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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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「やだやだやだ!!トイレなんて如何にもじゃん!!絶っっっ対行かない!!」
「直ぐだから!!本当にちょっとだから!!俺トイレ速すぎってよく木葉に言われるし大丈夫だって!!」
「木葉誰だよ!?ていうか速さの問題じゃないから!!本当に行きたくないの!!マジでムリなの!!」
「俺もムリなの!!!もおおおおあかーしいいいいい!!!何とか言ってよおおお!!!」
「.......阿鼻叫喚?」
「ブヒャヒャ!wそりゃおま、ツッキーだろうが!w」
「あかーしいいいいいい!!!」
「だから!!木兎君一人で行けばいいじゃん!!」
「それはやだあああああああ!!!」
「わがまま言うな!!男を見せろ!!」
「.......うるっさ......」
先程のトイレ行きたい発言から数分後。
絶対にトイレなんか行きたくない私と、絶対にトイレに行きたい木兎君の熾烈な争いが繰り広げられていた。
そもそもトイレに行きたい人だけがトイレに行けばいい話なのに、木兎君はみんなとはぐれたら嫌だからとの理由で全員を巻き込もうとしているのだ。
「男子トイレだし、中まで入らなくていいから!」と懇願されているが、私は最早トイレ近隣に行きたくないのだ。
だって、トイレだよ?夜の、学校の、トイレだよ!?
そんなん絶対に何か居るに決まってるし、絶対に何か起こるに決まってる!!
「別に私トイレに行っちゃダメなんて言ってないじゃん!!赤葦君でも黒尾君でも連れてきなよ!!」
「オイ、なんで研磨は抜きにした?」
「孤爪君まで行っちゃったら私一人になるでしょ絶対に行かせない。」
「.......ミケ、裾伸びるからやめて......」
「ごめんもう二度としない」
「君らのそのあからさまな上下関係なんなの?」
「というか御木川さん、さっき木兎さんに“我慢して?”って言ってましたよね」
「そんな遥か昔のことは忘れました」
「.............」
一旦三年五組の前の廊下に出たところで、半泣きの木兎君とガチギレの私の言い合いに外野の三人はそれぞれ好き好きに口を挟んでくる。
しかしながら私も木兎君もそれに構っている心の余裕は無く、何とかして力技に持って行こうとしている木兎君の攻撃をぎりぎりで避けるので精一杯だ。
あの大きな手に掴まれたら最後、きっとズルズルと男子トイレの前へと連行されるに違いない。
「本当に!!本当に漏れちゃうから!!マジで今ギリギリだから!!誰でもいいので着いて来てください黒尾トイレどっち!?」
「え、あっち?」
切羽詰まった木兎君が黒尾君に尋ねると、黒尾君は反射的にこの階の男子トイレの場所を指さした。
瞬間、光のような速さで木兎君は黒尾君の腕を掴み、そのまま男子トイレへ向かって猛スピードで駆け出した。
「うっっっそだろおま......連れション相手俺かよ!?」
「.......じゃあクロ、俺ら外で待ってるから......」
「お力になれず申し訳ありません」
「右に同じです」
「.......お前ら後で覚えてろよ......!」
木兎君に引き摺られる形で薄暗い廊下を走っていく黒尾君の背中に孤爪君、赤葦君、私の順に声を掛けるとそんな恨みがましい言葉が返ってきたが、安全第一、保身第一であるこのメンツが素直に耳を傾ける訳もなかった。
▷▶︎▷
男子トイレへ急行した木兎君と黒尾君の後をゆっくりと追い、結局私も男子トイレ近辺に行くことになってしまった。
正直、木兎君や黒尾君、赤葦君には「NO」と言いやすいが、孤爪君にだけはどうも口答えしにくい。出会い頭に殴りかかってしまったという引け目もあるし、それでもようやく友達認定してもらえたのがついさっきのことなので、なるべく衝突はしたくなかった。
とは言っても嫌な時は文句言うし、腹が立てば怒りもするけど、なんと言うか、意見が対立した時の勝率が孤爪君相手の場合著しく低くなってる気がする。
現に今も、男子トイレの近辺には行きたくないと主張していたのに、短い間で言いくるめられて渋々ここへ足を運んでしまっていた。
しかも私と孤爪君が対立すれば、赤葦君は当然のように同じ二年生の孤爪君の方に加勢する。
この賢い二年セッターコンビがタッグを組んでしまえば、私は必然的に白旗を上げるしかないのだ。
「あかーしちゃんと持ってる!?しっかり持ってる!?」
「......持ってますから、早く済ましてください...」
トイレの中から聞こえる木兎君の大声に、延長コードの先を持った赤葦君が溜め息を吐きながら呆れた声でそう返した。
赤葦君が持ってるそれは男子トイレの中へ繋がり、そのコードの先を同じ梟谷生である木兎君が持っている。
トイレの中にいる二人と念の為繋がっておいた方がいいのではと提案したのは孤爪君で、外の会話を聞いていた木兎君が私の持っている延長コードを寄越してくれとお願いしたのだ。
当然、女子である私が男子トイレの中に入るなんて死んでも嫌だったので、自分の身体にタスキのように掛けている延長コードをさっさと赤葦君へ渡した。
瞬間、赤葦君からは「なんで俺なんですか」と目で訴えられたものの、トイレの中に居る木兎君から「あかーし持ってきてー!」というご指名が入ったので、結局赤葦君が一度トイレの中に入り、延長コードの端を木兎君へ渡しに行った。
その際、孤爪君はしれっと赤葦君に自分のスマホを黒尾君へ渡すようお願いし、黒尾君にはトイレの中の写真を撮ってくるよう命じていた。
「何か写っていたら面白いよね」ということらしいが、私は何が面白いのかが全くもって分からない。
そんなことより「クロ、手を洗う前に俺のスマホ触ったら絶交だから。あとバレー辞める」という孤爪君の一言の方がずっと面白かった。
「あかーし絶対離したらダメだからな!!あっ、振りじゃないぞ!!絶対ダメだからな!!」
「木兎うるせぇ!用足すくらい静かにやれ!」
「あっ!黒尾!外にミケちゃん居るのに!下品!」
「お前が言える立場か!!」
「.............」
トイレの中からわいわい聞こえる木兎君と黒尾君の騒ぎ声を聞きながら、全然怖くなさそうだなと驚きを通り越して呆れた目を向けていると、外で待っている赤葦君も孤爪君も私と似たような心境なのか、同じような顔をしていた。
「......ねぇ、なんで赤葦君と木兎君て仲良いの?」
「は?いきなり何です?」
「いや、二人ってさ、性格真反対じゃん?黒尾君と孤爪君は幼なじみって聞いたから、まぁ、年月をかけて培った関係性なんだろうなって思うけど、木兎君と赤葦君はそうじゃないんでしょ?あれ、それとも幼なじみ?」
「.............」
トイレの二人を待つ間、ふと気になったことを何となしに赤葦君に尋ねれば、赤葦君は延長コードを片手に少しだけ眉をひそめる。
しかしそれは一瞬で、小さくため息を吐いた後、ゆるりとその端正な無表情を向けてきた。
「.......いえ。木兎さんとは高校からです」
「へぇ、そうなの。じゃあなんで?」
「.......なんでと、言われても......」
好奇心からの私の言葉に、凛々しい眉がピクリと動く。
珍しく困ったような様子を浮かべる相手におとなしく返答を待っていると、赤葦君は少し考えるように間を置いた後、おもむろに言葉を続けた。
「.......仮にも先輩相手に“仲が良い”という言葉を使っていいのかわかりませんが......強いて言うなら、木兎さんはスターなので......」
「......スター?」
相変わらず生真面目な様子を崩さない赤葦君の言葉に、思わず復唱してしまう。
“スター”という単語を聞いてパッと思い浮かんだのは、某ゲームの赤い帽子の配管工で、木兎君がスターとは一体どういう意味だと考えた矢先、頭の中の木兎君がその有名なゲームキャラと同じように元気いっぱいにジャンプするのを容易く想像できてしまった。
「.......あぁ......なんか、わかるかも......確かに木兎君て、何かぶつけられても跳ね返しそうだよね」
「は?ぶつけ......?いや、何の話ですか?」
「え、だからスターの話。あ、別にあれか、ぶつけられるというか、どっちかっていうとスターの方からぶつかってくる感じ?あの、俄然無敵な」
「は?ぶつかってくる?」
某ゲームのスター状態、つまり一時的に無敵な状態は、色々と強い木兎君に何となく通ずるものがある気がしてうんうんと同意を示したのに、赤葦君はまた珍しく困惑したような顔を寄越した。
え、なんでそんな顔するの。赤葦君が持ってきた話でしょうよ。
「.......あぁ、でも、初対面の時は確かにスターの方から話しかけてきましたね。ある意味、ぶつかってきたと言えばそうなのかもしれません」
「え?初対面?ていうか、話しかけられたって何?今からお前のことぶっ飛ばすぞ的な?」
「アンタ何言ってんですか?いきなりそんな物騒な挨拶する訳ないでしょう。木兎さんですよ?」
「え、なんでディスられてんの?だって、スターの人が話しかけてくる時点でもう物騒でしょうよ」
「はぁ......?」
「えぇー......?」
話せば話す程赤葦君の顔はどんどんしかめっ面になり、私の頭には“?”マークがどんどん増殖していく。
しまいにはお互い顔を合わせたまま黙り込み、双方「何言ってんだコイツ」という視線を送り合っていると、ふいに近くに居た孤爪君が可笑しそうに小さくふきだした。
「.......もうやめて......お腹痛い......死ぬ......」
「.......死んだら困るけど、孤爪は一体何をそんなに笑ってるの?」
「.......本当......二人とも......天才......」
「あ、コレ、完全にバカにされてる奴ですね。私らそんな頭悪い話してましたかね?」
「俺はしてないんで、御木川さんじゃないですか?」
「何その自信どこからくるの?顔?」
余程顔を見られたくないのか、こちらに背中を向けて静かに笑い続ける孤爪君を気にしつつ、赤葦君に確認を取ればさらりとマウントを取られた。
顔が良いからって何してもいいとか思うなよと舌打ちしようとした矢先、何かが落ちたような軽い音がしたのと、赤葦君が勢いよく男子トイレの方へ顔を向けたのは殆ど同時だった。
「ッ、うそだろ、切られた......!」
「え?」
「木兎さん!黒尾さん!大丈夫ですか!?」
今までの様子から一変した赤葦君が、大きな声で二人を呼びながら急いで男子トイレの中へ入って行く。
赤葦君の言動に何かがあったことを直ぐに察して、私も孤爪君も慌てて彼の後に続いた。
男子トイレの中に入るのは些か抵抗はあったけど、緊急時にそんな呑気なこと言ってられないだろう。
「ごめん!ちょっと入るよ!」
それでも一応断りを入れてから侵入すると、タイル張りの男子トイレの中には......赤葦君の姿しか無く、黒尾君と木兎君はまるで手品か何かのように忽然と消えてしまっていた。
「.......え......」
「......赤葦個室は?あと、清掃用具のとこ......窓、開くか調べて......一応、天井の換気孔、人が入れるか調べよう......」
「わかった!」
突然のことにぼんやりとしてしまう私とは対照的に、孤爪君はぐるりとトイレの中を見回してから直ぐに的確な指示を赤葦君に出した。
孤爪君の落ち着いた声にハッとしたのは赤葦君も一緒だったようで、早急にトイレの個室内を調べ始める。
私も何か動かないとと動かした足のつま先に、カツンと軽い何かがぶつかり反射的に下を見ると、私が運んでいた延長コードが落ちていた。
さっきまで赤葦君と木兎君を繋いでいたそれは、丁度半分程の長さのところで......綺麗にブツリと切られてしまっている。
「.......なん、で......?」
床に転がったコードをよく見ようとしゃがみこみ、切られた延長コードを怖々と掴む。
まるでよく切れるハサミで切ったような、本当に綺麗な断面だった。
.......でも、一体誰が?トイレの外には私達が居たし、黒尾君と木兎君以外誰もトイレの中には居なかったはずだ。
木兎君と黒尾君が切ったにしても動機に欠けるし、そもそもハサミやナイフなんてあの二人は持ってなかったと思う。
「.......窓は、開かないみたい......換気孔は......」
「ダメだ。ネジが固くて、開かないようになってる。木兎さんの力なら、もしかしたら開くかもしれないけど...この短時間でここに登って、最後にきちんとネジを締めるなんてワザ、できるわけが無い」
「......それに、何の音もしなかった。多分、クロと木兎さんは、イタズラで居なくなった訳じゃないんだ......」
「.......じゃあ、二人はどこに居るの?」
「.............」
切られた延長コードを片手に、しゃがみ込んだ状態で赤葦君と孤爪君に思わず尋ねてしまうも、二人は私を見ずにただ口を噤んだ。
“.......なーんちゃって。ビックリしたろ?”
“ヘイヘイヘーイ!ドッキリ大成功~!”
そんな陽気な声と共に、ニヤニヤと意地悪く笑う二人が何処かからひょっこり現れるのではないかと考えてしまうものの、現状は静寂と暗闇、不安と焦燥ばかりが続き、私も赤葦君も孤爪君も暫く言葉を失ったまま、男子トイレの中で途方に暮れることしか出来なかった。
黒ネコ、ミミズク、失踪事件
(ほら、やっぱりトイレは行っちゃダメなんだよ!)