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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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正直、こんなに泣いたのは久しぶりだった。
高校三年生にもなると、ちょっとやそっとのことでは泣かないし、泣くにしても感動系のテレビや映画を観た時とか、大体の人間が泣くモノを前にした時くらいにしか泣かない。
個人差は勿論あると思うけど......例えば、めっちゃ好きな人にフラれて悲し過ぎて泣くとか、めっちゃ好きなバンドが解散決まって、最後のライブで悲し過ぎて泣くとか......諸々、泣く機会はゼロではないけど、小さい時と比べればかなり少ないと思うのだ。
だけど、今、ここ近年で一番泣いた。
薄暗い体育館に閉じ込められて、塩素臭いびしょ濡れの状態で、夜遅くにひとりぼっちにされている。
それだけでもめちゃくちゃ怖いのに、今の音駒高校は教室の配置はバラバラになるわ、いきなり電気消されるわ、勝手にドアは閉まるわ、ナニカに腕を掴まれるわ......極めつけに夜のプールに落とされるわで最早恐怖のどん底に突き落とされていた。
元からお化けとか怖い話とか暗闇とかが大の苦手なので、今の状態は本当にしんどくて、冗談抜きでキツい。
怖いという感情のままとめどなく涙が溢れ、ただただひたすらに泣いた。
自分一人にされたことで完全に“強がり”が剥がされてしまい、“自分”が保てなくなった。
怖い。とにかく怖い。これは、マジでヤバい。
完全にパニックしてしまった私に出来ることなんて何も無くて、誰でもいいから助けてほしくて、そばに居て欲しくて、とにかく泣いて、泣いて泣いて、ひたすら泣き続けた。
.......なのに、誰も来ない。
どんなに泣いても、どんなに喚いても、必死に助けを呼んでも、本当に誰も来ない。
真っ暗な体育館に開かない扉、塩素のにおいとびしょ濡れの身体、......ひとりぼっちという状況は、何も変わらなかった。
助けて欲しい、どうにかしてほしい、誰か一緒に居て欲しい。願えば願うほど、祈れば祈るほど、暗闇も静寂も何も変わらずひたすらに続くばかりだ。
「.............」
いやだ。こわい。だれか、たすけて。
そんな悲鳴に、その絶望に、ちゃんと誰かが助けに来てくれるのはゲームや漫画の中だけで、......もしかしたら、現実ではそんなこと有り得ないのかもしれない。
そんな非情なこと、この状況に遭遇しなきゃ絶対に分からないことだった。
あれだ、自分に災難が振りかからない限り、その災難を本当に理解することは出来ないってヤツ。
「..............ぁああぁあぁあああぁああぁああぁあぁあぁああぁぁああぁあぁあもおおおおおおおおおお!!!!」
待てど暮らせど誰も来ない、いつまで経っても誰も助けてくれないことを理解して、自分の中のナニカがプツリと切れる。
.......ああ、なんか、段々イライラしてきた。
なんで私がこんな怖い思いをしないといけない訳?ただ、スマホを置き忘れただけじゃんか。
あれ?そういえばスマホどこやったっけと一瞬焦ってショーパンのポケットを探ったものの、持っていなかったのでいっそう眉間にシワがよる。
......水ポチャ、してないよね?いまだプールに沈んでるとかじゃなくて、ちゃんとプールサイドにあるよね?
でも、もしこれでスマホまでご臨終されたらもう本当に最悪だ。
お化けだかなんだか知らないが、スマホ買い換える料金は絶対に全額払ってもらう。絶対にだ。
「......もういい!もう知らん!寒いし暗いし腹立つわ!!早く家帰せ!シャワー浴びたいんじゃ!!」
ヤケになって大声を出したせいかイライラがさらに爆発して、不平不満を口にしながらその場で地団駄を踏む。
なんか、一人でメソメソ泣くのもアホらしくなってきた。だってどうせ誰も助けに来ないんでしょ?結局私を守れるのは私だけなんでしょ?誰だよ守ってやるとか言った奴!黒尾君の嘘吐き!
「というか、暗過ぎでしょ!!馬鹿なの!?電気どこだ電気!!」
少々乱暴に右手でゴシゴシと涙を拭き、一人キレ散らかしながら体育館の電気を探す。
そうだよ、こんなに暗いからずっと怖いし、気分も落ちるんだ。電気がついて明るくなれば、こっちのもんだ!
濡れてぐしゃぐしゃになったポニーテールをひとまず取り、水気を少し逃がしてから手櫛で整え、湯船に入る時のような簡単なまとめ髪にする。
服も絞れるところは絞って、いくらか身軽になってから体育館の電気のスイッチを求めてうろつくことにした。
......というか、今日黒いTシャツ着てきて本当によかった。下手に白い服とか着てたら、下着めっちゃ透けてた。そんなのテンションだだ下がりもいいところだ。
実際、体育館の電気をつけたことはないが、確かここ辺りにあったような気がすると自分の記憶を頼りに体育館の前方、向かって左のドアに手をかけると、ありがたいことにそのまま開いてくれた。
まずはここの電気をいの一番につけると、2回ほど点滅を繰り返した棒状の蛍光灯がピン、と軽い音を立てて点いた。
蛍光灯の明るい光が辺りを照らし、延々と続いていた暗闇が終わる。
......電気が点いただけで、こんなに心が救われるとは。電気を発明した人に3億いいねくらいあげたい。
「えーと、電気電気......これかな?」
一部だけ明るくなった空間に少しだけテンションが上がり、先程までのイライラや不安感が少しずつおさまっていく。
きょろきょろと周りを見回すと、壁際にいくつかの四角いボタンが設置してある場所を見つけた。
近付いてみると、綺麗に等間隔で整列されたボタンの数は縦4横4の計16個で、全て赤いランプが点灯している。
特に説明書きなんかは無いが、多分これが体育館の電気のスイッチだよなと予測して、試しに一番右上のボタンを押すとランプが緑色に変わった。
しかし、体育館の様子を覗くもいまだ真っ暗なままだ。
ウソでしょ、じゃあこれ何のスイッチなのと再び不安を覚えていると......天井から吊り下げられた大きな照明の内、舞台側の一列が薄ぼんやりと、徐々に明かりが灯ってきたのを確認してたまらず「ヨッシャー!」とガッツポーズした。
そういえば、体育館の電気は明るくなるのに少し時間がかかるって話を、前に夜久君辺りがしていたような気がする。
今更ながらそんなことを思い出し、そのまま勢いよく全てのボタンを押して緑色のランプだらけにしてから体育館内を注意深くじっと見ていれば、それぞれの照明が少しずつ発光していく。
......暫くすると、全ての照明が点いたことでピカピカに明るい体育館の姿が現れて、ここでようやく安堵のため息がもれた。
......明るいって最高だ!本当、気分までアゲてくれる!
「よっし、出口探すぞ~」
先程までの不機嫌から一変、少し気力が出てきたのでとりあえずここから出る為の出口を探すことにした。
体育館から出られれば、孤爪君と赤葦君、もしくは黒尾君と木兎君を探すことができるし......極論、この奇妙な無限お化け屋敷から脱出する方法を一人でも探すことができる。
彼らを心配する気持ちは勿論あるけど、男子達は二人組だし知力も筋力も私よりずっとある。
今一番ヤバい状況に居るのは間違いなく私なので、ここは一先ず自分優先で動いていいだろう。間違いなく、いのちだいじにのパターンだ。
「.......んー......」
自分のHPを守る為、ひとまず自分の利き腕である右腕の調子を確認する。
技術室のドアに挟まり、保健室のバケモノを殴り、先程体育館のドアを力任せに叩いたのでズキズキと鈍い痛みは走っているものの、頑張ればあと1発くらいはかませそうだ。
本当、ボクシングも習っててよかった。さっきは泳げてよかったって思ったけど、ボクシングやってたおかげで緊急時でも咄嗟に右ストレートをかませたし、このスポーツ特有の痛みに慣れる分、少しくらい負傷してても暫くは頑張れる。
......まぁ、何も殴ることなく済めば一番良いんだけど。
左手で右腕を擦りつつ足を進め、まずは館内の壁際に沿ってドアやら足元にある小窓やらを確認していった。
「......クッソー......ここもだめかぁ......」
外に面した観音開きのドアは全て開かず、足元の小窓の鍵は接着剤か何かで固定でもされてんのかと思う程、全く動かなかった。
窓の外は相変わらず暗闇が広がっていて、長々見ると不安になりそうだったので直ぐに視線を明るい館内へ戻す。
同時に体育館の2階部分、キャットウォークと呼ばれる場所の窓が目に入り、一応上の窓も確認するかと小さく息を吐く。
「......でも、上の窓開いててもなぁ......なんか、ロープみたいなのあれば下まで降りられるかな......」
おもむろに階段へと足を向けながら、思考がするりと口から滑る。
全細胞が恐怖を少しでも紛らわそうとしているのか、さっきから独り言がすごく増えてる気がするけど、メソメソ泣いてじっとしてるよりかはブツブツ言いながらも動いてる方がずっと効率的だろうと思い、開き直ることにした。
今の私を傍から見たら超キモいかもしれないけど、自分が怖くなるより超キモくなる方がずっとマシだ。
ていうか、どうせ独りなんだしもうどうでもいい。
「......うーん......やっぱ開かないよねぇ......」
結局独り言を続けながら2階部分へ続く階段を登り、体育館をぐるりと囲む窓の鍵を調べていくが、相変わらず鍵は固く閉まっているようだった。
2階の窓の景色もやはり真っ暗で、仄かに校舎の形を確認することができたが、ヒトの気配なんて全く感じないし明かりも何も無い。
本当にあの校舎の中に黒尾君達が居るのかと疑問に思ってしまうが、居なかったら居なかったで大問題なので、これ以上ヘタなことを考えるのはやめた。
2階部分の窓の鍵も全部開かないことを確認した後、窓ガラスが割れるかどうかスタンド型のスポットライトを窓にぶつけて試してみたけど、以前木兎君と黒尾君が技術室で椅子を投げた時同様、窓ガラスにはヒビひとつ入らなかった。
逆にスポットライトの方が派手な音を立てて壊れてしまったけど、決してイタズラで破壊した訳では無いのでどうか大目に見てほしい。
そそくさと2階部分から降りて、さて次はどうしようかと考えた矢先、くしゃみが立て続けに2回出た。
ゾクゾクとした寒気が背筋を走り、鼻を啜りながら鳥肌が立つ両腕をさする。
「......う゛ー......何なのここ、冷え過ぎじゃない......?冷房ついてんのかな......?」
何となく、さっきより室温が下がってる気がして、今度は空調のスイッチを探すことにした。
鍵が閉まってる体育倉庫とか音響室の中なんかは探すことが出来ないけど、その部屋に体育館の空調のスイッチがある可能性もかなり低いと思う。
とりあえず壁際に沿うかたちでぐるりと一周し、見つからないので今度は舞台の方へ上がり、舞台袖の方を探してみる。
「.............!」
全ての電気を点けて、きょろきょろと空調のスイッチを探していると、どこからか微かにヒトの声が聞こえて、たまらず振り返った。
ここからだと少し聞こえにくいので慌てて舞台へ出ると、発生源まではわからないものの確かに誰かの声がする。
「ッ、うそッ、誰か居るの!?ねぇ!!聞こえる!?ねぇってば!!」
どこから聞こえてるのかわからないので、舞台から後方へ向かって大きな声を出してみるも、向こうからの返答らしい返答は無い。
だけど、誰かの声は止むことなく聞こえていた。
「黒尾君!!木兎君!!孤爪君!!赤葦君!!何処にいるの!?ねえ!!」
みんなのことを呼びながら、舞台から飛び降りて体育館を走り、声が聞こえる方向を必死に探る。
入口?右?左?それとも上?下から?
360度を必死で見回してみるも、声の出処ははっきりしない。
「おーい!!私、体育館に居るよー!!体育館目指してー!!」
自分がそこに行けそうにないなら、せめて相手に自分の居る場所を知らせようと半ば叫ぶように居場所を伝える。
走って、探して、叫んでたらさすがに息が続かなくなり、膝に手を着いて乱れた呼吸を整えた。
何度か深呼吸を繰り返し......姿勢を戻したところで、体育館に再び静寂が訪れていることに気が付く。
え、うそでしょと思いながらもう一度彼らの名前を呼ぶも、返ってくる声も無ければ何の音もしなくなっていた。
「......えぇー......うそぉ......もしや行っちゃった......?」
再び無音の空間に戻り、結局何の変化も無い現状にガックリと肩を落とす。
あんなに叫んだのに、こっちの声は全然聞こえなかったのか......。
でも、教室の配置はシャッフルされてるけど、誰かが体育館に近付くとどうやら声や音はこちらに届くらしい。
今のはきっと、体育館が広いから私の声が届かなかったのであって、今よりずっと大きな音をこちらから立てれば、もしかしたら黒尾君達がそれに気付いて、ここに来てくれるかもしれない。
だったら、拡声器とか音響機器を探してみよう。
しんと静まり返る体育館でもう一度くしゃみをしてから、空調のスイッチと一緒に音響機器も探し始めるのだった。
いつか王子様が?いつかっていつだよ!
(何時何分何秒地球が何回まわった頃??)