CATch up
name change
デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
先ずは電気をつけ、明るくなった音楽室をぐるりと見回す。
部屋の前方には大きなグランドピアノが有り、椅子や楽譜代がピアノを焦点として扇形のように綺麗に並んでいる。
音漏れ防止であろう、ビスケットみたいな壁には有名な音楽家の肖像画がいくつか飾られ、何となく不気味さを演出しているように感じた。
「音駒の音楽室ってこんなんなんだな~!うちの、もっとデカいぞ!」
「あのなァ、金持ち私立なお宅と一緒にすんじゃねーヨ」
興味津々と言った感じで室内を見て回る木兎君の言葉に、黒尾君は至極真っ当な意見を返す。
内心で言ってる場合かと思いつつ、ヘンテコな学校から早く出る為にはどうしたらいいのかと一人頭を悩ませた。
ここから戻るとしても二年三組の教室に入るだけだし、一番最初の視聴覚室に戻れたところで全然別の廊下に出てしまうだけだ。
そもそも、同じドアを開けたらもう一度同じ場所にちゃんと戻れるのだろうか。
「......どこでもドアじゃん......」
ふと頭に浮かんだ青色のネコ型ロボットに思わず頭痛を覚えて額に手を当てる。
いや、どこでもドアの場合は行き先を決める事ができるから、こっちの方がだいぶ劣っているだろう。
「......窓の景色は多分、通常の音楽室からの景色だと思う......本当に、空間が歪んでるんだ......」
「......孤爪、窓は開く?」
「ううん、開かない。接着剤でもついてるのって思うくらい、もうガッチリ」
「俺開けてみようか?で、開いたらここから脱出だな!?」
「何言ってんですか、ここ3階ですよ。もし開いたら全員で助けを呼ぶんです。バレー部の誰かが気付いてくれるかもしれないでしょう」
「あ、そっちか~」
冷静に分析する孤爪君と赤葦君に、少しズレた木兎君が明るく笑う。
窓を開けて助けを呼ぶのは確かに有効な手段だなと感じた、矢先。
助けを呼ぶには打って付けのモノを片手に持っていたことを思い出した。
「.......スマホ!!」
思わず大きな声を出した私に、黒尾君と木兎君が「うおッ!?」と肩を揺らす。
直ぐに集まる視線は全く気にならず、慌てて自分のスマホ画面を確認すると......ネット回線が全く使えないものになっていた。
WiFi接続も全くできず、連絡を取るどころか調べ物もできない状態だ。
設定画面にいったり、再起動させてみたりするも、スマホの状態は全く良くならない。
「.......孤爪君のスマホは!?」
「......残念だけど、俺のも死んでる。懐中電灯の代わりくらいにしかならないよ」
「......はい、終わった......」
一縷の望みをかけて孤爪君を見るが、彼のスマホも私と同様、使い物にならないらしい。
たまらずがっくりと肩を落とす私に代わり、今度は黒尾君が孤爪君に話しかける。
「研磨お前、そういう情報はちゃんと共有しなさいよ」
「使えないアイテム情報なんて要らないでしょ。あと、バッテリーの消費が早くなるから、なるべく弄らない方がいいよ」
「......アイテムって、ゲーム感覚か」
呆れた様子を見せる黒尾君だったが、孤爪君のアドバイスは一理あったので私もスマホを弄るのをやめ、ショーパンのポケットにしまった。
ちなみに私と孤爪君の他にスマホを持ってきてる人がいるか聞いてみたが、どうやらあとの三人は手ぶらで来たようだ。
「......念の為、番号教えてもらってもいい?」と孤爪君から聞かれ、二つ返事で了解した。
電波が死んでる時点で電話なんてできないとは思うが、孤爪君の番号を知ってるのと知らないのとでは安心度が大きく違うだろう。
「......でも、こうやってどんどん移動していけばいつかは出られるんじゃないか?教室の数だって決まってるだろうし」
「......うん......同じ部屋に戻る可能性もあるけど、ここは木兎さんの意見に賛成かな......情報がまだ少な過ぎるしね......」
「孤爪が!俺に賛成した!あと窓開かなかった!すまん!」
木兎さんの言葉に孤爪君が返すと、木兎さんはパッと顔を輝かせ、そのテンションで窓の鍵が開かないことを告げた。
全員特に何も返さなかったが、赤葦君と孤爪君が小さくため息を吐いたのはわかった。
「......どうする研磨?また戻るか?」
話を立て直すように、黒尾君が孤爪君に尋ねる。
孤爪君は黒尾君をちらりと一瞥し、そのまま視線を自分の足元に落とした。
「俺は......もうひとつの方、行ってみたい」
「もうひとつって?」
「音楽準備室」
二人の会話を聞きながら、そういえば音楽室にはもうひとつドアがあったことを思い出す。
反射的に音楽準備室へ視線をやると、それを追うように木兎君が音楽準備室のドアへ駆け寄った。
円柱型のドアノブを回してみるも、ガチャガチャとゆるい金属音が鳴るだけで、ドアは開かないようだ。
「開かない!鍵掛かってるぞ」
「だろうなァ......この時間だと、鍵は職員室辺りか?」
「......職員室なんて、辿り着けないよ......」
木兎君に黒尾君が、黒尾君に私が反応する。
普段だったら職員室なんて容易く行ける場所であるが、下手に動くと全然違う場所に行ってしまう可能性があるこの状況下で遠距離を移動するのは、あまりにもリスクが高い。
眉を下げる私に対し、孤爪君は少し考えるように顎の下に片手を当て、小さな声でぽつりと呟いた。
「......こういう場合って、部屋のどこかに隠してあることが多いから......」
「そんなゲームみたいなことあってたまるか」
「よし!カギを探せばいいんだな!ヘイヘイヘーイ!」
「うそだろ、ノリノリか木兎......」
「.............」
孤爪君の言葉に黒尾君は顔を顰めたが、自分と真逆の反応をする木兎君を見てもっと顔を歪める。
私もどちらかというと黒尾君の意見に賛成派だが、意気揚々と鍵を探す木兎君に水を差すことは出来なかった。
どうしようかと固まっていると、今まで黙っていた赤葦君がおもむろに口を開いた。
「.......一先ず、時間決めて探しましょうか。今から10分、鍵が見つかったら準備室に入る。見つからなければ入り口から戻るということでどうでしょう?」
赤葦君の提案に、私と黒尾君はちらりと視線を合わせる。
「.......うん、まぁ、10分くらいなら......」
「研磨、時間ちゃんと測っとけよ?」
赤葦君の提案に渋々頷く私に続き、黒尾君は大きなため息を吐きながら孤爪君にそう言うと、孤爪君は少しだけ口角を上げて「勿論」とすんなり了承するのだった。
五人で音楽室を捜索して、はや5分が過ぎようとしていた。
椅子の下や棚の引き出しなどあれこれ探しても、準備室の鍵らしきものは一向に出てこない。
やっぱりそんなモノはないんじゃないかという考えが頭をもたげてきたが、ふと目に入ったグランドピアノを誰も調べてないことに気が付いた。
こんな所に無いだろうとは思いつつ、ピアノに近づいて閉ざされている漆黒の蓋を開ける。
そこには白と黒の鍵盤が規則的に並んでいるだけで、やはり鍵らしきものは見当たらなかった。
予想通りの展開に少しだけ落胆し、段々何をやってるんだろうという気持ちが頭をもたげてくる。
私は忘れたスマホを取りに来ただけで、こんな無限お化け屋敷みたいな所に来るつもりはなかった。
いや、それを言ったらこの場にいる全員がそうだし、そもそも私が忘れ物をしなければこんなことにならなかったんだけど。
大きく捉えれば自分が悪いに尽きるのだが、言いようのないイラつきが体内を巡り、堪らず前にある鍵盤に手をついた。
「おわッ!?え、なに!?」
「びっくりしたぁ!」
「......ミケさん、どうしました?」
ジャーン!とピアノの音を響かせた私に、黒尾君と木兎君が大きく驚き、赤葦君は落ち着いて私の様子を窺った。
「.......なんでもないです......」
こちらへ顔を向ける男バレ三人とは視線を合わせないまま返答し、今度は人差し指のみでいくつかの鍵盤を鳴らす。
「おいミケ、まだ10分経ってねぇぞ。遊ぶな」
「遊んでませーん。探してます~」
「いや、明らかに暇してんだろ。おい、音駒生がねこふんじゃったを弾くな!」
唯一弾ける、というよりも楽譜を知ってる楽曲を適当に弾くと、黒尾君はよくわからない自論を持ってきた。
黒尾君とのやり取りが面白くて拙い楽曲を弾いていると今度は木兎君が「なぁなぁ、ちょっといい?」と私にストップをかける。
木兎君はピアノの傍までくると、大きな金色の目をきょろりと鍵盤に向けた。
そしてそのままいくつかの鍵盤の音を一つずつ鳴らし、「ンンン~?」と首を傾げる。
「.......コレかなぁ?ねぇ、この音ちょっとズレてない?」
「え?」
そんな突然の問い掛けに思わず目を丸くすると、木兎君はひとつの白い鍵盤を二、三度大きく鳴らす。
「うん、やっぱズレてる......っていうか、なんか変な音しない?」
「え、そう?......うーん......ごめん、わかんない......」
「おい、現役軽音部」
「う、うるさいな!わからんもんはわからん!」
「......調律の問題でしょうか?というか木兎さん、よくわかりますね。ピアノやってたんですか?」
「俺じゃなくて、姉ちゃんがやってた。家でしょっちゅう聞いてたから......ま、何となくだけど!」
木兎君の問い掛けに素直に首を振ると、ここぞとばかりに黒尾君がからかってくる。
たまらず声を荒らげる私の横で、赤葦君は相変わらず淡々と話を繋げ、最後に木兎君はわはは!と陽気に笑った。
木兎君にはお姉さんがいるという事実にも驚いたが、真っ先に気になったのは別の方だ。
「え、家にピアノあるの?もしや木兎君、結構良い家の子......?」
「木兎さん家、かなりでかいっすよ」
「なんと。お嫁にしてください」
「え!?それってマジ!?」
「彼女飛び越えて大きく出たな」
「まさにK点越えですね」
「赤葦w誰が上手いこと言えとw」
ここに来て木兎君の育ちがいいことを知り、冗談半分本気半分でプロポーズ紛いの言葉を告げれば、木兎君は本気なんだか冗談なんだかよくわからない反応を示した。
おたおたと慌てる木兎君を真っ直ぐ見つめていると、黒尾君と赤葦君が面白おかしく茶々を入れてくる。
お付き合いを前提に結婚してください、と言った方がよかったかな。
イケメンでお金持ちなんて、早々会えるもんじゃない。アピールはしっかりしておかないと。
「......クロ、ここ開けてみて」
「え?」
わいわいとくだらないことで盛り上がる中、一人静かにしていた孤爪君が唐突にピアノの上部を開けるよう、黒尾君に指示した。
いきなりそんなことを言われた黒尾君は当然目を丸くする。
「なんで?調律でもすんのか?」
「俺に出来る訳ないでしょ。いいから開けて」
黒尾君の冗談をスパッと切り落とし、孤爪君は早くしてよというようにその綺麗な顔を顰めた。
「ハイハイ......よいせ、っと」
そんな孤爪君におとなしく従う黒尾君の姿を見て、この二人のパワーバランスはこういう感じかとひっそり認識する。
そういえば、黒尾君は孤爪君のことを幼なじみだと話していた気がする。
「......木兎さん、音がズレてるのってどれ......?」
「え?ああ、コレ!」
ピアノの屋根を黒尾君に持たせ、孤爪君は木兎君に尋ねる。
木兎君が1箇所の鍵盤を鳴らすと、孤爪君は何度か押すように言って、ピアノの内部や弦を注意深く見回した。
「......あった。カギだ」
「え!?」
ぽつりと零された言葉に、私と黒尾君、木兎君が驚きの声を上げる。
半信半疑でピアノの内部を覗くと、先程木兎君が「音がズレてる」と言った鍵盤の弦に何かが挟まっているのが見えた。
それを木兎君が長い腕を伸ばして取外す。
見せてもらうと、本当に銀色の鍵だった。
「おわー!?本当にあった!!」
「しかもそんな所に!?マジかよ!?」
「えー!うそー!孤爪君凄い!木兎君も凄い!」
「孤爪、よく気付いたな......さすが」
「......いや、これが本当に準備室の鍵かどうかが問題でしょ」
わ〜!っと盛り上がる私達三年生に比べ、二年生の二人は落ち着いた会話を進める。
これではどちらが歳上なのかわからないなと内心で思いながら、見つけた鍵を持って意気揚々に準備室前へ移動する木兎君の後に全員が続いた。
これで全然別の鍵だったらどうしようと一瞬不安が過ぎったが、ガチャリと小さな金属音を響かせてしっかり回ったそれを見て、どうやら本当にここの鍵だったらしいことを確認できた。
「......じゃあ、開けるぞ?」
少し緊張した木兎君の声の後、ゆっくりと音楽準備室のドアが開かれる。
懐中電灯が照らした室内は明らかに音楽準備室ではなく、無数の本棚がきちんと配列された部屋...図書室へと繋がっていた。
通りゃんせ、通りゃんせ
(行きは良い良い、帰りは怖い)