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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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金髪の男の子は男バレの二年生、孤爪研磨君というらしい。
男バレ主将であり、幼馴染みでもある黒尾君がバカな芝居をやり出したので、付き合うのもツッコミを入れるのも面倒くさいという理由からただ黙っていたようだ。
今は完全に私から距離を取り、視線すら合わせて貰えない状態だが、私のスマホを取りについてきてくれている。
黒尾君になんでつれてきたのとひっそり聞けば、「お前、怒るだろうから言わない」とバッサリ切られてしまった。
まぁ、大方梟谷の二人と同じような理由だろう。男子高校生の興味関心の対象は本当に意味がわからない。
「でも、ミケちゃんマジでキレっキレのストレートだったな!何かやってたの?」
「.......中学まで、ボクシングやってました」
「それでか!納得!てか、じゃあ超強いじゃん!」
「マジかよ、かっけぇなオイ」
木兎君の質問に答えると、木兎君と黒尾君はキラキラとした目をこちらに向けてはしゃいだ。
対照的に、金髪の彼......孤爪君は顔を青くしながらぶるりと小さく震える。
申し訳ない気持ちはあるけど、孤爪君を殴ろうとしたのは正当防衛だったのと、一番悪いのは私じゃなくて他の三人なので、少し大目に見てほしい。
「でも、今は違うんだ?なんで?」
「怪我したくないから、やめた。でも、筋トレはずっとやってる」
「あー、確か軽音部だっけ?筋トレやってるってことは、ボーカル?」
「うん。高校から入ったし、むしろそれしか出来なくて」
「え!じゃあ何か歌ってよ!」
「残念ですが、そんな気分じゃないので」
「えー!なんで?」
「怖いからですネ」
今歩いている所は真っ暗な廊下で、薄ぼんやりとした窓際の遠い光と、緑色の非常灯と、消火栓の赤色の灯りくらいしか見えない。
男バレ顧問の猫又先生が転倒防止で貸してくれた備品の懐中電灯は先頭を歩く木兎君が持ち、その隣りに黒尾君と私、少し後ろに孤爪君と赤葦君という陣系で歩いていた。
万が一の時、素足では危ないからと注意を受け、今は一旦下駄箱に寄り、音駒高生は自分の上履きを、梟谷高生は来賓用のスリッパを履きに来ている。
「全員履けたなー?軽音部の部室ってどこだっけか?」
「ううん、今日は部室じゃなくて視聴覚室でミーティングだったから......」
「そっか、視聴覚室な。えーと、じゃあ東棟?」
「うん、東棟の三階。遠くてごめん」
上履きのつま先をトントンと床に突き、しっかり履けたことを確認してから黒尾君に詫びを入れる。
ここから東棟の三階までの真っ暗で長い道のりを考えると重いため息しか出てこないが、行くと決めた以上やっぱりやめると言う訳にもいかないだろう。
黒尾君は違うとして、孤爪君、木兎君、赤葦君の三人は心無しかこの状況を楽しんでいるように見える。
人の気も知らないでと腹が立つところもあるが、元を正せば私がスマホを忘れたことがそもそもの原因である。
100%善意な訳では無いだろうが、少なくとも私の都合に付き合ってくれてる訳だから、ここで原因である私が辞退する訳には行かない。
「.............」
「.......そんな怖いんなら、手ぇ繋いであげましょうか?」
「.............」
視聴覚室を目指して黙々と歩く中、隣りにいる黒尾君がからかってるんだか優しさなんだかよくわからないことを言ってくる。
「.......いや、繋ぐといざと言う時動きにくいからやめとく......」
差し出された右手をじっと見つめ、恥を忍んでお願いするかどうかを本気で考えた後......行き着いた答えを素直に返すと、黒尾君は「なるほどw確かに」とおかしそうにふきだすのだった。
「うお~!夜の学校テンション上がる〜!なんかゲームみてぇ!」
「木兎さん、もう少し声量抑えてください」
「つーか懐中電灯振り回すなよ、危ねぇな。ちゃんと足元照らせって」
「木兎君、それ壊したらマジで怒るからね......」
「わりーわりー!」
「研磨~?居るか~?」
「.......見てわかるでしょ......」
暗い廊下を五人でわいわい話しながら進んで行き、階段をのぼり、2階の渡り廊下を過ぎ、東棟の階段をのぼる。
視聴覚室と書いてあるプレートが掛かった部屋のドアを先頭の木兎君が開け、次に入った黒尾君が電気をつける。
明るくなった室内にほっとしてから私が入り、少し間を空けて孤爪君が入り、最後に赤葦君が部屋の中へ入った。
「......なんだ、ただの部屋だな。もっとこう、怖いのとかあると思ったのに」
「当たり前でしょう。テーマパークじゃないんですから」
「都立高にそんなん求めんなよwミケ、どこら辺置いたんだ?」
「.......確か、この辺り座ってた......」
梟谷の二人の会話は完全に無視して、スマホの探索を始めると案外直ぐに目的の物を発見した。
机の下の荷物を置ける棚のような所に、やはり置き忘れてしまっていたのだ。
「あったー!ありがとう!じゃあ帰ろう!」
「はっやw」
手にしっくりくるフォルムに気分が高揚し、にこにこ笑いながら早々と撤退を促すと、黒尾君と木兎君が同時にふきだした。
「折角だし、もうちょっと探検しようぜ!」
「え、絶対嫌です。私は帰ります」
「ちょっとだけ!本当、ちょっとだけだから!」
「木兎さん、それ、信用出来ない言葉ランキングで結構上位のヤツですよ」
「あーw先っちょだけだから!ってやつw木兎サイテ~。やらし〜」
「勝手に下ネタにすんなよ!黒尾もニヤニヤすんな!!」
勝手にギャアギャア騒ぎ出した男バレ三人を後目に、私はスマホを持ちながら視聴覚室のドアへ足を進める。
移動してる途中、一人静かにしている孤爪君と目が合ったが、先程の右ストレートの効果がまだ続いているようで直ぐにそっぽを向かれてしまった。
申し訳ないとは思うけど、一番悪いのはあの三人だからね。
言い訳がましくそう思いながら、フンと一度息をついて再度ドアの方へ向き直った、瞬間。
突然、部屋の明かりが消えた。
突如として真っ暗になった視聴覚室にたまらず悲鳴を上げる。
「ぎゃあああ!?」
「うわあああ!?」
「おわっ!?ビックリした!」
「ちょ、落ち着いてください!木兎さん、ミケさん、電気つけますから!」
「赤葦、近いから俺つけるよ......」
大きな声をあげた私と木兎君につられて黒尾君が驚き、赤葦君が冷静に対応する。
最後に孤爪君の声が聞こえ、再び部屋が明るくなった。
「......もー!誰!?電気消したの誰!?すっげービックリしたんですけど!」
「俺はお前とミケの声にビックリしたけどな」
「消した奴そこになおれ。後悔させてやる。」
「......ボクシングの構えって格好良いですよね。こう、隙の無い感じが心惹かれます」
「赤葦クン、今ミケのこと刺激すんのやめて?暴発したらヤバいのわかるデショ?」
「.......とか言って、クロが一番刺激してるよね......」
怖がりの私を恐怖のどん底に突き落とした相手だ、手加減する必要はない。
殺気立ったまま右ストレートを繰り出す為に構えると、赤葦君は興味深そうな視線を寄越し、黒尾君がツッコミだかフォローだかわからない言葉を寄越す。
そんな黒尾君を孤爪君が呆れたような目で見ていたが、木兎君の発言でみんな一様に口を閉じた。
「じゃあ、結局誰が消したんだ?」
「.............」
途端、しん......と音が止み、その静寂に一気に不安になる。
それは私だけではなかったようで、木兎君は隣に居る黒尾君に顔を向けた。
「え、黒尾じゃねーの?」
「いやいや、俺お前の直ぐ近くに居ただろうが。物理的に無理だわ」
「じゃあ赤葦?それとも孤爪?」
「俺じゃないです。さっきまで窓際に居たので」
「.......俺が一番近かったけど、スマホ弄ってたから触ってないよ」
「.............」
黒尾君、赤葦君、孤爪君の言葉を聞き、じわじわと不安が広がってくる。
「ミケちゃんは......そこにいたの知ってるし、普通に無理だよな......?うーん......?」
「.............」
「.......ハッ!もしやお化けだったりして!?」
「バカじゃないですか?普通に考えて接触不良ですよ。バカじゃないですか?」
「今バカって二回言った!?ひどい!!」
「御木川さん、せめておバカさんって言ってあげてください」
「あかーしそこじゃない!!」
木兎君の言葉を私が真顔で否定すると、赤葦君も真顔でフォローなんだかそうじゃないんだかよくわからない言葉を寄越した。
梟谷と私のやり取りに遠くにいる孤爪君が思わずと言った感じに吹き出したが、直ぐに咳払いして誤魔化していた。
「とにかく、早く帰りましょうよ。スマホはあったんだし、ね?」
「え~。折角夜の音駒に入れたのに、なーんか勿体なくね?」
「だったら木兎君一人でドーゾ。黒尾君、帰ろー」
「おー。じゃ、木兎は一人で楽しんで?研磨帰るぞー」
「俺も眠いんで先戻ってますね。お疲れ様でした」
「えー!一人は嫌だ!怖い!あかーしいいい!!」
帰るのを渋る木兎君にイラッとして強制的に黒尾君に撤退を促すと、赤葦君も空気を読んでくれたようでこちら側についてくれた。
身内の赤葦君が味方につかなかったのが大きいようで、木兎君は癇癪を起こしたように悲鳴をあげる。
......怖いんなら帰ればいいじゃろがい!
「ちょ、夜も遅いんですから大声出さないでくださいよ......」
「ガキかよwいいからはよ戻るぞー」
そんな木兎君に赤葦君は呆れた目を向け、黒尾君は可笑しそうにニヤニヤしながらも帰るように仕向けてくれる。
孤爪君はもうすでに視聴覚室のドアを開けていた。
自分以外の全員が帰る姿勢を取っているので、木兎君もさすがに分が悪いと思ったのか面白くなさそうな顔をしながらも渋々赤葦君の後に続く。
よし、これでやっと帰れる......とひっそりため息を吐いた、直後。
「.......クロ、ちょっと待って」
「ん?」
「.......廊下、おかしくない?」
先に教室を出ていた孤爪君と黒尾君の話し声が聞こえ、思わず足を止める。
私の後ろにいる梟谷コンビが少し距離を取ってくれていた為玉突き事故は起きなかったが、じわじわと胸に広がる嫌な予感に自然と身体が強張った。
そんな私を他所に、黒尾君と孤爪君の話は続く。
「廊下?別に、どうもしない......」
「よく見て.......ここ、二年の廊下だよ」
スマホを忘れただけなのに!
(ああ、もう、こんな事ってある?)