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デフォルト:御木川 鈴(みけがわ すず)音駒高校三年五組在籍。軽音楽部所属。
自他ともに認める怖がりだが赤葦いわく、恐怖が怒り(物理)に変わるタイプ。
最近の悩み:「オバケをやつけられるようにパワー5になりたい!」
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赤葦君に一発、黒尾君に一発。木兎君と孤爪君には回避された為お見舞いすることは出来なかったが、「笑ってすみませんでした」と謝ってきたのでまぁ良しとする。
「ミケお前......この状況で仲間のHP減らすとか何考えてんだ......」
「うっさいな、SAN値も減らしてやろうか?」
「勘弁してください」
私の拳がヒットした脇腹を抑えながら前屈みになってる黒尾君にもう一度拳を構えると、黒尾君はその特徴的な頭を直ぐに下げる。
ちなみに赤葦君は腹部を両腕で守りながら、おぞましいナニカを見るような目でこちらを黙って見ていた。
いやでも、さっき怖いながらも頑張った人に対して、そして仮にも女子である私のことを猿呼ばわりしたのはマジで許さないからな。
「と、とにかく!この部屋探索しようぜ!ほら、あのシャッター開ける為の道具とか探さないと!」
赤葦君と無言で睨み合っていると、木兎君が空気を変えるようにそんな提案をする。
確かにその為にわざわざこの部屋に入った訳だから、時間を浪費するのは勿体無いだろう。
「ハイ、電気つけまーす」
赤葦君との睨み合いを直ぐにやめ、とにかく暗いのは嫌なのでさっさと明かりをつける。
明るくなった技術室を改めて見回すと、先程窓から覗いた時よりもおどろおどろしい雰囲気はかなり薄まっていた。
「時間どーする?」
「とりあえずまた10分でいいんじゃね?」
「じゃあまた各自使えそうなモンを探すということで」
「うーい」
黒尾君と木兎君がこの部屋での行動方針を決め、孤爪君が再びスマホのアラームをセットすると各々が技術室の中を調べ始めた。
しかし、技術室というのはいわば工具の宝庫であり、そして工具は一種の危険物として見なされることも多い。
そりゃそうだろう。トンカチとかノコギリとか、使い方を誤れば自分が怪我を負うだけでなく、誰かに怪我を負わせることだって出来てしまう。
そんな危険なモノを大っぴらに置いておく学校なんてあるはずもなかった。
「引き出し全部鍵掛かってるんですけど!?」
「えぇー......うっそ......そしたらもう、椅子とかしか持ってけないじゃん」
ガタガタと引き出しを探りながらもゲーン!とショックを受ける木兎君にたまらず眉を下げると、少し離れた所にいる黒尾君が「椅子持ってってどーすんだよ」と呆れたように笑った。
「ほら、何か壊したりとか、攻撃したり出来るじゃん?」
「なんでお前そんなに攻撃的なの?護りの音駒って聞いたことない?」
「ない。黒尾君は、攻撃こそ最大の防御って聞いたことない?」
「ない」
「嘘つけ!絶対聞いたことあるから!」
明らかに嘘を吐いてる黒尾君に思わず声を荒らげると、何かに気付いた孤爪君がおもむろに口を開く。
「ねぇ、その椅子でここの窓壊せない......?ほら、ここ1階だし、もし窓とか割れたらそこから外に出られるんじゃない?」
「おお!孤爪ナイスアイデア!それなら俺やりたい!!」
孤爪君の提案になるほどと思っていると、すぐさま木兎君が元気に立候補した。
ちなみにここの窓の鍵も今までの教室同様に固く施錠されていて、人の力ではとてもじゃ無いけど開けられそうになかった。
「いや、木兎さんはやめてください。仮にも来訪者である俺達が他校の器物を破損するのはまずいです。それに、怪我をされたら明日の部活にも支障が出ます」
「でもさあかーし、今はキンキュージタイだぞ!?そんなこと言ってる場合か?あとこの中で一番腕っ節強いの俺!だし!」
「.......とか言って木兎さん、アンタ窓ガラス割ってみたいだけでしょう?」
意気揚々と発言していた木兎君だったが、赤葦君の鋭い指摘に「そ、そんなことねーよ!」と見るからに狼狽えている。
黒尾君が年下の孤爪君の尻に敷かれているように、木兎君も赤葦君にはあまり強く出られないようだった。
「じゃあ、少し離れたところからイス投げればいいじゃん。それなら身体的な被害はあんまり無いんじゃないの?」
「!」
「木兎君がやったってことは私達しか知らない訳だし、私達が黙っておけばいい話じゃん」
「確かに!ミケちゃん賢い!」
「.............」
私の意見に対して梟谷の二人の反応はまるで対照的で、喜ぶ木兎君とは裏腹に赤葦君は至極嫌そうに顔を顰めた。
最初こそ表情筋死んでる人だなと思ってたけど、この人案外気持ちが顔に出る人だったんだなと今更ながら気が付く。
「......ミケさん......あまり木兎さんをノせてしまうと急降下した時に面倒なので、俺に任せてもらえませんか?」
「あかーし今面倒って言った!?」
「言ったような気がしますが忘れました」
「!?」
私が何か返す間もなく、梟谷の二人はまるでコントのようなやり取りを始めてしまう。
完全に主導権を赤葦君に握られている木兎君を見て、これではどっちが先輩でどっちが後輩なんだかわからないなと思わず軽くため息を吐いた。
「わかったわかった。じゃあ、俺が投げますヨ。それでいいだろ?」
そんな梟谷組の様子を見て、名乗り出たのは我らが音駒の黒尾君だ。
ゆっくりとした足取りで窓の近くの工具机まで移動すると、おもむろに右腕や肩をぐるぐると回しながら準備体操のような動きをし始めた。
恐らく私と赤葦君の折衷案として立候補してくれたのだろう。何とも大人な対応をしてくれる黒尾君に本当にイケメンだなぁと感心していれば、一人不満の声を上げる人物が居た。
「えぇ!?黒尾ズルい!!あ、じゃあ一緒に投げようぜ!黒尾もキョーハンなら、別にいいだろ!?」
木兎君の言葉に、思わずガクッと力が抜ける。
折角黒尾君が場をおさめてくれたと言うのに、というか木兎君はどんだけ窓ガラス割りたいんだ。
半ば呆気に取られて木兎君を見ると、「なぁ、赤葦、いいだろ?」と食い気味に赤葦君へ頼み込んでいた。
その姿はまるで、「待て」を命じられた大きな犬が飼い主に「よし」の一言を懇願しているようだ。
「..............絶対に、怪我しないでくださいね......」
腐っても鯛、三年生で主将、さらにはエースである木兎君の圧にはやはり適わないのか、赤葦君は暫く間を空けてから渋々といった様子で「よし」のサインを出す。
顔を俯かせて大きなため息を吐く赤葦君とは対照的に、木兎君はパッと顔を明るくさせて「ヘイヘイヘーイ!」と楽しそうな声を響かせながら颯爽と近くの椅子を持った。
そして、黒尾君と視線を合わせる。
「行くぜ黒尾!」
「オーヨ」
「せぇー、のッ!!」
木兎君の掛け声に合わせて、二人が投げた椅子は窓ガラスの方へ勢いよく飛んでいった。
通常だったら間違いなくガラスが割れる筈なので、きっと大きな音が出るだろうと思い、咄嗟に耳を塞ぐ。
.......しかし、思っていた以上に事態は深刻なようだった。
黒尾君と木兎君が思いっきり投げたにも関わらず、椅子は窓ガラスに強く当たるだけで簡単に弾き返されてしまった。
ガガン!という大きな衝突音はしたものの、窓ガラスが割れたような音は一切しなかったのだ。
「でえ〜!?ウソだろ~!?なんで!?」
「実は防弾ガラスでした~、とか、そういうオチな訳ねぇよな......」
椅子を投げた二人の驚く声を聞き、手加減も何もしてないことを確認しながら全員で窓の方へ向かう。
恐る恐る近くで見ても、窓ガラスは割れるどころか傷一つ付いていなかった。
「.......えー......ちょっと待って、どういうこと......?」
「椅子の方は、元々が傷だらけみたいでよくわかりませんね」
「あー、木の椅子は傷付きやすいからなぁ」
窓ガラスの異様な強さに驚きと恐怖を感じていれば、赤葦君と黒尾君は椅子の方も確認していて、そしてそこからは何も情報は得られないだろうと判断したようだ。
「......もしかして、窓を壊して外に出るっていうのは、ルール違反なのかも......入ってきた所からしか帰れないとか......」
「入ってきたとこってあの、中央玄関?か?そこに辿り着けさえすれば出られるの?」
「いや、まだ絶対そうとは言いきれないけど......でも、今みたいに壊して出るっていう行為は、多分無理なんじゃないかな......」
孤爪君と木兎君の話を聞き、たまらずため息が出る。
窓も開かない、壊せない。入ってきた出入口へ向かうのだって、教室や廊下の配置がてんでバラバラになっているのだから辿り着くのも一苦労だ。
「.............」
なかなか先が見えない不安にもう一つため息を吐きながら、暗い窓の外をぼんやりと見つめる。
外灯は無く、この部屋の明かりで近くの景色は少しだけ見えるものの、ほとんどが夜の闇に溶け込んでいてよく見ることができない。
まるでこの学校を大きな闇が包み込んでいるかのような気さえして、思わず外の景色から自分の足元へ視線を逃がした。
......ああ、やだな。なんでこんなことになっちゃったんだろう。
何度フタをしても胸の奥からじわじわと滲み出してくる恐怖と焦燥感にぎゅっと目を瞑って耐えていると、「......ねぇ、」と背中から落ち着いた声が掛かった。
弾かれたようにそちらを見ると、いつの間にか孤爪君がすぐ後ろに立っていて、私と視線が重なるとおもむろにそろりと目を逸らした。
そっちが呼んだくせになんで目を逸らすかなと少しムッとしたものの、そういえば今まで孤爪君に声を掛けられたことがなかったので、文句は一先ず飲み込んで孤爪君からの言葉を待つ。
「.......さっき......ここに入る時、なんで俺にケーブル持たせたの?」
「え?」
一体何を言われるのかと思いきや、私を見ずに聞かれた質問に思わずきょとんと目を丸くする。
聞き返すような声を出してしまった私に、眉を寄せながら「......だって、俺よりもクロとか木兎さんとか......赤葦の方が、話してるだろうし......わざわざ俺に預ける意味がわかんない......」と小さな声で言葉を続けた。
まさかそんな事を聞かれるとは思ってなかったので呆気に取られてしまったが、そのまま黙っていると不満そうな目をこちらに向けられたので、一時停止していた思考回路を慌てて回す。
「ああ......えーと、黒尾君とか木兎君に持たせたら、万が一私がはぐれた時に凄く責任感じるだろうなって思って......あ、別に孤爪君なら気にしないだろってことじゃ全然ないんだけど......なんていうか、もしそうなっても、孤爪君なら一先ず冷静に考えてくれそうだなって」
「.............」
「あと、赤葦君にはなんか持たせたくなかったので......私のこと猿とか言うし」
「.............」
孤爪君を選んだ理由をゆるゆると話しながらも、先程の一件を思い出して少しだけ機嫌が悪くなった。
しかし、それに関しては一発入れることが出来たのだから、まぁ良しと思おう。
一つゆっくりと深呼吸をして気分を整えていれば、少し離れたところで「おあー!!開いた!!」という木兎君の元気な声が聞こえた。
「え!マジか!ナイス~!どーやって開けたの?」
「さっき見つけたカギ、ここのだったっぽい!」
嬉しい報告に思わずそちらへ顔を向けると、どうやら施錠されている引き出しの幾つかが、先程図書室で木兎君が見つけたカギで開けられたようだ。
どうして技術室の引き出しのカギが図書室で見つかるのかはさておき、とりあえずここに入ったことが無駄足にならずに済みそうな展開に自然と心が踊る。
だって、結構怖いのを我慢して、頑張ってここのドアの鍵を開けた訳だ。それで何も見つけられませんでしたじゃ、あまりにも悲し過ぎる。
そんな私情も交えながら、私は木兎君が開けたという引き出しの方へ足を向け、同じように移動してきた黒尾君と三人で引き出しを調べ始めるのだった。
「......孤爪、本当に10分測ってる?」
「.............」
クロの友達だというあの人がこの場から居なくなると、まるでタイミングを計ったかのように赤葦が声を掛けてきた。
ちらりと視線を寄越した後、「......あぁ、間違えて止めてた」と返した俺に、赤葦は何も言わずにため息だけを吐く。
「.......赤葦が遠慮無く女子と話すの、初めて見た」
「そう?教室とかでは普通に話すよ?」
「でも、殴られたり、猿呼ばわりはしないでしょ?」
「.......それは、まぁ......御木川さんが、少し変わってるから......」
「.............」
俺の言葉に、赤葦は少しだけ顔を顰める。
赤葦だって十分変わってると思うけどという言葉は心の中だけに留めて、代わりに小さく笑いを零した。
「......そういう孤爪こそ、さっき二人で話してたよな。今まで結構避けてるように見えたけど、もう抵抗無いの?」
「.............」
俺が何で笑ったのか、聡い赤葦は直ぐにわかったのかもしれない。
まるでお返しだとばかりにそんなことを聞かれ、今度は俺が少しだけ顔を顰めた。
「.......別に避けては、ない......話さなかっただけ......」
苦し紛れとはわかりつつもそんな言葉を返せば、赤葦は「それを避けてるって言うんだろ」と口にはしないものの、可笑しそうに笑うのだった。
別に、嫌いな訳じゃないんだけど、
(ただ、昔から、仲良くなるまでに時間が掛かるんだ。)