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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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「うおッ!?廊下だ!」
「おー、やっと無限教室地獄から抜け出せたな......」
木兎と二人、片っ端からドアを開けて不規則に続く教室間を移動していると、次に開けたドアの先が廊下に繋がっていた。
ひどく久し振りに見るような気がする廊下に出ると、相変わらず人気のないそこはしんと静まり返っていて、非常灯以外の明かりが一切ないことも手伝って何とも不気味な空間を演出していた。
「ここ、どこの廊下だ......?」
まるでホラー映画のセットにも見える景色に顔を顰めつつ、一先ず場所の確認をしようと近くの教室のプレートを見ると、俺の視線の先に木兎が懐中電灯の明かりを寄越してくれる。
照らされたプレートには、LL教室という文字が並んでいた。
記憶の中の構内図と照らし合わせると、どうやらここは東棟の三階の廊下のようだ。
LL教室の隣りは多目的室という名の空き教室があり、その隣りには一番最初に訪れた視聴覚室がある。
の忘れたスマホを取りに来た時は確か、視聴覚室から出たら二年の廊下に繋がっていて、このLL教室や多目的室は全部二年の教室になっていた。
念の為そろりとドアに付いてる小窓から室内を窺うと、特有の音響機器が並ぶLL教室本来の姿がそこにあり、当たり前の事象なのに心底安堵してしまう。
「.......ここって、もしかして一番最初に来たとこ?」
「だな......言わば、“始まりの場所”的な?」
きょろきょろと周りを見ていた木兎もそのことに気が付いて、それに頷きながらも笑えない冗談を口にすると、木兎は苦笑気味に笑い、「ソレ、ミケちゃん聞いたらめっちゃキレそう」とやたら想像が出来てしまう返答を寄越した。
それにたまらず苦笑いしながらも、折角廊下に出られたのだから、研磨達と同様廊下に面した教室を片っ端から開けていこうと木兎に提案しようとした矢先、木兎は何かに反応したように廊下の奥へ顔を向けた。
「.......え、何、どうした?」
まるでバレーに集中している時のような真剣な顔で、何も無い真っ暗な廊下を見る木兎にぞわりと寒気を覚え、たまらず声を掛ける。
「.............」
「......オイ、木兎......」
「.......なんか、聞こえね?」
「え」
反応の鈍い木兎を再度呼ぶと、木兎は小さくそう返し、耳を澄ますように片耳に手を当てる。
「あっちの方......視聴覚室?かな?」
「いや、俺には何も......」
「え、マジ?......あ、ほら、また」
「......や、全然わかんねぇ......し、怖ぇんですけど。何、何の音?もしやミケっぽい感じか?」
「......んー......わり、そこまではわかんねぇ。でも、何かの音はする。あそこから」
「.............」
「.......突撃、しちゃう?」
「.............」
ちらりと俺を見ながら、木兎は視聴覚室のドアを開けるかどうするか聞いてきた。
少し悩むものの、もしかしたら中に居るのが一人逸れたミケの可能性もある。
「.......そうだな......もしかしたら、ミケかもしんねぇし......だけど木兎、万一ヤバそうだったらまずは逃げるんだからな?下手打ってお前が怪我しちゃ、梟谷のヤツらにどう謝ればいいのかマジでわかんねぇから」
「わかってるって。俺も明日試合出来なくなったら嫌だし!黒尾にも孤爪にも、赤葦にも怪我させたくねぇよ」
しかし、万が一室内に居るのがミケじゃない場合、危険度は一気に上がる。
仮にも他所の学校のバレー部の主将でエースである木兎を、ホスト校の主将である俺が危険に晒す訳にはいかないし、怪我させるなんて以ての外だ。
そのことを伝えると、流石の木兎もこの状況を理解しているのか、案外冷静な言葉を寄越してきた。
「でも、黒尾。ミケちゃんがヤバそうな時だけは、絶対止めてくれるなよ」
「.......お前、本当そういうとこな......格好良し男かよ畜生......」
「フフン、俺はいつでも格好良いんだな~?......じゃあ、行くぜ!」
たった一言で、改めてコイツの男前度を認識させられ、若干腹が立ちつつもそう返すと、木兎はからりと明るく笑ってから気合いを入れ直した。
二人で視聴覚室の前まで行き、せーのでドアを開ける。
「南無阿弥陀仏ぅぅぅッ!!!」
「臨兵闘者皆陣列在前ッ!!!」
「ぎゃああああッ!?」
己の知る限りで、何か霊的なモノに効きそうな呪文を口走りながら勢いよくドアを開けると同時に、室内から悲鳴が聞こえた。
その声は明らかに聞き覚えがあり、ハッとしながら室内の後方を見ると......ずっと探していたびしょ濡れのお姫様が、教室の隅にちょこんと蹲っているのが見えた。
「っ、ミケッ!!!」
「ミケちゃんッ!!!」
探し人を認識した途端、木兎と同時にそちらへ駆け出す。
とにかくミケを見つけられたことに心底安堵して、たまらずその濡れた身体を思い切り抱きしめた。
「大丈夫か!?怪我してないか!?」
「.......くろぉくん......ぼくとくん......ッ!!ぅわ、わ゛ぁぁぁんッ!!」
「一人にしてごめんな......!怖かったな......!」
「怖かったぁぁぁッ!!本当、死ぬかと思ったぁぁぁッ!!」
俺と木兎と無事に再会できたことで安心したのか、ミケは今までに見たことのない様子で泣き出し、小さな子供のように両腕で俺にしがみついた。
「プール落ちんのはガチで怖いよなぁ......!でも、無事で本当によかった!!」
「よく頑張ったな......もう大丈夫だから、とりあえず逸れないように俺か木兎のこと掴んでろよ」
「う゛ん゛......!」
「.......つーかここ、だいぶ冷えてね?ミケちゃん寒くない?服ビショビショだし、俺のシャツ着る?」
ギュウギュウとしがみついてくるミケの濡れた後頭部を撫でながらたまらずほっと息を吐くと、木兎が心配そうにそんな言葉を寄越した。
......確かに木兎の言う通り、視聴覚室はエアコンでもついてるのかと思う程冷えていて、ミケの体温もいつもよりずっと低い気がした。
「......ううん、大丈夫......木兎君が風邪引いたら悪いし......」
「......じゃあ、俺の着るか?......ミケの為なら、俺、脱いでもイイよ?」
「ううん、大丈夫。ふふ、ありがとうね」
「え?」
「え?」
「.......あ、いや......まぁ、あんま無理はすんなよ?」
低体温症になっていないかが気になるところだが、木兎みたいにサラッと自分のシャツを着るか?なんて言えず、我ながら格好悪いとは思いながらも茶化した台詞を寄越したものの、......てっきり「え、何それキモ......」とか辛辣な文句が返ってくるかと思いきや、意外と可愛い返事が来たので思わずぎょっとしてしまう。
いつもの威勢はどうしたんだと心配になるが......それだけメンタルがやられているということだろうか?
「でも、本当にミケちゃんに会えてよかった!ここ入る時、何か音すんな~って思ってたけど、ミケちゃんだったんだな!もしかして、ずっと泣いてた?」
「だ、だって、すっごい怖かったから......!一人だったし、真っ暗だし、もう最悪だったよ!」
「まぁ、確かに一人は怖いよなぁ......プールに落ちた後、直ぐここに居たの?それとも、最初は別の場所に居たとか?」
「......え、と......プールから出たら、なんでかここに居てね?下手に動くとダメかなって思って、みんなのこと待ってた。......絶対見つけてくれるって、信じてたし」
「おう、絶対見つけるって思ってた!でもミケちゃん、マジでよく頑張ったな~!偉いぞ~!ナイスファイト!」
「ちょ、ちょっと、私濡れてるから......あんま触んない方がいいよ......」
「.............?」
木兎と話しながら、ミケは俺の腕の中から冷たい身体をゆっくりと離す。
濡れた頭をわしゃわしゃと撫でられ、ミケは少し困惑したような顔をしてその手から逃げるように離れた。
二人のやり取りを隣りで見ながら、......何だか妙な引っかかりを覚えて、思わず眉を寄せてしまう。
.......ミケは、こんなに弱々しかったか?
木兎に触られることを、今まで嫌がることはあったか?......むしろ、もっと褒めてと喜びそうな気がするが。
「あかーし達にも、ミケちゃん見つかったよって連絡取れればいいんだけどなぁ......」
「え、連絡取れないの?電話あるじゃん」
「残念ながら、充電切れなんですヨ......」
「そうなの!?え、それってかなりまずくない?大丈夫なの?」
「......とりあえず、研磨と赤葦はプールから出て、廊下に面した教室探すっつってた。あれから何も無きゃ、大丈夫だと思うぞ」
「そうそう!アイツらめっちゃ心配してたぞ!赤葦なんか、ミケちゃん追ってプールに飛び込んだんだぜ?こう、クールっぽくしてるけど、意外と熱い男なんだよなぁ」
「え、赤葦君そんなことを......えー、いい人じゃん」
「そうなの!あかーしはいい奴だから!本当に!」
「.............」
「で、この後どうする?ミケちゃんとは会えたし、次はあかーし達探す?」
「.............」
「......おい、黒尾?どうした?」
「あ、悪い......なんか、ボケッとしてたわ。そうだな、研磨と赤葦とは合流したいな。......ミケ見つけたこと教えてやりたいし」
何処と無く違和感を覚えながらも、木兎との会話を繋ぐ。
その際、ちらりとミケの様子を窺えば、ミケは口元に片手を当てて申し訳なさそうに眉を下げた。
「そうだね......きっと今も心配掛けちゃってるね......」
「.............」
「......でも、ごめん。私、どうしてもトイレに行きたくて......」
「あー、確かに冷えると行きたくなるよな。じゃあ、先トイレ寄ってから......」
「.......怖いから、一緒に来てって言ったら怒る?」
「や、別に怒んねぇけど?まぁ、中まで入れって言われたらちょっとアレだけどな!な~んて......」
「.......やっぱり、だめ......?」
「えッ、......えぇー!?だ、いや、え!あの、ちょ、......ちょっとそれは男としてその、そのですね......!」
ミケの言葉にあからさまにキョドる木兎を、普段なら面白可笑しくからかってやるところだが......どうしてもミケの様子が引っかかってしまい、それが全て俺の気の所為になることを願いながらも二人の会話に割って入った。
「────鈴。俺がついてくよ」
「え?」
俺の言葉に、二人はきょとんと目を丸くしてこちらを見る。
少しの間を置いた後、先に騒ぎ出したのは木兎の方だった。
「......え、なに、なになに今の!?鈴って何!?え、黒尾お前、どういうことだよ!?」
「あ゛.......あー、悪い......ミスった......」
「は!?ミスったって何!?もしやいつもは鈴って呼んでんの!?」
「.......や、まぁ、......実はその、二人の時、だけ?......あ゛ー......マジでごめん......完全に無意識だったわ......鈴が見つかって、気ぃ抜けた......」
「.............」
首に片手を当て、苦い顔をしながら謝罪を口にする俺に、ミケは。
「............もー、黒尾君のバカ......」
「─────」
......眉を下げ、気恥しそうに顔を顰めた。
その反応を見て、有り得ないと思っていた憶測が確信に変わる。
「マジか......!?えぇー!?じゃあ、二人ってやっぱり付き合って......うわッ!?」
俺らのやり取りにどわっと盛り上がる木兎がミケに近付こうとして、反射的に木兎の肩を掴んだ。
存外力が強かったのか、木兎が驚きつつも不満そうな顔を向けたのはわかったが......正直、今はそれどころじゃなかった。
腹の奥からどうしようも無いほどの嫌悪と憎悪が沸き起こり、怒りで血が登りそうな頭を懸命に呼吸で冷却する。
「────お前、ミケじゃねぇだろ」
木兎から手を離さずに、ソイツを睨みながら何とか絞り出した俺の声は、薄暗い視聴覚室に小さく響いた。
黒尾鉄朗と本能
(好きな女と他人の区別くらい、ついて当然だろ)