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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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黒尾君と孤爪君の会話を聞いて、そんなことある訳ないと思いつつ廊下に出る。
ここは東棟の3階で、二年生の教室は中央棟の2階だ。階も違うし建物も違う。
絶対ない、有り得ない。そう思いながら見た景色に愕然とした。
長い廊下に沿うように、二年生の教室のプレートが掛かっている。
まさか、そんな......え、どういうこと?
「ウソだろ、オイ......」
頭がパニックして呆然としてしまう私の上から、黒尾君の戸惑う声が降ってくる。
驚きと動揺で固まってしまう私と黒尾君を他所に、孤爪君は視聴覚室にもう一度入ったり、二年の教室のドアを開けたり、興味深そうにウロチョロと動いていた。
「え、どうした?なんか変なの?」
音駒生の行動がおかしい事に梟谷生の二人も気が付いたらしく、木兎君が目を丸くして呑気にそんな質問をする。
「変も何も......なんだ?空間移動?」
「え!何それカッケェー!どういうこと!?」
黒尾君の言葉に木兎君は一気にテンションを上げる。
対照的に私のテンションはだだ下がりだ。
「クロ、ちゃんと俺の席もある。本当にここ、二年の教室だ」
廊下に居る黒尾君へ今度は孤爪君が話し掛け、木兎君と赤葦君、黒尾君が続けて二年三組というプレートが掛かった教室へ入っていく。
得体の知れない教室へ入りたくないが、一人で廊下に居るのも嫌なので渋々私も入室すると、気を利かせたのか黒尾君が電気をつけてくれた。
「ここ、俺の席。教科書も、ほら」
「......孤爪、置き勉するんだ」
「うん。カバン重くなるの嫌なんだよね。赤葦はしないの?」
「俺はしないかな。置きっぱなしだと、何か落ち着かなくて」
「......赤葦っぽいね」
自分の席に置いている名前の書かれた教科書を見せる孤爪君に、赤葦君は暢気にそんな話をする。
こんなおかしな状況でも雑談が出来る二年生ズの図太さに若干慄いていると、教室を見回していた黒尾君がおもむろに誰かの机の上に軽く腰かけた。
「視聴覚室の隣りに二年の教室が出来た。とりあえずそれだけなんだが......全く意味がわかんねぇな?」
「本来は、ここに何があるんです?」
「あ~......何だったっけ......?」
「......確か、第二会議室じゃなかった?空き教室みたいになってるから、教材置き場みたいに使われてる部屋だったような......」
「あぁ、そうだそうだ。学祭で使ったヤツとか、余分な机とかも置いてた部屋だ」
赤葦君の質問に私と黒尾君が答える。
そう、確か今日の夕方、部活が終わるまでここはちゃんと第二会議室だったはずだ。
「.......ドッキリ?とか?どこかにカメラあって撮られてたり?」
「え!?マジで!?」
「......ウチの学校のどこにそんなお金があるの?こんなことするなら古くなってるとこ直すでしょ」
黒尾君の予測に木兎君が嬉々とした様子を見せ、反対に孤爪君は淡々と正論をかます。
「仮にドッキリだとしたら、校舎の中に入る理由を作った御木川さんが仕掛け人ってことになりますが」
「.......赤葦君もしかして私を疑ってる?全身全霊で反論してもいい?」
「せめて言葉でお願いします。俺はサンドバッグじゃないんで」
続く赤葦君の言葉に堪らず拳を構えてしまえば、赤葦君は表情一つ変えずにそんな返答を口にした。
だけど、私がこの事態を引き起こした犯人だなんて思われては、たまったもんじゃない。
確かに私がスマホを忘れたせいで校舎に入った訳だが、一人だったら絶対明日にしていたし、そもそも校舎に入りたがってたのは梟谷の二人じゃないか!
そこまで考えて一瞬ムカッとしたが、元を正せば私のうっかりが起因していることに気が付き、やり場のない怒りをため息と共に体外へ吐き出した。
「......もう、何でもいいから戻ろうよ......二年生のとこなら出口近いし都合いいじゃん......」
「.............」
「けんまは、ふまんそうにこちらをみている」
「.......勝手にナレーションつけないで」
半ば投げやりになってそう言えば、黒尾君と孤爪君の仲良さそうな会話が聞こえる。
手元に戻ってきたスマホで時刻を確認すれば、もうすぐ21時に差し掛かるところで、早く家に帰りたいという気持ちが一気に強まった。
「とにかく、私は先に戻るからね!」
「あ、それ死亡フラグ......」
「やっかましいわ!!」
私の言葉に茶々を入れてくる赤葦君に一喝し、男バレ四人を置いて二年生の教室のドアを勢いよく開ける。
中央棟の二階なら、階段を降りて少し歩けば先程入ってきた玄関に行ける。
真っ暗な廊下を歩く距離が短くなったならむしろ好都合だと前向きに考え始めた私だったが...一歩足を踏み出した途端、明らかに廊下ではない景色にぎくりと身体が固まり、言葉を失ってしまう。
「.............」
「.......ミケ?どうした?」
「.............」
教室から一歩出たところで急に黙り込み、動きを止めた私に真っ先に黒尾君が声を掛けてくる。
「何かありましたか?」
「え、なになに!?」
黒尾君に続き、赤葦君と木兎君がなんだなんだと私の方へ足を進め、その後ろに孤爪君がそわそわとした様子でついてくる。
ドアを開けた私を先頭に、黒尾君、赤葦君、木兎君、孤爪君が集まり、私の後ろから廊下のはずだった景色を覗くと、四人とも一斉に息を飲んだ。
「.......おわー!なんだこれ!音楽室!?」
「.......ハァアア!?」
一瞬の沈黙のあと、木兎君の興奮したような声が上がり、続いて黒尾君の混乱した声が辺りに響き渡る。
二年生の教室から出たら音楽室に繋がっていたなんて、もうどう考えてもおかしいだろう。
というか、さっきまでここ普通に廊下だったじゃん!
「いやァ、音駒おもしれーな!こんなだったら俺も音駒受けりゃよかった!」
「何馬鹿なことを言ってるんですか。明らかに異常事態ですよ、これは」
「......なんか、ルービックキューブみたいだね......」
「研磨お前、ちょっとワクワクしてるだろ?」
「......そう言うクロは、ちょっとビビってるでしょ?」
「はぁ?全然ビビってねぇし!」
私を他所にわいわい楽しそうにはしゃぐ男バレ四人は、真っ暗な音楽室に興味津々のようだ。
子供か!とツッコミを入れたいところではあるが、残念ながらこの異常事態に心がフルボッコにされている最中なので、ツッコミを入れる余裕が全く無かった。
いや、だっておかしいでしょ?有り得ないでしょ?部屋と部屋が移動するなんて、この古い学校がそんな可動式建築だなんて到底思えない。
しかも、これだけ大きなモノが移動してるというのに音が全くしないのだ。
そればかりか振動すら全く感じないなんて、絶対有り得ない。
「.......と、忘れてた......えー、大丈夫か?ミケ」
「.............」
「.......言葉も無い、と」
「.............」
一人打ちひしがれている私に、黒尾君がひょいと顔を覗き込んでくれる。
しかしそれに反応できる余裕すらなく黙り込んでいれば、黒尾君は小さくため息を吐いた。
「.......まあ、でも、なんだ......よかったよな、お前一人で入らなくて」
「!!」
ぽつりと上から降ってきた言葉に、思わず目を丸くして黒尾君を見る。
やっと反応を返した私に、黒尾君はいつもと変わらない笑顔を浮かべた。
「......俺と研磨と、木兎と赤葦。知力体力、結構バランスいい布陣だと思うぞ?」
「.............」
「だから、あんまり心配しなさんな」
「.............」
大きな手でぽんぽんと頭を撫でられ、その優しい手つきに全身を襲っていた恐怖がゆっくりと引いていく。
「.......うん......」
「.............」
少しずつ身体の緊張が解けていき、瞳を閉じて細く長い息を吐きながらおもむろに頷くと、黒尾君は一定のペースで私の頭をぽんぽんと撫で続け、私が落ち着くのを待ってからゆっくりと手を離した。
「......ま、何かあったら護ってやるからさ」
「.............」
「.......黒尾さん、よく素面でそんな台詞言えますね...」
「!!」
「クロは多分、そういう星の元で生まれた人間なんだと思う......」
「う、うるせーぞ!!そこの二年セッターコンビ!!」
黒尾君の言葉に少しだけ、ほんの少しだけときめいていれば、少し離れたところでヒソヒソとツッコミを入れた赤葦君と孤爪君のおかげでそんな乙女的空気は一瞬にして雲散された。
二年生二人に完全にしてやられている黒尾君を少し残念に思っていれば、真っ暗な音楽室にテンションを上げていた木兎君がこちらへ駆け寄ってくる。
「もしやミケちゃん、怖い?ごめんな?ちょっとはしゃぎ過ぎた......」
「.......」
どうやら私の心配をしに来てくれたようで、木兎君は私と目線を合わせるように屈んでくれる。
まるで綺麗な満月のような金色の丸い瞳と視線を重ねれば、木兎君は明るくにっこりと笑った。
「でも、大丈夫!俺、迷路得意だから!絶対ゴールできるから、安心していいよ!」
「.............」
笑顔と同様、明るい声で告げられた内容に思わず目を丸くしていると、私達の様子を見ていた黒尾君達が盛大にため息を吐いた。
「一体どっからくんだその自信......」
「というか、これって迷路なの......?」
「......いや、でも、木兎さんの直感、割とマジで凄いですよ?」
「.............」
呆れた顔を向ける黒尾君に、少し首を傾げる孤爪君。
赤葦君は片手を顎の下に当てて、何やら真面目な顔で考え始めている。
何だか色々とバラバラで統率の取れていないメンツにも思えるが、それでも先程よりもずっと恐怖が薄まっている気がする。
......この人達が居るなら、本当に大丈夫かもしれない。
心に少しだけ余裕が生まれて、私はようやく小さく笑いを零すのだった。
.......信じてるよ、お前ら
(ちょw宮城勢にしか伝わらないネタ発言やめろw)