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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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「とにかく、今はミケを探すのが最優先ってことでいいよな?」
電気は点けたものの、どこか薄気味悪い雰囲気がある1年1組の教室に入ったまま、念の為電話の向こうに確認を取ると研磨は小さく頷いた。
今までは出口となる場所の確認や、俺と木兎の二人と、研磨達三人の合流が優先となっていたが、ミケが一人ではぐれてしまった今、とにかくアイツを見つけることが俺達四人の最重要事項だ。
二手に分かれて違う場所から捜索出来るのは、皮肉ながらもだいぶ効率が良いだろう。
「どうする?俺ら今一年一組の教室だけど、しらみ潰しにどんどん移動してくか?」
《......そうだね......俺、構内図持ってるからクロ達が行った教室に印付けてくよ。俺と赤葦は廊下に居るようにして、廊下に隣接してる教室、開けられる部屋はどんどん調べてく。......あとは、トイレとか》
電話の向こうから聞こえる研磨の考えに、わかっていたことだけど流石だなと思ってしまう。
抜け目無く、慎重に、且つ効率が良いその考えに異を唱える奴は居なかった。
《ですがこの学校、おそらく何か得体の知れないモノが居ますので、お2人共、十分注意してください》
「おう!そっちもな!でも、万一変なヤツに会ったらどうする?ミケちゃんみたいに殴るか?」
《や、なるべく戦闘は避けてください。逃げること優先でお願いします》
「でも、物理攻撃効くんだろ?」
《そのようですが、相手の素性もよく分からない中、無闇に刺激するのは分が悪いかと......怪我をしても困りますし、危険からはなるべく避けるようにしてください》
「そうだな......明日も練習あるし、木兎も万一怪我したら、明日一日見学コースってのもあるかもヨ?」
「ゲ、それだけは絶対ぇヤダ!!」
ミケを捜索中、ヤバい奴に遭遇した場合の対応を赤葦と木兎が話し、逃げに徹しろという赤葦の意見に味方すると、木兎は顔を顰めて秒で白旗を上げる。
バレーの話を絡めると、この単細胞は本当に扱いやすくなる。将来こういった詐欺とかに遭わないか、心配になるくらいだ。
《.......あ......ねぇ、クロ》
「ん?」
見学という言葉に何か苦い思い出でもあるのか、しょぼくれている木兎を横目に見ていれば、電話の向こうで研磨が何かを思い付いたような声を零した。
《......うっかりしてたけど、ミケが無事だったとして、一人で大人しく俺らを待ってると思う?》
「.............」
研磨の言葉に、数秒固まってから徐々に眉間に皺が寄り、思わず大きなため息を吐きながら片手で顔を覆う。
「.......ねぇな。多分、最初はその場で泣いてるかもしれないけど......アイツのことだから、その内絶対動き回るわ......」
《......だよね......俺もそう思う......》
「それって、怖くなってパニクっちゃうってこと?」
「......完全に否定はできねぇが......そっちよりも多分、理不尽な状況にブチ切れるのが先じゃねぇかな......」
「あー、成程。ミケちゃんなら、確かに有り得るな~」
《......そういえばあの人、ここに入るってなった時、もし一人にしたら生涯かけて嫌がらせしてやるって言ってましたね》
「.......赤葦お前、とんでもねぇ時にとんでもねぇこと思い出すじゃん......」
ミケの行動を予測すればする程大人しくその場で待つという想像が出来なくて、怖いと泣きつつ自分だけ一人にされたことにブチ切れて、その怒りをパワーに俺達を探し回る姿の方がずっと目に浮かんだ。
もしかしたら赤葦の言う通り、俺らを見つけたら即座に殴りかかってくるかもしれない。
なんだそれ、そこらのクリーチャーよりずっと怖いじゃねぇか。
「!」
そんなことを一人考えていた矢先、手に持っていた研磨のスマホが一度だけ振動した。
何かと思って画面を見ると......すっかり失念していた現実を思い知らされてしまう。
「.......ゲ、ウソだろ......」
「え?どうした黒尾?」
《......何かあった?》
思わずもれた本音に、隣にいる木兎とスマホの向こうの研磨が訳を聞いてくる。
黙っていても仕方がないと思い、木兎に画面を見せながら発生した事態を正直に話した。
「.......更にとんでもねぇことになった。研磨のスマホ、バッテリー20パー切ったわ......」
「な、なんだとおおお!?」
《.............》
先程振動したのはバッテリーが残り少ないことを使用者に伝える為のもので、右上にある電池のマークが18%と表示されている。
大きく驚く木兎とは対照的に、研磨は少し考えるように黙った。
《.......いや、逆にここまで持った方がおかしかったんだ。元から少ないバッテリーで、こんなにずっと通話出来るなんて普通じゃ有り得ない......》
「なら、充電器探すか?パソコン室とかにねぇかな?」
《どうだろう......あるかもしれないけど、俺はミケを優先したい......》
「.............」
研磨と木兎の会話を聞きながら、バッテリーの謎や下手したらもうじき研磨や赤葦と連絡が取れなくなることも気掛かりなところではあるが、何よりも最優先したいのはミケだ。
プールに落ちたアイツが今どこに居て、どういう状態なのかを確かめることが先だろう。
「......とにかく、どっちにしろのんびりはしてらんねぇってことだろ。バッテリー切れるまでは出来る限り情報共有して、俺らはガンガン移動するぞ」
「おう!わかった!」
《うん。二人とも、気を付けてね......》
《何事も無理は禁物ですよ》
俺の言葉に反対する者は誰も居なかった為、残り少ないバッテリーを携えたスマホを片手に、木兎と教室のドアへ走った。
「ミケちゃーん!居るー!?聞こえたら返事してー!」
「ミケー!.......クッソ、また空振りか!全然居ねぇな......!」
ドアを開け、室内を見て、ミケが居ないと分かると次の教室へ向かう。
幸か不幸か、移動先が通常授業を受ける各学年の教室が多い為、ドアに鍵が掛かってることはほとんど無くすんなりと移動出来ていた。
「研磨、あとどこ見てない?」
《......えっと......バラバラだけど、化学実験室と、最初の視聴覚室と、LL教室と、パソコン室と職員室と......》
「チッ、結構あんな......!」
「でも、クラス系はほぼ行けたんじゃね?一年と三年は全クリだろ?」
《そうだね......そっちはあと二年四組と五組だけ》
構内図を持っている研磨の言葉を聞きながら、なかなか思うように探せない現状に焦りと苛立ちが募っていく。
早く見つけてやりたいと思うのに、部屋と部屋同士が複雑に入り組んでいるせいで、自分の意志では探せないことが心底もどかしかった。
《......あとは、そうだな......屋上とかも行けてないし......あ、》
「え、どうした研磨?」
《......そうだ、クロ、そういえばここも行けてな》
何か思い浮かんだような研磨の声に反応すれば、次に続いた言葉はなぜか途中でぶつりと切れた。
「研磨?オイ研磨!?どうした!?......ウソだろ、ここで切れんのかよ......!」
突然のことに驚いてたまらず大きな声を出せば、次の教室へ行こうとしていた木兎が何事かとこちらへ駆け寄ってきた。
「もしかして、電池切れたか!?」
「.......切れた......あー、クソ......声聞こえねぇだけで、一気に心配になってくんな......」
電源ボタンを押しても、画面を触っても、何の反応も寄越さないそれに不安が煽られたのか、研磨と赤葦の身の安全も心配になってきた。
別れたのが三年である俺と木兎、二年の研磨と赤葦じゃなくて、せめて俺と研磨、木兎と赤葦だったらもうちょい二年の二人を安心させられたかもしれないのに。
.......そもそも、一人になるのがミケじゃなくて、俺だったらよかったのだ。
そんなことを考えても何も意味が無いことは重々承知だが、どんどん思考のキャパシティに余裕が無くなっている今、考えずにはいられなかった。
「......孤爪がさっき言ってた場所、どこだろうな?“そういえば”って言ってたから、忘れてたってことだよな?」
「.............」
ひっそりと思考が沈みかけていると、普段と変わらない調子で木兎が話しかけてくる。
まるで、そんなことを考える暇があるならもっと有効的に思考を回せと言われてるようで、少し目を丸くした。
.......だけど、今、木兎は少し言葉を選んだような感じもした。
先程のミケの一件では「ミケちゃんなら大丈夫!」と明るく言い切ったコイツが、研磨と赤葦のことには、おそらくワザと触れなかった。
先程と状況が違うということもあるだろうけど......木兎もきっと、この状況に不安を感じてるのだ。
話ができるのは目の前にいる俺だけ。木兎にとって一番安心できる存在はおそらく赤葦で、その赤葦とは今連絡が取れなくなった。
勿論、研磨のことやミケのことも心配してるだろうけど、コイツにとってまず無事を知りたいのは、赤葦のはずだ。
「.......ま、赤葦はしっかりしてるし、研磨も赤葦が居れば大丈夫か」
「!」
会話の流れが少しおかしくなるが、声が聞こえなくなった二年コンビの話を出すと、木兎はぴくりと小さく反応して、その大きな金色の瞳を静かに俺に寄越した。
黙っていれば西洋美術の彫刻か何かのように見える木兎の迫力に少しぎくりとしてしまえば、木兎は安心したようにからりと明るい笑顔を見せる。
「おお、そうだな!あかーしが居れば大丈夫だろ!だってあかーし、めちゃくちゃしっかりしてっから!」
「梟谷の裏番は赤葦だって専らのウワサだしなァ」
「え!?なんだよそれ!?俺知らねーんだけど!?」
「えぇー?木兎クン知らないの?梟谷の主将なのに?なにそれヤバくなーい?」
木兎の調子が戻ったことを確認して、そのままいつものように茶化すと木兎がわっと騒ぎ出す。
そのことに少しほっとしながら、もう何の反応も見せない研磨のスマホをひとまずハーフパンツのポケットに入れる。
今できることは、行方知れずのお姫様の捜索だ。木兎と二人、とにかくそれに全力を尽くすしかなかった。
攫われたお姫様を救出せよ!
(得体の知れないモノを素手で殴る人を、この国ではお姫様とは呼びません。)