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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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研磨の機転で校内放送を実施して、ハンドマイクを元の位置へ戻した瞬間、まるでブレーカーが落ちたように職員室内の明かりが消えた。
「うわッ!?なになになに!?真っ暗なんですけど!」
「木兎!赤葦掴め!ここではぐれたら最悪だぞ!」
辺り一面が真っ暗になり、軽くパニックになりかけるもとにかくまた離れ離れになることだけは避けたかったので口早に木兎に伝えると、混乱しつつも直ぐに反応が返ってくる。
「お、おお!確かに!あかーしぃ!!」
「ここです。俺が木兎さん掴むのでご心配なく」
「痛いってクロ......!そんな強く握らなくても大丈夫だよ......」
「あ、悪い。......よし、全員居るな?居るよな?」
赤葦を掴めと言いながら念の為木兎のがっしりとした腕と、すっかり対象的な研磨の線の細い腕を掴む。しかし、思いのほか強く掴んでしまっていたようで相手から非難の声が上がり、素直に謝ってから少しだけ握力を緩めた。
四人で連結しただからきっと大丈夫だとは思うものの、どうしても不安が拭えず暗がりの中誰に向けるでもなくそんな言葉を口走ると、やはり木兎が真っ先に返事をくれる。
「点呼とる?いーち!」
「とにかく一旦外に出ましょう」
「あかーしたまにはノッてきて!?ってうわ!?ちょお、いきなり動くなって!」
木兎の言葉をまるっとスルーした赤葦を筆頭に、ずるずると芋づる式で職員室から退室する。
何とか転ばずに全員廊下に出られたものの、そこの電気も全く点いていなかった。そしてなぜか外灯もすべて消えてしまっているらしく、かろうじて確認できるのは非常口の緑の灯りだけだ。
それならもういっそのことそこから退出させてくれればいいのだが、そうは問屋が卸さない。ここに来るまで何度か試してみたが、どこもすべて固く閉ざされていた。
どうやら災害時以外の異常事態には、残念ながら非常口とやらは全く機能してくれないらしい。
しかしながら、このままだと歩くのも覚束無い程の暗さである為、何とかを明かりを灯せないか確認してみるも、木兎の手元にある懐中電灯はいくらスイッチを付けてもうんともすんとも言わなくなっていた。
「ゲ、もしや電池切れぇ......?うそだろ?ここでぇ?」
「赤葦、そっちはどうだ?」
「......残念ながら、俺のも駄目ですね......」
「マジか......」
「......とりあえず、廊下とか教室の電気も、点くか確認しよう......」
今まで何ともなかった懐中電灯が二つとも使えなくなり、思わず顔を顰めてしまうと研磨が落ち着いてそう提案し、一旦音駒と梟谷に別れて近くの教室の電気を点けに行く。
教室内には入らず、廊下から手を伸ばしてそれぞれのスイッチを押してみるも......パチパチとスイッチを切り替える音がするだけで部屋の明かりはいくら待っても点かなかった。
「......ウソだろ、点かねぇ......」
「こっちもです」
徐々に暗闇に目が慣れてきて、周りの景色が把握しやすくなってきたとはいえ、流石に何の明かりもない校内はひどく歩きづらく、暗闇がその不気味な空気をさらに増長させているような気がした。
この状況で研磨達が遭遇したようなバケモノが出て来たらと思うと、夏であるのにヒヤリと冷たいものが背筋を伝う。
「これは、もれなく全館停電......?」
「そんなことも出来んのかよ......クソ、邪魔ばっかしやがって......!」
「......ミケ、大丈夫かな......」
「............」
自分の中に広がる恐怖と比例するように、ミケの状況が気になりたまらず言葉が荒くなる。
木兎が言ったように校内全館が停電しているようなら、ミケが居る場所もきっと真っ暗になっているはずだ。
少しでも己の恐怖心をなくそうと電気を点けていた彼女にしたら、いきなり真っ暗な空間に放り出されたようなものである。
再び恐怖が爆発する中で、ミケは果たしてこちらに向けて救難信号を発してくれるだろうか?
焦る気持ちとは裏腹に、暗闇ばかりが続く廊下にはまるで俺らを嘲笑うかのような、腹が立つ程の静寂が続いていた。
暗闇と共に無限に広がるのではないかと思っていた静寂が、木兎の声と共に終わりを告げる。
「......聞こえた!!!」
「!」
「ミケちゃんの声!!歌ってる!!」
木兎の言葉に全員が顔を上げ、一心不乱に耳を澄ます。
相変わらず無機質な空間が続く中......本当にうっすらと、何かの音が聞こえた。
「............ミケの、声か......?」
正直、あまりに音が小さ過ぎて俺にはよく判別出来ず、思わず研磨に視線を寄越すと研磨も眉を寄せるだけで否定も肯定も出来ないようだった。
ちらりと赤葦の方を見るも、「......確かに何か聞こえますが、これが御木川さんの声かどうかは俺には分かりません」と俺が聞く前に報告してくれる。
「いや、絶対ミケちゃんの声だし!自信ある!......でも、この曲......」
「え?」
「......俺がリクしたヤツじゃない!!何でだよミケちゃあん!!」
「は?」
唯一この音を判別できるのは異常な程耳が良い木兎だけのようだが......どうやら、先程の校内放送で木兎がリクエストしたものではない曲を歌われているようで、ここでまさかのしょぼくれモードを発動した。
俺と研磨は目を丸くして木兎を眺めたが、木兎の扱いに手馴れている赤葦だけは相変わらず無表情なままで己のエースに言葉を返す。
「......いや。“歌わない”ではなく、“歌えない”のでは?歌詞がわからないとかじゃないですかね、知りませんけど」
「......ブヒャヒャ!wぼ、木兎君ドンマぁイw」
ミケにリクエストをスルーされたことでしょぼくれた木兎と、それに迅速に対応するやり手の赤葦のやりとりを聞き......じわじわと可笑しさが込み上げてきて、たまらずふきだしてしまった。
この音がミケの声かどうかはわからないが、確かにアイツならリクエストされた曲を素直に歌わなそうだと思ったからだ。自分をなかなか助けに来ない俺らに怒っているのであれば、尚更。
「......俺達にも聞こえるってことは、ここから近いってことかな......」
「!」
木兎に「うるせぇ!」とキレられながらもケラケラと笑っていると、ぽつりと零された研磨の言葉にたまらず反応する。
しかし直ぐに赤葦が「でも、小さいうえ周りに反響してるから、何処から聞こえてるかなんて......」と研磨に進言した。
確かに、よくよく耳を澄ませなければ聞こえないレベルの小さな音だ。この音の方角を聞き取るのは、きっと相当難しいだろう。
「......赤葦。俺、多分わかる」
「!」
赤葦の言葉に異を唱えたのは、たった今へこんでいた木兎だった。
俺達三人の視線を独り占めにして、木兎は先程の様子とは一変し......一つ息を吐いて、自信に満ちた表情で笑った。
「────大丈夫。今度は絶対、聞き逃さない」
▷▶︎▷
「うぎゃああああああッ!?」
校内放送が終わってから、数秒後。突然全ての電気が消えて、体育館内は再び真っ暗になった。
脊髄反射で悲鳴が出て、暗闇の中覚束無い足で先程の電気のスイッチがある場所へよろよろと進む。
「何で消える!?何で消える゙!!また真っ暗じゃん゙もうや゙だああああ゙ッ!!」
暗闇が怖くて、静寂が怖くて、とにかく何でもいいから声を出さないと途端に動けなくなりそうだ。真っ暗の中、身動きが取れなくなるのは一番まずいだろう。
とりあえず明かりさえ点けばと考えて、足やら腕やらをガツガツぶつけながらも何とか電気のスイッチがある場所にたどり着いたのに......赤くなったボタンをいくら押しても、さっきみたいに緑のランプに変わらない。
それどころか、ここの蛍光灯ですらスイッチに全く反応しなくなっている。ウソでしょ、だってさっき点いてたじゃん!!
「点かない!!点かない゙いいいい!!何でよもぉぉおおおおッ!!」
真っ暗な空間でひたすら怒鳴る。手に持ったままだったマイクもスイッチがつかない。
ひどい。あんまりだ。さっきの校内放送で少し元気が出た途端、こんな最悪の状況になるなんて。さっきの束の間の喜びを返して欲しい。
「やだやだもうやだ!!怖い゙!!もうムリ゙!!怖い゙いいい!!」
怖いのと、腹が立つのと、悲しいのと、寂しいので頭の中がぐちゃぐちゃになり、その場に蹲りながらひたすらに叫ぶ。
暗いのが嫌だ。怖いのが嫌だ。こんなに嫌なのに、ここには自分一人しか居ないことがとにかく本当に嫌だった。
黒尾君も、木兎君も、孤爪君も、赤葦君も、本当に何処にいるの。何で私だけ会えないの。
......声だけじゃ、嫌だよ。お願いだから、一緒に居てよ。
「............こわいの、もう、いやだぁ......ッ」
ぼろぼろと涙がとめどなく溢れて、小さな子供のようにしゃくりをあげる。
“ミケ!聞こえるか!?絶対見つけるから待ってろ!”
「......っふ......ゔぇぇぇ......っ」
“お前の歌、ちゃんと聞こえてるからな!”
「.........ひん゙......ッ......うわ゙ぁん......ッ」
“俺らが行くまで歌い続けろ!”
「ッ、......ン゙ン......ッ......」
“絶対行くから!”
「............ッ、」
みっともなく泣き声をあげる中、頭の中には先程の校内放送が、黒尾君の力強い声がずっと響いていた。
ここに来た時ずっと泣いて、泣いて、泣きまくって......私、何て思った?
────泣いてるだけじゃ、絶対助からない。
自分を守れるのは、自分だけだ。だから、動け!!
「......わかったよ゙ぉ......ひン゙ッ......歌えばいいんでしょお歌えばぁ......ッ」
いまだぼたぼたと零れ落ちる涙を乱暴に拭い、半ばヤケになりながらも立ち上がる。
電源のつかないマイクを床に置いて、意を決して体育館のど真ん中へ走った。
右も左も上も、全部真っ暗だ。怖い。息が、詰まる。怖い。寒い。もう嫌だ。怖い。怖い。
......だけど、声、出さなきゃ。声出して、歌わなきゃ。歌え。歌え。歌え!!
「──────ッ!!」
「次、こっち!」
木兎の背中を追いかけて廊下を走り、教室を突っ切り、どんどん移動していく。
最初は殆ど聞こえなかった微かな音が、移動する度に徐々にはっきりと聞こえ始め、今ではちゃんとミケの声となって俺らの耳にも届いていた。
「......あの、これ、もしかして......」
「......うん。ミケ、泣いてるね......」
「............」
音がはっきりしたことで分かったのは、ミケが泣きながら歌っていることだった。
ミケとは一緒にカラオケに行ったことがあり、何ならアイツの組んでるバンドのライブにも行ったことがある。だから、ミケの歌唱力が確かなものであることは知っていた訳だが......この状況がそうさせるのか、はたまたアイツが懸命に歌っているせいなのか、誰かの歌声にここまで胸を締め付けられるのは初めてのことだった。
「......怖いの我慢して、頑張って歌ってる。......ミケは......本当、格好良いね」
「............」
そして多分、そう感じてるのは俺だけではなくて......ぽつりと呟いた研磨も、先導する木兎も、黙っている赤葦だって、きっと俺と同じ気持ちを抱いているに違いない。
早く会いたい。顔が見たい。怒られてもいいから、彼女に触れたい。
「......ミケちゃん見つけて、五人でここで出たらシュクショーカイやって、ミケちゃんのこと俺らでいっぱい甘やかしたげようぜ!」
「............」
ミケの歌声を辿る中、先頭を走る木兎が明るい声でそんな提案を寄越す。
誰の恋人でも無い女子を“俺らで甘やかす”という表現は些か語弊がありそうなものだが、木兎が決していかがわしい意味で使った訳では無いことは明白だったので、特に誰も訂正は入れなかった。
「......おう、そうだな。祝勝会、研磨も絶対参加だからな」
「......別にいいけど......この状況であんまりそういうフラグ立てない方がいいと思う......」
「まぁたお前はそういう......そもそも別に“勝った!”とか“やったか!?”とかは言ってねぇだろ」
元よりそういうコトが苦手な研磨に先回りして念押しすれば、案外さらりと参加の意志を示したので少し驚く。
しかしそれも束の間のことで、その後直ぐに続いたコイツらしい言葉に思わず反論すると、「それと同じようなもんでしょ......」と何処か呆れた目を向けられてしまった。
そんなやり取りをしている俺らの横で、木兎と赤葦も似たような会話を交わしていた。
「あかーし、ミケちゃん見つけたらちゃんと優しくしてやれよ?」
「............ですから、俺は常に優しくしてますけど」
「優しいヤツは初っ端“生きてますか?”って聞かねぇのよ」
「......そうですか。わかりました、善処します」
相変わらずの無表情で赤葦が律儀に言葉を返した、瞬間。
木兎が開けた扉の先の景色が一気に拓けた。
暗がりの中でもそれが何処なのか一目でわかる程、俺達に馴染みの深い場所......音駒高校の体育館の真ん中に、彼女はひとりで立っていた。
「─────ミケッ!!!」
たったひとりの、お姫様へ
(その声辿って逢いに来た。だから、もう泣かないでくれ。)