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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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赤葦君が見つけた六角レンチを持って、再び渡り廊下の格子状のシャッターの所へやって来た。
「俺がやりたい!」という木兎君の立候補に反対する人も居なかったので、木兎君は意気揚々と六角レンチを黒尾君が発見した六角形の小さな穴へ差し込む。
どうやらサイズ感もバッチリなようだ。
「フンッ!!」
「おい木兎、間違っても折るなよ?」
「折ったら木兎君、マジで殴るからね?」
「あーもう、うっさい!折らねぇよ!気を付けて回しますぅ!」
あまりにも勢いよく回そうとするので思わず黒尾君と私がそんな声を掛けると、木兎君からは不貞腐れた声を返された。
それでもやはり心配で、木兎君の手元に注視してしまう。
木兎君の逞しい腕がぐるぐると回り始めると、頑なに動かなかったシャッターが歪な金属音を響かせてゆっくりと上がっていった。
何処と無く不安にさせるその音に堪らず近くに居る黒尾君のTシャツの裾を掴み、動くシャッターを怖々と睨む。
真っ暗な廊下、キイキイと音を立てながらゆっくりと上がっていく格子状のシャッター。
その光景はまるで、某ウイルスが撒き散らされたゾンビアクション推理ゲームによく似ていて、ひょっとしたらシャッターの向こうから何か得体の知れないモノが出て来るかもしれないとすら思えてしまう。
黒尾君の服を掴む左手とは逆の右手は先程の件で少し負傷しているが、利き手の攻撃力の方が多分まだ高いはずなので、万が一に備えてしっかりと拳を構えておく。何事も先制攻撃に限るからだ。
「.......大丈夫か?」
「!」
上がるシャッターを黙々と睨んでいると、私の方へ少し身を寄せた黒尾君が頭の上からぽつりと小さな声を降らせてきた。
反射的にそちらへ顔を向けると、黒尾君の切れ長の真っ黒な目とぱちりと重なる。
私の様子を窺うその目には心配の色がありありと映っていて、黒尾君て本当に優しい人だよなぁと場違いながら少し感動してしまった。
「.......うん、大丈夫。向こうからゾンビ出て来ても、黒尾君のことは守ってあげるからね」
「.......えー......どこからツッコもう......」
気配り上手な黒尾君にふんすと鼻を鳴らしながら右手拳を見せると、黒尾君は何故か一気にテンションを落としてガクリと項垂れた。
そんなこんなしていれば、シャッターは大分上まで上がっていて、「もう大丈夫じゃないですか」という赤葦君の一言で木兎君は六角レンチから手を離す。
「お疲れ様でした」
「木兎君ありがと~」
赤葦君に続いて木兎君へお礼を述べると、木兎君は明るく笑って「どういたしまして!」と上機嫌で返してくる。
「そいじゃァ、行きますか」
「ヘイヘイヘーイ!」
黒尾君の一声に、心底楽しそうに懐中電灯を振り回す木兎君の鋼メンタルを若干羨みつつ、結局シャッターの向こうからは何も出て来なかったことにほっとしながら黒尾君のTシャツからそっと手を離した。
我先にとシャッターの向こう側へ歩いていく木兎君を先頭に、赤葦君と孤爪君が続き、その後を追おうと一歩足を進めたところで、左手を大きな何かに掴まれた。
「えっ、......え、何?」
「.............」
咄嗟に振り返ると、私の左手を包むようにして黒尾君の大きな右手が柔く繋がっていた。
まさかそんなことをされるとは思わず、驚いた目を黒尾君に向けてしまうと、黒尾君はゆるりと私へ視線を重ねる。
「.......ミケちゃん、怖いかなぁって思って。俺なりの優しさっていうの?」
「.............」
驚く私とは対照的に、黒尾君は余裕そうに笑いながらそんな言葉を告げてきた。
一瞬、バカにされてるのかと思って頭が沸騰しかけたものの、繋がれている手がほんの少しだけ不安そうにピクリと動き、もしかしたら黒尾君の方が少し怖くなっているのではと思い当たる。
このメンツの中で一番の怖がりは間違い無く私だけど、次点はおそらく黒尾君だろう。
木兎君は怖がりつつも楽しんでる印象が強いし、孤爪君は完全に楽しんでるし、赤葦君は怖がっても楽しんでもない感じがする。
多分、黒尾君もそこまでこういう状況に強い訳ではないんだろう。
なのに、それでも私のことを心配してくれたり、私が咄嗟に裾を掴んでも嫌がらずにされるがままでいてくれてる黒尾君は、やっぱり音駒が誇るナイスガイだ。
「.............」
「.......あ~......嫌なら、別に、離すけど......」
思わず黙ったままになっていた私に遠慮したのか、黒尾君は気まずそうに視線を外し、少しだけ右手の握力を弱めた。
先程よりも少し空いた空間に、今度は私からその大きな手をぎゅっと握る。
「っ、えッ......」
「全く、怖いなら怖いと素直に言いなさいヨ。手ぇ繋ぐくらいなら、別に怒んないよ?」
「.............」
握り返した手に、今度は黒尾君が目を丸くする。
そんな彼に対して繋いだ手をゆるく揺らしつつ、何だか少し誇らしい気分になって黒尾君を引っ張るように前へ足を進めた。
なんだろう、自分より怖がっている人を前にすると、逆に少し心の余裕が出てくるというか、黒尾君に対して私が何かしてあげなければとヘンな使命感すら生まれてくる。
もしかしてこれが働きアリの法則というヤツかと一人妙に納得していると、私に引かれている黒尾君が小さくため息を吐いた。
「.......あ~......上手くいかねぇ~......」
「フッフw怖がりを恥じることはないのだよ、黒尾君」
私に繋がれていない左手で顔を覆い、どこか気落ちする黒尾君に笑ってそう答えてあげれば、「あー!黒尾とミケちゃんがイチャついてる!」と木兎君に目敏く見つかってしまった。
「違う違う、黒尾君今ちょっと怖いんだって」
「え、黒尾が?演技なんじゃね?」
「木兎君wどんだけ黒尾君に信用ないのw」
途端に怪訝そうな顔を見せる木兎君の発言にうっかりふきだしてしまえば、今まで木兎君が黒尾君に騙されてきた数々の実例を話し出し、それにまたけらけらと笑ってしまう。
「.......ふーん......まぁ、いいんじゃないの?」
「度を超えない範囲でお願いしますね」
「.............」
私と木兎君が楽しく話す一方で、孤爪君と赤葦君の二年セッターコンビからそんな一言を頂戴した黒尾君は、肩身の狭そうにその大きな身体を小さくしていた。
西棟から繋がる渡り廊下を渡り、本来ならここは中央棟の二階、つまり先程少しだけ来た二年生の教室が連なる場所になるはずだ。
懐中電灯が照らした教室のプレートを読むと、これまた奇っ怪なことに三年三組という文字列が並んでいた。
私ら三年生の教室は三階の筈ですけど!
「でも、ここが中央棟だったのは良かったじゃん」
「うぬん......まぁ、そうかぁ......」
別の階の教室になっていることに静かに憤慨してしまうと、私を宥めるように孤爪君が小さく声を掛けた。
でも確かに、わざわざシャッターを上げてこちらへ来たのに、また西棟に戻ってましたとかだったらめちゃくちゃ腹が立つ。
それよりはまだマシかと考え直していると、懐中電灯を持つ木兎君が「教室入る?それとも階段降りる?」と相変わらず楽しそうに聞いてくる。
ちらりと廊下を眺めると、ずらりと並ぶ教室のドアはどこもぴったり閉まっているようだ。
この渡り廊下は中央棟の真ん中よりもやや西側にくっ付いていて、右を見れば教室が三つほどあり、一番奥の教室の向かいに西階段がある。
一方、渡り廊下を挟んで左側を見れば右側よりずっと長く伸びる廊下があり、二つほど教室を過ぎた辺りに中央階段が、それを過ぎてずっと先には東階段があった。
三年通ってきた学校だから方向感覚は掴めてはいるけど、夜の校舎特有の薄く暗さと奇妙奇天烈な空間移動のせいで全く馴染みのない所に居るような感覚に陥る時もある。
ここは本当に音駒高校なのかと疑心暗鬼し出したらもうキリがないのでなるべく考えないようにしているが、少しだけ頭が疲れてきたのは、きっと私だけではないだろう。
「......とりあえず、階段を自由に使えるなら、それに越したことはないんじゃないでしょうか」
顎に手を当てた赤葦の言葉に、黒尾君と孤爪君が小さく頷く。
「そうだね......どっちにしても、ゴールはここの一階の中央玄関だし......」
「本来ならここは二階で、この階段を降りれば一階に着く訳だ。結果はどうあれ、試してみる価値はあるだろ」
音駒生の二人の意見も一致したことで、一先ず一番近い中央階段を降りることにした。
「足元気を付けろよ~」
「.......そんな、手ぇ繋いでる人に言われても......」
「おやおや~?何なら赤葦君も繋いで差し上げましょうか~?」
「遠慮します。それに、俺とも繋いだら御木川さん、捕らわれた宇宙人みたいになりますよ?」
「.......人のこと猿って言ったり宇宙人って言ったり......私のこと一体何だと思ってんだ......」
黒尾君の言葉に茶々を入れる赤葦君へ私がやり返してやると、赤葦君は淡々とそんな冗談をかましてくる。
本当にビックリする程口の減らないこの男に少しだけ腹を立てていれば、私の少し前に居る孤爪君が控えめにふきだした。
「おいコラ!孤爪君も笑うな!」
「!」
今までは黙って見過ごしてたけど、さっき少し喋ったこともあって試しに一度声を掛けてみた。
これで無視されたり気まずそうな顔をされたら次は止めようと思っていると、孤爪君は少し間を空けてこちらへ顔を向ける。
「.......ムリ。赤葦とミケ、面白すぎ......」
「.......!」
口元に片手を当てながら、ゆるりと口角を上げる孤爪君に私だけでなく隣に居る黒尾君も驚いたようで、思わず口をぽかんと開けてしまった。
.......だって、今、初めて私の名前呼んでくれた!
「こッ、孤爪君がデレた!!」
「.......俺、そういうのもムリ。」
「ごめんもう二度と言わない!!」
驚愕の色をそのままに思考がするりと口から零れると、途端に孤爪君が嫌そうな顔をしたものだから慌てて今の言葉を謝罪した。
折角デレてくれたのにつまらないことで再びマイナス評価を付けられてしまうのはとても勿体無い。
おたおたと慌てる私を少し下から見上げながら、孤爪君は「......うん。そうして......」とだけ言ってさっさと下に降り始めてしまう。
「あッ、孤爪明かり明かり!暗いとすっ転ぶぞ~!」
「ちょ、木兎さん駆け下りないでください!アンタがすっ転びますよ!」
どんどん降りて行く孤爪君に木兎君が慌てて駆け寄り、そんな木兎君を叱責しながら赤葦君も後に続く。
「.............」
「.......研磨のヤツさァ......めちゃくちゃ用心深い分、一旦懐に入れると結構ずっと大事にすんだよ。ゲームしかり、持ち物しかり、友達しかり」
「!」
孤爪君と梟谷二人の背中を見ながらついぼんやりとしていると、頭の上からぼそりと黒尾君の小さな声が降ってきた。
その内容にぱっと顔を上げれば、黒尾君は至極優しく繋いだ手をゆるりと揺らし、「よかったな」と嬉しそうに笑った。
急募、孤爪研磨の攻略方法
(“クロの友達の先輩”から、“友達”に進化した!)