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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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梟谷学園の二人、モノトーン頭の彼は男バレ主将の三年生、木兎光太郎君、黒髪の彼は副主将の二年生、赤葦京治君というらしい。
唯一の良心である黒尾君が男バレ顧問の猫又先生とコーチの方に校内へ入る許可を取りに行ってくれ、彼を待っている間梟谷の二人と自己紹介を交えつつ他愛もない世間話をしていた。
どうやら木兎君の方は根っからの明るい性格でいわゆるパリピ属性に近く、反対に赤葦君の方は年下ながらに至極落ち着いた性格であり、生真面目な印象を受ける。
見た目も中身も正反対に見える二人だが、案外お互い相性が良いのか会話はとてもスムーズで、終始とても仲が良さそうに見えた。
「でも、スマホ忘れるなんてミケちゃんマジでおっちょこちょいだな~w」
「.......うぬん......」
「この人におっちょこちょいって言われるの、なかなかですよ」
「.......あの、ここは普通“そんなことないよ”ってフォローする所じゃないですか?なんでトドメ刺しにくるの?」
「つーかあかーし!さりげなく俺のことディスるのやめて!俺はおっちょこちょいじゃない!」
「そんなことないですよ」
「「タイミング!!!」」
天然なのか計算なのか、赤葦君の発言に木兎君と息ぴったりでハモってしまった。
当の本人は相変わらず眉一つ動かさない。果たして赤葦君に表情筋はあるのか疑うレベルだ。
「おやおや、すっかり仲良くなっちゃって」
梟谷二人との会話に声を挟んだのは帰還を待っていた黒尾君で、聞き慣れた声に思わずほっとしてしまった。
「お手数お掛けしてすみません」と謝りながらそちらを見ると......なぜか黒尾君の後ろには同じような格好をした金髪の男の子が居る。
「あれ、黒尾君、後ろの人誰?後輩さん?」
男子にしては長めの髪に猫目が特徴的なその人を見て、雰囲気的に男バレの後輩かなぁと黒尾君に聞いてみると、黒尾君はつり目を丸くしてなぜか自分の左右後ろを確認し始めた。
金髪の男の子は一瞬黒尾君に視線を寄越したものの、そのまま瞳を閉じて俯いてしまう。
二人の奇妙な行動に首を傾げていれば......黒尾君はゆっくりとこちらへ顔を向けた。
その顔は、なぜか酷く青ざめている。
「.......え......俺、一人で来たけど......?」
「え?」
「.......今も......一人じゃね......?」
「.............」
口元を引き攣らせながら確認をとる黒尾君の言葉に、たまらず寒気を覚える。
え、だって普通に、隣に人、居るよね?
咄嗟に梟谷の二人に顔を向ければ、木兎君も赤葦君も黒尾君を暫く見て、おずおずと私の方へ視線を戻した。
「.......え、と......黒尾一人、だな......?」
「.......悪い冗談はやめてくださいよ......」
「.............」
取り繕うように笑う木兎君と、大きく表情は変わらないもののどこか真剣味を帯びた赤葦君のリアクションを受けて、全身から一気に血の気が引く。
「.......え、ほら、金髪の、男の子、居るじゃん?普通に、見えるじゃん?」
「.......おい、鈴、俺を怖がらせようったってそうはいかねぇぞ」
金髪の男の子に指を差すも、黒尾君は私の指を言葉と共に簡単に弾いた。
黒尾君の視線は金髪の男の子の方に全くいかない。
.......本当に、見えてないのだろうか?
「ミケちゃんもしや、雰囲気から作ってくタイプ?俺、今ちょっとゾワっとした!」
「.......怖いの苦手というのも、もしかしてフェイクですか?すっかり騙されました」
「.............」
「んじゃ、気分も盛り上がったところでそろそろ行きますか。時間も遅いし、あれなら家まで送ってやるから」
「とか言って、実はそれが狙いだったり?黒尾君のえっち~♡」
「明日の試合に支障をきたさないようにして下さいね」
「ハァ!?お前らはどーしてそういう話に持ち込むんだよ!思春期か!」
呆然とする私を他所に、三人は面白可笑しく喋りながらどんどん話を進めていく。
金髪の男の子のことなんて完全にスルーだ。
ただでさえ暗い校舎に入ること自体抵抗があるのに、他の三人が見えないというこの男の子を一緒に連れて行かないといけないなんて、無理だ。
「────」
怖い、怖過ぎる。確かにスマホは大事だけど、一番大事なのは自分の命である。
「.......な~んちゃって、」
「孤爪危ない!!!」
「ちょっと待ったぁぁああッ!?」
瞬間、黒尾君の声をかき消す様に梟谷の二人の声が響く。
右足を軸にして、左足に体重を乗せて渾身の一撃を食らわそうとした私の右ストレートは、横から伸びてきた木兎君の手によって照準先の相手の鼻先に衝突する前にピタリと止められた。
「.......は?」
金髪の男の子は私の拳を暫く見つめ、あ然とした様子でぽつりと声をもらす。
「.......おまっ、いきなりグーパンするヤツがあるかぁ!?」
「.......やつけないと、命の危険を感じたので...」
「なるほど、殺られる前に殺る主義でしたか......嫌いじゃないです」
「あかーし多分そこじゃねぇよ!!」
黒尾君から怒鳴られ、思考回路が興奮状態のまま素直な気持ちを告げると、赤葦君と木兎君のコントのような会話が続く。
「研磨、大丈夫か?」
「.......これで殴られたら、もうバレー辞めようかと思った」
「え、マジごめん。本当ごめんなさい。俺が悪かった」
ケンマと呼ばれた金髪の男の子は、ゆっくりと私の拳から距離を取り、黒尾君の背中に隠れた。
まるで警戒心剥き出しの猫のようなその子の動きに、黒尾君は平謝りするばかりだ。
「.............」
ここでようやく思考が正常に回り始め、金髪の男の子が黒尾君達にも見えていることに気付く。
だってそうじゃなければ私の右ストレートを木兎君は止めたりしないし、現に黒尾君は金髪の男の子と普通に喋っている。
早い話、男バレ三人に騙されたのだ。
怖いのは嫌いだと散々話した後で、この仕打ちは酷過ぎる。
「.......木兎君。手、離して」
ネタが分かれば後はもう怒りしか湧いてこないので、一先ず私の腕を握ったままの木兎君に声を掛けると、木兎君は「え、ああ、悪い悪い!」と素直に手を離してくれた。
今の心情ではそれすらも白々しく思え、寸でのところで舌打ちを飲み込みさっさと踵を返す。
「え、ミケちゃん?どこ行くの?」
「帰ります」
「えー!?なんで!」
「ムカついたからです」
真っ暗な校舎とは反対方向に歩き出した私の背中に木兎君の焦ったような声が掛かるが、絶対に振り向いてなんかやらない。
「おい、ミケ!悪かったって!スマホ取りに行こうぜ!もうしないから!」
ことの元凶である黒尾君がそう言うが、無視を決め込む。
校門出るまで絶対に振り返らない。喋ってもやらない。
「ミケちゃんごめんて~!機嫌直して~!」
「.............」
「ミケ、何なら俺らで取ってきてやるからさ......」
「.............」
木兎君も黒尾君も、本当に調子がいい。
普段なら二人のイケメンさに免じて許すこともあっただろうが......今回の件はダメだ。ここで許せば、もしかしたら再度同じようなことをしてくる可能性がある。
私は本当にホラーがダメで、怖過ぎて無意識に戦闘態勢に入る程、典型的に無理なのだ。
万が一同じようなことをされたら、今度こそ誰かしらを殴ってしまう自信がある。
「.......日中でも、人気のない校内に一人で入るのは、十分怖いと思いますが」
「!!」
ぽつりと聞こえた静かな声に、反射的に足が止まった。
そんな私の様子を見て、声の主である赤葦君は畳み掛けるように言葉を続ける。
「明日一人で取りに行くより、今俺達と行った方が安全なんじゃないですか?少なくとも、腕っ節では御木川さんより木兎さんと黒尾さん、俺の方が勝りますし......それに、孤爪はとても頭が良いです。如何なる時も落ち着いて物事を考えられます」
「.............」
「.......有事の際、盾の数は多い方がいいでしょう?ね、御木川さん?」
「.............」
赤葦君の言葉には確かに説得力があり、聞けば聞くほどそうかもしれないと考えてしまう。
それが相手の思う壷だと容易に想像が着くのだが...悲しいことに、それを論破出来るほどの策は私には無かった。
だけど、じゃあお願いしますと返してしまうのも、正直めちゃめちゃ腹が立つ。
そもそも全部そっちが悪い癖に、なんでこっちが譲歩するみたいになってんだ!
「.......赤葦君、実は全然モテないでしょう」
「.............」
振り向きざまにそんな台詞を吐き捨てると、赤葦君以外の三人は少し戸惑うような様子を見せた。
「.......さぁ、どうでしょうね?」
相変わらず表情筋を死なせた状態で返ってきた赤葦君の言葉に、今度こそ盛大な舌打ちを鳴らすのだった。
ファイティング・キャットガール
(あかーしが女の子怒らすの、初めて見た......!)