CATch up
name change
デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「......え、え?黒尾お前、何言ってんだ......?」
しんと静まり返った薄暗い視聴覚室で、一番最初に何か反応を見せたのはまた木兎だった。
俺の言ったことがちょっと理解出来ないといった様子で、怪訝な顔をこちらに向ける。
無理もない。もし俺と木兎の立場が逆だったら、俺も木兎とそっくりそのままの反応を示すだろう。
......だけど、この目の前に居るミケの姿をしたナニカが、俺と木兎が探しているあのミケじゃないことは、先程の問答で明確に証明されていた。
「......おかしいと思わねぇか?俺らと校内回ってた時は一番に電気点けてたのに、わざわざ真っ暗なまま、ずっとここに居たんだぞ?」
「......ま、まぁ......確かにミケちゃん、絶対電気点けには行ってたけど......」
「......そ、れは、皆が居たから、普通に動けてたっていうか......!黒尾君も一人にされてみなよ!いつも通りになんて絶対動けないから!」
「......なら、さっきの俺の冗談に毒舌一つ返さないのは?木兎がお前のこと褒めて頭撫でた時、困った顔したのは?ミケ、木兎と結婚したいとか言ってなかったっけ?」
「......だ、だから、まだ混乱してるんだってば......!黒尾君こそ、どうしたの?なんか変だよ?ねぇ、木兎君もそう思うよね?」
「え、えぇーーー?......うーーーん??」
ミケと較べておかしい動きを指摘するも、ソイツは困惑した顔をしながら木兎に助けを求める。
しかし、木兎もどちらを信じていいかわからないと言った感じで首を捻り、小さく唸っただけだった。
「......そもそも、プールから出てここにずっと居たってのも変だ。こんなヤバい状況で一人になったのに、何もしないでじっとしてるとかミケには到底無理だろ。はぐれた俺らを探し始めるか、何ならもう出口を目指すかもしれねぇ」
「......そ、そんなこと、言ったって......だって、怖かったから......」
「保健室に出たバケモンは、素手で殴れたのに?俺にはそっちのがよっぽど怖ぇけど」
「!」
往生際の悪いミケもどきに苛立ちを覚えつつ、少し乱暴に頭をかきながらホンモノのミケの行動パターンを引き合いに出せば、ソイツは僅かにぴくりと肩を揺らした。
その小さな隙を見逃さず、畳み掛けるように追撃を続ける。
「......残念ながら、あのお姫様はそんなに可愛くないんデスヨ。自分に害なすモノとわかりゃ、例え初対面のイケメンでも殴っちゃうコなんでね」
「.............」
ホンモノのミケがどんなヤツなのか証明しようとすればする程、なんだかただの悪口になっているようで、思わず口元がにやけそうになる。
でも、実際そうなのだから仕方ない。
初対面の研磨には最初から顔面グーパンでいこうとするし、クールで格好良いと言われる女子人気ぶっちぎりの赤葦にさえ、面白くないことを言われればボディブローを食らわせる女だ。
.......そんなじゃじゃ馬だけど、研磨と赤葦が危険な目に遭った時はちゃんと助けてくれた。
どんなにお化けが怖くても、どんなにムカつく相手でも、ミケは逃げること無く己の恐怖に立ち向かい、身を呈して、攻撃に徹して、後輩である二人を守ったのだ。
そんな最高に格好良いヤツを、間違えるはずがない。......絶対に、間違えたくない。
「.......それに俺、......アイツを“鈴”って呼んだこと、今までに一度も無ぇんだわ」
「.............!」
自然ともれた苦笑をそのままに、先程の“決定打”を口にする。
もし、ここに居るのがホンモノなら、俺が名前を呼んだ時点できっとひどく驚いて......いや、もしくはひどく顔を顰めて「は?いきなり何?え、怖......」等と毒を盛ってきたに違いない。
だけど、コイツは明らかにミケがしない反応を返した。
「え......そ、そうなの!?......え、じゃあこの子、誰......ッ!?」
「.............」
ここまでくると、流石に木兎もミケの様子がおかしいことに気付き始めたのか、サッと顔を青ざめながらミケから少し距離をとる。
俺と木兎に完全に警戒され、戦闘態勢とまではいかないものの、一切の動きに用心する俺達を前に......ミケの姿をしたナニカは、微かに肩を震わせた。
「────......ふふふ、もうバレちゃった」
「!?」
口元を片手で覆い、楽しそうに笑う姿はミケそっくりだが、どことなく纏う雰囲気が異様で、その奇妙な光景にぞわりと鳥肌が立つ。
俺も木兎もその異質な空気に飲まれてしまい、やばいと思いつつその場に立ち尽くしていると、ソイツはするりと俺の方へ視線を滑らせた。
「......でも、凄いわ。こんなに早く気付かれたのは初めてよ。貴方、本当にこの子が好きなのね?」
「ッ、ふ、ざけんな......!ミケはどこだ!?ちゃんと無事なんだろうな!?」
「......さぁ?どうかしら?」
「は......ッ!?」
前にあるのはミケの顔なのに、どこか冷たい瞳を向けられ、ギクリと身体と心臓が震える。
しかし、その後に続いた話があまりにもふざけ過ぎていて、直ぐに怒りの感情が着火した。
憤怒やら焦燥やらをぐちゃぐちゃに混ぜた目で睨み付けると、ソイツはミケの姿のまま、楽しそうに笑う。
「......でも、早く見つけてあげた方がお姫様の身の為ね......じゃないと、本当に冷め切ってしまうかも」
「は......?冷める......?」
「......そう。冷めて、冷めて......それこそ、貴方の声も届かないくらい、深ぁく眠ってしまうかも......?」
「!!!」
ミケの顔をしたソレが、まるで歌うような口調でふざけたことを抜かした、矢先。
背後の方でガラスが割れた音がして、反射的に振り返った。
見ると、少し離れたところの廊下の窓ガラスが割れていて、僅かな月明かりを反射したその欠片は、朧気に力無く光っていた。
「.......な......」
「.......オイ!黒尾!ミケちゃんが居ねぇ!!」
「!!」
一体何事だと身構えた途端、木兎の鋭い声に再び視線を前に戻す。
ミケの姿をしたソレが居た場所には人影ひとつなくなっていて、薄暗い不気味な廊下が細く長く伸びているだけだった。
「き、消えた......ッ!?いや、逃げたのか!?」
「クソッ、どこ行きやがった......!」
慌てて辺りを見回すも、まるでそこには最初から誰も居なかったかのように静かで、違和感を覚えるようなものは何一つなかった。
「どうする!?追うか!?どっち行ったかわかんねぇけど!」
「.......いや、闇雲に追ってもあんまメリットないだろ......さっきのガラス割ったのもアイツらだろうし、下手に深追いすんのは多分、まずい......」
焦りと興奮で混乱する思考回路をできる限り落ち着かせて、木兎に伝えつつ自分の考えを整理する。
正直訳が分からないことだらけではあるが、相手が消えたってことは少なくとも今、俺達と一緒にいることは分が悪いと判断したんだろう。
わざわざミケの姿をしていたということは、おそらくは俺らを騙して何かをしようとしていたんだろうし、逃げた相手にこちらから迂闊に近付くのはやはり危険だ。
「.............」
だけど、仮にこの後ミケを見つけたとして、......いや、研磨や赤葦に会えたとしても、相手が本当にホンモノかどうかを確かめる必要が出てきてしまった。
しかも、この情報をアイツらに共有することが出来ない今、俺らが先にアイツらホンモノと会わない限り、無事でいてくれとただ願うことしか出来ないのだ。
.......それに、最後に言われた言葉も、気になって仕方がない。
「.......冷めて、眠る......とか......ざっけんなよ......ッ!!死なせてたまるか......ッ!!」
「.............」
知らずのうちに拳に力が入り、抑えきれない怒りを壁に叩き付ける。
衝撃音は一度大きく響いたものの、直ぐに長い廊下の静寂へ殺され、数秒もせずに静まり返った。
......自分の不甲斐なさに、心底腹が立つ。
ミケが死ぬって、何だ。アイツが何か、自分が死ぬくらい悪いことをしたのか?
俺らの中で誰よりも怖がりで、暗がりやお化けを誰よりも嫌がって、誰よりも騒いで、うるさくて、元気で......だけど、今、誰よりも怖い思いをして、きっと一人で泣いている。
「.............っ、」
.......ミケのそばに、居てやりたい。
会った瞬間にぶん殴られようが、守るって言ったくせにと嘘吐き呼ばわりされようが、俺が、ミケのそばに居てやりたい。
「.......バケモンだかなんだか知らねぇが、音駒のしぶとさなめんなよ!!」
「!」
湧き上がる感情をそのまま言葉に乗せると、隣りに居る木兎がその大きな目をさらに丸くして...満足そうに、力強く笑った。
「ヘイヘイヘーイ!!待ってろミケちゃん!直ぐ行くからなー!!」
どこまでも響きそうな木兎の声を合図に、俺達は再び夜の廊下を走り、不揃いな教室内を次々に確認して行くのだった。
▷▶︎▷
「......ブハァッ!!!」
暗くて冷たい水の中。空気こそないものの身体の自由までは奪われていなかったようで、生存本能のままに水面を目指し、無事に酸素にありつくことができた。
「ゲホッゲホッ......!!オ゛エッ......!!」
水面から顔を出し、開きっぱなしになっていた鼻や口からいくらか入ってしまった水を吐き出す。
多少落ち着いたところでひとまず岸辺を目指し、力を振り絞って陸地へ上がり込んだ。
「......っはーーーーー......ッ!!!し、死ぬかと思ったぁ......ッ!!!」
ずぶ濡れになった身体でプールサイドに転がり、目を瞑ったまま仰向けに倒れ込む。
整わない呼吸を何度も繰り返し、時々咳き込みながらもぐるぐると忙しなく回る思考を徐々に落ち着かせた。
......いや、でも、やっぱりアレだ。カナヅチじゃなくて本当によかった。
必死にバタ足したせいで上履きどっかいったけど、命には変えられないだろう。
プールの授業マジでだるいとか思ってたけど、これは考えを改めないといけない。
泳げるって大事。本当に大事だ。
「.......ん......あれ?」
プールの授業の大切さを身に染みて実感していれば、ふと違和感を覚えてしっかりと目を開ける。
プールに落ちて、水面から出て、プールサイドに寝っ転がってるはずなのに、......見上げた先にあるはずの夜空は、どこか見覚えのある高い天井になっていた。
「.......こ、孤爪くーん!?赤葦くーん!?」
どういうことだと思った矢先、そういえばあの二人の声もしないことに気付き、慌てて二人を呼びながら身体を起こす。
ここでようやく周りを見ると、真っ暗なプールサイドに居ると思っていたのに、......なぜか、私が居るのは真っ暗な体育館だった。
しかも孤爪君の姿も赤葦君の姿も見つからない。
「.......え、うっそ......二人とも居ないの?マジで?ウソでしょ......?つーか、なんで体育か......ん?あれ?あれぇ!?」
きょろきょろと周りを見回すも、見慣れた体育館があるだけで何もおかしなことはない。電気がついていないだけの、本当に普通の体育館だ。
.......いや、でも、この場合“おかしくないこと”が“おかしかった”。
「プールない!!あれぇ!?水は!?は!?なんで床!?......ちょ、え!?じゃあ私どこから出て来たの!?は!?」
さっきまでプールに居て、何とか岸辺にたどり着き、陸地へ上がってきたはずだ。
なのに、今は私の近くの木目調の床がびちゃびちゃに濡れているだけで、プールも水も何も無い。一体全体どういうことだ!
「や、やばいやばい、意味わからん!!ちょっと、本当に誰も居ないの!?孤爪くーん!!赤葦くーん!!黒尾くーん!!木兎くーん!!」
再びパニックになりながら皆の名前を呼ぶも、私の声は広い体育館に反響するだけで、それに対する返事は何も聞こえなかった。
「だーれーかー!!!......ブラジルの人おおおお!!!聞こえますかあああ!?」
半ば叫ぶようにして大きな声を出してみるも、自分の声以外何の音も聞こえない。
......どうやら、プールに落とされた挙げ句、私一人にされてしまったらしい。
「.......えぇー......ウソでしょ......」
最悪な状況に、たまらず眉間にシワが寄る。
濡れた身体から水滴が伝い、下へ落ちるのと同じようにして、ゆっくりと血の気が引いていくのを感じた。
広い体育館、暗がりの中に一人、ずぶ濡れの自分が居る。
その事実を認識した途端、一気に恐怖と寒気が襲ってきた。
「.......ッ......やだ......やだやだ......やだやだやだやだやだやだァッ!!!」
暗がりに一人にされることが、こんなに怖いなんて。
言い様のない恐怖に叫びながら出入り口へ走り、ドアを開けようとするも鍵が全く動かない。
「っ、ウソでしょ!?何で開かないの!?何でッ!?ねぇッ!?開いてよッ!!出してッ!!!」
体育館は内鍵のはずなのに、どんなに力を入れても開かないソレに苛つき、体当たりをしたりドアを叩いたりするも、無駄な努力だった。
「無理だってば!!本当に!!一人とか本当無理だから!!開けてよ!!ちょっと!!っ、開ーけーろーッ!!」
それでも諦めきれず、ガンガンとドアを叩き続けていると、右腕にズキリと痛みを感じた。
興奮状態でうっかりしてたけど、これまでの色々で右腕を負傷していたことを思い出す。
途端に痛みの度合いが酷くなり、へなへなと力無くその場にしゃがみ込んだ。
「.......いったぁ......っ......やだもぉ......なんで、こんな......っ」
腕の痛みと暗がりへの恐怖、底無しの孤独感に頭がおかしくなりそうで、気付けば両目からボロボロと生暖かい涙が溢れてきた。
やばい。どうしよう、止まんない......怖い、怖い、怖い。
「.......怖いの、......マジで、やなんだって......っ」
一度溢れた涙と恐怖は次から次へと体外へ出て来てしまい、情けない程に震えた声は、まるで自分のものではないかのようだった。
「..............助けて......っ」
メーデー、メーデー、メーデー
(誰か、誰か、誰でもいいから、至急応答願います)