪君は静かに室内に視線を配る。
赤葦君はどうやら本が好きなのか、興味深そうに音駒の図書室の本棚を物色していた。
「.............」
男バレ四人の様子を見ながら、ふとここのドアの鍵は開くのかということが気になり、電気のスイッチがある壁から図書室のドアへ移動する。
ちなみに先程私達が開けたドアは図書室の出入り口のものではなく、隣接している司書室のドアだった。
どうして音楽準備室に入ろうとしたら司書室のドアから出てきたことになるんだという疑問が湯水のように溢れてくるが、一先ずここのドアが開くかどうかが今一番重要である。
もし開かないのなら、先程と同様に室内からカギを見つけ出さないといけない。
「.............っ、」
祈るような気持ちで出入り口のドアの鍵に手を掛ければ、思いの外それは簡単に解錠した。
あまりにも呆気なく鍵が開いたことに目を丸くしながらも、それならドアはどうだろうと少しだけ動かそうとしてみると、こちらも簡単にスライドするようだ。
「っ、ねぇ!ここのドア、開くよ!」
高揚した気持ちのまま思わず食い気味に発言すると、黒尾君と木兎君は直ぐにこちらへ来てくれた。
「おお、本当だ!じゃあ直ぐ出られんじゃん!」
「......研磨、そういうことだけど、どうする?」
同じようにテンションを上げてくれる木兎君と喜びを分かち合っていると、黒尾君が孤爪君に尋ねる。
ドアが開くなら室内を調べる必要は無いんじゃないかと思うが、孤爪君は少し考えた後、「......でも、やっぱり少し調べたい」とこちらを見ずに答えた。
孤爪君の意見に反対したい気持ちもあったが、私以外は「じゃあ、各自使えそうなもんでも探すか~」というような雰囲気を醸し出していたので、結局何も言わないまま私も図書室内をぐるりと見回す。
各々が図書室を調べ始める中、黒尾君の「研磨~、ちゃんと10分測っとけよ~」という声だけが唯一の救いだった。
10分後。孤爪君のスマホのアラームが鳴り、全員が中央のテーブルに集合する。
「俺、カギ見つけた!床に落ちてた!」
一番最初に得意げに声を上げたのは木兎君で、テーブルに見つけた鍵を置く。
大きさ的に部屋の鍵というより、机とか棚とかの引き出しを施錠する物のようだ。
これは誰かの落し物とかそういうんじゃないだろうか?
「......俺はこれ見つけました。2つくらいあった方がいいかと思って」
次にテーブルに物を置いたのは赤葦君で、これと称されたものは小さな懐中電灯だ。
聞くと、カウンターの引き出しに入っていたのを拝借したらしい。
おそらく停電時や災害時用の備品だと思うが、今は紛うことなき緊急事態だ。拝借しても全く問題ないだろう。
それに、灯りが増えることはいいことである。
「俺はコレ~」
「え?何に使うの?」
続いて黒尾君がテーブルに置いたものはドライバー、トンカチ等のちょっとした工具だ。これも図書カウンターの引き出しから拝借したようだ。
用途が分からず思わず尋ねてしまうと、黒尾君はニヤリと悪そうな笑顔を浮かべた。
「バンピング、もしくはピッキング?」
「.......お巡りさーん!」
「よしきた!現行犯で逮捕だー!」
「なんでだよ!」
黒尾君の言葉に思わず大きな声でお巡りさんを呼ぶと、木兎君が楽しそうにノッてくれた。
私らの茶番に赤葦君は相変わらず冷めた目を向けているが、孤爪君の方は意外とツボに入ったらしく小さく吹き出している。
「いや、でも真面目な話、黒尾君大丈夫だよね?空き巣とかストーカーとかやってないよね?」
「やんねーよ!そもそも鍵開けなんてやったことねぇっての!ちょっとした好奇心デス!子供心デス!」
「遊びで鍵開けするって、とんだ悪ガキじゃないですか......」
まじまじと黒尾君を見て尋ねると、少し怒った様子で言葉を返された。
そんな黒尾君に赤葦君の的確なツッコミが入る。
その様子を見て、木兎君は楽しそうに、孤爪君は控えめに笑っていた。
「そう言うミケは何見つけたんですか!?」
「ちょっと、キレながら聞くのやめてよ......」
面白くなさそうに聞いてくる黒尾君に軽く笑いながら、私は図書室の奥にある備品棚から見つけた物をテーブルに置く。
「メモ帳とペンと......延長コード?なんで?」
「.......極限の場合だけど、ロープ代わりになるかなって。これ5mくらいあるから、2階以下のどこか窓が開けば降りられないかな?」
「え、それってそんなに丈夫なの?重さで切れない?」
「.......やっぱダメかな?」
完全に思い付きでの発言を、早々に木兎君からのカウンターを食らってしまう。
今までの流れで何となく孤爪君を窺えば、孤爪君は私と目が合うと直ぐに視線を延長コードへ移した。
やっぱり無謀な策だったかなと肩を落としていると、「......いや、案外使えるかもしれませんよ」ともう一人の二年生、赤葦君が肯定的な意見を述べてくれる。
「ロープ代わりのものがあれば、離れた距離の散策も安全にできるかもしれません」
「......それって、雪山登山みたいにはぐれ防止にするってことか?クレバスも無いのに?」
「......さっきから予測不能な事態が続いてますし、万が一を考えて先に備えた方がいいと俺は思います。おそらくこの状態で誰かがはぐれてしまうのが一番危険かと」
「......ちょっと、イヤなフラグ立てるのやめて......」
赤葦君の言葉に黒尾君が意見し、その後の展開に私が顔を顰めた。
こんな状況で一人はぐれるとか、想像しただけでも恐ろしい。
思わず目を瞑ってぶるりと震えると、今まで黙っていた孤爪君が小さく「......うん」と頷いた。
「...赤葦の言う通り、慎重に動いた方が俺も身の為だと思う。それに、ロープ状のモノは色々使えるから、あっても困らない」
「色々って?」
「......何かを縛ったり、固定したりとか」
「何かって?」
「.............」
体は大きいくせに子供のように尋ねてくる木兎君に対し、孤爪君はちょっと面倒そうな顔をして少し口を閉じた。
「あぁ、あれだな。木兎が勝手な行動取った時、リードにはなるな」
「はぁ?そんなことしません~!」
黙ってしまった孤爪君に代わり、彼の幼なじみである黒尾君が笑いながらそんな発言をすると、途端に木兎君は面白くなさそうな顔をする。
「持つのは赤葦だから頑張れよ」
「......パワー3がパワー5に勝てるとお思いで?」
木兎君の隣に居る赤葦君にも被弾すれば、赤葦君は相変わらずの無表情でじろりと黒尾君にその切れ長の目を向けた。
「ねぇ、孤爪君は何か見つけた?」
梟谷コンビと黒尾君のやり取りを聞き流しながら気になっていたことを孤爪君に尋ねれば、彼はちらりと私を一瞥した後、「.......俺はコレ......」という小さな声と共にアイテムをテーブルに置く。
それは紙のようなモノで、なんだろうとよく紙面を見てみると、直ぐにピンとくる。
「......構内図!」
「こんなもん図書室にあんのか!よく見つけたな!」
驚くタイミングが黒尾君も一緒だったようで、二人して目を丸くしながら孤爪君が見つけたアイテム......いわば、音駒高校の地図をしげしげと眺めた。
通い慣れた学校ではあるが、どの教室が何処にあるという情報を全てきっちり記憶してあるかと聞かれれば少し怪しい。
だけど、これがあれば少なくとも普通の状態と今の状態を比較することが出来るし、何より出口である中央玄関から現在地を把握しやすくなる。
それに、他校生である梟谷の二人に話が通りやすくなるのも大きなメリットだった。
「......ちなみに今居る図書室がここね。中央棟の1階だから、普通ならここから出て保健室、第一会議室、校長室、応接室の順に通り過ぎればさっきの中央玄関に着くはずなんだけど......」
校内案内図を広げ、孤爪君は綺麗な指で図書室から中央玄関までの道順を辿る。
これだけ見れば、出口である中央玄関まではそう遠くない距離だ。
「......問題は、ここのドアが何処に繋がってるかってことだな?」
真剣味を帯びる木兎君の声に、孤爪君は頷く。
「......一番最初に行ったのが、東棟の三階の視聴覚室で、そこから中央棟の二年の廊下に繋がって、俺のクラス......二年三組の教室から、一気に西棟三階の音楽室まで飛んだ」
「.............」
「音楽準備室を出て、今度はここ、中央棟の図書室に来てる」
「......移動するのに、何か法則性とかは無いのかな......?」
構内案内図を指差しながら今までの出来事を確認する孤爪君に、赤葦君は顎に片手を当ててぽつりと呟く。
「......俺も、何かあるんじゃないかってさっきから考えてるんだけど......正直、まださっぱり」
赤葦君の発言に、孤爪君は小さくため息を吐き、薄い肩を竦めた。
不意に訪れた静寂に心が少しざわつくも、「ヨシ!わかった!」という元気のいい声が直ぐに静寂を破り、俯きかけた顔が再び上がる。
私だけでなくもれなく全員の視線を集めたその人、梟谷の木兎君は金色の瞳をきらりと輝かせた。
「頭良い孤爪とあかーしが考えてもわかんないなら、もうしょーがないだろ!とりあえず、進もう!」
「.............」
夜だと言うのに非常に明るい調子で告げられた言葉に、もれなく全員が呆気に取られ、押し黙った。
しかし、そのシンプルな提案に反対する人は誰も居ないようだ。
「.......おいミケ、俺ら木兎に頭良い奴認定されてねぇみたいだぞ?」
隣に居る黒尾君からふざけ半分でそんな耳打ちをされ、相変わらずイイ声しやがってと思いつつ私も口元に片手を当てる。
「.......木兎君、頭良くなくてもお嫁にしてくれるかしら......?」
「え、あれマジだったの?」
私もふざけてそんな返答をすると、黒尾君は目を丸くして私を見る。
なんでいきなりマジレスするのと私がツッコミを入れる前に、噂の木兎君から「おいそこ、イチャイチャすんなー」と不要なクギを刺されてしまうのだった。
虎穴に入らずんば虎子を得ず
(時と場合によりますけどね。)