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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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「あ!黒尾君孤爪君!こっちこっちー!」
「遅ぇぞー!5分遅刻!」
新宿駅東口、ライオンの像の前で音駒の二人に手を振る。いつもの制服や部活着ではなく、私服姿の幼なじみーズに同じく私服の木兎君がそんな声を掛けるが、その顔はいつもの楽しそうな笑顔だ。何事にも色々と寛大な木兎君を見て、この人どんな時に本気で怒るんだろうなとぼんやり考えてしまえば、木兎君の隣りに居る赤葦君が何やらとても眠たそうな孤爪君に声を掛けた。
「孤爪、大丈夫か?」
「......ん......昨日、ちょっと調子良くて......」
「......ああ、ゲームの話?」
「うん......」
「え、孤爪君疲れてるなら猫カフェとかにする?にゃんこと一緒に寝とく?」
「いや、このメンツで猫カフェってちょっとキツくね?」
「そう?じゃ、私と孤爪君だけで行こっか?」
「祝勝会なのに別行動??」
赤葦君と孤爪君のやり取りを聞いて、別のプランを提案するが孤爪君を引っ張ってきた黒尾君に難を示されてしまった。その様子を見て「......いい。大丈夫だから......」と孤爪君が首を横に振ったので、この話はここで終わりとなる。孤爪君の言う事は絶対だからだ。
「本日のスケジュール、最初は何だっけ?」
「新作フ●ペチーノ飲む!その後ゲーセン!」
「その後はボウリング、よ●牛食ってからカラオケ、銀だ●で〆です」
「いやぁ、絶対一日でやることじゃねぇなw」
「えー?私のプランでいいって言ったじゃん」
「じゃあクロ帰れば?」
「お疲れ様でした」
「後で写真送るな~」
「ハイハイ俺が悪うございマシタ!というかなんでお前らこういう時ムダに息ピッタリなの?」
木兎君の質問からトントン拍子に話が進み、黒尾君が村八分になったところでじゃあ移動するかという流れになった。ちなみに今日はあのヘンテコな音駒高校から無事に全員で脱出できた祝勝会で、何をやるか、いつやるかをグループトークで話し合った結果、私の提案したプランを本日実行してくれることになったのだ。他校且つ私以外多忙なバレー部ということで再びこのメンツで集合するのにだいぶ日を要してしまったが、奇跡的に全員のスケジュールを合わせることが出来たのは多分、皆それなりにこの祝勝会を楽しみにしていたからだろう。
「てかさぁ、あの後音駒のコーチに怒られたの、未だに納得出来ねぇんだけど」
「同じく!ウソじゃないのに全然信じてくれなかったよね!理不尽!」
東口から最初の目的地へ移動する途中、木兎君が早速あの日の話を持ってきて、思わず食い気味に同意する。
......あの日、体育館で円陣パスを100回やったところで、音駒の男バレのコーチの人が「お前らこんな時間に何やってんだァッ!!!」と怒鳴りながら館内に入ってきたのだ。突然の展開にもれなく全員めちゃくちゃびっくりして、固まったままその人を見ていれば結構な勢いで説教をかまされた。しかし、途中でハッと我に返って今までの事を全部説明したというのに、音駒のコーチは悲しい程全く信じてくれなかった。
「......まぁ、それは仕方ねぇだろ。普通に考えて、俺らの話を鵜呑みにする方がヤベェからな」
「最後辺りは“疲れてるだろうから早く寝ろ”って気遣ってくれたじゃないですか」
「......凄く変な目で見てたけどね」
文句を言う私と木兎君を黒尾君と赤葦君がなだめ、最後に孤爪君がため息を吐きながらボソリと呟く。あの後、学校に閉じ込められてたと話す私達の勢いに押されたのか、音駒のコーチは怒った様子から段々困惑したような顔になり、結局そんな言葉でその場は解散となった。確かに信じ難い話ではあるだろうけど、私と赤葦君はずぶ濡れだったし、木兎君は上裸だったしで何となく妙だとは感じ取ってくれたんだろう。黒尾君はさておき、孤爪君は夜にこっそりバレーボールをする性格でも無さそうだし。
でも、凄く大変な目に遭っていたというのに、“元の世界”に戻れた瞬間あんな頭ごなしに怒られるなんて。証拠のはずのバレーボールに書かれていた文字はいつ間にかすっかり消えてしまっていて、保健室のアップルパイのお化けに孤爪君が掴まれた腕の跡も綺麗さっぱり無くなっていた。なのに私の腕の痛みはあったからめちゃくちゃ腹が立つけど、音駒のセッターである孤爪君の腕の方がきっと大事だから、その点はまぁ長々とした文句は控えることにする。
何はともあれ、そんな経緯であまりにも呆気なくあの無限お化け屋敷は終わりを迎えたのだ。
「まァ、とにかく今日はそれの祝勝会だろ?全員無事に戻れたんだから、俺らの完全勝利じゃね?」
「!」
あの日の最後を思い出して、本当にあれは何だったんだと眉を寄せていれば、黒尾君が気を取り直すようにしてそんな言葉を寄越してくる。色々腑に落ちないことばかりだけど、“完全勝利”という一言がとても的を得てる感じがして、あっという間に機嫌が直った。
「そうだな!マゴーコトナキ完全勝利!」
「正義は勝つ!......ノリ悪いぞ二年!」
「......巻き込まないでください」
「......勘弁してください」
いつでもノッてくれる木兎君と一緒に三年三人でわっと盛り上がる。しかし二年の二人がその様子を嫌そうに見ていたので思わず指摘してしまえば、二人はすっかり顔を顰めてそれぞれに拒否の言葉を口にした。この二年二人のいつでも冷静なところは凄いと思うけど、こういうノリの悪いところはどうかと思う。たまらずこちらも不服の目を向けてしまうと、木兎君があえてか天然か明るく大きな声を挟んだ。
「まあまあ!このメンツも久々だし?我々の完全勝利をシュクシマシテ?」
「え、乾杯の音頭?」
「俺らまだ飲み物回ってませーんw」
「違う違う!今日はめいっぱい遊ぼうぜってこと!」
「......木兎さんに合わせたら死にますよ、孤爪が」
「生きろ孤爪!!」
「......無理」
元気いっぱいな木兎君の言葉に、今にも死にそうな声で孤爪君が全面否定を返す。そのあまりにも正反対な二人が可笑しくてたまらず吹き出してしまえば、あの日の発端となった私のスマホが鞄の中でメッセージの着信を知らせた。コレを学校に忘れさえしなければあんな事にはならなかったよなとふと思い、何となく今はそれの確認をしたくなくてこの場は一旦スルーを決める。
「......というか御三方、受験生なのに勉強しなくていいんですか?」
「!!!」
「いッ、いいの!今日は!いいのッ!!」
「今日“は”?今日“も”ではなく?」
「もー!赤葦君無粋!勉強は明日やるからいいんですぅ!」
「そーそー!!」
「いや、今夜からやれよw」
荒塩対応赤葦君の心無い一言に一気に現実に引き戻され、木兎君と猛抗議していれば同じ立場の黒尾君が裏切りの発言をかました。世間的に見ればそれが望ましいのかもしれないけど、沢山遊んだ日の夜に受験勉強するなんて私にはとても無理だ。誰がなんと言おうと楽しい気分のまま眠りに就きたい。だって今日は祝勝会なんだから!
「あ、そうだ。木兎君これ、彼シャツありがとう!めっちゃキュンキュンした♡」
「お、おお......お母さん、何か言ってた?」
ここでふと木兎君から梟谷のTシャツを借りていたのを思い出し、クリーニングの紙袋に入ったそれを渡せば相手は何やら落ち着かない様子でそんなことを聞いてきた。一瞬なんでお母さん?と思ったけど、そういえばこれを着て帰る時に“お母さんに自慢する”と話したことを思い出す。
「“今度家に連れておいで”って」
「「えッ!?ウソッ!?」」
「うん、ウソだけど。本当は“彼シャツくらいではしゃぐな、安い女に見える”って言われた」
「あ、そう......」
「......ミケのお母さん、なんかすげぇ格好良いな......」
少しの冗談を交えて話せば木兎君だけじゃなく黒尾君まで一緒に驚いて、この二人って本当にお互い先に彼女作られたくないんだなと実感して、そのくだらなさに小さく笑ってしまう。タイプは違えどどっちもイケメンなのに、そういう所が本当勿体ない。
......だけど、この二人がいざと言う時はめちゃくちゃ格好良くなることを、私は知ってる。黒尾君と木兎君だけじゃなく、歳下の赤葦君も孤爪君も本当に心底困った時めちゃくちゃ頼もしくて、すっごく格好良い。彼らが一緒だったから、今こうして笑っていられるのだ。私一人だけだったら、もしかしたらずっとあの無限お化け屋敷に取り残されていたかもしれない。
「─────あの日、スマホ忘れてごめん。みんなのこと巻き込んで、本当にごめん」
「!」
「......なのに、助けてくれて本当にありがとうね」
「............」
今更ながら彼らの存在のありがたみと、密かに胸の内でずっと積もっていた罪悪感を一気に覚えて、伝えるなら今しか無いと思い心からの謝罪と感謝を口にする。私のせいで大変な思いをさせてごめん。怖い思いを、痛い思いをさせてごめん。......それでも、何度も私を助けてくれて、励ましてくれて、一緒に脱出させてくれてありがとう。みんなが居たから怖くても頑張れたんだ。
「なになになに?いきなりしおらしくなっちゃって。カ~ワイ~♡」
「うっわ髪崩れる!やめてよ!」
「......御木川さん、なんか変なものでも食いました?熱は?」
「無いし!ちょっと何なの?めっちゃ失礼なんですけど!?」
ヒトが真面目に話してるというのに、黒尾君はニヤニヤと笑いながら私の頭をワシャワシャと撫でてくる。ポニテを崩されるのが嫌でその手を叩けば、今度は赤葦君が怪訝そうな顔をして私の額に手を当てがった。なんだコイツら、めちゃくちゃ腹立つな!結構思い切って胸の内を暴露したというのに、責任感じてちょっとヘコんでた自分が馬鹿みたいだ!
「というか別にミケちゃんのせいじゃなくね?全然気にすることないよ?」
「う、木兎君優しい......結婚して......」
額に当てられた赤葦君の大きな手を黒尾君同様バシリと叩き、二人を睨んだところでイケメン木兎君が今日イチの優しい言葉を寄越してくれた。木兎君のこういうスパダリなところ、本当に好き過ぎる。思わずジンときてしまい、もう何度目なのかも分からないフライングプロポーズを伝えていると......静かな声で「ミケ」と呼ばれ、顔を向ければ眉をひそめた孤爪君と視線が重なる。
「......そんなこと思ってたの......?もしかして、ずっと?」
「え、うん」
「............」
彼の質問に素直に頷くと、相手はどこか不満そうな色を浮かべる。......しかし、”仕方ないなぁ”とでも言うように小さく息を吐いたと思えば、孤爪君は眉を下げてふわりと笑った。
「............本当、バカだね......」
「............」
呆れつつも、ほんのりと温かみを感じるその笑顔に胸の奥がきゅっとして、たまらず口を閉じてしまう。顔を合わせたばかりの時は延々避けられてたというのに、今ではすっかり心を許して貰えているような気がして、ちょっと感動してしまった。
......しかし、このメンバーでそんな穏やかな時間が長続きするはずもなく。
「寧ろケンマはちょっと楽しんでたよな?ゲーム感覚で」
「え」
「あわよくばリトライとか思ってそうですよね」
「え」
孤爪君との会話に、黒尾君と赤葦君がまるで空気を読まない言葉を挟んでくる。そ、そんなことないよね?冗談だよね?と思いながらそろそろと孤爪君を見ると、彼は少し間を空けてからツイとそっぽを向いた。
「............まぁ、次はもう少し難易度上げて欲しいかな」
「孤゛爪゛君゛ッ!!??」
ぽつりと漏らされた本音に私の悲鳴が重なり、他の三人がどっと笑う。いやいや笑い事じゃないし、マジでもう勘弁してほしいんですけど!?リトライとか絶対無理なんですけど!!と割りと本気で怒っても、バレー馬鹿共はケラケラと楽しそうに笑うだけで誰も私の味方をしてくれなかった。
......最後だけど、前言撤回。神様どうかこの人達がこんなフザケたことをもう二度と言えないくらい怪我しない程度のめちゃくちゃ怖い目に遭いますように!!!
CATch up
(じゃあ、とりあえず?お疲れ様っしたァ!!)
End.