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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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ひとしきりゲーセンで遊んだ後、次の予定であるボーリングへ向かう。受付をして、靴を借りて、各自コレだ!という球を選んで席に着いた。レーンは二つ借りられて、とりあえず梟谷の二人「ボクト」「アカーシ」と音駒の三人「クロ」「ケンマ」「ミケ」に分けて登録していた。
「ボーリングすんの久々!超楽しみ!」
「木兎さん、ハメ外して怪我とかしないでくださいね。今週末練習試合ありますからね」
「わかってるって!......で、コレはフクロウ対ネコでいいんだよな?負けた方が勝った方に昼飯奢るとかどうよ?」
「ちょっと待て。お前ら二人とこっち三人じゃどう考えても胃袋の差があり過ぎだろ。あとこっち二人女子なんですけど?」
「え、黒尾君女子だったの?やだテツコ、早く言ってよ」
「だってぇ、なんかタイミング無くてぇ......じゃねぇよ!筋肉の比率がおかしいだろってことだよ!」
「......クロ。一応言っとくけど、ボーリングは別に筋肉がある人が上手い訳じゃないから......プロボーラーとか、普通の体型でしょ......」
「え、そうなの?」
「あと私、ボーリング上手いよ?」
「あ、そうなの?」
スマホを見たり、ボールを磨いたりとそれぞれが好きなことをしつつ、このゲームをどうやって楽しむかの会議をする。木兎君は学校対決にしてこの後のお昼ご飯代を賭けようと提案したものの、黒尾君から少し難色を示されていた。それに対して私と孤爪君が補足をするも、何処と無く納得してない色を浮かべている。
「とにかく、そっちが勝てばいい話だろ?ま、俺は負けるつもりねぇけどな!あんま金も無いし!」
「......ちょっと木兎さん、万が一負けても半々ですからね。正直俺もそこまで持ってないんで」
「え!?そうなの!?じゃあ絶対勝たなきゃじゃん!」
「いや、俺に借りる前提で賭け事決めるのやめてくださいよ......」
あっけらかんとした木兎君の発言に、今度は赤葦君が渋い顔を浮かべる。後輩にお金借りる先輩ってどうなのとちょっと笑いながら、木兎君とは違う提案を寄越した。
「というか、別にチーム戦である必要なくない?」
「え?」
「私、部活のメンツとやる時いつも完全個人戦だよ?」
「へぇ......それも面白そうだな、何か賭けたりすんの?」
「うん。自分の名誉」
「名誉?」
軽音部のメンツでボーリングをする時の話をすれば、男バレ四人はきょとんと目を丸くする。あれ、バレー部はあんまりそういうことをしないのかなと少し意外に思いつつ、話を続けた。
「ワンゲームして、一番スコア高い人が決まったらその人の絶対王政になるのね?で、一番低い人はその人の“お願い”を1個きくんだけど......本当に、何でも、ひとつ、きかないとダメで」
「......ちなみに、ミケさんが勝った時は何を?」
「ラ●クのライブチケット買って貰った」
「はぁ!?おま、それ結構いいお値段するんじゃないの!?」
「うん。遊びや賭け事は本気でやるから面白いんだよ?」
「............」
私の話に黒尾君と木兎君はぎょっとした顔を向け、赤葦君は黙っているものの「うわぁ......」とでも言わんばかりの視線を送ってきた。うそでしょ?軽音部の遊び方、男バレにドン引きされてんだけど。これはみんなに即報告しないととスマホを手に取れば、「へぇ、それいいね」と一人だけ賛同する声が聞こえた。見ると、椅子に座ってスマホを弄っていた孤爪君とパチリと目が合い、愉しげに微笑まれる。
「......俺、今欲しいゲームあるんだよね」
「ッ、おお......!?」
「こ、孤爪がまさか、やる気出すのか......!?ここで!?」
「......ちなみに御木川さん、そのお願いって別に物理的なものでなくてもいいんですよね?例えば、授業中寝るのやめてくださいとか、部活休みの日はちゃんと受験勉強してくださいとか」
「うん。でも、あくまで最下位の人宛じゃないと駄目だよ」
「オイオイあかーし失礼だぞ!!俺はビリにならないから!!」
「あ、ちゃんと自分に向けて言われてるって自覚あったんだな」
孤爪君の発言はまさに鶴の一声といった感じで、ドン引きしていた三人が瞬く間にこの勝負にのってきた。
「......じゃあ、みんな恨みっこ無しね?あと怪我すんのも無しで!」
何となく纏まりかけた所で、半ば無理やり纏めてしまう。......この時の私が内心でほくそ笑んでいたことを、男バレ四人は面白いくらい気が付かなかった。
▷▶︎▷
「......うッそだろおま......」
「ふ、ふ、フルスコアだとぉ......!?」
私の名前の欄には“300”という数字が堂々と表示され、驚愕する黒尾君と木兎君の前できゃるん☆とピースしてやった。
「パーフェクトゲームとか、初めて見た......」
「御木川さん、あんた何者ですか......」
「えー?言ったじゃん。私ボーリング上手いよって」
孤爪君は感心したようにスマホでその数字を撮っていて、赤葦君はまたドン引きしながら私を見る。
勝負の結果はフルスコア、つまりワンゲーム10回全てストライクをかました私が当然の一位で、二位が孤爪君、三位が同着の黒尾君と赤葦君で、最下位が木兎君だった。木兎君はバレーの調子にムラがあると聞いていたけど、どうやらボーリングでも同じらしい。
「じゃあ、木兎君♡私のお願い何でも1個きいてください♡」
「うぐ......クッソー......」
今までの軽音部による熾烈なボーリング勝負でメキメキと上達した腕を存分に発揮した私は、哀れな子羊となった木兎君にとびきりの笑顔を向ける。ひたすらに悔しそうな様子を浮かべていた彼だったが、腹を決めたのかふんすと勢いよく鼻で息を吐き、こちらへ向き直った。
「ヨぉシ!サッコーイ!!」
「おいw木兎w」
「私と結婚してください♡」
「えッ!?」
「は?駄目に決まってんだろ」
気合いを感じるバレーの掛け声を聞きながら、ニコニコと笑って願い事を口にすれば木兎君は大きな目を更に丸くした。その後私達のやり取りに茶々を入れていたはずの黒尾君が何故かマジレスしてきて、途端に機嫌が下がってしまう。
「黒尾君は黙っててくださーい。私は木兎君とお話ししてるんですぅ」
「いやいやいや......お前ね?ちょっと考えてみろよ。本当に“ゲームの戦利品”で木兎と結婚して、マジで後悔しない訳?この先、一生、本当に、それで、いい訳?」
「......うーん......確かに、“戦利品”は些か響きが良くないね......」
楽しい気分に水を差されたことにムッとしたものの、続く黒尾君の言葉にまぁ確かにと思い直す。じゃあ違うお願いにしようかと改めて考え直す私に、「というか、木兎さんの人権は何処へ......」と赤葦君の声が掛かったが、それは聞こえないふりをした。
「じゃあ、結婚を前提に付き合ってください♡」
「ミケお前俺の話聞いてた??」
「えぇ?これもダメなの?黒尾君のジャッジ厳し過ぎない?」
「いやいやいやお前の倫理観の方がどうなってんだよ......おいケンマ、何笑ってんだお前も止めろ」
変えた私の願いに、黒尾君が再び難癖を付ける。たまらず眉を寄せて非難すれば、彼は己の幼なじみへ応援を要請した。
「......まぁ、法律上はまだ問題あるよね......木兎さんて、確かまだ17でしょ......?」
「お、おう!9月で18!」
「え?9月とか誤差じゃん。じゃあ誕生日と記念日一緒にしちゃおうよ」
「えッ、あ、ぇ、えーと......!?」
「......木兎さん、そんな照れること無いでしょう。別に初彼女でも無いくせに」
「いや!だって!女の子にこんなガンガン来られんの初めてだから!」
「オイオイ、そのガタイで初心かよ......」
「......てか、なんか、その言い方やらしい......あ、いいこと思い付いた。ねぇねぇ、ワンチャンえっちなことでも有り?」
「ミケちゃん!!!女の子がそんなこと言っちゃダメだから!!!」
「いい訳ねぇだろお父さんは許しません!!!」
「え、そんな怒る......?怖......」
孤爪君の発言からあれよあれよと話が転がり、木兎君にとって初カノじゃないなら、そして今フリーの状態なら、ちょこっとだけ悪ノリしてもいいのではと思ったのに三年の二人から予想以上に怒られた。黒尾君に至っては訳が分からない。でも、別にそんなガチなことじゃなくて、またあの逞しい上裸が見たいなとか、またその筋肉撫でさせてほしいなとか、そういうのだったんだけど......なんか割と本気で怒ってるっぽいし、何より二年の二人が徐々に私達から距離を取り始めてるから、これ以上余計なことは言わないことにした。
「じゃあ、今度空いてる日デートして?これならいいでしょ?」
「う゛ッ......」
「え、うそ。デートもダメなの?ねぇ、私フルスコア出したよ?頑張ったんだよ?ねぇねぇ、木兎君」
結局だいぶハードルを下げた願い事を口にするも、木兎君は短く呻いて「勘弁してくれ」とでも言わんばかりに片手で顔を覆う。ここまできたら流石にこっちも引けなくて、「デートくらいいいじゃ~ん」と彼の服の裾をグイグイ引っ張った。というか、そんなに私とデートするのが嫌なのかと少しショックを受けていれば......片手で顔を隠した彼が、いつもよりずっと低い声でぽつりと呟いた。
「......あの、さ......こういうことされると、マジで......」
「えッ......あッ、ご、ごめ」
「マジで好きになっちゃうからぁ!!」
「ん......?」
あ、ヤバい。もしかして、本当に本気で怒らせたかもと瞬時に察して、慌てて謝ろうとした矢先にそんなことを結構な声量で寄越された。てっきり木兎君のブチギレ案件をやらかしたと思っていたので、直ぐに反応することが出来ずきょとんと目を丸くしてしまう。視線の先で、木兎君は顔を覆っていた手を離して半ば睨むように私へその金色の目を向けた。
「というか、もう既に結構好きなの!!だから結婚とか付き合うとかデートとか、ぶっちゃけ全部ごほうびだから!!」
「......え、そうなの?初耳ぃ......」
「そうなの!!だから、ミケちゃんとデートすんのは別にいいんですけど!!」
「ぅわ、わ、わッ?」
赤い顔をしつつもなかなか攻めた言葉を寄越され、今度はこっちが狼狽えてしまえばあっという間に距離を詰められた。いきなり大きな身体が目の前に来て、びっくりして反射的に後退ると数歩いったところで椅子にぶつかり、そのままぺシャリと座ってしまえば両脇を囲うようにして、筋肉質な腕が置かれる。身長差が無い分、木兎君の西洋美術みたいな綺麗な顔がすぐ目の前あり、その真っ直ぐな視線にたまらずドキリと心臓が騒いだ。
「────俺、めちゃめちゃ本気でデートするし、そしたらミケちゃんのことマジで好きになるから、冗談ならマジで別のお願いにした方がいいよ?」
「────」
底抜けに明るい普段の木兎君は一体何処へ行ってしまったのか。至極真剣な顔で告げられた言葉とあまりにも格好良い木兎君に、今度は私の顔がドッと熱を持つ。
「............やだもうこの人、世界一格好良い......本当無理、結婚して......」
「ッ、だァかァらァ!!そういうのやめてって言ってんじゃん!!ミケちゃん、俺の話ちゃんと聞いてたぁ!?」
思わず両手で顔を隠しながら、ぐるぐると回る思考をそのまま口にしてしまえば、木兎君も更に顔を赤くして大きな声で文句を寄越すのだった。
骨まで愛して、猛禽類
(この二人、相性が良いんだか悪いんだか......)