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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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結局体育館の扉は再び固く閉ざされてしまい、外への脱出ルートもわからないまま館内に取り残されてしまった。だけど、ひとりぼっちじゃなくなったことで私のメンタルは大部分復活し、さっきまでキンキンに冷えていた館内の温度もなぜか急に和らいだことで、木兎君の彼シャツを存分に堪能しながらもひとまず彼らとの近況報告を交わしていた。
「え!私のニセモノ?どういうこと?」
「や、俺らもよくわかんねぇんだけど、マジでミケそっくりで。声とか顔とか、着てる服とかも」
「えぇ〜......何それ怖ぁ......」
「うっかり騙されるとこだったんだけど、黒尾がファインプレーかましてさ!ミケちゃんのこと名前呼んで」
「木兎クンそれは言わんでいいから黙ってなさい」
「え?なんで?俺、すげぇ!って思ったのに」
館内を探索しつつ、黒尾君と木兎君から話された驚きの内容にたまらずゾッとしていれば、突然話の先をストップされたのできょとんと目を丸くした。
「なに?何で私じゃないってわかったの?気になる」
「あ~......話し方が、ちょっと気になったんだよ。あと、ミケならきっと泣き寝入りしないで自分で何とかしようとするだろって思ったし」
「へぇ~、黒尾君凄いねぇ!名探偵クロオだね!」
「あとコイツ、ニセミケちゃんのこと“鈴”って呼んでカマかけたんだよ」
「オイコラ木兎!言わんでいいって言ったろ!?」
ニセモノの自分が一体何だったのかはさておき、黒尾君の名推理を素直に賞賛していれば木兎君からそんな話を寄越された。一瞬どういうことかわからず首を傾げたけど、おそらく普段呼ばない名前で呼んで、ニセモノがどんな反応を返すか様子を見たんだろう。いきなり下の名前で呼ばれたら「え、なに?」ってなるけど、多分ニセモノはすんなりと受け入れたのだ。......でも、私そっくりの見た目だというのに話し方で違和感を覚えて、咄嗟にそんなこと思い付くなんて本当に凄くないか?私だったら、誰かのニセモノを直ぐに見抜くことができるかなんてちょっと自信無い。
「なんで隠すの?凄いじゃん!むしろ見抜いてくれてありがとうだよ!」
「......いや、まぁ......」
「な!すげぇよな!でも、てっきり俺二人がマジで付き合ってるのかと思って超ビックリした!」
「え?」
「木兎!!お前本当、そういうとこだぞ!!」
そっくりなニセモノを見極めたなんて凄いことしたというのにどうにも歯切れの悪い返事をする黒尾君にどうしたのかなと思っていれば、木兎君から素っ頓狂なことを言われて思わず間抜けな声が出る。いや、最初から黒尾君とは友達だって言ってんじゃんと普通に返そうとしたものの、黒尾君は何やらとても怒っているので......何となく、それが面白くなかった。何だよ、そんなに私が彼女だったら嫌なのか。
「............やだ、内緒にしてって言ったのに......鉄朗のバカ」
「ッ、ハァッ!?」
「えッ......えええええッ!?マジでぇ!?」
やたらと否定する黒尾君に少しイラッとして、先程の木兎君の言葉に悪ノリしてやると二人は予想以上に驚愕の色を見せてくれた。自分より大きな男子二人が子供みたいにあたふたとする様子が可笑しくて、もう少しからかってやろうと思ってたのに耐えきれずに直ぐにふきだしてしまう。
「ふっ、あはははッ!ウソウソ、ふふっ、めっちゃいい反応すんじゃんw笑うw」
「............おま......」
「なんだ冗談か~、ビビった~」
けらけらと笑う私に、黒尾君は機嫌の悪そうなじとっとした目を向け、木兎君はどこか安心したように大きく息を吐いた。木兎君、どれだけ黒尾君に先越されたくないのと内心で思いながら楽しく笑っていれば、「ご団欒中失礼します」と落ち着いた声が間に入る。揃って顔を向けると、別の場所を見ていた赤葦君と孤爪君がこちらに来ていた。
「孤爪が、誰か鍵持ってないかって」
「鍵?もう全部使っちゃったんじゃない?」
「......クロと木兎さん、技術室と教室で見つけた鍵、それぞれどこで使った?」
赤葦君の質問に私が答えると、孤爪君が二人にそんなことを聞いてきた。でも、技術室と教室で見つけた鍵とか結構前のヤツだし、はぐれた時にもう使っちゃってるんじゃないかな?私の机にあった鍵は確か、忌まわしい保健室で使えてしまって、それはもう酷い目にあった。
「......俺は、美術室か?......その時確か木兎の鍵使えなくて......そのまま使ってねぇわ!」
「え、そうだっけ?......おあ、あった!あっぶね、完全に忘れてた......!」
黒尾君の言葉に木兎君はきょとんと目を丸くしたものの、ハーフパンツのポケットを探ると銀色の小さな鍵を見つけたようだ。おそらく技術室の棚から見つけたそれに驚きと焦りの表情を浮かべる彼に、赤葦君は「失くしてなくて良かったです」と相変わらずの能面で返した。
「孤爪君、よく覚えてたねぇ......あ!もしかしてそれが出口の鍵とか!?」
「え!マジで!?」
「......そうとは限らないけど......それ使って、施錠されてる体育倉庫か音響室に入れないかなって......闇雲に探すより、まずはそっち試してみたい」
鍵の存在から真っ先に思い付いたことを口にすると、木兎君はパッと顔を明るくさせたが孤爪君には至って冷静にそう返される。でも、私ひとりでは探せなかった場所を探せるとなると、この体育館から出られる可能性があるということだし、嬉しいことには変わりない。今調べてる舞台から飛び下りてすたこらと体育倉庫に向かえば、木兎君だけが私と同じように駆け足でこちらに来てくれた。優しい。
「木兎君、鍵見せて!」
「ん、どーぞ。体育倉庫ってことは、もしやこの中に音駒のボールがあんのか!」
木兎君から問題の鍵を借りてしげしげとそれを観察するも、やっぱり何の変哲もない普通の鍵で、これが体育倉庫のものなのかは見た目ではさっぱり分からなかった。思えば、そもそも体育倉庫の鍵自体しっかり見たことがない。これは私が見るより男バレの黒尾君とか孤爪君の方が分かるのではと思い付いた矢先、「そうですネ。ポールもネットも一式揃ってマス」と丁度黒尾君が木兎君との会話に応じた。
「おお!じゃあここ開いたら、ほんのちょっとだけ」
「木兎さん。まさか半裸でバレーしようなんて言いませんよね?アンタはともかく御木川さんに風邪引かせるつもりですか」
「ぬな゛ッ......お、思ッテマセン......」
「赤葦お見事。流石裏番」
「......誰が裏番ですか」
「ねぇ、黒尾君。コレってここの鍵かとか分かる?」
黒尾君の返答にパッと顔を明るくさせた木兎君だったが、直ぐに赤葦君に粗塩正論パンチを食らって数秒で撃沈した。そんな梟谷コンビを見て可笑しそうにニヤニヤと笑う黒尾君に、木兎君から借りた鍵を差し出せばそのつり目をきょとんと丸くする。
「いや、流石に鍵単体じゃ判別出来ねぇな......ケンマは?」
「......普通に無理でしょ。それで開くか試せばいい話じゃん」
私から受け取った鍵を指先で器用にクルクルと転がしつつ、黒尾君もやっぱり見た目だけじゃ分からないと返答を寄越した。そのまま孤爪君にも聞いてくれたけど、彼は少し面倒そうに飴色の瞳をスッと細める。確かにそうだと思ったのは私だけじゃなかったようで、黒尾君は言われた通りにその鍵を体育倉庫の鍵穴に差し込み......右に捻ると、素直にガチャリと回った。
「おお!開いた!」
「やったぁ!」
「......なんで技術室なんかにここの鍵があったのかは、もう突っ込まねぇぞ......」
体育倉庫が解錠できたことに木兎君と私がワッとはしゃぐと、黒尾君は苦笑いを浮かべながらそんな言葉を零す。「いや、それ言う時点でもう突っ込んでるじゃん」と反射的に返してしまえば、黒尾君は私に無言でチョップを食らわせた後、解錠された体育倉庫のドアをゆっくりと開けた。黒尾君を先頭に木兎君、孤爪君、赤葦君、最後に私の順で倉庫の中の様子を窺うと、真っ暗なそこにはバレーボールやバスケットボール、セーフティーマット、跳び箱等見慣れた運動器具がきちんと整頓されて収納されている。パッと見おかしな所は無く、そして今までのような空間移動が起きても無かったことに思わずほっと胸を撫で下ろした。
「......中は“ちゃんと”体育倉庫みたいだけど......暗いとよく見えねぇな......」
「............残念。ここも、電気つかない」
警戒しながら倉庫内を目視で探る黒尾君に、孤爪君はここの電気のスイッチに触れたようだったけど、空振りに終わったみたいだ。
「......あ、ちょい待ち、コッチつくぞ!懐中電灯!」
「!」
「ウソ!?やったぁ!!木兎君結婚して!!」
相変わらず明かりがつけられないことに心底ガッカリしていると、明るい木兎君の声と共に小さな明かりがパッと灯った。先程まではうんともすんともしなかったのに、久々に見る人工的な光にたまらずテンションが上がる。喜びの舞の如く何度かその場で小さくジャンプすれば、木兎君も「やったな##NAME3##ちゃん!」と笑いながら懐中電灯を揺らしてくれた。木兎君、本当に優しい!
「折角開いたし、とりあえずこの中探索するか」
「......うん、そうだね......」
黒尾君と孤爪君の会話を聞いて、「私入んないよ!」と力強く主張すれば「わかってる。ここ狭いし、##NAME3##はドア押さえてて」とお許しを頂けた。ほっとしながらもここのドアをガッチリ押さえると、両側が引き戸式になっているそれのもう片側を赤葦君が押さえる。思わず目を向けると、赤葦君は「......他所の備品を濡らすとまずいでしょう?」とため息を吐きながら己が中に入らない理由を寄越した。なるほどなぁと思う反面、その粗塩対応マジでどうにかなんないのと文句が喉まで出かけたが、倉庫内を調べている木兎君の声に咄嗟に意識が向く。
「なぁ、そこの窓開かないの?」
「あー......ここの窓って確か、防犯で外に格子ついてる」
「ゲ、まじか。じゃあ開いても意味ねぇなァ」
体育倉庫の窓に着目したらしい木兎君だったが、ここをよく知る黒尾君は苦い顔をして首を横に振った。二人の会話に全員が体育倉庫の窓に視線を向けた、矢先。
────背後から、何かが床に落ちたような乾いた音がして、たまらずびくりと肩が跳ねた。
「ッなになになに!?」
「......御木川さん、落ち着いてください」
「無理!!怖い!!」
直ぐに振り返り体育館内を確認すると、薄暗いながらも小さな球体のようなものが何度か床を跳ねているのが見えた。徐々に近付くそれに拳を構えて臨戦態勢を取れば、赤葦君がまるで盾にでもなるかのように私の前に立つ。一瞬目を丸くしたものの、彼からの無茶振りに秒で根を上げながら目の前にある濃紺のTシャツの裾を咄嗟に掴んだ。
「......あれ、多分バレーボールです」
「え?......あ、本当だ......」
「もしや、天井に挟まってたのが落ちてきた、とか......?」
「にしてもタイミング良過ぎるだろ......」
赤葦君の大きな背中から怖々と体育館を覗けば、確かにそれは見た事のある形をしていた。見えづらいけど、丁度人の顔くらいの大きさで、赤と緑と白の特有の模様が入った球体......バレーボールだ。
だけど何でいきなりこれが落ちてきたのかがさっぱりわからず、怖いことには変わらない。木兎君と黒尾君の会話を聞きながら顔を青くさせてじっとそれを睨んでいれば、ふいに前にいる赤葦君が動き出し、驚きのあまり彼の服の裾をこちらへ引っ張ってしまった。
「っ、ちょッ!?赤葦君ストップ!!どこ行く気!?」
「......どこって、アレを取りに」
「絶対やめて!?また変なの出て来たらどうすんの!?危ないでしょ!?絶対離さないから!!」
「............」
「おお、ミケちゃん情熱的~」
「うるさい!!木兎君も笑ってないでこの人止めてよ!?お宅の後輩でしょ!?」
まさかと思って尋ねるも、赤葦君は相変わらず乏しい表情でさらりと恐ろしい言葉を寄越した。ここまで来てまだそんなことを言うのかと割りと本気で怒ってるのに、同じ梟谷の木兎君は楽しそうにけらけらと笑う。いやいやこちとら全く楽しくないんですけど?
「......じゃあ、抱えて行きましょうか」
「は?そんなんしたら秒で殴りますが」
「冗談ですよ、早く離してください」
「嫌です。絶ッッッ対行かせない」
「ハイハイそこまで。喧嘩してる場合じゃないデショ君達......そんなことしてるから、研磨クンが取りに行っちゃったヨ」
「孤゛爪゛君゛ッ!?」
赤葦君の分かり難い上に笑えない冗談にイラッとしながら彼の服の裾を力いっぱい掴んでいれば、仲裁に入ってくれた黒尾君が世にも恐ろしい発言を口にしたので驚愕しながら再び真っ暗な館内を見る。そこにはいつの間にか孤爪君が居て、先程落ちてきたであろうバレーボールを拾い上げてしげしげと観察していた。
「バッ、......くはつしたりしない!?大丈夫!?」
「オイ、恐ろしいこと言うなよ」
「というか、今完全に“バカ”って言おうとしましたよね?」
「......ミケ、うるさい......もう少しボリューム落として」
「............ゴメンナサイ」
そんな得体の知れないボールを触る孤爪君に恐れ慄いてしまうも、相手から不機嫌そうに睨まれ反射的に謝罪が零れた。黒尾君と赤葦君に余計な事を言われたけど、でも、やっぱり怖いものは怖いし孤爪君のことも心配だ。絶対触んない方がいいよと反論しようとしたものの、彼はそれを持ったままこちらに戻ってきたのでたまらず赤葦君の背中に隠れた。赤葦君には呆れた顔を向けられたけど、今はそれどころじゃない。見るのも触れるのも本当に、本当に嫌なのだ。
「ねぇ。不本意だけど、コレってさ......」
「え、何?」
嫌がる私を軽くスルーして、おぞましいそれを持ってきた孤爪君は何故か少し嫌そうな声音で男バレの三人にボールを見せる。この中だと小柄な彼を取り囲むようにして、三人がボールに注目してから数十秒後。
「......5人で100回?円陣パスしないと、出られない部屋ぁ?」
この場に響いた黒尾君の言葉に、木兎君と私のあまりにも真逆な返答が綺麗にハモってしまうのだった。
やろうぜ、バレーボール!
(それ今じゃなきゃダメですか?)