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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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「ヘイヘイ!パスパース!あかーしへーイ!」
「はいはい」
「ぅぎゃぁぁぁッ!?」
「おー!ミケちゃんナイスレシーブ!」
明かりのない体育館で、五人で円形になってバレーボールを繋ぐ。元気よくパスを呼ぶ木兎君の声に、今ボールを扱ってる赤葦君は後輩のくせに適当な返事をしてから隣合う私の方へボールをペシンと落としてきた。突然の無茶振りに悲鳴を上げながら床に飛び込み、何とか無理やりボールを上げると木兎君は無邪気に賞賛を寄越した。
「赤葦君さァ!!向いてる方と全然違う方にボール寄越すなって言ってんじゃんさっきからさァ!?なんでフェイント掛けんの!?いじめ!?」
「......すんません。面白くて、つい」
「次やったらマジで殴るからね!ていうか外出たら覚えとけよ!!」
「ブヒャヒャwミケガチギレじゃんw」
先程落ちてきたボールに書いてあった“五人で円陣パスを100回やらないと出られない部屋”というあまりにも不可解な指示を受け、半信半疑だけどとりあえずやってみようということになって今に至る訳だが......このバレー馬鹿共が“普通に”円陣パスをするはずもなく、今みたいにフェイントを入れたりアタックをしたり悪ふざけを始めた。おかげでこっちは振り回されてばかりだ。とても腹立たしい!
「......ちょっとクロ、無駄に動かさないでって言ってる。......レシーブ下手になった?」
「ア゛ン?おい研磨今何つった?」
「ミケちゃんヘイヘイ!パスパース!」
「......御木川アタックナンバーわァん!!」
「木兎ドラゴンレシーブZォォォ!!」
「「え、ダッサ......」」
ケラケラと笑う黒尾君のボールに孤爪君が文句をつけ、幼なじみーズの空気が不穏になった所でまた私にボールが来る。さっき赤葦君から意地悪されたから仕返ししてやろうかと思ったけど、木兎君が呼んでくれたので軌道修正して木兎君にアタックを打つとキレッキレのレシーブで上げてくれた。上裸でバレーする木兎君本当に眼福過ぎと惚れ惚れしていれば、ノリの悪い二年共が息ピッタリで私らの技名をディスってくる。
「つーかコレ、誰か数えてんの?」
「一応数えてますけど、連続ではなく継続でカウントしてます」
「あかーしー!今何回目ー?」
「今ので丁度40です」
「えぇ〜?まだ半分もいってないの?カウントミスってない?」
「そうですね、最初の方進みが悪かったので。誰とは言いませんが。」
「ハイハイどうもすみませんでしたァ!でもそれ仕方なく無い?私バレー部じゃない、しぃッ!?」
視界が悪い中、バレーボール特有の色彩を目で追いながら喋る。これだけ頑張ってるのにまだ半分もいってないなんてと嘆く私に、また赤葦君から攻撃を受けた。確かに最初らへんは動きに慣れなくて私一人だけ全然ボール繋げなかったけど、今はだいぶマシになってるしそこは大目に見てほしい。無茶振りにも対応してるし、って思った矢先に今度は黒尾君から不意打ちのフェイントを食らい、咄嗟に足でボールを上げた。
「おお!足!お前、不意打ちでもマジでいい動きすんなァ......軽部なの本気で惜しいわ、今からでも女バレ入れば?」
「は?三年の夏に入る訳ないでしょ?あと今ちょっと私と黒尾君に上げないで。殴るんで。」
感心した様子でそんなフザケたことを寄越す黒尾君についに堪忍袋の緒が切れて、右肩を一度回してから黒尾君の元へ真っ直ぐに駆け出す。
「ま、待て待て待て、助走つけんな落ち着けって......悪かったって!!」
「普通のボール寄越せっつってんだろ天誅!!!」
これまでの怒りを乗せた右ストレートを炸裂させ、拳を受けた黒尾君含め悪ふざけを寄越すバレー馬鹿共がしんと静まり返る中、倒れた黒尾君に舌打ちをかましてから再び自分の定位置へと戻った。バレー部じゃないからってナメられたら終わりだ、私をイジるなら相応の覚悟をしてから来い。
「......あ!そうだ!なぁミケちゃん、外出たらシュクショー会やるんだけど、ミケちゃんやりたい事とか食いたいもんある?」
少しの沈黙の後、天然かわざとかは分からない木兎君の言葉に、私より先に赤葦君が反応する。
「木兎さん、“やるんだけど”って......」
「え?祝勝会?......じゃあ、スタ●゛の新作フラ●°チーノ飲んでゲーセンでクレーンゲームして、ボウリングしてよ●牛食べて、カラオケして銀●゛こ食べる」
「え!何それ最高じゃん!天才!採用!」
「......何その陽キャの極み......俺やっぱ欠席で」
突然振られた話題にきょとんと目を丸くしたものの、こんな大変な目に遭ってるんだから確かにやりたいなと思い、直ぐに返答すれば木兎君と孤爪君は思い切り真逆の意見を述べた。二人の反応に「孤爪君が嫌ならやっぱナーシ」と続けると、僕と君は凛々しい眉を下げて「えー!?じゃあ孤爪は何したいの?」今度は孤爪君に尋ねる。
「......銀だ●は食べたい」
「おお、タコパってこと?」
「......なんでいちいちそっち方面に持ってくの?」
「え、なんで怒ってんの?」
「この人、根っからの陽キャだから勘弁してあげて」
渋々といった感じで応える孤爪君と木兎君の会話は相変わらず少しズレていて、それを補うように赤葦君が間に入った。まるで通訳の人みたいだなと思いながら孤爪君から寄越されたボールをオーバーで上げ、「赤葦君今何回目~?」とボールと共に会話を繋げる。
「これで、61回です」
「お、半分越えたな。つか赤葦、よく数えてんなァ。エライぞ~」
「おー、黒尾おかえり!」
「タダイマー」
「偉いかどうかは知りませんが、早く出て風呂入りたいので」
「同じく!......そいえばバレー部の学校泊ってお風呂どうしてんの?プールのシャワーとか?」
「いや、ちょっと歩いたとこに銭湯あるからそこ行くんだよ。あ?そういやあそこ何時までだったかな......」
「......確か23時までだけど、今何時かによるよね......」
「あかーし行くなら俺も行く!汗かいたし!」
「あー、確かに。じゃあ間に合いそうなら俺も行くかな......ケンマはどうする?」
「......行く」
「じゃあ決まり!あ、ミケちゃんもどう?」
「行きたいところだけど、着替えないから帰るわ~」
私の渾身の一撃を受け倒れていた黒尾君がここで復活して、再び五人でボールを回しながらだらだらと話す。プールに落ちた赤葦君のお風呂発言から、どうやら男バレはここを脱出後に近くの銭湯へ向かうらしい。正直私もずぶ濡れだし早くお風呂に入りたいのだが、何の準備もしないで銭湯に行く気にはなれず、木兎君の誘いを断った。
「俺余分に着替え持ってるぞ。デカいだろうけど貸してやろうか?」
「ううん、いい。大丈夫」
「じゃあ俺の貸そうか!」
「木兎君のはもう借りてる。外出たら返すね、ありがとね」
「や、家まで着てなよ。次会う時返してくれりゃいいし」
「え、いいの?ありがとう!じゃあお母さんに彼シャツ自慢してから洗濯して返すね!」
「えッ!?」
「あの、既成事実作るのやめてもらっていいですか」
「木兎も真に受けるな、コイツは愛を振りまくバンドマンだぞ?」
「ちょっとやめてよ、ちゃんと純愛ですぅ」
「で、でも!濡れたまま帰るとマジで風邪引かない?風呂行こうよ」
「......うーん、でもさぁ、言い難いんだけどパンツもブラもビシャビシャだから、上だけ着替えてもあんま意味無いんだよね」
「!!!」
「ぉあ゛ッ!?木兎お前どこ上げてんだ!!」
「わッ、悪い黒尾!!ナイスレシーブ!!」
お風呂の誘いを断るも、黒尾君と木兎君は優しさで食い下がってくれる。途中の彼シャツの件は少し面白くないが、それでも尚心配してくれるイケメンな木兎君に、悩んだ末正直な気持ちを暴露すれば、バレーの強豪校のエースであるはずの彼が思い切りボールを打ち損じた。誰も居ない方向へ吹っ飛ぶボールを黒尾君が怒鳴りつつもしなやかに拾い、何とか途切れることなくそれは繋がる。
「そッ、そっかー!じゃあしょうがないな!?うん、しょうがないよな!な、あかーし!」
「......俺に振らないでもらえますか」
「............」
「......孤爪何笑ってんの」
「......別に、笑ってないよ......」
「............」
「......え、珍し。赤葦君が孤爪君に意地悪してる」
「......いや、多分アレは逆じゃねぇかな」
「逆?」
私のお風呂へ行けない理由を聞いて明らかに動揺している木兎君にちょっと可愛いなと思っていれば、いつの間にかボールは赤葦君と孤爪君の一騎打ちみたいな感じになっていた。バシバシとボールを強打する赤葦君に、孤爪君が実に正確なレシーブを返す。あまり見ない光景につい呆気にとられていると、黒尾君が苦笑いを浮かべながらよく分からないことを言っていた。逆って何?どういうこと?と私が聞くより先に「赤葦、今何回?」と話を遮られてしまい、結局その言葉の意味は分からずに終わる。
「93、です」
「おー!あと7回!」
「最後はミケいくかー?」
「よしきた、アタックしていい?」
「いや、万が一俺が数えるのミスってたら......」
「ヘイヘイヘーイ!大丈夫!俺拾うし!」
そんなこんなやってたらいつの間にかラスト5回になっていて、最後のボールを私に回してくれるようなので気合を入れて再び右腕を回した。先程の黒尾君含め色々殴ったから動かすとだいぶ痛いけど、ラストはきちんとアタックしたい。気合充分な私に赤葦君が待ったをかけたが、己のチームの主将が繋いでくれると申し出たので、最後のボールはそのまま私が打つ流れとなった。
「......ンじゃ、ミケチャン。ラスト思いっきりドーゾ」
木兎君から赤葦君へ、赤葦君から孤爪君へ、孤爪君から黒尾君へ繋げたボールは、私が打ちやすいところへふわりと上がる。丁寧且つ美しい流線形を描くボールは、まるで魔法でも掛かってるかのようだ。
「ひゃあ~、っくっ!!」
助走をつけて高く跳び、自分の最高打点で思い切りボールを打ち込む。その先には待ち構えていた木兎君が居て、先程の宣言通り私のボールをその逞しい腕で器用に捉え、高く高くそれを打ち上げるのだった。
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