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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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赤葦君の笑えない発言に、こちらも電話の向こうも一瞬にして静かになる。
奇妙奇天烈な学校、無限お化け屋敷に足を踏み入れることになった入口、言わば始まりの場所である中央玄関を目指して来た訳だが......まさか、そこが出口じゃないなんて、考えるだけで恐ろしい。
「.......まぁ、それは有り得るよね......」
「え゛ッ!?だ、だって孤爪君、“入って来た所からじゃないと外に出られない”ってさっき言ってたじゃん!」
スマホを片手に持つ孤爪君がいともあっさりと肯定するものだから、思わず顔を顰めて批難してしまえば電話の向こうからも「そうだそうだ!」と木兎君と黒尾君の声が聞こえる。
「.......“もしかして、入って来た所からしか出られないのかも”とは言ったけど、絶対そこが出口だとは言ってないし、思ってもないよ......」
「えぇー!?そんなのズルいよ!私は絶対出口だと思ってました!」
「いや、ズルいって何すか......とりあえず、御木川さんは落ち着いてください」
思わぬ展開にたまらず孤爪君に詰め寄るも、うるさいなぁとでも言うように眉間に皺を寄せられ、少し距離を置かれた。
そんな私達の仲裁に入ったのはそもそもの元凶である赤葦君で、一つため息を吐いてから廊下の奥...中央玄関がある方へ顔を向ける。
「とにかく、それを確認するのが最優先かと思いますが......孤爪はどう思う?」
「.............」
手元にある小さな懐中電灯で暗い廊下の奥を照らしながら、赤葦君は孤爪君の方へちらりと瞳だけ寄こした。
孤爪君は赤葦君と軽く目を合わせ、賢い金色の頭をフル回転させるように暫し黙る。
「.......そうだね......一先ず、ここから外に出られるのかだけは先に確認しようか。実際に出る出ないはとりあえず後にしよう」
「え、出られるなら出ようよ!」
《コラコラコラ。お前、俺達を見殺しにする気か》
《ミケちゃん!!ご慈悲を!!》
「いや、だって二人とも腕っ節強いじゃん?大丈夫だって。物理攻撃効くこともわかったんだし」
《お前ホント容赦無ぇな》
木兎君と黒尾君の言葉にしれっと応えると、電話の向こうからは批難の声を貰い、赤葦君と孤爪君は殆ど同時にため息を吐いた。
でも、普通に考えてこの状況は“いのちだいじに”の場面じゃないだろうか。
二人が心配じゃないのかと聞かれれば勿論心配だけど、目の前にこの地獄からの脱出口をぶら下げられてしまえば、ここで敢えてそれをスルーして、二人を助けに行くなんて芸当を本当にできるかという話だ。
というか、黒尾君も木兎君もスポーツマンだし、多分一般の高三男子よりかずっと立派な筋肉付いてるし、私らが助けにいかなくても普通に大丈夫なんじゃないかなと思う。
反対に、今一緒に居る孤爪君と赤葦君は腐っても私より歳下だから、何かあったらさっきみたいに何とかしなきゃとは思うけど。
「.......じゃあ、俺らは中央玄関行くから、クロ達も早くこっちに来てね......」
《んな事言われても、行けるもんならとっくに行ってるっつーの》
音駒の幼なじみコンビのやり取りを締めに、私と孤爪君と赤葦君はゆっくりとした足取りで中央玄関を目指した。
相変わらず真っ暗な廊下には非常口の緑の灯りと、消火栓の赤い灯りしか見えない。
今の季節は夏のはずなのに、夜の校舎内はそれ程暑さを感じず、むしろ恐怖心のせいで時々寒気を覚えるくらいだった。
私達三人の足音が廊下や壁に反響し、やたら大きく聞こえるそれに耳を塞ぎたくなりながら、赤葦君と孤爪君の後を恐る恐る着いていく。
「.......ミケ、怖いなら裾掴めば?赤葦の」
「え?」
「は?......いや、なんで俺なの」
おどろおどろしい雰囲気に負けて口を結んだまま歩いていると、前に居る孤爪君が突然素っ頓狂な発言をしたものだから、私も赤葦もたまらず目を丸くした。
私達の怪訝な視線を受けながら、孤爪君はニヤリと愉しそうに笑う。
「さっきは俺だったでしょ。今度は赤葦がやってあげなよ」
「.............」
「.......いや、別に今、要求があった訳じゃない......」
「ふーん。じゃあ、要求すればやってくれるんだ」
「.......というか、今はそんなのんきな話してる場合じゃないだろ」
孤爪君の謎発言からあっという間に火がつき、いつもクールな二年セッターコンビにしては珍しくやいのやいの言い合いを始めた。
普段そこまで口数の多くない二人がぽんぽんと言葉をぶつけ合ってる姿は見ていて少し面白いものの、彼らの話のネタになっているものが全然面白みがない為、直ぐに我慢の限界がくる。
「......あ~もう!やかましいわ二年共!今ので怖いの結構吹っ飛んだから大丈夫です!お気遣いどうもありがとう!」
「.............」
「赤葦君、灯り貸して!中央玄関、いざ尋常に勝負!!」
先輩として、そして女子として何となく居た堪れない気持ちに苛まれ、赤葦君から懐中電灯をもぎ取り、ふんすと鼻で息を吐きながら一人早足で玄関へ向かう。
「.............」
「.......赤葦って本当、苦労する性格してるよね......」
「.......孤爪は本当、利口な性格してるよな......」
半ばヤケになって駆け出した私の背中を呆然と見つつ、二年坊主共が交わしていたそんな言葉は、当然ながら私の耳には全く届かなかった。
ロッカータイプの下駄箱が並ぶ玄関に一番乗りした私は、不穏な空気を感じつつえいやと懐中電灯の灯りを中央玄関の外へ向けた。
視聴覚室に忘れたスマホを取りに来た私達は、確かにこの玄関から夜の校舎内へ入って来たはずだ。
だから当然、玄関の向こうは外の景色になっているはずで、このヘンテコな学校から抜け出せる出口だと、思っていたのに。
「.......どういう、こと......?」
暗闇を照らす懐中電灯の弱々しい光の先に見えたのは.......恐ろしい程真っ黒な水面だった。
まるでこちらの不安を煽るようにユラユラと揺れる水面を見たまま、驚愕と恐怖、そしてここがゴールでは無かったことにサッと血の気が引き、その場に立ち尽くしてしまう。
「.......ミケ、ちょっと貸して」
「.............」
玄関の外を見たまま放心する私に追い付いた孤爪君が、私の右手にある懐中電灯をするりと外す。
改めて注意深く孤爪君が懐中電灯の光を外へ当てると、玄関の外に何があるのかが次第にはっきりしてくる。
「.......プールサイド......?」
孤爪君の光の先に釘付けになって居れば、上から赤葦君の声が降ってきた。
まさかとは思ったけど、やっぱりそうだ。
私達が入って来たはずの中央玄関の外は、なぜかプールになっていた。
てっきりここがゴールだと思って頑張ってきたのに、見当違いもいいところだ。
しかも、なんの明かりもついていない夜のプールは思った以上に不気味な雰囲気を醸し出していて、気を抜けばみっともなく腰を抜かしてしまいそうだった。
《オイ、研磨?中央玄関どーだった?》
《外出られそー?もし出られても俺ら置いてくなよー!?》
予想外の景色に孤爪君も赤葦君も私もただ突っ立ってしまったが、スマホから聞こえる黒尾君と木兎君の声にハッと我に返ったらしい。
孤爪君は赤葦君に懐中電灯を渡しながら黒尾君達にこの状況を説明し始めた。
懐中電灯を受け取った赤葦君はゆっくりと玄関の方へ足を向ける。
「わ、私、ここに居てもいい!?」
さも当然のように玄関へ近付く二年生の二人におののきながら、怖いから絶対に近寄りたくありません宣言をすると、二人は同時に私へ視線を寄せる。
「うん、いいよ......じっとしててね」
「ちゃんとそこに居てくださいよ?」
「おいコラ、私先輩なんですけど!」
こちらへ掛けられた言葉があまりにも不名誉で、たまらず不服を申し立てるも二人はあっさりと無視して玄関のガラスドアへ向かった。
今が緊急時じゃなかったら絶対殴ってやったのに!怖がりな自分にここまで腹が立ったのは初めてだ!
激しい憤りを感じながらも、玄関のドア付近へ行くのはやっぱり怖いので、下駄箱の近くに立ちながら不届き者の二年生ズを怖々と見守る。
二人は相変わらず淡々とした口調で会話を交わしながら、外の様子や玄関のガラスドアを観察しているようだった。
その様子を見て、まさか外に出る気じゃないよね?と二人に確認を取ろうとした、矢先。
ガチャリ、という軽い金属音が二人の元から聞こえたと思ったら.......なんの躊躇いもなく、孤爪君が玄関のガラスドアを開けた。
まずどうやって解錠したんだと思ったけど、考えてみれば玄関の殆どは内鍵だ。
そして、考えなくてもこの二人は滅多に物怖じしないタイプの人間だった。
ここに居るのが黒尾君と木兎君だったら、少しは相談したり何だりしてくれただろうに!
「何で開ける!?さっきのこと忘れちゃったの!?」
「別に、忘れてない......もしアップルパイ見つけたら、もう触らないよ」
「アップルパイに限らず危ないことすんなって言ってんの!夜のプールとか絶対ヤバいじゃん!」
「......でも、ミケ。ここは本来玄関のはずだから、もしかしたら何か外に出る為のヒントがあるかもしれない......」
「無理!やだ!怖い!絶対入んない!!」
「.............」
先程の保健室の事件を思い出し、プールサイドへ行こうとする孤爪君を頑なに引き止める。
見ようによっては駄々を捏ねてる私を静かに眺めてから、孤爪君は小さくため息を吐いた。
「.......わかった。じゃあ、ミケはここに居ていいよ」
「一人はやだ!二人とも入らないでクダサイ!」
「......えー......」
「......気持ちはわかりますが、ここの鍵が開いた以上、一度中を改めた方がいいと思います。......それに、もしもの話ではありますが、プールの壁を越えられたら外に出られるかもしれませんよ」
「!!」
「校舎内と違って、プールは屋外でしょう?試してみる価値はあると思います」
「............ぐぬぬ......!」
孤爪君と話していると、懐中電灯でプールサイドを照らしていた赤葦君がこちらに振り向きながら私を説き伏せに掛かる。
赤葦君は本当、ここに入る時もそうだったけど口が上手いというか、反論したいのに納得せざるを得ないというか......とにかく、この人の頭の良さに腹が立つ!
「......じゃあ、そういうことだけど......俺は入りたいけど、赤葦はどうする?」
「入る」
「た、多数決ズルい!」
「......だから、ミケは入らなくてもいいって言ってる......」
「こんな所で一人にされるのもやだよ!プール広いし離れちゃうじゃん!」
「.......我儘......」
「聞こえてるからね赤葦君!」
「.............」
断固として入らないと騒ぐ私に、二年生の二人は至極面倒そうな顔をする。
でも、だって、さっきの保健室みたいなクリーチャーが出て来たらとか、この二人は思わないんだろうか?
夜のプールってだけでめちゃくちゃ怖いのに、またあんなモノとエンカウントしたら今度こそ絶対に腰を抜かすと思う。
「..............掴んでいいですよ」
「はい?」
2対1で暫く言い合い、我儘だろうがなんだろうがプールサイドに入るのは絶対阻止してやるとわぁわぁ一人で騒いでいると、赤葦君が呆れたようにため息を吐いた。
その端正な顔の眉間に皺を寄せつつ、半ば吐き捨てるように呟かれた言葉に、思わず首を傾げる。
その様子を見て、赤葦君は至極複雑そうな色を浮かべた。
「......え、何?ごめん、聞こえなかった」
「.............」
「ちょっと、無視は酷くない?ねぇ、赤葦君。もっかい言って」
「..............何でもないです。先行きます」
「え゛!?ちょっと!入るのやだって言ったじゃん!ねぇ!ウソでしょ!まっ、待ってよぉ!」
少しの間、機嫌の悪そうな顔をしたまま何かを探るように私の様子を眺めた後、赤葦君は無慈悲にもさっさとプールサイドへ歩いて行ってしまう。
赤葦君が入ってしまえば孤爪君は絶対後に続くだろうし、そうなれば必然的に私だって真っ暗なプールサイドへ足を踏み入れることになる。
突然の行動に驚いて、たまらず半泣きで赤葦君に待ったを掛けるも、耳が聞こえてないのかと疑う程、その長い足は一向に止まらない。
「あ、あ......赤葦君の鬼ぃッ!!」
あまりにも冷たい赤葦君に、うわぁん!と私が半泣きで悪態を吐くのと、孤爪君が可笑しそうにふきだしたのはほとんど同時だった。
フクロウ男子とノラネコ女子
(ヒトの気も知らないで、鬼はどっちだよ......)