CATch up SS
name change
デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ああああもおおおおお!!あと少しだったのにぃ!!」
目の前でしれっと落とされた可愛いもふもふにゃんこのぬいぐるみと、無情にも定位置に戻って行く憎きアームを睨みながら本日五度目の悲鳴をあげる。ここが屋外や教室だったらなんだなんだと視線を集めるところだが、楽しそうな色んな音がそこかしこに飛び交う場所、ゲームセンターの中に居るのでいくら大声で騒いでも周囲の人の注目を集めることは無かった。
「何がダメなんだろう!?ここまでは持ち上がるのに、ここから先で絶対落ちちゃうのなんで!?」
「うーん、いけると思ったんだけどなぁ?よし、選手交代!次こそ取ってやるぜ!待ってなミケちゃん!」
「うん、頼むね木兎君!」
私に付き合ってくれてる木兎君は不思議そうに首を傾げてから、気合いを入れるように自慢の頭を撫で付けゲーム機へ向かう。お金を入れた木兎君の操るアームの先を食い入るように見つめた。猫がアームに潰され、渋々といったように持ち上がる。そのまま暫くはじっとしているものの、まるで筐体の外へ出るのを嫌がるかのように再びポトリと中へ落下してしまった。
「あああああ~~~!!」
「何で落ちんだよぉ!今しっかり持ってたじゃん!」
「これ絶対おかしいよ!多分取れる人居ないよ!」
落ちた猫に二人で絶叫して、やいのやいの文句を言い合う。もしかしてあれか?ギリで取れないように仕掛けでもされてるんじゃないか?そんな馬鹿なことを考えて始めてしまえば、一緒に悔しがっていた木兎君はゲーム機にガタンと両手を着いた。
「......クッ......こうなりゃ仕方ねぇ......チートキャラ呼んでくる!ちょっと待ってて!」
「え?」
木兎君の言葉に目を丸くする私を置いて、木兎君は風のようにこの場を去っていってしまった。ちなみにこのゲーセンに一緒に来た黒尾君、孤爪君、赤葦君はゲーム好きの孤爪君が気になるといったゲームの方に行っているので、木兎君が居なくなれば私は完全に一人だ。とは言え、ここは別にお化け屋敷でも何でもないので一人で居ても全然苦ではない。木兎君の言うチートキャラって一体何だろうなと思いながら、再び一人で何度か挑戦するも、可愛いにゃんこは一向にこちら側へ出向いてくれなかった。
「ンンン゛......もうちょい右かぁ......?」
「どれ取りたいの?三毛猫?」
「え?」
相変わらず狭い箱の中に居るにゃんこを見ながら次の手をどうするか考えていると、知らない声が後ろから聞こえた。三毛猫のぬいぐるみを狙ってたので、声を掛けられたのは私かなと思いながら振り返れば、顔馴染みのないお兄さんがこちらへ笑いかけていた。
「俺、クレーンゲーム得意なんだよね。良かったら手伝ってあげるよ」
「......ん?もしかして、チートキャラですか?」
「あはは!何それウケるw......でもいいね、チートキャラ」
え、誰?と思う私を他所にそんな言葉を掛けられて、もしや先程木兎君が言っていたチートキャラというヤツではと思い当たる。そのまま聞くとお兄さんは可笑しそうにふきだし、私の横へ並んだ。ふわりと香水のにおいが鼻をつき、今日遊んでる男バレ4人とは全くタイプの違うヒトだなと何となく考えてしまう。
「手前のだよね?なんだ、もう取れんじゃん」
「え、本当です?さっきからやってるんですけど、全然取れなくて。そろそろ穴空くんじゃないかと心配してました」
「や、そこまでアーム強くないから大丈夫でしょw......君、可愛いし面白いから、三毛猫取ってあげる」
「え!マジですか!お願いします!」
「......うん。じゃあ、コレ取れたらさ?この後、俺と」
「ミケちゃーん!」
「!」
お兄さんの言葉にパッと目を輝かせ、是非お願いしようと頼もうとすれば、ひと際大きな声で名前を呼ばれる。騒めきの中でもよく通るその声に視線を奪われれば、私を呼んだヒト......木兎君がバタバタと走って来た。そしてなぜかとんでもなく不機嫌そうな孤爪君を引き連れている。
「孤爪連れて来た!けど、誰?友達?」
「ん?この人、チートキャラなんじゃないの?」
「え、違う違う!俺が呼んだの孤爪!その人は知らない!」
「え?そうなの?やだ、恥ずかしい。あ、ごめんなさい、人違いでした」
というか、孤爪君の顔、ヤバくない?
ひたすらに顔を顰める孤爪君にヒヤヒヤしつつ、チートキャラだと思い込んでいた知らないお兄さんに頭を下げる。お兄さんは木兎君の登場にあっけに取られつつ、曖昧に笑いながらこの場から離れて行った。突然チートキャラなんて言われて、お兄さんもさぞビックリしただろうなと申し訳なく思っていると、木兎君が勢いよく私の横へ並ぶ。
「もー!ミケちゃん危なっかしい!アレ普通にナンパじゃん!」
「え、そうなの?クレーンゲーム得意って言ってたから、てっきり助太刀に来てくれたのかと思って......」
「そういう手口のナンパなの!ぬいぐるみ取ってあげるからお茶付き合ってとか言われるやつだよ!ヘタしたら食べられちゃうよ!?」
「え?お昼食べるならカフェじゃなくて牛丼がいい」
「今日のプランの話じゃなくてね!?ああもー、ごめんね一人にして!もう絶対しないから!」
「いや、それは別にいいけど......なんでいきなりイケメン発言?結婚して?」
ここに戻ってくるや否や木兎君から珍しく説教を受けた。え、うそ、ついには木兎君にまで怒られるようになったのと地味にショックを受けていれば、「......ねぇ、俺戻っていい?」という孤爪君の声にハッと意識が切り替わる。咄嗟に彼の方を見ると、その綺麗な顔はすっかり顰めっ面になっていた。反射的に「ゴメンナサイ」と謝罪をするも、木兎君の大きな声に遮られてしまう。
「待って待って!孤爪あれ、三毛猫取りたいんだけど全然取れないんだよ!孤爪なら取れるだろ?」
「............」
木兎君の大きな声に更に嫌そうに眉を寄せるも、孤爪君はその琥珀色の瞳をゆるりとゲーム機へ滑らせる。
「......アームの力とか、ぬいぐるみの重さとか見ないと何とも......」
「え?それが分かれば取れる?私やれば分かる?」
「......言っとくけど、1回とかじゃ無理だからね......」
おそらく木兎君に無理やり連れて来られたのであろう孤爪君は、今も尚不機嫌そうな色を浮かべているものの、ゲーム好きの血がそうさせるのか意外にもこの話題に応じてくれた。彼が珍しく付き合ってくれるというので、私はまた何度かにゃんこにチャレンジするけど、やっぱり取れない。
「ああっ、ほら!ね!?ここまで行くのに、ここで落ちちゃうんだよ!なんで?」
「......じゃあ、引っ掛ける所変えてみれば?同じこと繰り返しても、取れないでしょ......」
「うぬん゛......」
私のアーム操作やにゃんこの動きをじっくり見てから、孤爪君は小さくため息を吐いた。その目は確かに「ヘタクソ」と語っていて、たまらず唸る。これが赤葦君とか黒尾君なら反撃の一つや二つもできるが、孤爪君に言われてしまえば私は降伏する以外の術は持たなかった。例のあの日から、私と孤爪君の上下関係は絶対的なものになっている。
黙る私を後目に、孤爪君はするりとゲーム機へ手を伸ばした。お金はいくらか私が入れっぱなしにしてるので、ボタンを押せばアームが動く仕様になっている。特に何の承諾も無くそのままアームを操り始めた孤爪君の横で、私はまた食い入るようにアームの動きを見つめた。
「え?そこはどうなの?ああっ、やっぱ無理じゃん!」
「............」
「今度そっち?あっ、持ち上がっ......ああッ、落ちたぁ......」
「............ミケ、うるさい。気が散るから静かにしてて」
「......ごめんなさい」
ゲームが得意な孤爪君の操るアームでもスルスルと逃げるにゃんこに驚きつつ、ついついリアクションをしてしまうも孤爪君に白い目を向けられ、大人しく口を閉じた。ふと気付けば木兎君の姿は無く、多分黒尾君と赤葦君のゲームの方へ行ってしまったんだろうと何となく予想する。私はあんまりピンと来なかったけど、何やらそのゲームは男心をガッシリと掴む面白さがあるそうだ。木兎君は、私が一人になるから一緒に居てくれたんだろうけど、孤爪君がここに居るなら自分は興味のあるゲームの方へ戻ったに違いない。なんか、申し訳なかったな。でも、別に一人でも全然よかったのに。......ああ、でもそしたらまた木兎君から怒られちゃうのか。そんなことをぐるぐると考えていれば、三度目の正直とも言うべきか、孤爪君は見事ににゃんこを取り出し口の穴へ運んでくれた。
「あっ、あっ、やったー!!取れた!!孤爪君凄い!!最高!!天才!!」
「............大袈裟......」
何度も願った光景に思わずはしゃいでしまい、直ぐに取り出し口からにゃんこを抱っこして孤爪君を褒め称える。相手の反応は相変わらず冷めたものだったけど、「よかったね」と言ってくれたのでにこにこと笑いながらお礼を告げた。
「うん!ありがとう!可愛い!嬉しい!」
「......どういたしまして。袋、貰ってくれば?」
「ううん、エコバッグ持ってきた!し、もふもふ堪能するから今はいい!」
「......そう」
孤爪君が取ってくれたにゃんこは思った以上にもふもふで、最高の手触りにそのまま抱っこすることを伝えれば孤爪君は小さく頷いた後、三毛猫の頭を柔く撫でて「本当だ、もふもふだね」と素直な感想を寄越してくれる。でも、本当に凄い。あれだけやっても全然取れなかったのに、たった3回で取ってしまうなんて。流石孤爪君だ。
「本当にありがとう!木兎君に見せてくる!......の、前に、お金払うね!えーと、出してもらったのは最後の1回?かな?ちょっと待って......」
「別にいいよ、そのくらい」
「駄目だよ、お金関係はちゃんとやらなきゃ。お金の切れ目は縁の切れ目だってお母さん言ってた」
「............」
「私、孤爪君とずっと仲良くしたいもん。だからちゃんと払わせて」
「............」
最後だけ孤爪君がお金を出してくれたので、それを返そうとすればやんわり拒否された。だけど、金銭関係=人間関係だと母親からきつく言われているので、それを断り財布を見るも、今までのゲーム代で小銭がすっかり無くなっている。我ながらとても格好悪いなとがっかりしつつ、「......とか言ったけど、ちょっと待って細かいのなかった......両替してくる!」と急いで両替機に向かおうとすれば、孤爪君に止められた。
「待ってミケ。......じゃあ、返すのは別にお金じゃなくていいから......」
「え?......え、もしや、このにゃんこを......?」
「違う。それはミケにあげたでしょ」
「あ、だよね?よかった......けど、じゃあ、何を差し上げれば......?」
「............」
お金じゃなくていいとか、まさかにゃんこを返せなんて言わないよねとおずおずと窺うも、孤爪君は秒で否定してくる。それにほっとしながらも、それなら一体何を返せばいいのかが全く分からず、眉を下げて孤爪君の綺麗な顔を見つめた。少しの間お互いに黙ったまま視線だけを重ね合い、先に向こうがふらりとそれを外す。
「ちょっと、ここ見てて......」
「ん?うん」
そう言って指を差されたのは、今まで何回も押したゲーム機のボタンだった。え、何?どういうこと?頭の中ではひっきりなしにはてなマークが飛び交うが、孤爪君の言うことは絶対なので大人しくそれに従う。にゃんこを抱っこしたまま、①、②と書いてある赤と青のボタンをじっくりと見ていれば......左の頬に、柔らかなナニカをちゅ、と当てられた。
「............え......?」
「............」
突然のことにひどく驚いてしまい、思考回路とリアクションがすっかり鈍くなる。それでも何とか左側を向き、きょとんと目を丸くしながらも再び彼と視線を合わせれば......孤爪君は、それはもう直視出来ないくらい大層色っぽく笑いながら、私が抱っこしてるにゃんこの首輪の鈴を人差し指でチリンと優しく鳴らした。
「......その猫、俺に取らせたんだから、ずっと一緒に居てよね......」
「!!!」
普段より少し近い距離で、囁くように言われた言葉にどっと顔が熱くなり、急速に脈が速くなる。きっとこのにゃんこのことを言っているんだろうけど......今の孤爪君の雰囲気が、なんか、この言葉に迂闊に頷いちゃいけないような、そんな変な気にさせた。まるで私まで彼に首輪を着けられたような気さえしてきて、たまらず抱えたにゃんこを孤爪君の綺麗な顔に押し付けて、一時凌ぎで距離を取ってしまうのだった。
虎視眈々と狙われる
(......少しずつ、食べてあげるからね。)