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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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中央階段を降りて、玄関へ向かおうとするも景色がおかしいことに気が付いた。
真っ暗に近い廊下に立ちながら近くの教室のプレートを確認すると、そこはまさかの三年生の教室だった。
うそ、だってさっきのところも三年の教室だったじゃん。
どうして階段を降りた先が、上の階と全く同じ教室配置になってるの。
「......うえぇー......意味わかんない......」
「いや、意味わかんねぇのは最初からだろ」
「もっかい戻ってみる?俺上がって確認してこよっか?」
「待ってください、一人じゃ危険です。行くなら全員で行きましょう」
続く不可解な現象に顔を顰めてしまうと、隣りの黒尾君が至極的確なことを返してきた。
私達の話に木兎君が颯爽とそんな提案を投げてくれたものの、赤葦君が単独行動は危険だと木兎君の首根っこを言葉で繋ぐ。
「.......多分、意味ないと思うけど......一応、戻ってみる?」
孤爪君の言葉に全員がそろりと目線を合わせ、今降りてきた階段を再び上がってみる。
全員が嫌な胸騒ぎを覚えつつ無言で階段を昇り、一番最初に階段を上りきった木兎君が懐中電灯の明かりを教室のプレートに向ければ、やはり三年生の教室、「三年五組」の文字が浮かび上がった。
「わはは!どうなってんだ!?」
「いや、笑い事じゃねぇだろ......」
「いやいや、逆にもう、笑うしかないのでは......?」
訳の分からない事態に木兎君は楽しそうに笑い、黒尾君は口元を引くつかせ、私は虚無になりつつ乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
階段を上がっても、降りても全く同じ場所に着いてしまうなんて、一体何の為の階段だ!
「.......ここ、確かクロのクラスじゃなかったっけ?」
「おう。あと、夜久とミケも一緒」
「え......まさか、入る気......?」
ふと思い出したように孤爪君が尋ね、黒尾君が軽く頷く。
二人の会話にうっすらと嫌な予感を覚え、眉を顰めながら孤爪君を睨むように見ると......孤爪君は小さくため息を吐いた。
「.......ずっと同じことしてても、ゲームはクリア出来ないんだよ......」
「でもこれゲームじゃないし。セーブも出来ないし、1回死んだら終わりだからね?」
「.............」
まるで諭すような口調で言われたことに少しムッとして、私も負けじと言い返せば孤爪君は少しだけ目を丸くした。
しかしそれは一瞬のことで、次にはひどく意地悪そうに小さく笑う。
「.......うん、大丈夫。俺、そういう“縛り”、結構好き」
「あの、私の話聞いてました?」
ワザと言ってんのか、割りと本気なのか、ジャッジが難しい孤爪君の言葉に呆れ半分むかつき半分でそう返すと、隣りに居る黒尾君が可笑しそうにふきだした。
「ハイハイw喧嘩しない喧嘩しない」
「ちょっと何笑ってんの。なに、今のもしや孤爪君のボケなの?超わかりづらいんですけど」
「そんなキレんなってw」
孤爪君との会話にニヤニヤと笑う黒尾君が入ってきて、それにも少しムッとしていれば黒尾君は更に笑う。
孤爪君に何か言ってくれる素振りも無いし、私の味方になってくれそうも無かったので、何となく裏切られた気分になった。
「別に、キレて、ないし!」
「!」
途端に面白くなくなり、黒尾君と繋いでいた手を少し乱暴に離す。
そこまで強度を保っていなかった黒尾君の大きな手は、私が払い除けたことで簡単に外れた。
もう知らん。次怖いって言われても、絶対繋いでやんない。
「.......いや、ミケちゃん完全にキレてんじゃん......」
「キレてないっすよ~」
「......古......」
「オイコラ、聞こえてんぞ赤葦君」
そのまま黒尾君から離れて、教室近くに居る梟谷の二人の方へ向かう。
教室のドアには長方形のガラス窓が付いていて、そこから室内を確認すると薄暗いながらもいつもと同じ風景の教室が見えた。
黒板にも何も書かれてないし、机の配置も変わらない。窓もカーテンも教壇も、いつもと同じだ。
「何か変わったとこ、ありそう?」
背の高い木兎君は私の後ろから屈み込み、同じ窓から教室内を覗く。
木兎君の質問に特に何も変わらないことを伝えて、多分危険は無いだろうと希望的観測を含んだ結論を自分の中で出した。
「......ゆきだるまつく~ろ~♪ドアを開けて~♪」
「!?」
どうせ私が何を言っても教室には入ることになるんだろうし、半ばやけくそになりながら某有名な映画の歌を口ずさむと、木兎君は目を丸くしつつもどこか楽しそうな顔を浮かべた。
ちなみに赤葦君は相変わらず無表情で私のことを見ていて、黒尾君は呆気に取られたような顔をし、孤爪君は小さくふきだしていた。
「......えぇー......?ちょっと、ミケさん......?」
「わかったよ~♪」
「オイ木兎w天才かお前w」
戸惑いがちに私の様子を窺う黒尾君の言葉に被せるように、木兎君は私の歌に明るくノッてくれる。
木兎君のこういうところ、本当に結婚したい。
そして流石に堪えきれなかったのか、黒尾君が可笑しそうに笑った。
そんな一瞬のアホなやり取りがあって、ノリノリの木兎君があの映画で特徴的なノック音を響かせる。
そのままドアに手を掛けて力を入れれば、三年五組の教室のドアはガラリと簡単にスライドした。
「おお!開いた!失礼しまーす!」
「まぁ、普通の教室は鍵掛けないわな......」
「ハイ、電気点けまーす」
楽しそうな木兎君を先頭に赤葦君、私が入室し、黒尾君と孤爪君が後に続く。
私はさっさと電気をつけに走り、明るくなった室内にほっと息を吐いた。
きょろきょろと楽しそうに教室内を見て回る木兎君とは対照的に、赤葦君は一度窓の外を確認した後ドアの方へ戻り、腕組みをしながらそこに背中を凭れた。どうやらドアが閉まらないようにしてくれてるらしい。
孤爪君は何か使えそうなモノが無いか探しているのか、掃除用具入れや他人の机を静かに物色している。
それを見て、万が一にも私の机を見られたらイヤだなと思い、防御するように足早に自分の席へ着いた。
「......なに、ミケ、休憩?」
自分の席に座った途端、黒尾君から目敏くそんな言葉を掛けられ、「だってやることないし」と返すと可笑しそうに苦笑された。
そのまま黒尾君も自分の席へ、つまり私の後ろへ「はー、どっこいしょ」と座り、その何とも言えないオヤジくささに今度は私がふきだした。
「え、何?」
「.......ううん?別に、何も?」
「いや、今完全に笑ったじゃん?今も笑ってんじゃん?」
訝しげな顔を向ける黒尾君がまた可笑しくてクスクス笑っていると、黒尾君は少し拗ねたように顔を顰めながらも椅子に座り直した。
長身の黒尾君が座っていると、普通のサイズであるはずなのに机や椅子がとても小さい物のように見えてしまうのが不思議だ。
「.......ん?」
「え?なに?」
こんな奇妙な状況下で普段と同じように、教室の席に座ってるこの状態が何だか変な感じだなと思っていると、ふいに黒尾君が不思議そうに首を傾げた。
どうしたのかと聞くも、黒尾君は特に何も答えず自分の机の中に腕を突っ込む。
何か見つけたのかなと思うと同時に、黒尾君は机から腕を引き抜くと......その指先には、銀色の鍵が摘まれていた。
「......え、何、もしや家鍵?えぇ~、ちょっと不用心じゃない?」
「そうそう、実は置き忘れててさぁ~......て、ンな訳ねぇだろ。お前じゃあるまいし」
「イテッ」
ゆるいノリツッコミと共に額を軽く小突かれ、片手でおでこを擦りつつ改めて黒尾君の机から出てきた鍵を見つめる。
家鍵のようにも見えるそれは、言ってしまえば本当に「何の変哲もない鍵」で、おそらくどこかの教室の鍵だろうものの、鍵そのものだけではどこのものなのか全く判断がつかなかった。
「一応お前も机ン中、見てみれば?」
「えー?あるかなぁ?」
長い指でちょいちょいと私の机を指されて、半信半疑で一応私も机の中を探ってみる。
ちなみに私は完全に置き勉するタイプなので、まずは中にある教科書やノートを机の上に出す所から始めた。
「オイw受験生が置き勉すんなよw」
「いいじゃん別に!必要なものはちゃんと持って帰ってますぅ」
「......そう言ってこの前、数学のプリント忘れて俺にラインで泣き付いてきたのは誰ですかぁ?」
「そんなはるか昔のことは忘れました」
「何がはるか昔だよw先週だバカw」
「もー!うるさいな!探し物してるんだから静かにして!」
机の中を調べてる最中、あれこれ話してくる黒尾君が煩わしくて一度声を荒立てるも、大して効果は無いのか黒尾君はニヤニヤと笑って「ハイハイw」とテキトーな返事をするだけだった。
何だそれ、ムカつくなぁと腹を立てながらも大方のものを出し終わり、試しに机の中に腕を突っ込んでみると指先にコツリと何かが当たる。
感触からして多分金属で.......多分、これはビンゴだ。
「.......えぇー?......本当にあった......」
指先に当たったそれを摘んで、机の中から腕を引き抜くと、私の手の平には黒尾君と同じような「何の変哲もない鍵」が収まっていた。
勿論私のものではないし、こんな鍵を机にしまった覚えも無ければ誰かから預かった記憶も無い。
「俺のと一緒?」
「......んー?わかんない......あ、そういえば木兎君も、さっき何かの鍵見つけてたよね?」
黒尾君の机の中にあった鍵と私の見つけた鍵を一先ず黒尾君の机の上に並べてみると、本当にそっくりだった。
でも、こういう部屋系の鍵って似たり寄ったりなものが多い気がするし、何よりもまず情報が少な過ぎるだろうと思い、先程の技術室の一件を思い出して口にすると、黒尾君は一度私と目を合わせて直ぐに木兎君をこちらへ呼んだ。
「木兎、ちょっとこっち来い。さっき見つけた鍵見して」
「お、おー?いいぞ~。何か見つけたの?」
「鍵。俺とミケの机の中に1本ずつ入ってた」
どこかそわそわとしながらも、木兎君はこちらへ寄ってきて先程見つけた鍵を同じように机に並べる。
よく見れば三本とも少しずつ違うような所もあるが、やはり形状に大した差は無いというか、どこの部屋の鍵なのかが全く分からない。
「.......ホラゲとかでさ......探索して、アイテム見つけると“どこどこ室の鍵を見つけた”みたいな表記が出るけど......アレって実は懇切丁寧な仕様だったんだね......」
「.............」
鍵を見つけたという言葉に孤爪君も興味を示したようで、こちらへ来るなりぼそぼそとそんな話を始めた。
だからこれはゲームじゃないって言ってんじゃんと私が反論する前に、黒尾君が「あー、確かに。実際現実で起こると、そうはならねぇなァ」と相槌を打つ。
「とりあえず、この鍵使えそうな部屋探すか?」
「.......そうだね......階段使っても移動できないみたいだし......現状から考えて、部屋から部屋への移動を試すのがベストかな......」
「.............」
黒尾君と孤爪君の話に、またあのトリックアートみたいな体験をしないといけないのかと静かに顔を顰めて入れば、「ゴメン!ちょっといい!?」と唐突に木兎君が口を挟んできた。
目を丸くしながらも全員が木兎君の方へ視線を寄越すと、木兎君はどこかそわそわとした様子で、そしてなぜかとても言いづらそうに、もじもじと大きな体を小さくさせている。
「.......あの、俺、......トイレ、行きたくなっちゃった...」
「.............」
いつもよりずっと覇気がない木兎君の発言に、黒尾君と孤爪君、少し離れた所に居る赤葦君が無言になり、そのまま示し合わせたように私へ視線を寄越した。
「.............そっか、我慢して?」
「ミケちゃあん!!!」
三人の視線を受けながらにっこり笑ってそう返す私に対し、木兎君が情けない悲鳴を上げたのと三人が可笑しそうにどっと笑ったのは、殆ど同時だった。
あの子の笑顔は100万ボルト
(ムリムリムリ!!漏れちゃうからあ!!!)