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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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光の速さで南京錠を合わせていく赤葦君の手元をスマホのライトで照らしながら、黒尾君と、そして時々木兎君と通話を続ける。
「ねぇ、そっちはどんな感じなの?」
《あー、今美術室の前着いて、木兎が持ってる鍵試してる》
《ダメだ〜!黒尾、そっち貸して!》
《おー》
先程戦力外通告を受けたので特にやることもなく、ひとまず黒尾君達の近況を聞いてみれば今は美術室に入れるか否かの瀬戸際だったようだ。
木兎君の鍵は確か技術室で見つけたもので、黒尾君のは三年五組の自分の席で見つけたものだったはず。
二人のやり取りを黙って聞いていると、少ししてわっと盛り上がる声が聞こえた。
おそらく黒尾君の見つけた鍵が美術室のそれだったのだろう。
なんでそんなものが黒尾君の机に入ってるんだと思うものの、考えても答えは出ないのでとりあえず二人が美術室へ入室できたことを一緒に喜んだ。
「入れたっぽい?よかったね!......で、なんだっけ?なんちゃらナイフ探すんだよね?」
《ペインティングナイフな。パレットナイフとも言う》
「あー、ハイハイ。雑学クイズやめてください」
「.......もしかしてそれ、俺に喧嘩売ってます?」
黒尾君の言葉にたまらず鼻で笑えば、すぐ下にしゃがんでいる赤葦君がこちらを見ないまま低い声で尋ねてきた。
電話の向こうで笑う黒尾君を無視しつつ「そんな物騒なもの売る訳ないじゃないデスカ」と赤葦君に適当に返すと、今度は私が赤葦君に無視される。
《とりあえず俺らはこれからナイフ探しすっけど、お前らはどーなの?鍵、開きそう?》
「んー、赤葦君、どう?」
「.......見ての通り、今のところヒット無しです」
「だって。孤爪君は~?」
赤葦君に現状を聞き、少し離れた所に居る孤爪君にも話を振る。
孤爪君はさっきからシャッターの周りを注意深く観察しているようで、懐中電灯の明かりを色々な所に向けてはふらふらと歩き回っていた。
「.......ゲームだと大抵、ヒントみたいなものがあったりするんだけど......もしかして、クロ達の方にあったりするのかな......」
「だって」
《いや、研磨の声全然聞こえねぇから。ミケ、もっかい伝えて》
電話越しの催促におとなしくもう一度孤爪君の言葉を復唱すると、黒尾君は《ナイフと一緒にそっちも探せってか?相変わらず人使い荒いよなお前......》と大きくため息を吐いた。
それでも決して嫌だと返さない辺り、二人の絆の深さを感じる。
黒尾君と木兎君の邪魔にならない程度で他愛のない話を続けていると、ふらふらと歩き回っていた孤爪君が赤葦君と私の傍へやって来た。
「赤葦、今どこまでやった?」
「始めに9999になってたから1の位から減らし始めて、今8190」
「.......もう1800合わせたの?さすが赤葦......でも、腱鞘炎とかなってない?指、大丈夫?」
「あ、そうじゃん!赤葦君バレー強豪校のセッターじゃんね!指とか商売道具だし、痛くなったらヤバくない?交代しようか?」
「.............」
赤葦君の言葉に孤爪君は目を丸くして、その後直ぐに赤葦君の指の心配をした。
赤葦君の手際の良さにすっかり失念していたが、そういえばそうだったと思って慌てて私も赤葦君の様子を窺うと、当の本人はおもむろに鍵から手を離し、右手をグーパーと開閉を繰り返す。
「.......商売道具というのは些か違うと思いますが、今のところ痛みはありません。バレーに支障をきたさない程度にやります」
「それならよかったけど、赤葦君は人の言い間違えを修正しないと死ぬの?」
「死にません。御木川さんこそ、俺を煽らないと死ぬんですか?」
「死にませんケド?別に煽ってないし?」
「ねぇ、そういうのやめてって言ってるじゃん......何度も言わせないで。流石に疲れる」
「だって赤葦君が、」
「ミケ」
「.......ごめんなさい」
赤葦君の言い方に対して導火線に走った火が、孤爪君に睨まれたことで直ぐに鎮火された。
何だよ、こっちは心配したって言うのにと内心で不貞腐れていると、赤葦君はまるで何も無かったかのように再び南京錠の数字を手際良く合わせ始める。
「.......赤葦ごめん、ちょっと試したい数字があるんだけど、いい?」
「いいよ、何?」
孤爪君からのお願いに赤葦君が快諾すると、孤爪君は軽くお礼を述べた後いくつかの4桁の数字を口にした。
0000等のゾロ目や1234なんかの単純な並びは何となくわかるが、その他の数字がなんでそれだと思ったのか分からなくて尋ねると、どうやら開校記念日や全校生徒の総数等、学校に関する数字だったようだ。
「へぇ、孤爪君そんなんよく知ってるね?何で?」
「何でって言われても......前に、どこかで見たことがあったから......?」
「......御木川さん、せめて母校の開校記念日くらいは覚えましょうよ。毎年休みなんじゃないですか?」
「え~?だって祝日なんていっぱいあるじゃん。あ、今日休みなんだ、ラッキー☆くらいにしか思わないよ」
「.......創立者が泣きますよ」
「だったらもっと伝わるようにしてもらわないと。Happy birthday dear 音駒~♪とか、大々的にやってくれればこっちも気が付くよ」
「.......発音良いんですね、英語苦手なのに」
「ねぇ、後半要らなくない?なんで上げて下げるの?普通に褒めてくれればいいじゃん!」
「いや、褒めたじゃないですか」
「聞き手に!伝わらないと!意味無いから!褒めるならもっと強調して!?」
「.............」
相変わらず乏しい表情でしれっと返してくる赤葦君に思わず声を荒らげてしまうと、少し間を置いてから小さくため息を吐かれた。
え、ウソでしょ?今の私が悪いの?
「............面倒くさいな......」
「ちょい待ち今何つった?」
「.......木兎さんみたいなことを言わないでくださいよって言いました」
「嘘吐け明らかに文字数合ってなかったからね?」
「言葉は違えど趣旨は一緒です。というか、俺とこんなんしてたらまた孤爪に怒られますよ?」
「そッ、それズルい!孤爪君、違うからね?今のは絶対赤葦君が悪い.......え、孤爪君?」
「.............」
失礼過ぎる赤葦君の言葉にムカついていれば孤爪君のことを引き合いに出され、顔を顰めながらも咄嗟に孤爪君の方を見ると、孤爪君は先程私が踏んづけてしまったルーズリーフに黙々と目を通していた。
その紙には確か、「数字を合わせろ」という意味の英文しか書かれてなかったはずだ。
なんで今それを見る必要があるのかわからず、私も赤葦君も首を傾げていると、孤爪君はぽつぽつと喋りだした。
「............0718......」
「え?」
「.......赤葦、0718でちょっと合わせてみて」
「0718?......成程、日付か!」
「え?何?日付?どういうこと?」
孤爪君の口から突如出てきた数字にさらに首を傾げる私を他所に、赤葦君は少し考えてからどこか合点のいったような反応を返す。
赤葦君の手先を見ながら0718と日付というキーワードを考え、直ぐに今日が7月18日であることに気が付いた。
でも、どうしてそれがこの南京錠に結び付くのかがわからず一人考えあぐねていると...南京錠の数字が0718に揃った矢先、しっかりと施錠されていたそれがいとも簡単に開いた。
「っ、開いた!開いたー!やった!やったー!」
鍵が開いた途端、兎にも角にもここから先に進めることが嬉しくて、しゃがんでいる赤葦君の背中を軽く叩く。
テンションが上がったのはどうやら私だけではなかったようで、私の行動に流石の赤葦君も粗塩対応することはなかった。
「孤爪お見事。よく気付いたな」
「いや、正直偶然だけど......まぁ、結果オーライだね」
「なんで孤爪君、数字わかったの?なんで今日の日付で開いたの?」
「.......この文章の“HELLO?”って全部大文字だから、強調したいのかなって思って......それで、後ろにクエスチョンマークが付いてるから、普通だと挨拶とか掛け声とかだけど、......もしかして、そのまま読んで“こんにちは?”って訊かれてるのかもって思ったんだ」
「は〜、だから今日の日付か!孤爪君すごい!」
「......でも、ひらめき問題だったね......これが本当のゲームだったら、俺は買わない」
詳しい解説に思わず感嘆の声をもらすも、謎解きをした孤爪君はさして興味も無いようにふらりとそっぽを向く。
本当に凄いと思うのになぁと内心でも褒め称えていると、手元にあるスマホから黒尾君の声が聞こえて自然と視線がそれに集まった。
《そっち鍵開いたか!よかったな!さすが研磨ゲーム大臣》
「.......馬鹿なこと言う余裕があるってことは、そっちもナイフはもう見つけたの?」
黒尾君の言葉に孤爪君が冷めた声で応えると、電話の向こうの黒尾君は早々に言葉を詰まらせる。
《......残念ながら、全ッ然見つかんねぇ。棚とか引き出しとか全部開けて探してんのに、一本も無ぇんだよ。さすがにおかしくね?》
「.............」
「ちゃんと探してるんですか?さっきも六角レンチ、全然探せてなかったじゃないですか」
《いやいや、マジでちゃんと探してるって。まぁ、準備室の鍵は開かなかったからそっちは探せてねぇんだけど、でも、ペインティングナイフなんかわざわざ準備室に置かないだろ。よく使うだろうし、棚なんざこっちに沢山あんのにさ》
「.......うーん、確かに......」
どうやら黒尾君達は目的の物を未だに見つけられていないらしい。
美術室に入れた時点で解決すると思っていたけど、そんなに簡単な問題ではなかったようだ。
でも、そのナイフを見つけないと黒尾君達は階段のシャッターを開けられないし、私達と合流するどころかヘタしたらこの奇天烈な学校からも出られないままだ。
「.......クロ、そっちに0718に関するものって何かない?」
《は?》
黒尾君と通話しつつ孤爪君と赤葦君、私は解錠出来た階段のシャッターを突破し、ひとまず廊下に出る。
「......ゲームだと時々、1つのキーワードが別の場所でも使えることがあるから......だから、何か数字に関するものが美術室にあったら、そこに隠してあるのかもって、ちょっと思った」
《成程~?数字か......》
淡々とした孤爪君の言葉に、黒尾君は素直に従う。
この二人の抜群の信頼関係に付き合いの長さを感じていれば、スマホから元気な声がひょっこりと顔を出した。
《黒尾!時計は!?時計の裏とか!》
《あー、確かに0と7と1と8があんな。ちょっと調べてみるか》
《数字、数字......あ!カレンダーとかもあるぞ!》
《おお、木兎お前冴えてんな》
黒尾君と孤爪君の話を聞いていた木兎君は、相変わらず明るい調子で楽しそうにナイフを探す。
こんな奇妙な状況に置かれてもモチベーションやテンションを崩さないなんて木兎君鋼メンタルじゃんと思わずもらすと、黒尾君はなぜか可笑しそうにケラケラと笑い、孤爪君はおもむろに顔を背け、梟谷の赤葦君からはこれでもかと思う程冷めた目を向けられた。
え、ウソでしょ?また私が悪いの?
《ダメだ〜!時計の裏、何も無ぇ~!》
《マジか、カレンダーも違うらしいぞ》
《えぇー!?結構自信あったのに!》
男バレ三人の反応が納得いかず顔を顰めていると、電話の向こうではわいわいと盛り上がる声が聞こえる。
数字に関する物として木兎さん君が挙げた二つは、残念ながら空振りに終わったようだ。
「あとは何かないの?数字書いてある場所とか物とか」
《んー......そう言われてもなぁ......》
「.......ねぇ、美術って確かテーブル毎の班分けあったよね?それは?」
「え!そうなの!?」
《それだ!全部で......9班まである!木兎!1と7と8のテーブルの裏、調べるぞ!こっち俺見るから、お前は窓際のテーブル2つ見ろ!1番前とその後ろな!》
《わかった!》
孤爪君の提案に黒尾君と木兎君がすぐに動く。
暫く会話がないまま二人の捜索結果を息をひそめて待っていると......少し間を置いて、小さく笑う黒尾君の声が聞こえた。
《.......ハハ、マジであった......すげぇな研磨......》
「え!本当に!?孤爪君天才じゃん!」
黒尾君の報告に思わず孤爪君を見ると、孤爪君からは「ゲームではこういうのよくあるから...」と事も無げにしれっと返される。
《黒尾~!こっちも2つあったぞ~!どっちもテーブルの裏にテープでくっついてた!》
普通こんなとこ見えねぇよ!と楽しそうに笑う木兎君の声が聞こえて、どうやら向こうも探し物を無事に発見出来たことを知り、孤爪君も赤葦君も私も思わずほっと息を吐く。
でも、本当にこっちのキーワードと美術室のナイフの隠し場所がリンクしているなんて。
ナイフが見つかったこと自体は喜ばしいことだけど、何だか私達の行動を予測されているようで、それがすごく嫌だ。
「.............」
「!」
黒尾君と木兎君の盛り上がる声を聞きながらも胸の奥にじわじわと不安の靄が広がり、とっさに利き手側にあった紺色のTシャツの裾を掴む。
「......え、何すか......」
「ごめん、間違えた」
「は?」
こちらに戸惑うような視線を向けたのは赤葦君で、無意識下で自分が赤葦君のTシャツの裾を掴んでしまっていることに気付き、慌ててその手を離した。
しまった、こんなことしたらまた粗塩対応されてしまう。
「.............」
「く、黒尾君!シャッター開いた?先に進めそう?」
《あー、ちょい待ち。今階段の方行くから》
赤葦君に何か言われる前に先程のやり取りを誤魔化すように黒尾君へ話を振り、両手を隠すようにして自分の後ろに組む。
そのまま黒尾君達と何事も無かったように通話を続けていれば、赤葦君は何も言わないでそっぽを向いたので、密かにほっと息を吐くのだった。
赤葦京治という男
(.......そんな顔するくらいなら、掴んでいいよって言えばいいのに。)