CATch up
name change
デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
考える前に、身体が動いた。
元から口より先に手が出るタイプだと小さい頃からよく言われていたけど、今回も多分それだったんだと思う。
初めて聞いた赤葦君の切羽詰まった大きな声に、今起こってる事の緊急性がはっきりとわかった。
真っ暗な保健室の出入り口、必死に腕を伸ばす赤葦君。
その先にはきっと、廊下からは見えない孤爪君が居て......何らかの障害が発生していて、孤爪君は保健室から出られずにいる。
元から重度の怖がりだから勿論恐怖を感じていたし、身の毛がよだつという言葉を、図らずもすっかり体感してしまった。
ああもう、嫌だ。本当に、本当に嫌だ。
自分の中の恐怖心がどんどん膨れ上がり......そして、爆発した。
直後、恐怖の原因であるそれにお腹の底から激しい憤りを覚えて、その怒りをそのままよくわからないモノにぶつける。
私の恐怖と怒りをのせた渾身の右ストレートは対象物を抉り、それが怯んだ隙に孤爪君と赤葦君、私はおぞましい保健室から緊急回避した。
「.............」
「.............」
「..............ほら゛!!!だから言ったじゃん゛!!!」
「!?」
保健室のドアが開かないように両手で押さえつつ、恐怖と怒りで爆発している頭の中をそのまま二年生の二人にぶつけた。
彼らを怒鳴った瞬間、張り詰めていたものがプッツリと切れたようで、私の目からはぼろぼろと涙が零れ落ちる。
突然泣き出した私に二人はぎょっとした顔を向けたが、怒りの炎は更に煽られた。
「放っといた方がいいって!!!言ったじゃん゛!!!なのに!!!二人とも触るから゛!!!馬鹿なの!?本当に!!!馬鹿なの゛!?」
「......ごめん......」
「......すみませんでした」
両手が塞がってる為次々と零れ落ちる涙をそのままに、癇癪を起こした子供のようにビャッと怒ると、二人はバツの悪そうな顔をして素直に謝ってきた。
でも、心底怖かったし、本当にどうなるかと思ったのだ。
相手が歳下だろうがイケメンだろうが、この状況下では私がキレ散らかしても何らおかしくない。
あのままこの二人が気持ち悪いアップルパイから生えた腕に捕まって、何処かに消えてしまえば最後、私が彼らの無事を確認できる術なんてどこにも無いのだから。
「.......ミケ、ごめんね」
みっともなく泣きながらキレ散らかす私のそばに来た孤爪君は、保健室のドアに鍵を掛けてからもう一度謝り、私に頭を下げた。
「.......助けてくれて、ありがとう」
「.............」
小さくそう言って、私の頬に当てた片手の親指の腹でそっと涙を拭ってくる。
そんなイケメンなことされたって絶対に許さないぞと思ったのに、近くにある孤爪君の綺麗な顔は本当に申し訳なさそうな色を浮かべていた為、結局これ以上キレ散らかすことは出来なかった。
孤爪君が鍵を閉めてくれたのと、室内からドアを開けようとする動きもなかったので、ようやくドアから手を離して濡れた目元をゴシゴシと擦る。
「っ、イテ......」
「大丈夫?」
「......うん......」
矢先、動かした右腕がじくりと痛みを訴えた。
そういえば、技術室でドアに挟まったのも右腕だったな。
今まではまぁ痛いくらいの感覚だったが、負傷した右腕で先程の攻撃をしてしまった今はだいぶ痛いくらいになっていた。
学校から出られて、帰宅したらすぐ冷やした方がいいかなと考えながら内出血している青黒い右腕をぼんやり見ていると、私のものより少し大きい手がその上をするりと柔く撫でた。
反射的にびくりと身体が震えると、孤爪君はパッとその手を離す。
「痛い?大丈夫......?」
「や、大丈夫......ちょっとびっくりして......ていうかアレ何!?見た!?なんか手が生えてたよ!?いっぱい!」
「.......うん、見た......」
「めっちゃキモかったね!?そういや触られたとこ大丈夫?ちょっと見せて!」
「ちょ、ミケ......」
ここでやっと思考回路が通常運転に戻り、先程の気持ち悪い腕のことを興奮状態で話す。
その途中、孤爪君はアレに掴まれていたことを思い出し、一気に心配になって無理やり彼の左腕を取った。
戸惑う孤爪君に構わずそこを確認すると、強い力で掴まれたせいだろう、青黒い手形がくっきりと付いていた。
「うわ゛、手形ついてる!!これ大丈夫なの!?痛い!?呪い!?」
「......多分、大丈夫。ミケよりかは痛くないよ」
「でも痛いんじゃん......!どうしよう、お祓い行く?塩撒く?探してくる?」
「いや、ただの内出血だから......少し落ち着きなよ......」
細いながらにちゃんと筋肉がついていて、意外と男の子の腕をしている孤爪君に少しだけ驚きながらも、そこに付いてる手形がどうしても気になりおたおたと狼狽えていれば、孤爪君はため息を吐いてから左腕を私から外した。
「.......赤葦?さっきから黙ってるけど、大丈夫?」
左腕を擦りながら、ふと気付いたように赤葦君に声を掛ける孤爪君に、私もハッとなって「え、もしや赤葦君も負傷?」と慌てて赤葦君の方を見る。
普通に心配な気持ちもあるけど、音駒と梟谷の両セッターを怪我させたともなると、いよいよ私への風当たりがキツくなるのではとうっすら考えていれば、廊下にお尻を着けて座る赤葦君は俯いたまま長いため息を吐いた。
「............ミケさん......」
「ん?」
「.......“動けますか?”と聞いたのは俺でしたが......あの状況は普通、俺か孤爪を引っ張るでしょう......どうして殴りに行っちゃうんですか......」
「え」
普段より幾分か低い声で寄越された言葉に、思わずきょとんと目を丸くする。
そんな私に赤葦君はゆるりと顔を向け、眉間に皺を寄せながら今度はしっかり私の目を見て話した。
「本当に、無事で何よりですが......あんまり無茶なことはしないでください。緊急時に規格外の動きをされては困ります」
「いや、だって、私が孤爪君引っ張るより、変なの殴った方が断然威力あるよ?あと、咄嗟に思い付かなかったし......」
「今回何とかなったからと言って、次もそうなるとは限らないでしょう?あの状況での結果論はリスキー過ぎます」
「で、でも、助かったんだからいいじゃん!怒るのやめてよ!」
「怒ってません」
「うそ!超怒ってるじゃん!」
正論でピシャリと怒られた挙げ句、ゆっくりと立ち上がった赤葦君の機嫌は見るからにナナメだったので、自衛する為に慌てて赤葦君から距離をとった。
あれだ、あれ。なんちゃら危うきに近寄らずだ。
「............御木川さん、スマホどうしました?」
「え、え?......ん?あれ?」
思わず逃げた私を射殺すような視線で眺めてから、赤葦君はふと殺気をゆるめてそんなことを聞いてきた。
そういえば、さっきまで持っていたはずのスマホが無い。
気持ち悪いアレを殴る時には多分持ってなかった気がするから、その前に咄嗟にどこかへぶん投げてしまったのかもしれない。
「.......大丈夫、こっちにあるよ......」
赤葦君からの指摘に今更ながらどこへやったっけとアタフタしていれば、中央玄関側の廊下の先で孤爪君が先に見つけてくれたらしい。
手のひらサイズのそれをひょいと拾い上げると、スピーカーをこちらに向けながらとぼとぼと歩いてきた。
《おい!どうした!?音だけじゃ全然わかんねぇぞ!!》
《あかーし達大丈夫!?無事!?》
スマホからは黒尾君と木兎君の緊張感漂う声が聞こえ、そういえば電話は終始繋がったままであったことを思い出す。
今までの経緯を音声のみで把握するなんて絶対に無理だろう。
実際に体験した私達でさえ、先程のことが本当に現実のことだったのか信じきれてないと言うのに。
「.......クロ、木兎さん、落ち着いて。赤葦もミケも俺も、一先ず無事だから」
《一先ず、って......さっきすげー音してたけど、何があったんだ?》
《もしかして、保健室で何か出た!?》
「.......うーん......」
こちらを心配する黒尾君と木兎君の声に孤爪君が応答すると、当然のごとく詳細を聞かれて小さく唸った。
三人でちらりと視線を合わせ、あの事態をどう説明するか、誰が話すかという会議が音もなく交わされる。
孤爪君は面倒そうに目をつむり、私は語彙力が無いので無理だよと軽く首を横に振る。
「.......保健室を調べたら“EAT ME”と書かれたメモとアップルパイがあって、その中から鍵を見つけました。退室しようとしたら、そこから人の腕のようなモノが生えてきて、孤爪が捕まったんですが御木川さんが対象を殴って難を逃れました」
《..............はぁ??》
結果、残りの一人である赤葦君が億劫そうな色を浮かべながらも、先程起こった出来事を上手く要約して伝えてくれる。
非常にわかりやすい説明ではあったものの、内容がまるでぶっ飛んでいる為に黒尾君も木兎君もやや戸惑う色を含んだ声で聞き返してきた。
《色々頭が追い付かねぇんだが、なんで保健室にアップルパイがあるんだよ?しかもそんなベッタベタなメモまで付いて......》
「音駒の人がわからないことを、梟谷の俺がわかる訳ないでしょう」
《あかーし!その腕ってどんなんだった!?右手?左手?》
「.......親指が向かって右側にあったので、おそらく右手だと思います」
「うわ、赤葦君よく見てんね......でもそれ、割りとどうでもいいね?」
《というかミケ!お前なんでそんなおっかないもん殴っちゃったの!?研磨助けるにしても、もっと別の方法あったろ!?そういう危ないことすんのマジでやめてくんない!?黒尾さん心臓もたないから!》
「え、うそでしょ?私また怒られるの?えぇー、勘弁してよ......」
赤葦君と二人の会話にぽろりと口を挟んだら、電話の向こうの黒尾君からお叱りの言葉を貰ってしまった。
さっき赤葦君に怒られたばかりなのにと苦い顔をしていれば、孤爪君には気の毒そうな顔をされ、当の本人からは「ちゃんと反省してくださいね」とでも言うような視線を寄越される。
なんだよ、折角ヒトが勇気を振り絞って敵に立ち向かったというのに......。
《でもミケちゃん、殴って撃退するとかすげぇなー!超かっけーじゃん!》
「でっしょ!?超かっけーでしょ!?木兎君結婚して!」
《......俺結構真面目に怒ったんですケド?......もう、お父さんはちょっと黙っててちょうだい!そうやってあの子をすぐ甘やかすんだから!》
《でもなぁ母さん、ミケちゃんはよくやってるじゃないか。怖がりなのにちゃんと孤爪とあかーしを助けてあげて。父さんは誇りに思うぞ!》
「っ、お父さん......!私、嬉しい......!」
「.............」
不貞腐れる寸前に木兎君が優しい言葉を寄越してくれて、素直な気持ちを返すとすぐに黒尾君が茶番を始めた。
それに木兎君が乗り、三年の二人がそうなら同学年である私が乗らないはずもなく、少し演技がかった言葉を述べるとこちらに居る二年生の二人からブリザードさながらの冷たい視線を頂戴した。
これだから三年は......とでも言うようなすっかり呆れた顔をされた挙げ句、この冷たい態度を私だけが受けるなんて、どう考えても理不尽だろう。そもそもの始まりは、電話の向こうからだというのに!
「というか、黒尾君と木兎君今どこに居るの?まだこっち着かないの?」
《あー、なんつーか、色んなとこ行ったり来たりはしてんだけど、中央棟の一階にはなぜか全然ワープしないんだわ》
《試しにどっかの教室でも入ってみるか?》
《んー......研磨、どう思う?》
「.......そうだね......試してみるのもいいかも......」
「あ!アップルパイあっても絶対触っちゃダメだからね!」
《おー、心得た》
私の問いかけから始まり、孤爪君に意見を仰いでから、黒尾君と木兎君は廊下でなくどこかの教室に入ることに決めたようだ。
「俺達はとりあえず、玄関行きませんか?」
ふいに寄越された赤葦君の提案に思わず目を丸くしていると、電話の向こうの二人が「置いて行くなんてヒドイ!」と批難してくる。
「いえ、別にお二人を置いて行くとは言ってません。......ただ、」
スマホから聞こえる騒ぎ声に淡々とした口調で返す赤葦君だったが、なぜか途中で少し躊躇うように言い淀んだ。
どうしたんだろうと反射的に赤葦君を見ると、赤葦君は顎の下に片手を当て、暫く何かを躊躇った後......意を決したように、再び話し始めた。
「.......ただ、空間が移動してるこの状況で、......本当に、ここの玄関から外に出られるのかって思ったんです」
言うなれば、非常口ガチャ
(SSRは外への出口!)