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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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何とも奇妙な無限お化け屋敷と化した音駒高校から無事に脱出した日から暫く経ち、音駒の3人、梟谷の2人の祝勝会は何とも気持ちの良い快晴の日に行われた。新宿駅東口で待ち合わせして、私服姿の男バレ4人と落ち合う。今日の祝勝会は私のやりたい事を全部突っ込んだ盛盛プランで、カラオケやボーリングをするので動きやすいショーパンスタイルで臨んだ。
本日最初の予定はス●バの新作フラペ●ーノを飲むことで、聞けばそこまで馴染みがないと言う男バレ4人を引き連れて、スタイリッシュな落ち着いた店内へ足を踏み入れた。コーヒーの匂いがふわりと鼻を掠め、ブラックではまだ飲めないもののそのいい香りにたまらず頬が緩む。周りを見回しながらどこかそわそわとしている四人には悪いけど、私のプランで良いって言ってくれたんだから今日は遠慮なく楽しませてもらうからな。心の中でひっそりとそんな宣言をしながら、レジのお姉さんに新作フラペ●ーノのトールサイズを頼んだ。
「あ、同じの三つでお願いします」
「え?奢りませんけど?」
「わかってますぅ。俺も木兎もちゃんと払うよ」
注文した途端、上から黒尾君がひょいと顔を出してそんな言葉を追加してくる。思わず眉を寄せて釘を刺せば、黒尾君は両手を小さく上げて降参するようなポーズを取った。私達のやりとりにレジのお姉さんはくすくすと笑いながらお会計をしてくれて、そのまま手際良く調理の指示を後方へ寄越す。ここの店員さんは、もれなくみんな格好良い。雰囲気もおしゃれだし、いい匂いするし、まさに憧れのバイト先だ。
「......あれ?孤爪君と赤葦君は頼まないの?もしや金欠?」
注文した飲み物を待つ間、ふと気になったことを二年生のセッターコンビに聞くと、「頼みますけど、孤爪がまだ悩んでるので」と赤葦君が抑揚の無い声で返してきた。どうやら孤爪君の分も赤葦君が一緒に頼むという連携になっているようだ。未だスマホのメニューを見ながらどれを頼もうか決め兼ねている孤爪君の横で、赤葦君は特に気にすることなく店舗のメニューを眺めていた。その光景を見ながら、何やかんやで赤葦君は優しいよなぁとしみじみと感じてしまう。情け容赦の無い粗塩対応はマジでどうにか直してほしいけど、......あの日、不気味な音駒高校のプールに私が落ちた時、赤葦君は真っ先に飛び込んで私を助けようとしてくれたらしい。体育館で再会した時は、全身ビッショビショの理由を「滑って落ちた」と言ってたくせに、本当は私を心配して、懸命に探してくれていたのだと木兎君と孤爪君から聞いた時は、正直めちゃめちゃ驚いた。だっていつもあんなに素っ気ないのに、むしろ結構攻撃的な節さえあるというのに、緊急時にはちゃんと気に掛けてくれてたなんて......まるで映画版のジャイ●ンのようで、驚きと同じくらいめちゃめちゃ感動してしまった。
だけど、いざそのことを赤葦君へ話そうとすれば、彼はのらりくらりとその話題を躱してあっという間に私から逃げてしまう。黒尾君が言うに「照れくさいんじゃねぇの?」ということらしいけど、わざわざ私を追って危ないプールに飛び込んでくれた訳だから、こちらとしてはきちんとお礼を言いたいところだ。なのに相手はするすると逃げてしまうから、結局今日までそのことのお礼は出来ずじまいになっていた。
「ハイ、ミケちゃんの分!」
「!」
赤葦君を眺めたまま、果たしてどうしたものかと軽くため息を吐いていれば、目の前に新作のフラペ●ーノが現れた。思わずパッと顔を向けると、すでにフラペ●ーノに口をつけてる木兎君の笑顔が見える。
「おおっ!コレ超美味いな!パフェみたいな味する!」
「パフェw何それウケるw」
木兎君の素直な感想にたまらずふきだしながらもお礼を言って自分の分を受け取り、私も彼に倣って直ぐに口を付けた。途端にチョコレートとコーヒー、クリームやナッツ類の華やかな甘さが口いっぱいに広がり、そしてひんやりとした心地よい冷たさにも心が踊り、ふにゃりと顔が綻ぶ。
「ん~♡美味しい~♡」
「オイお前ら、お行儀。ここで飲むなら席探すか?」
「えー?どうせ五人なんて座れないでしょ。テイクアウトにしてゲーセン行こうよ」
「じゃあ、あかーし達のが来たら出発すっか~」
木兎君と美味しいねぇと笑いながら話していると、どうやら黒尾君の分が少し時間差があったようで、遅れてこちらへ来た彼にそんな指摘を受ける。それをスルーして空いてる席がないだろうことを話せば、木兎君は直ぐに私の言葉に賛同してくれた。木兎君の言葉に再び二年生の方を見ると、注文と会計はいつの間にか完了させているらしく、受け取り口の所で二人で喋っているのが見える。......赤葦君と孤爪君、二人の落ち着いた雰囲気は何だかこのカフェと相性抜群というか、なんか凄くしっくりくる気がする。そう感じたのはおそらく私だけではないようで、ふと周囲を見れば店内に居る女性数人のほのかに熱を持つ視線は赤葦君と孤爪君に注がれていた。うんうん、わかる。こう、やたら絵になるというか、背景とピッタリ過ぎてなんか見入っちゃう感じ。
「............!」
思わずぼんやり眺めていれば、頼んだものを受け取った赤葦君とぱちりと視線が重なってしまった。まるで動かないはずの絵画と目が合ったような奇妙な心地がして、慌てて視線を逸らしながら再びストローに口を付ける。そんな私に黒尾君はまた「こらミケ、せめて外出てから飲みなさいよ」と小言を寄越してきたが、何となく落ち着かなくて「じゃあ先行こ」と黒尾君の裾を引っ張り、オシャレで涼しい店内から暑い夏の世界へと戻るのだった。
「何ですか。さっきの」
「うわッ」
本日二番目のプランであるゲーセンへ移動している中、いつの間にか隣りにやって来た赤葦君から唐突に声を掛けられ、驚いた声が出た。フラペ●ーノを喉に詰まらせなかったことにほっとしつつ、少し恨みがましい目を相手に向ける。
「え、何?さっきの?」
「......コレ買った時、こっち見てましたよね?なのに直ぐ視線逸らして、黒尾さんと外出てったじゃないですか」
「......あー......そうだっけ?」
少し睨むように見上げれば、その長身を活かして無表情で見下ろされ、そして先程のス●バの件を聞かれてしまったので、悔しいけど今回は私から視線を逸らした。私と赤葦君から少し離れた前方に黒尾君を挟んで孤爪君と木兎君が居て、何やらわいわいと喋りながら歩いている。多分、さっき孤爪君が言ってた「ちょっと気になるゲームがあるんだけど、ここのゲーセンでもいい?」から始まった話をしているんだろう。私はUFOキャッチャーが出来れば何処でも構わないので大人しく孤爪君に着いていくだけだが、三年主将コンビは孤爪君が気になるゲームというものが気になって仕方ないようだ。そんな年上二人に、孤爪君は少しずつ距離を取っていく様が後ろからは丸わかりで、彼らには悪いけど少し面白かった。たまらず小さく笑ってしまえば、上から少し不愉快そうな咳払いが落ちてきて、慌てて隣りの赤葦君との会話に戻る。
「いや、別に何かあった訳じゃないけど」
「じゃあ何で二人で外出たんです」
「えー......だって黒尾君、店内で立ち飲みするなってうるさいから。じゃあ一旦出ればいいんでしょってなっただけだよ」
先程の件をやたらと気にする赤葦君にそう返しながら、冷たくて甘いそれに再び口を付ける。すでに半分程無くなってしまったので、もうひとつ大きいサイズでもよかったなと思いつつ......隣りの彼が持つ綺麗なグリーンにふと目を奪われた。
「......それより、赤葦君の抹茶のヤツだよね?それめっちゃ美味しくない?」
「............はい、美味いです。シェイクとはまた違う、氷の粒の食感がいいですね」
「だよね~!ちょっと溶けても美味しいとか、本当に無敵だと思う!」
「......御木川さんのは、新作でしたっけ?」
「フッフ、そうだよ、季節限定のヤツですよ!いやぁ、あの時マジでこれ飲みたくてさ~。無事に出られたら絶対飲んでやる!って思いながら頑張ったから」
「......そうなんですね」
私の話を赤葦君は相変わらず淡々とした調子で聞く。この人のテンションは常にほぼ一定だから、いまいち話の盛り上がりには欠けるものの、本当に興味の無い話をしてる時は「はぁ」とか「そっすか」とかもっと雑な相槌になるから、多分今はそれなりに興味を示してくれてるんだろう。意外と気分屋だからなぁ、この人。
「でも、抹茶も美味しいんだよね~。こっちが洋なら、そっちは和って言うの?それぞれに違う美味しさがあるから、本当に目移りしちゃうよね」
「............飲みさしでもいいなら、ひと口いりますか?」
「え?ああ、いや、別に催促した訳じゃないんだけど」
「......今の言い方、ヒトが食ってる物欲しがるうちのマネージャーの先輩にそっくりです」
「いや、だから違うって言ってんじゃん。てか、凄いマネージャーが居るんだね?女子?」
「はい。でも、俺や木兎さん以上に食います」
「え、お強い......でもきっと、それで細いんでしょ?そうなんでしょ?」
「......まぁ、そっすね」
「うわ、ズルい......!そういう人本当に羨ましい......!」
「............」
フラペ●ーノの魅力を話していたら、いつの間にか梟谷男バレのマネージャーさんの話になる。会ったことも話したこともないけど、沢山食べても太らない人って本当にチートだよなと完全に妬んでしまうも......そういえば、今の状況は赤葦君に例の件のお礼を言うチャンスなのではと思い付いた。茶々を入れるヒトも居ないし、赤葦君の機嫌もおそらく普通だし、今までこの話をする時は前置きの段階でもう逃げられてたから、この会話の延長でサラッと言ってしまえば逃げられずに聞いてもらえるのではないだろうか。
「......ねぇ、そういえばさぁ」
「はい」
「プール落ちた時、飛び込んで探してくれてありがとうね」
「は?」
思い立ったが吉日。話の脈絡こそないものの赤葦君にあの時のお礼を伝えると、相手は今までの受け答えから一変し、露骨に眉を寄せた。......しかし、徐々にその無表情が崩れていき、何処か居心地の悪そうに視線を逸らした後、らしくない程小さな声でごにょごにょとした返答を述べる。
「............別に、そういうのいいです......結局プールには居なかったんですし......」
「え、うそ。もしや赤葦君照れてる......?やだ、ちょっと待って?こっち向いて?」
「嫌です」
私から逃げるように顔を背け、若干早足になる赤葦君の初めて見る“後輩っぽさ”にすっかり気分が上がってしまい、今どんな顔をしているのかが気になりそんな言葉を掛けるも無慈悲に跳ね除けられた。しかし、それでしょぼくれる程私は繊細じゃない。
「ねぇ、赤葦君、赤葦くーん?」
「............」
「ねぇってば〜。赤葦くーん」
「........................執拗い。」
「あッ、あ゙ぁーーーーッ!?」
この口達者な後輩より優位に立つことなんて滅多に無いので、何だか楽しくなりながら赤葦君を呼んでいれば......不機嫌そうな目でギロリと睨まれた途端、瞬く間に手元のフラペ●ーノを奪われそのまま一気に飲まれてしまった。
「ちょ!?ウソでしょ!?バカなの!?もう半分しか無かったのに!バカなの!?」
「......ああ、コレも美味いっすね」
「ふざけんな!この、返せ!」
「イッテ!ちょ、叩くのやめてください」
「ああもう!全然残ってないじゃん!マジでふざけんな!絶対許さない!!」
あっという間に無くなるそれに慌てて赤葦君を叩き、奪還するも中味は殆ど空に近かった。なんて酷い、こんなの酷過ぎる!フラペ●ーノなんて高価なもの、いつでも飲めるはずもないのに!めちゃめちゃ楽しみにしてたのにと最早半泣きでガチギレする私に少し罪悪感が芽生えたのか、赤葦君はおずおずと自分の抹茶のそれを差し出してきた。
「あー......じゃあ、こっちあげますよ......」
「当然でしょ!残り全部貰うからな!!」
「ハイハイ......仰せのままに」
目の前に寄越された綺麗なグリーンをかっ攫い、もう返さない宣言をすれば相手は小さく肩を竦め、ため息を吐いた。何だそれ、そっちが悪い癖にとムカッ腹を立てながら飲んだ抹茶のそれは、隣に居る粗塩な赤葦君よりずっとずっと甘くて優しかった。
揶揄う勿れ、猛禽類
(......間接キスまで許されてるのか、はたまた恋愛対象として見られてないだけなのか。微妙に判断しづらいな......)