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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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「あ、切れた......ついに充電切れかな」
クロとの通話中、突然プツリと切れたスマホを確認すれば、可愛い猫が映るホーム画面に戻っていた。
「こっちのバッテリーはどうなんだ?」
「8パー。虫の息だよ」
「8パーか......掛け直すかどうか、微妙なところだな......」
赤葦の言葉に「一応掛けてみようか」と返して、画面の電話マークを押す。
先程まで繋がっていた自分のスマホへ再度掛け直してみたものの、コール音は鳴らずになぜか通話終了画面になってしまった。
二、三度やっても結果は同じで、どこかの回線が何かの通信障害を起こしているならこのような事態も有り得ることだが、多分これはそういうことじゃなくて、この空間特有のエラーだろうと何となく予測がつく。
「.......これで完全に、分断されたな......」
「.............」
思考の結果を先に言われて、小さくため息を吐く。
これはいよいよまずいことになってきたなと思っていれば、赤葦も少しずつ不安が増してるのか、濡れた髪を少々乱暴に後ろに流しながら、端正な顔を顰めた。
「相手の目的は何だろうな......?分断させて、恐怖を煽るとか?全員が1人になった所を一気に叩くつもりか......?」
「 ......そんな、動物の狩りじゃないんだから......」
寄越された言葉を軽く否定するも、もし本当にその通りだったら、多少なりとも知能のある相手だということになる。
相手の情報を全くと言っていいほど掴んでない今の状態は、あまり心地良いものではなかった。
「そういえば、孤爪がさっき黒尾さんに言おうとしてた場所って......」
「......あぁ、体育館。そういえば、俺達もクロ達も行ってないなって......。なんか、教室ばっかり気を取られてて、すっかり忘れてた」
「......確かに」
俺の言葉に、赤葦は少し驚いた顔を見せ、直ぐに元に戻る。
どうやら、赤葦もやっぱり失念していた場所らしい。
「......丁度近くだし、行ってみる?体育館。まぁ、行けたらだけど......」
「.............」
今居る場所は中央棟で、体育館には中央棟の西側の出入口から行くのが1番近い。
東側の方へ歩いていたものの、向かう方向さえ変えれば、そしてちゃんと通常の場所に体育館が存在すれば、直ぐに行ける位置であるのでそう提案すれば、赤葦は少しだけ黙考した。
「.......そうだな......近くなら、行ってみようか」
赤葦の同意を得られたので、今までの進行方向から逆転し、中央棟の西側出入口を目指すことにした。
「あ、ちゃんと体育館ある......」
「......ちょっと待て......もしかして、電気点いてないか?」
「え?」
西側の出入口は内鍵で、すんなりと解錠することが出来たのでそこから外へ出ると、少し離れた所にちゃんと体育館が存在した。
そのことに思わずほっと息を吐けば、赤葦が館内の明かりが点いていることに気が付く。
よく見ると、確かに体育館一体がぼんやりと明るくなっていて、照明が点いているようだ。
「あ、本当だ......もしかして、ミケが中に居るとか......?」
「......いや、どうだろう......でも、御木川さんて確か、暗いの嫌がってしょっちゅう電気点けてたよな?」
「.............」
体育館を遠目に見ながら、二人で意見を交換し合う。
記憶の中のミケの行動を思い浮かべると、赤葦の言っていた通り、いの一番に明かりを点けたがっていた気がする。
暗闇やお化け、そういったホラー要素が大の苦手な彼女の、せめてもの抵抗だったんだろう。
そう考えると、プールから体育館に移動したミケが、暗いのを嫌がって館内の照明を点けたという仮説が浮上する。
今まで巡ってきた場所で、最初から電気が点いている部屋が無かったこともその仮説を裏付けた。
「......そろっと中、見てみる......?音立てないようにすれば、気付かれずに覗けるんじゃない?」
「.............」
俺の提案に、赤葦は黙って体育館を見た。
おそらくここを慎重にいくべきか、少し強気で動いてみるか悩んでいるんだろう。
もし、赤葦と意見が合わなかったら。とりあえず向こうの考えを聞いて、どちらにしても予測し得る最大のメリットとデメリットを照らし合わせて判断するしかないな。
そんなことを考えながら赤葦の言葉を待っていると、そこまで時間を掛けずに赤葦は己の答えを出した。
「......やってみようか。どこから覗く?」
「!」
意見が一致したことに密かに喜びつつ、「足元にある小窓とかどう?」と再び提案すると、こちらも直ぐに賛成してくれた。
念の為、周囲を警戒しつつ忍び足で体育館へ近付き、一番近くの小窓をそろりと覗く。
お互いバレー部に所属しているので、体育館なんか飽きるほど見慣れた施設だと言うのに、足元の小窓から中を覗くことにひどく緊張した。
どきどきと普段よりずっと早いペースで脈打つ心臓を携えながら、俺と赤葦は慎重に館内の様子を窺う。
「.............」
「.......なるほど、そうきたか......」
「......普通に入ったら、別の教室に飛ばされる感じだね......」
小窓から見えた景色は、おおよそ体育館とは思えない広さの別の教室だった。
どうやら、外観は体育館であるものの、中に入るとこの教室へ移動してしまうようだ。
まるで空間と空間を継ぎ接ぎされたような景色に多少頭が痛くなるものの、今まで経験でだいぶ慣れてきたのか、そこまで混乱することもなかった。
「......体育館に何かがあるのは間違いないけど......入るにしても、どうやってここに入るかが問題だな......」
「......せめて、ここにミケが居るってことが分かればいいんだけど......」
ひとまず小窓から視線を外し、これからどうしようかと二人で考える。
もし本当にミケが体育館に居るなら、体育館へ入る術を何とか探さないとだし......それに、今は校舎の外に出られてるから、外の様子も気になるところだ。
「......とりあえず、体育館の鍵でも探すか?それとも一旦外に出てみる?」
「......うーん......仮に鍵を見つけたにしても、ちゃんと体育館に入れるのかな......?」
「......まぁ、今見えてる教室に繋がる可能性は高いよな」
赤葦も俺と同じようなことを考えてるようで、やっぱり体育館を目指すか、外の方を調べるかのどちらかになるよなと小さく息を吐いた。
「......一旦、外に行ってみようか。普通に帰れそうかどうかだけ確認して、戻ってこよう。クロ達もだけど、......ミケは、ちゃんと見つけてあげたい」
俺の言葉に、赤葦は少しだけ目を伏せ、「......そうだな」と小さく相槌を打つ。
プールに落ちたミケを助けられなかったことを、俺も赤葦も当然まだ引きずっていて、ついさっきまですぐそばに居たのにと、どうしても考えてしまう。
木兎さんは、ミケなら大丈夫と言っていたけど......命に別状は無いにしても、一人になった彼女の恐怖や不安はきっと計り知れないものだろう。
ただでさえ、怖がりなミケのことだ。......きっと、泣いてしまう。
俺よりずっと感情豊かで、くるくるしたキャラメル色のポニーテールを元気に揺らし、時折素っ頓狂な発言をしつつ明るく笑う彼女の顔を思い出して、胸の奥がぐっと詰まった。
「.......孤爪」
「!」
ミケのことを考えていると、赤葦から小さく呼ばれ、思わずぎくりとしてしまった。
慌ててそちらに顔を向けると、赤葦は水に濡れた短い黒髪をゆるく搔きながら、存外しっかりとした声音で言葉を寄越す。
「.......俺が言えた義理じゃないけど......御木川さんなら、きっと大丈夫。木兎さんの直感って、結構アテになるから」
「.............」
「......むしろ、再会直後にぶん殴ってくるかもしれないから、そっちに注意した方がいいかも」
「.......ふ......w手負いの熊......?」
梟谷の主将兼エースへの絶対的な信頼を、恥じること無く真っ直ぐに言い抜く赤葦にすっかり感心してしまえば、次に続いた冗談にたまらずふきだしてしまった。
「......熊の方が、まだ慈悲がある」
そう続ける赤葦の顔は冗談半分本気半分みたいな感じで、そういえば以前、技術室で彼女のことを猿呼ばわりし、強烈なボディーブローを食らっていたことを思い出す。
そのことを赤葦も思い出したのか、複雑そうな顔をして腹部を軽くさする様子が何とも可笑しくて、再び小さくふきだしてしまうのだった。
▷▶︎▷
赤葦と二人、上履きのまま校門近くまで歩いてみたものの、懐中電灯の明かり以外全く無い暗闇の世界に、おそらくここはまだ日常の世界では無いのだろうことを漠然と理解した。
とにかく、暗い。街灯も無ければ、学校近くのマンションも、一戸建て住宅も、全部が真っ暗だ。
それに、俺と赤葦が立てる足音や話し声以外、何の音もしない。人間の生活音が一切しない他に、夏の虫の音も、風の音も、自然の音が全く聞こえなかった。
もしかしたらこのまま学校の敷地の外に出られるのかもしれないが、ここを出たところでより奇妙な世界が続くだけなら、下手に遠くへ動かない方がいいだろう。
お互いそう判断して、俺と赤葦は再び夜の音駒高校へ戻って来た。
「......とりあえずまた、廊下に面した教室どんどん開けていこう。多分クロ達も色々移動してるだろうし、......ミケも、どこかに閉じ込められてるとかない限り、多分自分で移動するだろうから......上手くいけば、どっちかと鉢合わせるかもしれない」
「......そうだな......黒尾さんと木兎さんが、先に御木川さんを見つけてたらいいんだけど」
「......うん......連絡取れないのは、やっぱり痛いね」
話しながら、先程ポケットにしまったミケのスマホをもう一度取り出して確認するも、画面右上の充電ゲージは3%になっていた。
この調子じゃ、あと数分もしない内にこっちのスマホの充電も切れてしまうだろう。
......そういえば、クロ達との通話が切れた時、クロ達はどこの教室に居たんだっけ?
確か、一年と三年の教室は全部行けてたはずだ。記憶を頼りに、ハーフパンツの後ろポケットから構内図を取り出して現状を再度確認しようとすると、隣りを歩く赤葦がふいにくしゃみをした。
「大丈夫?寒い?」
「いや、全然」
その様子に、もしかして赤葦の身体が冷えたのではと心配になり、咄嗟に声を掛ける。
しかし、赤葦は至って平然とそれを否定し、片手で鼻を軽く擦るだけで特に寒そうな仕草をする気配は無い。
念の為腕を触らせてもらうも、その屈強な身体はちゃんと平熱並みの体温だったので、たまらず安堵のため息がもれた。
「......大方、木兎さん辺りが俺の話でもしたんじゃないかな」
「......うん。木兎さん、赤葦のこと大好きだもんね」
「孤爪。言い方。」
俺の様子に気をつかったのか、そんな言葉を寄越してくる赤葦に冗談半分、割と本音半分でそんな返答をすると、赤葦は途端に凛々しい眉を寄せて不愉快そうな顔を向けてきた。
その反応の良さが可笑しくてつい笑ってしまうと......不幸なことに、俺も赤葦に続くようにして一つくしゃみをしてしまう。
なんでこのタイミングでくしゃみが出るんだと自分の体内構造にドン引きしていれば、先程の様子から一変した赤葦は、今度は至極愉快そうな顔で笑いながら俺に言った。
「......あぁ。黒尾さんも、孤爪のこと大好きだもんな」
眼には眼を、歯には歯を
(セッターって奴は、これだからイヤなんだ!)