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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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“中央棟3階の廊下で待つ。クロへ。靴下裏返したままで洗濯機に入れない方がいいと思う。”
“中央棟3階の廊下で待つ。木兎さんへ。部活動会議の際、話わかってないのにとりあえずで頷かないでください。マジで体育館使用日減りますよ。”
“中央棟3階の廊下で待つ。クロへ。この前食べていいよって言ったチョコ、よく見たら消費期限切れてた。ごめん。”
“中央棟3階の廊下で待つ。木兎さんへ。合宿中の快便事情はわざわざ話さなくて結構です。女マネの方々が本気で引いてました。”
部屋を移動する度、次々と黒板に出現する後輩セッター組からのありがたいお言葉に、俺と木兎のHPはゴリゴリと減らされていった。
というか研磨め......あの時の急な腹痛、完全にお前のせいじゃねぇか!
「......うぅ......あかーしは、俺をどうしたいの......?」
「オイ待て木兎しょぼくれんな。お前のお守りできる精神状態じゃねぇ」
自慢のミミズクヘッドをすっかり左右にしならせ、顔をしわしわにしながらめそめそとしょぼくれる木兎に一喝する。
俺だって研磨からのメッセージに心がズタボロだ。
「......コレ、ミケちゃんに見られてたらどうしよう......俺の格好良いイメージが......」
「それはまっっったく問題無いだろうけど......でも、これだけ書かれててアイツからの茶々が一つも入ってないってことは......もしかしたら、歩き回ってないのかもしれねぇ」
「え?じゃあ、ミケちゃんもどこかで待ってるってこと?」
「......もしくは、どこかに閉じ込められてるか、だな......冷える部屋だと、......食堂の冷蔵庫、とか......?......冷凍庫だったら、マジで笑えねぇぞ......」
「やべぇじゃんそれ!ミケちゃんプール落ちてずぶ濡れだし、絶対風邪引くって!」
「.......風邪引くくらいで済んだらいいけどな......」
木兎と話しながら個人的なメッセージのみを消し、どこかに居るであろうミケのことを考える。
きっと怖い思いも、寒い思いもたくさんしているはずだ。......たくさん、泣いてもいるだろう。
早く見つけてやりたい。顔が見たい。ミケに、触れたい。
「.............」
「......あかーし達と会って、ミケちゃん見つけて、みんなでここ出たらさ?しゅくしょー会?しようぜ!飯でもいいし、カラオケとか、バッセンとか......あ!どっかの体育館借りてバレーするでもいいな!」
「.............」
己の不甲斐なさにたまらず固く拳を握り締めていると、手についたチョークの粉を両手ではたきながら、木兎がそんな言葉を寄越した。
思わず目を丸くしてそちらを見ると、先程のしょぼくれモードはどこへ行ったのか、いつもの自信に満ち溢れた力強い笑顔を向けられる。
いつでも、どんな状況でも、希望を失わない木兎の存在は、紛れもないエースの素質だと断言できるだろう。
こいつが主将で、エースだから、梟谷はいつも強い。
「.......そうだな......でも、バレーはやめてやれ。ミケよりも多分、研磨が来ねぇ」
自然と零れた笑いを堪えきれずにそう返すと、木兎は「えぇ〜??」と眉を寄せながらその頭を少しだけしならせるのだった。
▷▶︎▷
「ひっキシっ!!んあ゛~~~寒い゛~~~!!」
つけられる電気を全てつけた体育館で、おかしな寒さが原因か、さっきからずっと止まらないくしゃみにたまらず顔を顰めた。
プールに落ちたせいで全身ずぶ濡れなこともあり、ひどく冷えた館内は思った以上にしんどいものがあった。
両手で自身の身体を摩りつつ、空調のスイッチと拡声器や音響機器をうろうろと探し続ける。
空調のはよくわかんないけど、アンプとマイクなら舞台袖にあるのではと大体の検討を付けて探せば、五分くらいで目的のそれを見つけた。
軽音部員なのでそれらの接続は一人でも出来る。でも、これで主電源が入りませんとかだったらマジで最悪だ。
「.......よしよしよし!ついたついた!」
最悪のシナリオを頭に浮かべながら機材をセットして、祈るようにスイッチを押せばちゃんと通電のランプがついた。
マイクもアンプも大丈夫なら、おそらくスピーカーの方も大丈夫だろう......と、思いたい。
『あ~~~~......あ~~~~~!やった!!』
マイクの電源を入れて、声を出すとちゃんと音がスピーカーに繋がった。
ハウリングしないように音量を調節して、なるべく大きな音になるように設定する。
よし、これで救助を要請できるぞと一人ガッツポーズをしてから、無線のマイクを持って舞台の真ん中に立ち、ゆっくりと息を吸った。
『お~~~~い!!聞こえますか~~~~~!?』
静かだった体育館に、私の声が思い切り反響する。
これだけうるさかったら、黒尾君達が体育館の近くを通りかかればきっと気付くはずだ。
『黒尾く~~~ん!!木兎く~~~ん!!孤爪く~~~ん!!赤葦く~~~ん!!』
とにかく途切れず音を出すことが大事だろうと考え、彼らの名前を叫ぶ。
本当はフルネームを呼ぼうと思ったんだけど、梟谷の二人の下の名前をすっかり忘れていることに気が付いたので結局普通の呼び方になった。
黒尾君はクラスメイトだから下の名前が「鉄郎」であることを知ってるし、孤爪君は黒尾君が「ケンマ」って呼んでたから覚えた。
『私体育館に居るよ~~~~!!外に出られないよ~~~~!!早く来て~~~~!!めっちゃ寒いよ~~~~!!』
名前をずっと呼ぶのもあれかなと思い、状況説明をしばらく続ける。
だけど、五分もすれば話のネタは尽きてきた。
『あめんぼあかいなあいうえお~~~~~~!!じゅげむじゅげむごこうのすきれぇ~~~~!!かいじゃりすいぎょのぉ~~~~!!』
それでも何とか音を出そうと思い、思いつく限りの長い言葉を口するが......じゅげむのやつは普通にこの後を覚えてない。
......ああ、こんなことになるならしっかり全文死ぬ気で覚えておけばよかった!
『......誰も居ないのかよ~~~~!!無視すんなコノヤロ~~~~~~~!!』
相変わらず何の反応もない体育館に段々腹が立ってきて、文句をマイクにぶつけながら舞台の上で地団駄を踏む。
こんなにやってるのに誰も来ないとか何事だ!
というか、何もしてない中でずっと一人で話し続けるのって結構大変だ!
ライブのMCみたいな感じで出来るだろとか思ったけど、とても難しい!
せめてテーマと合いの手がほしい!
『.......あぁ、そっか』
イライラしながら思考を回して、ふと思い付いた。
そうだ、ただひたすらに“喋る”から大変なんだ。
途切れずに音を出し続けるなら、別に喋らなくても済むじゃん。
しかも、軽音部員の私にはまさに打って付けの方法だ。
『あ~......あ~......三年五組ぃ、御木川 鈴、心を込めて歌います』
マイクを握り直し、観客0人のなか形式ばかりのゴアイサツを口にする。
ちなみに三年五組というのは、今組んでるバンド名だ。理由は単純、バンドメンバー全員が奇跡的に同じクラスになり、三年五組だったからコレに変えた。
ギターもベースもドラムもキーボードも居ないけど、この状況でわがままは言ってられない。
.......御木川 鈴、怒りのワンマンライブ開幕じゃい!!
▷▶︎▷
「.......ん?」
「あ?どうした?」
黒板を消し終わり、中央棟3階の廊下を目指す為に次の空間へ移動しようと足を進めたところで、木兎が何かに反応するような声をもらした。
「また何か聞こえんのか?ミケ?」
「.......んんー......何か聞こえた気がしたけど......やっぱ気のせい?だったかも」
木兎はキョロキョロと辺りを見回してから、音の行方を見失ったのかそんな言葉を返してきた。
俺も一応耳をすませてみたが、案の定何も聞こえないのでそのまま教室のドアを開ける。
すると、ずっと教室続きだったドアの外が待ちに待った廊下になっていて、一気にテンションが上がった。
「っしゃ!廊下だ!!」
「マジで!?やった!!黒尾ここどこ!?どこの廊下!?」
俺も木兎もはしゃぎながら廊下へ出て、二人で位置情報を確認する為に教室のプレートを調べていれば......
「クロ!!」
「木兎さん!!」
「!!」
廊下の先から聞き馴染んだ、だけどひどく懐かしいような気もする声が二つ聞こえて、咄嗟に廊下の先へ顔を向ける。
視線を寄越すと、長く続く暗い廊下の向こうから見慣れた金色と濡れた黒色がこちらへ向かって走って来た。
「っ、研磨!!」
「赤葦!!」
咄嗟にお互いの後輩を呼び、そちらへ駆け出す。
どうやら、運良くここが中央棟3階の廊下だったらしい。
合同練習や合宿、練習試合に公式戦と今まで何十回もこのメンツで顔を合わせたはずなのに、木兎が居て、赤葦が居て、研磨がいるこの状況が心の底から嬉しくて、安堵してしまった。
「二人とも怪我ねぇな?無茶とかしてねぇだろうな?」
「俺らは大丈夫......クロ達も、何とも無さそうだね......」
「てか、あかーしビショビショじゃん!大丈夫!?俺のシャツ貸す!?」
「いえ、結構です。お気持ちだけ頂きます」
プールに飛び込んだと聞いていた赤葦がいまだ濡れたままなことが少し気になったが、研磨も赤葦も見たところ外傷は無さそうで、精神的にも大丈夫そうだったので内心でほっと息をつく。
三年の俺らよりもずっと頭の回転が速い後輩達だから、多分心配は無いだろうとは思っていたものの、実際に二人の無事な姿を見るまでは思いの外ずっと気にしていたようだ。
木兎は勿論のこと、研磨や赤葦もどこか安心した色を浮かべていた。
.......でも、あぁ、よかった。このまま会えなかったから、マジでどうしようかと思った。
「......あ!!ちょっと待て黒尾!このあかーし達が本物か確かめなきゃダメじゃん!」
「は?......人に指をささないでください」
「.......いや、木兎お前......」
突如、木兎がひらめいた顔をして俺を見て、赤葦のことを指差す。
しかしながらソレをそのまま言ってしまうと、先程のミケのニセモノの時のようにカマをかけることも出来なくなってしまうことを、この男は考えてないのだろう。
そして突然そんな素っ頓狂なことを言われた赤葦は、露骨に顔を顰めていた。
俺の呆れた目も、赤葦の不可解そうな目も全く気にしない木兎は、至って真面目な顔で赤葦へ視線を寄越した。
「俺は、あかーしのことを“京治”って呼んだことはあるでしょうか!?」
「............................いきなり何のクイズですか?プールに落ちた御木川さんが未だ行方不明なこの状況、わかってます?遊んでる場合じゃないでしょういい加減にしてください」
先程の一件を真似た問い掛けをする木兎に、赤葦は呆れを通り越してピシャリと説教をかます。
淡々と怒られたことに木兎はまたしょげかえりながら、「.......この赤葦は......本物デス......」と静かに俺に報告した。お前、それでいいのか。
「......クロ、やっぱり疑った?あの黒板の......」
「ん?あぁ、それとはまた別で......じゃ、ねぇ!!おいコラお前なんだあのメッセージは!?すげぇ傷付いたんですけど!?」
木兎と赤葦のやり取りを傍観していた研磨がふと気になったのか、そんなことを寄越してきたのでミケのニセモノが出たことを話そうとしたところで、例の黒板のメッセージの方が先だと思い途中から俺も説教に変えた。
しかし、ひねくれ者の幼なじみはしょげかえるどころか愉しそうにニヤニヤと笑い「アレなら絶対俺からだってわかるかなって」等と抜かす。
「にしても、もっと他のやり方あったろうが!」
「ちなみに、発案は赤葦」
「お前が諸悪の根源か!!」
「あかーしヒドイ!!」
研磨の告げ口に俺と木兎の二年セッターコンビ被害者の会は揃って赤葦に噛み付く。
仮にも音駒と梟谷の男バレ主将である俺らに怒られたというのに、当の本人は相変わらず感情がひどくわかりにくい表情のまま、「......そんな、後輩の可愛いイタズラじゃないすか」と本気なんだか冗談なんだかよくわからないことを口にするのだった。
ネコとフクロウの再会
(ただし、一部地域を除く。)