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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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木兎君の見つけた鍵で開けられた技術室の引き出しを三人で調べていれば、色々と使えそうな物が出て来たので持てる分だけ拝借することにした。
「あ、バールのようなものを発見しました~。ど~ぞ」
「紛うことなきバールですネ。危ないからそこ置いときなさいどーぞ」
「おあッ、またカギ発見した!どーぞー!」
「え、見せて見せて」
「ハイ、どーぞ!」
「木兎お前天才かよw」
黒尾君と木兎君とわいわい話しながら捜索していると、カギを見つけたという言葉に小走りでそちらへ向かう。
木兎君が見つけた鍵は家鍵のような形をしていて、おそらくこれはどこかの教室の鍵だということが直ぐに分かった。
でも、一体どこの教室のものなのかは全く分からない。
だけど多分この先役に立つだろうという希望的観測をして、それは木兎君のハーフパンツのポケットに収納される。
「お、紙ヤスリって何かに使える?」
「紙ヤスリ?なんだろ?......鼻紙とか?w」
「いや、これ両面ザラついてる」
「大事故じゃねぇかw」
紙ヤスリを持ち出した木兎君に黒尾君とけらけらと笑っていれば、「真面目に探してくださいよ」と二年生の赤葦君に釘を刺されてしまった。
赤葦君だって今まで孤爪君とお喋りしてたくせに、とは思ったものの、スルースキル花丸満点な木兎君が「あかーし見て!俺カギ見つけた!」と自慢げに話し出したので、私の文句はため息と共にひっそりと逃がした。
するとここで孤爪君のスマホのアラームが鳴り、技術室に入ってから10分経過したことを告げる。
「あらら、もう10分か。六角レンチ見つかってねーけど、もうちょい探す?」
「......今まで何してたの......」
「ちゃんと探してましたァ。......というか、引き出し全部は開けられないっつーのは地味にイタイよなぁ......施錠してある方に入ってたら絶対見つかんねぇじゃん」
黒尾君と孤爪君の話を聞きながら、あぁ確かにと思う。
もしそうだったらあの檻みたいなシャッターは開けられないから、他に入れる教室を見つけて、先に進むしかない。
先程木兎君が見つけた鍵で何とかなるかなとも思ったけど、その鍵で開けられる教室がなかったらまるで意味が無い上に、入れたとしても移動先が同じ西棟だったら、一向に中央棟や東棟に行けなくなってしまう。
そうなったらもう詰みゲーじゃんとひっそり青ざめていると、意外と早く打開策は見付かった。
「ありました」
「エッ、赤葦マジか!」
「赤葦君すごい!天才!」
いつも通りの低いテンションで対象物があっさりと見つかったことを報告する赤葦君に、黒尾君と私が驚きと喜びの声をあげる。
赤葦君の手には探していた六角レンチが握られていて、一先ずシャッター問題はクリアできるだろうと内心でほっとしていると、なぜか木兎君が得意げに鼻を鳴らす。
「あかーし探し物得意だから!俺が失くしたもの、大体赤葦が全部見つけてくれるんだぜ?」
「それは木兎さんの行動パターンを予測してるだけなので。というか、アンタらマジで何してたんですか。普通にありましたけど」
「え、ちゃんと探してたぞ!」
「うんうん。そこもちゃんと見たけど、さっきは無かったよね?」
「痛いのいきますよ」
「「暴力反対!」」
「......木兎さんは良しとして、御木川さんがそれ言いますか」
「身内贔屓反対!」
「いや、アンタさっき俺にボディブローかましましたよね?」
折角六角レンチが見つかったのに淡々と文句を言う赤葦君に木兎君と対抗していれば、最終的には私のみが彼の攻撃対象になった。
「だってそれは赤葦君が先に私を猿呼ばわりしたからで、元はと言えば赤葦君が悪いと思います」
「だったら口で言えばいいじゃないですか。今話してるのは暴力反対発言についてなんですけど」
「だって赤葦君、絶対言いくるめてくるじゃん!私が文句言っても意味無いじゃん!」
「俺が悪いと思えば謝ります。今度からは殴る前に言葉でお願いしますね」
「何それ、“殴るよ”って言えばいいの?」
「......俺の話聞いてました?」
赤葦君から呆れた目を向けられるのと同時に、音駒の二人が勢いよくふきだした。
可笑しそうに笑う黒尾君と孤爪君とは対照的に、梟谷の木兎君は「赤葦ってマゾなの......?」と眉を下げて赤葦君をまじまじと見ている。
「っはーw笑った笑った......wんじゃ、六角レンチも見つけたことだし、渡り廊下戻ろうぜ」
暫くけらけらと笑っていた黒尾君だったが、赤葦君の機嫌が斜めになっていることを見越してか、この話は終いだと言うようにパンパンと二回手を叩く。
黒尾君の言う通り、六角レンチを見つけるという目的は果たしたのだから、技術室に長居することもないだろう。
彼の提案に反対する人もどうやら居ないようなので、開けっぱなしになっている引き出しを元通りにしてから技術室のドアへ向かった。
「でも、あかーしも女子とケンカすんだな。学校とかじゃいっつもこう、サラーっとしてんのに」
「......御木川さんて、木兎さんと少し似てますよね」
「エッ、そぉ?どこが?」
「基本穏やか~な赤葦クンを華麗にイラつかせるとこじゃね?」
「え、俺そんなんしねぇけど?」
「.............」
「木兎お前、ホンットそういうとこな」
木兎君と赤葦君、黒尾君が好き勝手喋っているのを背後で聞きつつ、先頭に居る孤爪君がドアを開ける。
その先には薄暗い廊下が見えて、一先ず別の教室等に変わっていなかったことにほっとしていると...孤爪君がドアから手を離した瞬間、まるで伸ばしたゴムが元に戻るかのように勢いよくドアが閉まってきた。
「!?」
「っ、研磨ッ!!!」
振り向いた孤爪君の驚いた顔と、後ろに居る黒尾君の焦った声、閉じかかるドアを前にして、考えるより先に身体が動いた。
「ギャンッ!!!」
「!!」
閉まりかけるドアに咄嗟に右腕だけを出し、完全に閉まる前に空間を何とか繋ぎ止める。
しかし、勢いよく閉まるドアに腕を挟むという暴挙に出た為、右腕には肉が無理やり捩れるような衝撃が走り、直ぐにガツンとした痛みがきた。
「いッ、たぁ~......!!!」
「オイ!大丈夫か!?」
「ミケ腕見せろ!!」
「孤爪は!?無事!?」
「う、うん......俺は平気......」
情けない悲鳴を上げた私を前に、木兎君が直ぐにドアを開けてくれ、圧迫感の無くなった右腕をだらりと下ろせば黒尾君にそれを取られた。
走る痛みにびくりと肩を揺らしつつ、聞こえる赤葦君と孤爪君の声にどっと力が抜ける。
腕は痛いけど、孤爪君がはぐれなくて本当によかった。
「血は、出てねぇな......骨とか腱までイッてねぇといいけど......ミケ、指動くか?グーパーできる?痛い?」
「......痛い、けど......大丈夫、動く......」
「黒尾さん、とりあえず冷やしましょう。確かここ、水道ありましたよね」
黒尾君に腕を取られ、指示された通りに右手の指の開閉をゆっくり繰り返す。
問題ないことを伝えると、矢継ぎ早に赤葦君がそんな声を掛けてきた。
返事をする前にそのまま黒尾君に腕を引かれ、技術室の水道に着くと直ぐに水で冷やされる。
「うわ、わ!ちょ、Tシャツ!濡れるから!袖捲らして!」
「え?あぁ、悪い」
思った以上の勢いで水が出され、バシャバシャと飛び散る水しぶきに慌てて悲鳴をあげると、直ぐそばにいる黒尾君がわざわざ捲ってくれた。
それにお礼を言う間も水は絶えず腕を冷やし、痛みと冷たさが徐々に半々くらいになってきたところで水を止められる。
「御木川さん、これ使ってください」
「.............」
赤葦君から寄越されたのは折り目正しく畳んであるグレーのハンカチで、部活着姿なのにきちんとそれを持っている几帳面さに思わず目を丸くしてしまった。
そんな私に何か誤解したのか、「別に汚くはないですよ」と赤葦君は少しだけ顔を顰める。
「いや、そんなこと思ってないし......ありがとうございます」
おそらく育ちが良いんだろう赤葦君にお礼を告げて、寄越されたハンカチで濡れた右腕を拭く。
出血は見られないものの、先程ドアに思いっきり挟まってしまった患部は少しずつぽっこりと腫れ始め、赤紫色に変色していた。
これ、明日辺りに絶対青黒くなるヤツだ。
暫く半袖は着られないなぁ、折角この前可愛い夏服買ったのになぁとひそかにしょんぼりしていると、「......腕、痛い?」と控えめに声を掛けられた。
咄嗟に顔を向けると、孤爪君が心配そうな顔をしてこちら見ている。
確かにジクジクとは痛むが泣く程のものでもないし、しょんぼりしていた理由は割りとどうでもいいことだったので慌てて首を横に振って「全然大丈夫、余裕」と右手でピースサインを作った。
私の返答にほっと息をつき、安堵の色を浮かべる孤爪君はもしかして、私が思ってた以上に優しくて、そして普通の男子だったのかもしれない。
彼特有の雰囲気が何となく浮世離れしている気がして、あと何か向こうも私を避けてるっぽいから今まであんまり話しかけなかったけど、意外とこれ、話しかけたら普通に喋ってくれるヤツじゃないか?
孤爪君の認識を改めた方がいいかもしれないと今更ながら考えていると、渦中の孤爪君からそのプリン頭をおずおずと下げられた。
「.......ごめん。俺が、ドアを離したから......痛い思い、させた......」
「え?何それ?孤爪君悪くないよ?まさかあんな勢いよく閉じるなんて誰も思わないじゃん」
「.......それは、そう、だけど......」
「そんなことより、はぐれなくて本当に良かったね。こんな所で独りになったら最悪だもんねぇ......」
「.............」
自分で言った言葉にたまらずぞっとしてしまい、再び恐怖心が滲み出てくる前に誤魔化すように赤葦君へハンカチを返す。
「......あ、やっぱやめ。ごめん、洗濯して返すね」
「別にいいですよ、そのまま返してください」
赤葦君の手に渡る寸前で、借りたハンカチを濡れたままで返すのはどうかと思い、そんな声を掛ければものの数秒で持ち主にハンカチを奪われてしまった。
「え、本当にいいの?なんか、ごめんね?」
「構いませんよ。元々これ、俺の手とか木兎さんの汗とか拭いてますし」
「ちょっと待ってそれ汚くないって言ったじゃん?使ってないんじゃないの??」
「汚くはないと言いましたが、使ってないとは言ってません」
「.............ッッ!!」
「ちょ、ミケちゃん落ち着いて!右手で叩かないの!というかあかーしも煽るのやめな!?」
何かと塩対応な赤葦君も優しいところがあるんだなぁとちょびっと感動してたのに、今ので全て台無しだ。
というか普通そういうこと言うか?
いや、貸してくれたのはありがたいと思うけど、でも、女の子として男子が手や汗を拭いたものを使うというのは少し気が引けるというか、いや、わがままなのは承知の上なんですけど、やっぱり気になるもんは気になるんですよ!せめて黙っててほしかった!!
軽くパニックした結果、考えるよりも先に赤葦君に手が出てしまうと、木兎君から慌てて止められそのまま梟谷の二人と言い合いになってしまった。
完全にそっちに気を取られていた為、孤爪君と黒尾君の間で交わされた会話は全く私の耳に入ってこなかったのでした。
“そんなことより、”アイツ、良い奴だろ?俺のお墨付きなんだけど、どう?
(.......なんか、クロにも似てるよね。ちょっとだけだけど。)