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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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不気味な程に静まり返る学校の外から戻り、赤葦と共に再び校舎内を捜索する。
中央棟1階の西側から廊下に面した部屋を調べていき、ひとまず施錠してある部屋は飛ばして鍵が無くても確認できる教室をどんどん開けていった。
元通りの配置の時もあれば、違う教室になっている時もあって、手にした構内図を確認しながら少しずつ先に進んでいく。
中央棟の1階を全て見終わり、次は2階へ上がればそこは東棟の2階になっていた。
「......調理室......は......やっぱり鍵掛かってるよね......」
「隣りは、被服室か......望み薄だな......」
調理器具とは言え、危険物である包丁やガスコンロ等を管理している教室が施錠されてないはずもなく、ドアに手をかけるもそれはほんのわずかにしか動かなかった。
横にいる赤葦が直ぐに隣りの教室を確認してくれたが、被服室も針やハサミ等を管理してる教室である為、予想はしていたがやはり固く施錠されている。
それらの部屋に隣接している各準備室も言わずもがな施錠されている為、このフロアで確認出来るのは出入口にドアがないトイレだけだった。
緊急事態ということで、男子トイレだけでなく女子トイレにも入ってミケが居ないか、変なところは無いか調べてみたけど、特に気になるようなものは何も無かった。
「......まぁ、ここでミケに会ったら会ったでちょっと気まずいけど......」
「......というか、夜の学校のトイレをあんなに嫌がってたんだし、ここに居る可能性はかなり低いんじゃないか?」
「......あぁ......そういえば喧嘩してたよね。木兎さんと」
「......“我慢して?”は、ちょっと笑えたな」
トイレから出ながら、木兎さんとミケの攻防戦を思い出して二人してふきだす。
時間にしたら、きっと1時間くらいしか経ってないはずなのに......五人でわいわいと騒ぎながら校内を歩いていた時が、なぜかとても昔のことのように感じられた。
......本当に、クロも、木兎さんも、ミケも、どこに行ってしまったんだろう。
「鍵、探してみるか?それとも飛ばして次の階行く?」
「......んー......」
開かない被服室と調理室を前にして、赤葦がこちらを見ずに聞いてくる。
この二つの教室の中には多分誰も入ってないから、情報は欲しい。
でも、鍵を探す時間があれば、もっと色々な教室を確認して、クロと木兎さん、もしくはミケと会える確率を高めた方がいい気もする。
......だけど、三人は今どうしてるのか、どこに居るのかが全く分からない状態で、自分達が動き回るのは本当に効率的なのかとも思ってしまう。
誰かとはぐれた時は基本、その場から動かない方がいいという説もあるし......でも、今回の場合は空間そのものが移動してるから、必ずしもそれが吉と出るかはわからない。
「.......もし、教室を移動してるクロ達が被服室まで辿り着いて......内側からなら、このドアは開くのかな......?」
「......それは、多分開くんじゃないか?基本的にドアって内鍵だろう、し......あ、そうか。それなら別に、鍵を見つけなくてもいいのか......木兎さん達をどこかで待つなら......なるべく多くドアに面してる場所がいいから......廊下、とか?」
俺の言葉に返す途中で、赤葦はその切れ長の目をハッと大きく開く。
赤葦のようなヒトが話し相手だと、全てを話さずともこちらの意図をオートで察してくれるから、正直とても楽だ。
クロは言わずもがなそっちのタイプだけど、木兎さんやミケ相手だときっとこうはいかない。二人は完全にショーヨータイプのヒト達だから。
......この三人が揃ったら、きっとすごくうるさいんだろうな。
「......うん、俺もそう思う。ドアの数は構内図を数えれば、1番多い廊下わかるだろうし......でも、」
「この状態で、ソコにちゃんと辿り着けるのかが問題だな」
「うん......」
多くのドアに面している廊下で待てば、移動してきたクロ達に会える確率は高くなるかもしれない。
施錠されてる部屋も、内側からクロ達が開けてくれるなら鍵を探す必要性も無くなる。
だけど、空間が歪んでるこの状況で、しっかりとした目的地に辿り着くのは至難の業だ。
「......でも、試してみる価値はあると思う。構内図持ってるの、俺達だけだし......」
「......正直、こんな風にはぐれるなら向こうのスマホで撮ってもらえばよかったな。少なくとも、充電切れるまでは黒尾さん達と共有出来たのに」
「まさか、クロ達とトイレではぐれるとは思ってなかったからね......この経験は、次に活かそうと思う......」
「.......それは、たまったもんじゃないな......」
俺の言葉に、赤葦は露骨に顔を顰めて小さくため息を吐いた。
“次”というのは俺と赤葦がはぐれる時なのか、それともまた違う日にこういう奇妙な事態に再び陥った時なのか......赤葦は詮索してこなかったけど、どちらにせよ厄介極まりないことではあるので、心底嫌そうな顔をしたんだろう。
俺としては、同じミスをしないように覚えておかないとというニュアンスで言ったのだが、赤葦の反応が思いのほか面白かったのでそのまま黙っていた。
だけど、察しのいい赤葦は俺に面白がられていることが直ぐにわかったのか、「孤爪、構内図見せて」と半ば無理やりこの話題を終わらせてしまう。
それを無理に留める理由は無かったので、そのまま二人でドアの数が多い廊下はどこなのかを調べ始めた。
フロア面積が1番大きいのはやっぱり各学年の教室が揃う中央棟で、1階から3階までの部屋の数をそれぞれカウントすると......僅差ではあったが、3階が1番多くの部屋があり、そこの廊下が1番ドアの数が多いようだった。
「中央棟の3階ってことは、三年の教室があるフロアだ」
「そこなら、一度行ったな。確か、黒尾さんと御木川さんのクラスに入って......木兎さんのトイレ騒ぎがあって、その後黒尾さんと木兎さんとはぐれた場所だよな?」
「そうだね......あの時は、階段昇っても、逆に降りても同じこの階に着いた。......今にして思うと、これからここで何かが起きるっていう前振りだったのかもしれない」
「.............」
ひとつひとつ記憶を呼び起こして、赤葦と確認していく。
ゲームのようにコントローラーを握り、ストーリーを俯瞰して流れを追えば直ぐにわかるようなことも、当事者の視点からそれを読み解くことがいかに難しいか、何度も何度も思い知る。
「......とにかく、なるべく早く中央棟3階に行こう。まずは黒尾さんと木兎さん、ミケさんと合流して......でも、仮に合流できたとしても、次はここの出口を探さないといけない」
「......うん。三人に会えたら終わりな訳じゃないからね......」
赤葦の言葉に静かに頷きつつ、拡げた構内図を再び折り畳み、片手で持つ。
小さな懐中電灯を持ってる赤葦が動くと共に俺も動き、その僅かな明かりを見ながら、そういえばミケはこの懐中電灯すら持っていないことに気が付いた。
今は充電切れしてしまったが連絡手段であるスマホも無く、懐中電灯すら無い彼女は唯一ひとりぼっちなこともあり、本当に心細い思いをしているだろう。
......早く、ミケを見つけてあげないと。
大泣きしながら、「バカなの゛!?」とめいっぱい怒ってくれてもいいから......1秒でも、早く。
「.......あ。なぁ、孤爪。ちょっと思ったんだけど......」
今居るのは東棟の2階なので、ひとまず中央棟に向かうべく渡り廊下を目指していれば、隣りを歩く赤葦が再び口を開いた。
「ここ渡って、もし違うフロアに出たら、入れる教室の黒板にあの人達宛ての伝言残さないか?中央棟3階の廊下を目指してほしいって」
「.......俺もそれ、どうしようかと思ったけど......木兎さんやミケはともかく、クロは結構慎重だから、罠かもしれないって疑いそうだなとも思って......」
「でも、筆跡は真似しにくいんじゃないか?孤爪の筆跡くらい、あの人ならわかりそうだけど」
「......うーん......どうだろう......黒板って書きづらいから字が歪むし、ちょっと弱いんじゃないかな......」
「......あー......なるほど...」
「.............」
「.......あぁ、だったらいい方法がある」
「え?」
「......コレなら絶対に、俺らからのメッセージだって信じてもらえるよ」
どういうことだと目を丸くする俺に、赤葦はなぜか愉しそうにニヤリと笑った。
▷▶︎▷
「......えぇー......?スマホ無いだけでこんなに会えないもん......?」
ミケに擬態したナニカに逃げられてから数十分。
俺も木兎もハイスピードで開けられる教室のドアを開け、次々に室内を確認しているというのに、ミケとも研磨赤葦とも全く会えず、ただ時間だけが過ぎていった。
ついにしびれを切らしたのか、木兎が自慢のミミズクヘッドを乱暴に掻きながら焦れたような声を出す。
ありふれた洋画の人物のように「まぁ落ち着けよ」と返したいところだが、正直俺もこの現状には少しまいっていた。
教室の数は当然ながら限りがあるし、効率は多少悪いものの多くのドアを素早く開けていけば、遅かれ早かれどちらかと会えるだろうと考えていたものの......どうやら、現実は俺が思っていた以上に無情だったらしい。
木兎の言う通り、多くの現代人はスマホに色んなことを頼る。
こういった待ち合わせだけでなく、朝起きる為のアラームや天気予報、最近のニュースの確認、友人間のやりとり......基本、必要な情報収集や連絡手段は手元のスマホで済ませることが殆どだろう。
だけど、今はインターネットはおろか、便利なスマホが全く使えない状態だ。
しかも今居る場所は施設内がフルシャッフルされてる夜の音駒高校で、おまけに人間以外のナニカがランダムに出没する環境である。
一緒に校内に入ったメンツで唯一まともに話せるのが隣りに居る木兎だけで、他の3人とは今のところ一切連絡が取れない。
ミケに至ってはプールに落ちてからの情報が全く無く、早く見つけないと“冷めて眠ってしまうかも”と非常に不謹慎な言葉を寄越された。
腹の底からふざけんなと思うし、一刻も早く会いたいのに......ドアを開けた先に、ミケの姿はひたすらに無い。
「.......お互いに移動してっから、絶妙に会えねぇのかもな......」
「え、じゃあどっかで待ち伏せるか?この教室とか?」
「......や、どうせ待つならドアの数が多い廊下の方が......」
木兎の言葉に返す途中で、はたと気付く。
......そうだ、あの研磨のことだ。きっと効率を考えて、どこかで俺らを待っているんじゃないか?
それにアイツのことだから、無駄に体力を消耗したく無いとも絶対に考えるだろう。
おそらくそっちが迎えに来いというスタンスを取るはずだ。
後輩としての意識が高い赤葦はおそらく研磨とは逆のことを考えるだろうが、まるでゲームの中ようなこの状況では、多分己より研磨の意見を優先する可能性が高い。
それに、何かと落ち着きの無い木兎がその場でじっと自分達を待つという選択をするとも思えないだろうから、もしも待機を選択するなら自分だと赤葦も考えるんじゃないか。
「.......ドアが、1番多い廊下ってどこだ......?建物のデカさだけで考えると、多分中央棟だよな......?」
「オイ黒尾!見ろよ!」
「あ?」
研磨が考えそうなことを予測しながら、今アイツらが何処にいるのか検討をつけていると、1年4組のドアを開けた木兎が声を掛けてきた。
一体何だと思ってそちらに顔を向ければ......この教室の黒板に、控えめな大きさで白い文字が並んでいた。
“中央棟3階の廊下で待つ”
“クロへ。勝負パンツも赤なのはやめた方がいいと思う”
「......な、んだこりゃあ!?研磨か!?この字は研磨だなクッソ!!」
「ハハハッ!!お前、マジか!!w」
「うっせ笑うな!!言っとくけどバレーのだからなバレーの!!」
「や、知ってるしw赤パンは流石に女の子ヒクだろwミケちゃんに見られる前に消しといた方がいいんじゃねぇの?w」
いきなり目に飛び込んできた素っ頓狂な文面に思わず声を荒らげると、黒板の前に来た木兎はげらげらと笑いながらそんな提案を寄越す。
あまりにも理不尽な個人情報の公開に激しい憤りを感じつつ、確かにコレをミケに見られたらドン引きされそうなので、舌打ちしながら乱暴に黒板消しでそれを消していく。
多分、“中央棟3階の廊下で待つ”という1文が本当に研磨達からのメッセージであることを証明したかったんだろうけど......いや、他にもやり方絶対あっただろ!?
「クッソ......オラ!いつまで笑ってんださっさと行くぞ!!」
すっかり楽しそうに笑うミミズク野郎を一喝してから先に廊下に出ようとドアを開けると、そこはまた別の教室へと繋がっていた。
ああ、しまった。黒板の文字に釣られて、木兎も俺もつい教室内に入ってしまった。
これではまた廊下に出るまでが大変だぞと思いつつ...そこの教室の黒板には、今度はバランスのとれた綺麗な字で“中央棟3階の廊下で待つ。木兎さんへ。出来もしないバク転を自慢げに披露するのはやめて下さい。”という1文が書かれており、厄介な状況ではありつつもたまらずふきだしてしまうのだった。
後輩からのフルコンボ
(フルコンボっつーか、フルボッコの間違いじゃね......?)