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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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研磨と赤葦と無事に合流して、お互い離れていた時の情報を交換する。
ミケがプールに落ちた詳細や体育館に明かりがついていたこと、学校外の奇妙な様子、ミケに擬態した何かが居たこと、そいつが不穏な話をしていたこと等をお互い情報共有して、改めて現状の深刻さを痛感する。
その中でも一番キツイのは、研磨達も未だミケを見つけていないということだった。
あいつがプールに落ちてから、どのくらいの時間が経ったのか。
スマホが使えない今、教室の掛け時計を確認するも時刻は20時19分のままで止まっているのが新たにわかるだけだった。
その時間は多分、俺達が校内に入ったばかりくらいの時間だ。
「とにかくさ、ミケちゃんは体育館に居るんじゃねぇの?電気ついてたんだろ?」
「......ついてましたが、中を覗いたら別の教室に繋がってました。おそらく、普通に入ればそっちに飛ばされるかと」
「......つーことは、体育館の鍵探すにしてもあんま意味ねぇのか......」
木兎と赤葦の話に、ため息を吐きながら口を挟む。
強制的にとはいえ、二手に分かれてミケを捜索したというのに、現時点であまりにも手掛かりが少なかった。
「.......そもそも、偽物のミケと本物のミケ、どうやって見分けようか......」
「そんなの、あかーしと喋らせれば?で、ケンカしたら本物じゃん」
「......そんな動物の習性の検証みたいなやり方は御免です。それに、ケンカしろと言われて素直にケンカできるほど、俺は器用じゃないですよ」
研磨の言葉に木兎が、木兎の言葉に赤葦がそれぞれ反応する。
見た目も声も本当にミケそっくりな偽物は、先程の俺とのやり取りでおそらく性格や言葉選び等もよりミケっぽく振舞ってくる危険性がある。
また鉢合わせたら、今度こそすっかり騙されてしまうかもしれない。
「クロは、何か使えそうな情報持ってる?」
「.......んー......そう、だな......あいつのバンドのメンバー言ってもらうとかどうだ?」
「......それ、クロが答え合わせできるの?」
「おう。全員集合してっからな、五組に」
「え、なんだそれ?じゃあもしやミケちゃんのバンドって今年組んだのか?」
「や、去年くらいからっつってた。たまたま全員五組になって、ひとしきりはしゃいだ後に五人とも項垂れてたな」
「え、なんで?クラス一緒だと楽しそうじゃん」
「何でも、クラスも部活も一緒だと、万が一方向性の違い?とかで脱退とか解散とかあったら、高校生活最後なのにめちゃくちゃ気まずくなんじゃんってことらしい」
「......ふーん、意外とリアリストだね......」
「えー?なんだそれ?わっかんねぇなぁ......」
本物と偽物の見分け方をどうするかを考えつつも少し話が脱線し、研磨と木兎が真反対のリアクションをする。
それに少し笑った後、改めて話を本題へ戻した。
「とりあえず、さっき木兎も言ってたけど、俺も一応体育館確認しときたいわ。電気ついてるとか、中の様子とか、時間経ってもしかしたら変わってる所あるかもしれねぇし」
「.......うん、まぁ......ここにずっと居ても仕方ないしね......」
俺の意見に研磨が賛同してくれて、梟谷の二人も特に違う意見を出さなかったので、そのまま体育館のある方角へ足を進ませた。
.......しかし、数分もしない内に木兎がなぜかそわそわと後ろを気にし始めた。
それは木兎の右腕である赤葦も直ぐに察知したようで、「......木兎さん、どうかしましたか?」と抜かりなく木兎に発言の場を与える。
「.............」
「.......木兎さん......?」
「.......うん。多分、こっち」
「え?」
赤葦に二度呼ばれれば、木兎は完全に後ろを振り返り、今まで居た方角......今歩いている方とは真逆の方角を、言葉とは裏腹にしっかりと指さした。
「.......すっごいちっちゃいけど......こっちから、ミケちゃんの声がする」
「は!?」
「は?」
「.......多分、歌ってる?」
「歌......?」
突然の木兎の言動に俺と赤葦はたまらず聞き返し、あまりにも場違いな歌ってるという発言には研磨が訝しげに顔を顰めた。
木兎が指差す方向には暗い廊下があるだけで、耳を澄ましてみても何の音も聞こえない。
「.......研磨、聞こえるか?」
「.......ううん、全然......」
「赤葦は?」
「.......聞こえません......」
「いや、めっちゃちっちゃいけど聞こえるって!何言ってるかはわかんねぇけど!」
「.............」
「.......でも、こんな状況であの超怖がりが歌うか?」
「!!」
どうやら木兎以外には聞こえない音量らしく、ひとまず聞き取るのは諦めてミケの性格と現時点の行動のズレを指摘すれば、木兎はその目をハッと丸くした。
「ンンンン......確かに......じゃあ、ミケちゃんの偽物の罠かも......」
「.......向こうが木兎さんの聴覚に気付いていれば、罠の可能性もありますが......それでも、過半数が聞こえないならだいぶ非効率ですよね......」
一気にしょぼくれた顔をする木兎の隣りで、顎の下に片手を添えた赤葦が淡々と己の考えを述べる。
確かに、赤葦の言う通り俺達を釣る仕掛けにしては少々弱いのではないだろうか。
それとも、木兎の耳の良さを把握しているからこその博打か何かのつもりだろうか。
不確かな現象にどう動くべきかぐるぐると思考を回すと、今まで黙っていた研磨がゆっくりと口を開いた。
「.......でも、もし本物のミケが歌ってるなら......多分、俺達に居場所を伝えてるんだと思う......」
「え......」
「いや、それなら普通どこどこに居るよー!って言葉で言うんじゃね?何でわざわざ歌うんだよ」
「.......憶測だけど、最初は言葉で言ってたんじゃないかな......でも、独りで長時間、大声で喋り続けるのは、きっと想像以上にキツいと思う......」
「!」
「.......そうか......だとしたら、“途切れず声を出し続ける為”に歌ってんのか......!」
「.......俺達への、救難信号みたいなものですかね......」
研磨の言葉から、もしこれが本物のミケだったらという仮定をベースに話が展開され、どうして今歌う必要があるのか考え、ピンと来た。
本当にどこかに閉じ込められてるとしたら、ミケは自分の居場所を何とかして俺達に伝えようとするだろう。
そして、空間が歪んでいても“音”なら届くのではないかと考えて、今までずっと歌い続けていたのかもしれない。
軽音部員でボーカルでもあるミケのことだ、筋トレもしてるというし、暫く歌い続けるのも慣れたものなのかもしれない。
「じゃあ、この声辿っていけばミケちゃんに会えるんじゃね!?」
「......いや、待ってください。まだ、本物の御木川さんかどうかはわからないじゃないですか」
パッと顔を明るくした木兎に、赤葦が冷静な言葉を寄越す。
しかし、木兎にしか聞こえないそのミケの声を追った方がいいのか、それとも警戒した方がいいのか咄嗟に判断出来ずにいると、「そうかもしんないけど!」と木兎の大きな声が廊下に響いた。
「でも、そんなの今ここで悩んだって絶対わかんないだろ?1%でもミケちゃんの可能性があるなら、俺は助けに行きたい!」
「.............!」
木兎の真っ直ぐな言葉に、俺だけでなく赤葦も研磨もたまらず目を丸くした。
.......コイツは本当に、時々びっくりするほど躊躇無く選択することが出来る。
バレーの時もそうだったが、どうやら緊急時でもそれは遺憾無く発揮されるらしい。
「.......木兎......お前、本当に......」
「......この世界がゲームの中だったら、主人公はきっと木兎さんだね......」
「え!俺主人公!?マジで!?」
「......それだと、はぐれた御木川さんは攫われたヒロインか何かですか......?」
「え!じゃあ俺、ミケちゃん助けたらマジで結婚できっかな!?」
「は?出来る訳ねぇだろ。ここはゲームじゃねぇ、現実見ろ現実」
「えぇー?だってミケちゃん、“木兎君結婚して”っていっぱい言ってたじゃん」
「いっぱいなんて言ってねぇしそもそもノリで言ってるだけだっての。あいつ、バンドマンでボーカルだぜ?やれファンサやら、やれリップサービスなんかはお手の物だろ」
「えぇー......そっかぁー......なんだぁー......」
「......ふ......wクロ、必死過ぎ......w」
「う、うるせぇぞ研磨!!笑うな!!」
木兎の格好良し男発言から研磨が冗談めいたことを言い、それに調子に乗る木兎に釘を刺すと今度は俺にニヤニヤとした意地の悪い笑いを向ける。
良くも悪くも察しのいい幼なじみに若干腹を立てながらも、こんな事をしてる場合じゃないだろと気持ちを切り替えた。
「......あー......とにかく、ミケの声するんならそっち行くぞ!......っていってもお前しか聞こえないんだから、頼むぞ木兎!」
「おう!任せろ!」
半ば誤魔化すような俺の言葉に、単純思考な木兎だけがノってくれる。
相変わらずニヤニヤと笑う研磨と、どこか掴めない表情でこちらを見る赤葦のことは気になったが、気にしたら負けだと思うことにして徹底的にスルーした。
「んー......こっちだな」
ミケの声を辿る木兎を先頭に、教室に入ったり廊下に出たり、また別の教室に入ったりを暫く繰り返す。
木兎が言うには少しずつ声が大きくなってるとのことだが、俺も研磨も赤葦もいまだ全く聞き取れなかった。
「.......お前、マジでどんな耳してんの......?全ッ然聞こえねぇんですケド......」
「......木兎さん、ミケが何歌ってるかとか、わかる?」
「.......んーーーー......まだちょっとわかんねぇな......こう、途切れ途切れな感じ?」
「......それでも、御木川さんの声であることは確かなんですよね?」
「おう、それはわかる」
バラバラの配列になった教室を移動しながらも、質問は自然と木兎に集まる。
せめて俺らにもその声が聞こえればいいのにと内心で少し焦っていれば、後ろに居る研磨が小さくため息を吐いた。
「.......まぁ、いいんじゃない?木兎さんの直感ってアテになるんでしょ?」
「.......うん、まぁ、そうなんだけど......これは、どうだろうな......」
研磨の言葉に、赤葦が若干つっかえながら返答する。どうやら少し思うところがあるらしい。
もしかしたら、保健室の怪異を体験している赤葦は、ミケの偽物がこちらに攻撃してくることを懸念しているのかもしれない。
この声を辿った先に居るのは本物かもしれないし、偽物である可能性も十分にある。
「.......俺は、本物だろうが偽物だろうが、ミケに会いたい」
「!」
そんな俺と赤葦の思考を読んだようなタイミングで、研磨が思わぬ発言をした。
たまらずそちらに顔を向けると、研磨は俺にも赤葦にも気にすることなく淡々と言葉を続ける。
「.......本物だったらいいなとは思ってるけど......でも、偽物なら偽物で、一度見てみたいし......」
「おい、研磨」
「孤爪、それはちょっと不謹慎じゃないか?」
「.......そう?」
何を言い出すのかと思えば、良くも悪くも“いつも通り”な研磨の言葉に思わず口を挟んでしまった。
俺と赤葦から似たような反応を返されたにも関わらず、研磨は一向にこちらを向かない。
.......しかし、次に続いた言葉に認識を改めることになった。
「.......この状況で、ミケの偽物出してくるとか......あまりにも悪趣味だし、結構気分悪いんだよね......」
「.............!」
「.......だから、偽物だったら偽物で、物理攻撃効かないかなって。ミケ、保健室に出たヤツ殴れてたし」
「え」
「.......まぁ、実際攻撃出来るかはわかんないけど......でも、ミケに擬態したことを、死ぬ程後悔させてやりたいとは思ってるよ......」
「.............」
ふいに研磨の声の温度が低くなり、......感情が表に出にくいコイツも、ミケの偽物に対して静かに怒りを感じていることが如実にわかった。
俺も偽物と対峙した時、腹の底から激しい怒りを覚えたのだ。
失踪したミケと最後に言葉を交わした研磨が、自責の念に駆られる程ミケを心配してる研磨が、この胸糞悪いジョークに怒らない訳がなかった。
そして多分、黙っている赤葦も。
「.............」
「.......殴れば、一目瞭然かもしれませんね」
「え?」
静かな怒りの空気が満ちた沈黙の後、ぽつりと声をもらしたのは赤葦で、その言葉に俺も研磨も、そして木兎も反射的にこちらへ顔を向けた。
俺らの視線を集めた赤葦は、相変わらず乏しい表情で言葉の続きを口にする。
「いや、御木川さんってボクシングやってたじゃないですか。だから、攻撃が来た時の動きとかでわかるんじゃないかと」
「.......それは、避けるかどうかってこと?まぁ、確かにボクシングの動きは特徴的ではあるけど......」
「あー......本物偽物問わず殴れって?」
「え、誰が?」
「.............」
やっぱりここは、主人公である木兎さんですかね。
(ちょっと待て!!言い出しっぺの法則じゃないここは!?)