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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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ゆっくりと降下する防火シャッターを潜り、三人で階段を降りて行く。
赤葦君が持つ懐中電灯の明かりを頼りに足を進めていれば、後ろから床に着地するシャッターの音がして、ぎくりとしながら後ろを振り返った。
真っ暗な視界の中、完全に降りたシャッターが辛うじて目に入り、先程の場所まで戻ることが出来なくなった現状に恐怖心が煽られ、堪らずその場に立ち止まってしまう。
.......あぁ、もう、嫌だ。怖いの、本当に嫌だ。
足を止め、喋ることも止めてしまえば、うっかり泣き言を吐いてしまいそうになる口元を意地でギュッと結ぶ。
怖いと思うのは、多分、私だけじゃない。一緒に居る孤爪君も赤葦君も、離れてしまった黒尾君も木兎君、多かれ少なかれきっと恐怖を感じてるはずだ。
あぁ怖いと、もう嫌だと泣くヒマがあるなら、一刻も早くこの変な学校から出る方法を探さなければ。
「.......ミケ、」
「!」
ちょくちょく顔を出す弱い自分とひっそり戦っていれば、落ち着いた声で名前を呼ばれて弾かれたように顔を向けた。
夜闇の中でもきらりと光る金色の瞳と視線が合うと、孤爪君は小さく息を吐く。
「.......裾、掴む?」
「.............」
「.......今だけ、トクベツ」
「.............!!」
思ってもみない言葉に一瞬反応が遅れたが、どうやらこれは、私を励ましてくれてるのではと思考が追い付き、パッと顔が明るくなる。
さっき、男子トイレの前では「裾伸びるから掴まないで」と言われたが、今だけ特別と言うのなら、怖がりな私に掴まないという選択肢は全く無かった。
恐怖で止まっていた足を動かし、孤爪君の近くまで降りると右手で彼のジャージの裾をむんずと掴む。
「.............」
「.............」
私が裾を掴んだことを確認すると、孤爪君はちらりと一瞬だけ私と視線を重ね、そのまま何も言わずに階段を降り始めた。
「.......どっちが歳上かわかりませんね」
「赤葦君うるさい」
《研磨お前.......ちゃんとお兄ちゃんしてえらいぞ......!》
「......クロ、黙って」
そんな私と孤爪君のやり取りに外野が野次を飛ばしたが、私は勿論右手を離すつもりはないし、孤爪君もそんな私の手を振り払うこともしなかった。
「私、孤爪君に一生着いてく」
「.......一生は、重いかな......」
「じゃあ、孤爪君がやめてって言うまで着いてく」
「.............」
私の中で唯一、孤爪君に対しての絶対条件があるので直ぐに発言を訂正すると、孤爪君は少しだけ口を閉じる。
「.......うん、じゃあ、そうして......」
「ガッテンしょーち!」
「.............」
「赤葦君うるさい」
「......何も言ってないでしょう」
孤爪君の返答にふんすと鼻で息を吐き、直後に赤葦君の毒舌を牽制すれば、赤葦君は呆れたように軽いため息を吐くのだった。
階段を降りると、先程とは違う階に辿り着く。
普通は当たり前のことだが、今の学校はルービックキューブのように建物の配置があべこべになっている為、一先ず違うフロアに来られたことに半分ほっとしてしまった。
しかし、もう半分はまるで鉄格子のように冷たく閉じられた鉄製のシャッターにより、恐怖と不安、そして何より怒りの感情がふつふつと込み上げてくる。
どうして階段を降りた先にもシャッターが降りてるんだ!
「ていうかこれ!何の為のシャッターなんですかコラ!作った奴誰だ!説明しろコラ!」
「......え、なんでトラの真似......?」
「.......いや、虎というか、どちらかというと、.......イテッ!ちょっと、何で叩くんすか」
「今また猿って言ったな?」
「いや、言ってませんし......ちゃんと留まったじゃないですか」
「思った時点で有罪」
無情にも降りた鉄製のシャッターを両手で掴み、怒りながらシャッターをガシャガシャと力任せに鳴らせば赤葦君から相変わらず塩と毒をぶつけられる。
シャッターといい赤葦君といい、どうして世界はこんなに優しくないんだと悲しみと怒りに暮れていると、一人静かにシャッターを観察していた孤爪君が「ねぇ、ちょっと見て」とおもむろに赤葦君と私を呼んだ。
「.......ここ、ナンバー式の南京錠が着いてる」
「え?」
孤爪君の言葉に、赤葦君が懐中電灯の明かりを向ける。
檻を模したような冷たい鉄製のシャッターには、こじんまりとした円柱型の南京錠が着いていた。
0から9までの数字を4つ合わせると鍵が開く、よく見るタイプだ。
鍵の周辺をしっかり調べると、どうやらその一帯だけドアのようになっていて、南京錠が開けばそこから廊下へ出られるようだった。
もっとよく見ようと鍵に近付くと、足元からグシャリと何かを踏んだ音がして、慌てて後ずさる。
「うわっ、何か踏んだ!」
「ちょっと、気を付けなよ......」
私の声に孤爪君が顰めた顔を寄越し、赤葦君が無言で私の足元を懐中電灯で照らすと、クシャクシャになったルーズリーフの用紙が一枚落ちていた。
どうやら今、これを踏んでしまったらしい。
「......ん?何か書いてある......」
「.............」
「“HELLO?Combine numbers!“.......え、どういう意味?」
「.......御木川さん、アンタ受験生ですよね?」
踏んでしまったルーズリーフを拾い上げ、そこに書かれている文字を読むも訳せずにいると、赤葦君は怪訝そうな顔をこちらへ向ける。
うるさいな、英語はちょっと得意じゃないんだよと返せば、今まで黙っていた孤爪君が小さくため息を吐く。
「......“数字を合わせろ”って書いてある。多分、この鍵のことじゃない?」
「え、そんなんわざわざ書かれなくてもわかるじゃん。しかもなんで英語なの」
「......いや、俺に言われても......」
書かれてる内容に思わずムッとした顔を向けると、孤爪君は眉をひそめながらもう一度ため息を吐いた。
電話の向こうでケラケラと笑う黒尾君の声が聞こえたが、孤爪君はまるで聞こえないかのようにスルーしている。
「とりあえず、この鍵を開けるか、上の階に戻るかのどちらかになりますけど......」
「戻るのやだ!どこ行くかわかんないじゃん!」
「......と、言うことだけど、孤爪は?」
「.......うん......俺も、一先ずここの鍵開け、試したいかな」
孤爪君の意見と私のものが一致したということは、自動的にこの意見が通るということだ。三人になってから、選択を多数決で決めているのは何となく気付いていた。
ぱっと顔を明るくして赤葦君を見ると、ハイハイわかってますよとでも言いたげに瞳を閉じてゆるく頷いた。
「じゃあ、さっさと開けよ!数字合わせるだけならどれかで絶対開くんだし、ラクショーじゃん」
「.............」
「.......今の言葉、木兎さんも言いそうだね......」
「.......孤爪。」
「ごめん」
私の言葉に、なぜか赤葦君は顔を顰めながら額に片手を当て、それとは対照的に孤爪君は可笑しそうに小さくふきだした。
そんな孤爪君を咎めるようにじろりと赤葦君は睨むが、孤爪君は愉しそうに笑うだけで大して効果は無いようだ。
「.......御木川さん、一応聞きますけど......この10桁の南京錠の、4つの数字の組合せって全部で何通りあると思います?」
「え?......えー、と......100通り?」
「............」
「え、違う?あ、じゃあ50通り?」
「違います。なんで減るんですか」
「えー?そんな、怒んないでよ......」
「アンタ受験生の自覚あります?まんま木兎さんと同レベルじゃないですか。あの人は恐らくスポ薦があるから何とかなると思いますが、御木川さんは一般でしょう?それとも就職されるんですか?どちらにしてもこれ、基礎は小学生でやる問題ですからね?場合の数って聞いた事ありますよね?せめて義務教育の範囲はきちんと」
「い゛ーーーーーッ!木兎君!木兎君!お宅の後輩の粗塩対応とてもツラいんですけど!何とかして!」
《だってよ、木兎》
《あかーしの奴、二年だけどシッカリしてるだろ!俺もよく怒られる!》
「今そういう共感いらない!止めてくれって言ってるの!」
数字の組み合わせの話からあっという間に赤葦君のお説教に変わった会話を聞きたくなくて、電話の向こうに居る梟谷の木兎君に助けを求めるも殆ど無意味に終わった。
相変わらずけらけらと楽しそうに笑う黒尾君に八つ当たりとは知りながらむかっ腹を立てていれば、今まで黙っていた孤爪君が静かにその口を開く。
「.......ミケ、10桁からの4つの組み合わせは、10の4乗になるから、全部で10000通りになるんだよ」
「え゛ッ!?い、10000!?」
孤爪君の口から零れた、予想以上に大きい数字にたまらず声がひっくり返る。
い、10000て、えーと、10が何個だっけ...?
おたおたと南京錠と孤爪君を交互に見ながら、先程の私の答えとこんなに違えば、確かに赤葦君は怒りたくもなるかもしれないなと少し反省した。心の中でだけど。
「ちなみに、1組試すのを1秒にしても、2時間46分掛かることになる」
「え〜!?2時間半以上!?ずっとこのまま!?」
「......まぁ、あくまで最後の最後まで組み合わせが見つからなかった場合だけどね......」
驚愕する私を見て、不憫に思ったのか孤爪君は若干のフォローを入れてくれるが、兎にも角にもこの南京錠を外すのはなかなか至難の業であることがわかってきた。
誰だよ、ラクショーなんて言った奴。私ですね、すみませんでした。
「.......一先ず、役割分担しましょうか。俺、南京錠ひたすら合わせます。単純作業はわりかし得意なんで」
「.......じゃあ、ありそうな4桁の数字考えてみる。大体こういうのって基本覚えやすいものが多いし......あと、何か辺りにヒントが無いか、調べてみる」
赤葦君の言葉に孤爪君が続き、どうやらそれぞれの得意分野で今から別作業をするようだ。
「えーと、じゃあ、私は、」
「ミケ、はい」
自分は何が出来るかなと考え始めた矢先、孤爪君から私のスマホを寄越された。
「暫く、クロ達の相手してて。......赤葦、懐中電灯借りてもいい?」
「ん。......あ、じゃあ御木川さん、ついでにそのスマホで俺の手元照らしてもらってもいいですか?」
「.............」
私が何をやるか決める前に、二年セッターコンビは有無を言わさずそんな指示を出してきた。
若干面白くないとは思ったものの、特に自分に何が出来るのかも咄嗟に思い付かない為、結局渋々スマホを受け取り、赤葦君の手元を照らす。
「.......もしもし、黒尾君?今の聞いてた?私、一番歳上のはずなのに、戦力外通告を受けましてよ?」
《ブヒャヒャw聞いてた聞いてたwまぁ、頭脳派セッターコンビと一緒じゃァ誰でもそうなるって。あんま気にすんなよ》
孤爪君も赤葦君もそれぞれ作業に取り掛かってしまった為、電話の向こうの黒尾君に愚痴を零せば、そんな言葉が返ってきた。相変わらず、黒尾君はとても優しい。
赤葦君も少しは見習ってくれと明後日なことを思いながら、しゃがみ込んで鍵の解錠を試みている赤葦君をちらりと見ると、その手元が驚く程高速で動いていて、思わず目を丸くした。
「うわっ、赤葦君めっちゃ速い!それ1秒掛かってないんじゃ......いや、指どうなってんの?」
「.......こういう単純作業はわりかし得意だと、さっき言ったでしょう」
「言ってたけど!でも、限度があるよ!なに、赤葦君はロボットなの?だから鉄仮面なの?」
「......後で痛いのいきますよ」
「......あ、ロケットパンチ?」
「.............」
「赤葦、ミケ、笑っちゃうからちょっと後にして......」
カチャカチャと規則的な音が鳴るその手元は、私と話している間も一向に止まることは無い。
機械じみたその動きにもしかしてと思ってしまえば、足元にいる赤葦君からは呆れた様子でため息を吐かれ、少し離れた所にいる孤爪君からは可笑しそうに肩を揺らしながらそんな言葉を寄越された。
《お前ら......本当に仲良いよなァ》
「え、どこが?別に仲良くないよ?」
「.......別に仲良くはないです」
電話越しの楽しそうな黒尾君のひと言に、うっかり赤葦君とハモってしまえば、音駒の幼なじみコンビはほぼ同時にふきだすのだった。
セッターコンビのアメとムチ
(私!一応!先輩なんだよ!?)