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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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ボーリングで一頻り盛り上がった後、少し遅めのお昼ご飯に牛丼を食べて、腹ごなしにカラオケに入った。学生五人、夜間料金前までのフリータイムでみんな好き好きに歌いまくる。男バレの四人とも歌うことを恥ずかしがるようなタイプでは無いようだったが、孤爪君と赤葦君は2、3曲歌ったら「飽きたし疲れた」「気が済んだのでもういいです」と早々に離脱した。二人とも歌上手いし、声も良いからもう少し聞きたい所だったけど「カラオケあんまり好きじゃないけど、ミケの歌は聞きたいから......」やら「御木川さんの方が上手いんで、聞かせてください」やら言われてしまえば、悪い気はしない。頭の良い二年セッターコンビに褒められることなんて滅多にないから嬉しくてニヤニヤ笑ってしまう私の死角で、黒尾君と木兎君が「見ろ木兎、アレが女子を転がす悪い男の一例だ」「ミケちゃん、騙されてるぅ......」なんてヒソヒソ話をしていたらしいけど、色んな音が溢れるカラオケルームと舞い上がってる私の耳にはちっとも届かなかった。
その後は黒尾君と木兎君、私の三人でワイワイ歌って、時々赤葦君と孤爪君がノッたりして、フリータイムを存分に使い楽しく騒いだ。ついでにあの夏の夜、奇妙奇天烈な音駒高校で木兎君からリクエストされた曲も今回はちゃんと歌って、というかもう一緒に歌って、あの時すっかり無視したのも許してもらった。でもまぁ、歌詞もメロディーもうろ覚えでサビくらいしか歌えない曲を、しかもマイクしかない状態でリクエストされたってそりゃ普通に無理でしょって話だ。ジョージョーシャクリョウノヨチアリというヤツである。
そんなこんなで楽しいカラオケの時間はあっという間に過ぎていき、最後の予定であるたこ焼きを食べに行く。沢山歌ってカロリーもきっと消費されてるだろうから、今日は色んなものを沢山食べてもいいはず。ボーリングだって頑張ったし。
スマホで調べたら居酒屋だけど室内で銀だ●を食べられるお店を見つけて、丁度五人で入れたのでそれぞれ好きなたこ焼きを注文してシェアすることにした。私が頼んだのは一番ノーマルなたこ焼きで、香ばしいソースの匂いと甘酸っぱいマヨネーズの匂い、カツオ節と青のりが踊る魅惑のそれにパクリとかぶりつく。外はカリカリ、中はふあふあ。アツアツの生地とプリプリのタコが口の中で踊り、幸福感と満足感のどちらにも包まれた。
「あつッ、あつぅ......うーまぁー!幸せー!」
「すげぇ......よくソレ一口でいけんなぁ、口ン中大丈夫か?ヤケドしてない?」
「ちょっとデロデロしてるけど大丈夫!問題無し!」
「マジかぁ......ナイスガッツ~」
熱々のたこ焼きを一口で堪能した私に黒尾君が大層心配そうな顔を向けたが、少しくらい口の中を火傷しても美味しいものを美味しく味わえるのであれば私は全く問題無い。そう返せば感心と呆れが半々な笑いを返されたが、そういえば黒尾君はやや猫舌だったかもしれない。こんなに美味しいのに冷まさないと食べられないなんて、ちょっと不憫だ。
「御木川さん、ねぎタコも美味いですよ」
「うん!貰う!あ、二度漬け禁止?」
「俺は別に気にしませんけど」
「ありがとう!助かる!」
「あ、この明太のにその汁つけたら美味いんじゃね?やっていい?」
「それは気にします。味変したいなら漬けるんじゃなくてそれに掛けてください」
勝手に黒尾君に同情していれば、味の違うたこ焼きを頼んだ赤葦君がお皿を寄越してくれた。付属のネギまみれのおろしポン酢二度漬けの許可が下りたので遠慮無く自分のたこ焼きを存分にそれに漬けていれば、木兎君が意気揚々にそんな提案をしたが赤葦君にバッサリ却下されていた。でも、今のは赤葦君が正しいと思う。
「......ミケ、たこ焼き好きなの?」
「すき!何なら家にたこ焼き器あるよ~。孤爪君今度たこパする?」
和風のたこ焼きも美味しくて、にこにこ笑いながら堪能していると今度は孤爪君が話し掛けてきた。好きなものの話は楽しいので上機嫌で返答すれば、「何それズルい!俺も行きたい!」と木兎君が元気に入ってきた。
「じゃあ木兎君もやろ~......まぁ、ここまで美味くはならないけど、手作りだと色々具が変えられるから楽しいんだよね」
「具を変える?タコじゃなくてイカにするとか?」
「そうそう。あとはエビとか、チーズとかコーンとか、ウィンナーとかお肉も好き」
「何それ美味そう!やろうやろう!」
「最早それ、たこ焼きじゃなくね?w」
「いいのいいの、それがたこパというものだし......何なら闇たこ焼きとかも面白いよ?」
「闇たこ焼き?何それ?」
「あー......もしかして、闇鍋的な?」
「そうそう。前にバンドメンでやったんだけどさ、それぞれ持ってきたカレー粉とチョコとニンニクと練乳とサバ缶混ぜて焼いたら、なんかシーフードココナッツカレーみたいな味がして。意外とイけたんだよね」
「なんだそれ!すげー奇跡!w」
「......お前ら本当、遠慮と躊躇ってモノを知らないよな......」
「......俺は絶対やらないから」
たこ焼きからたこパの話になり、過去にやった闇たこ焼きの話をすれば木兎君はけらけらと笑い、黒尾君と孤爪君にはドン引きされた。ちなみに赤葦君は我関せずと言った感じでひょいひょいたこ焼きを摘んでいる。ちょっとムカつくから、絶対今度闇たこ焼き食わせてやろうと思います。
「でも、家にたこ焼き器があるとか、もしやご両親、大阪の人なの?」
「え?ううん、たこ焼きすきだから持ってるだけ......でも、大阪っていいよね。食べ物美味しいし、楽しいとこ沢山あるし」
「わかる!あと大阪ってバレーも強いとこあんだよ!MSBYブラックジャッカルっていう超格好良いチームでさ!」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、木兎君がそこ入団したら、応援行きがてら大阪旅行できるね」
「おお!いいなそれ!めっちゃ楽しそう!」
「いやいや気が早過ぎるだろw先ずはボク達大学受験からですヨ」
「い゙~~~ッ!!聞きたくない聞きたくない!!」
「黒尾空気読め~~~ッ!!」
楽しい会話だったはずがいきなり楽しくないワードを持ってこられ、木兎君と二人で顔を顰めながら黒尾君に文句を寄越す。すると、今まで黙っていた赤葦君がスンとした顔で「お二人共、そろそろ現実見てください」と相変わらずの粗塩を投げ付けてくるのだった。
▷▶︎▷
「別に送らなくていいのに。黒尾君てば心配性~」
「はぁ?何言っちゃってんの、あの時散々暗いよー怖いよーってギャン泣きしたのはどちらさんでしたっけ?」
「あぁ、め●どう君ですね」
「違ぇよお前だわwつーかサ●デーはダメだろせめてジャ●プにしろw」
「あーもーうるさい!確かに怖いのも暗いのも嫌いだけど!帰り道くらいは大丈夫ですぅ!」
たこ焼きを食べた後、祝勝会はお開きとなりそれぞれ帰路に着いた。梟谷の二人とは途中で別れ、音駒の幼なじみの二人と私も別れる駅まで来た時、何故か黒尾君が着いてきたのだ。正直、私よりも孤爪君の方が襲われたら危ないんじゃと心配したものの、「ケンマは男でミケは女の子デショ!」とか何とか言われて結局家まで送ってくれるらしい。
「けど、別にちっちゃい子じゃないんだからさァ......もし変なヤツ出ても、人間ならこっちに十分勝機あるし。それに黒尾君、明日朝から部活でしょ?大変じゃん」
「......あのなァ、ミケ......俺は別にちっちゃい子扱いしてんじゃなくて、」
「あ、てか私の家のが学校近いし、何なら泊まってく?お母さんと私と黒尾君で川の字で寝る?w」
「............」
「......ん?黒尾君?」
駅から家までの道を二人で歩きながらアホな話をしてけらけら笑っていると、ふいに黒尾君が黙った。そのまま釣られて足を止めてしまうと、黒尾君は何処か言いづらそうな色を浮かべ、大きくため息を吐いてから静かに話し出した。
「............正直、マジで堪えたんだよ。ミケがプールに落ちて、暫く行方分かんなくなった時......お前にもし何かあったらって考える度、すげぇ怖かったし、死ぬ程後悔した」
「!」
「......逸れる可能性があるって分かってたんだから、ミケとずっと手でも何でも繋いどけばよかったんだ。そしたら、お前をあんな目に遭わせずに済んだ。......ずっと独りにして、散々泣かして......一番怖い思い、一人だけさせて......」
「............」
「......本当に、ごめん。......護ってやるとか言ったくせに、結局全然役に立たなくて、本当にごめん」
「............」
私と黒尾君以外誰も居ない閑静な夜の住宅街で、黒尾君は折り目正しく頭を下げた。どうしていきなりそんなことをと思わず目を丸くして黙ってしまったが......もしかしたら、黒尾君も私と同じようにずっと罪悪感を抱えていたのかもしれないと思った。私はあの日スマホを忘れて、そのせいで皆のことを巻き込んでしまったとずっと気にしていたけど......黒尾君は「護る」という自分の発言をずっと気にしていたのかもしれない。......そんなの、あんな意味の分からないお化け屋敷にみんな翻弄されていたんだから、全然気にすることないのに。
「......黒尾君は、マジメだなぁ......」
「......いや......そういう、話じゃ」
「本当......バカだなぁ......」
「............ッ、」
「......でも、そうだね。じゃあ、前科一犯として」
「!」
変なとこ律儀で、木兎君並にしょぼくれてる黒尾君の大きな手を遠慮無く握り、そのまま引っ張ると目を丸くした黒尾君もこちらに何歩かよろけて歩いた。その顔がまるで驚いた猫のように見えて、ついふきだしてしまう。
「......ふふ、市中引き回しの刑じゃ。私の家まで離してはならんぞ!」
「............」
「............」
「............」
「......え、ちょっと何か言ってよ。スルーが一番キツイ......」
周りにヒトも居ないし、手ぇ繋いで帰ろう!と素直に言うには些か恥ずかしくて、そんなふざけた言い方をしたものの全く無反応な相手に早々に心が折れた。何だよ、いつもはノッてくるじゃんと勝手に不貞腐れながらも、握った手を離そうとすれば......
「────ミケ。罪状1個増やしていい?」
「え?」
強く握られて、今度は逆に私が引っ張られた。そのままよろけて、バランスが不安定になったところで固い所に不時着する。ぶつけた鼻が痛くてたまらず目を瞑ると、圧縮でもされるように身体を潰される。
......あぁ、違う。これ、黒尾君に抱き締められてるんだ。
あまりにも急展開過ぎて状況の認識に時間が掛かってしまい、気付いた途端ブワッと体温が上がる。
「ッ、ちょ、っと......!?何す......いや、外!外ですケド!?」
「............」
「ねぇ、黒尾君!ちょっと、何!聞いてる!?ねぇ!」
「............」
「黒尾君!黒尾鉄朗君!くっそ、この馬鹿力め......!筋肉自慢かよ......!」
「......ミケ、筋肉フェチ?ドキドキする?」
「そうですね!だから離してくれます?流石にハグは恥ずかしい!」
「............嫌デス」
「は??」
大きくて逞しい身体に包まれて、自分とは全然違う匂いがして、顔が、身体が、頭の中が、熱い。心臓がこれ以上ないくらいドキドキする。何これムリしんどいと直ぐに音を上げて、必死に離れようとするもびっくりする程動かない。何これ岩?それとも壁か?思うように動けなくて若干イラッとしていれば、怒りを煽るようなことを言われてたまらず雑に聞き返すと、更に強く抱き締められて壁際に寄せられた。
「────離したくない。ずっと、ミケのそばに居たい......」
「!?」
「......ずっと......“此処”に、居てほしい......」
「............ッ、」
苦しいくらい抱き締められて、耳元で懇願するように寄越された言葉に思わず息を飲んだ。な、なに、なに!?どうしたの黒尾君!?て、手を、繋いだ、だけで、一体どこでスイッチ入った!?こんな、送り狼みたいなことするタイプじゃないじゃん!
「......男はオオカミなのよ~♪気を付けなさい~♪」
「!?」
大混乱する頭でふと思い出した歌を、咄嗟に口ずさむ。何でもいいから緊急回避せねばと思って歌ったそれは、思いのほか良い脱出ポッドになってくれたようだ。
「年頃になったら慎みなさい~♪羊の顔をしていても♪心の中は狼が......」
「~~~ッあ゛あくそッ、ハイハイすみませんでした!つーか選曲!お前生まれてねぇだろ!」
「......いや、黒尾君も生まれてないでしょ?......今日もまた誰か乙女のピンチ~♪」
「ヤメロ!居た堪れない!」
某セクシーでキュートな二人組の少し古い歌を黒尾君も知っていたようで、思いきり顔を顰めながらもサッと私を解放した。圧迫感が無くなったのと、身体同士の接触が無くなったのでたまらずほっとして息を吐けば......背中にあるブロック塀に腕をつかれ、いまだに距離が近い相手にぎくりとする。まるで言外に「逃がさない」と寄越されているようで、気を抜けば一気に畳み掛けられそうだった。
「......ったく......お前本当、ハードモードだよな......」
「......なに、ゲームの話?」
「......わかってるくせに誤魔化しやがって......あーあ、なんでこんなチートキャラ好きになっちゃったかな俺も......」
「え!チートキャラ!?私が?何それカッコよ!もっかい言って!」
「そっちじゃねぇだろ普通!バカだろ!もう二度と言わねぇ!バーカ!」
「何だと!バカって言う方がバカなんですぅ!」
会話の流れはいい感じに通常方面に流れて、ついに黒尾君は“壁ドン”も解除した。しかしほっとする間もなく手を握られて、そのままズンズンと歩き出していく。どうやら市中引き回しの刑は続行するようだ。......ただ、引き回されるのは私になってるが。
でも、まぁ、この温かい大きな手に繋がれるのは、割かしイイかもしれない。
侃々諤々、明け暮れる
(一生掛けてわからせてやっから、覚悟しろ!)