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※Sunlight!!!という短編になりました。
時は放課後。部活中に今夜宿題で使う世界史の資料集をうっかりロッカーに置き忘れていたことに気が付き、友達や先生に断りを入れてから慌てて教室へ向かった。
世界史の授業以外ほとんど出番の無いそれはいつもロッカーに入れたままにしているので、ついいつもの流れでロッカーに戻してしまったのだ。
帰宅する前に何とか思い出した自分を褒めたたえながら教室外に設置されている自分のロッカーに辿り着き、よかったよかったと内心でほっとしつつお目当ての資料集を取り出す。
念の為他に必要なものはないかとロッカー内をぐるりと見回し、おそらく無いだろうと判断してからロッカーを施錠する。
資料集を胸に抱きながら、さて部室に戻ろうと踵を返したところでいつの間に直ぐ後ろに立っていた大きな身体に驚いて軽い悲鳴を上げた。
慌てて後ろに下がるとこのクラスのロッカーに頭をぶつけ、鈍い音と共に痛みが走りとっさに両手で後頭部を抑える。
おかげで先程まで胸に抱えていた資料集はぐしゃりと嫌な音を立てながら廊下へと落下した。
頭はぶつけるし、資料集はぐしゃぐしゃになるし、何よりとてもびっくりしたのでむかっ腹を立てながらそこに突っ立っている相手を睨むと、相手はこのクラスで有名な...むしろ、この学年、この学校で有名なクラスメイト、木兎光太郎君が何やらしょんぼりとした様子で黙って立っていた。
この梟谷学園高校が誇る強豪男子バレー部の主将とエースを務めている木兎君は、その肩書きに見合う高身長にがっしりとした体格で、近くに居るとまるで自分の背がとても小さいように錯覚してしまう。
彼の自慢でありトレードマークでもあるモノトーンのアップバングなヘアスタイルはいつもはきっちり纏まっているものの、何だか今日は少しだけへちょんと下がっているように見えた。
普段とても明るくて常に全力で喜怒哀楽を表現する人なのに、今はとても静かでどこか沈んだ表情をしていることに驚いてしまい、先程までの怒りが一気に雲散される。
「.......え、木兎君?どうしたの?」
落とした資料集も拾うのを忘れて、黙ったまま私の前に突っ立っている彼に戸惑いながらも声を掛けた。
背の高い彼と視線を合わせるべくこちらも少し顎を上に向けると、男の人のわりに大きな金色の瞳が一度ぱちりと瞬きして、私の視線にゆっくりと重なった。
「.......俺は、ダメだ......」
「.......ん?」
普段の大きな声とは一変し、蚊の鳴くような声で告げられた言葉を何とか聞き取り、その上で小さく首を傾げる。
なんだなんだ、いつものめちゃめちゃ元気いっぱいで何事もなぜか自信満々なあの木兎光太郎君は一体何処へ行ってしまったんだ。
「.......えーと、なんでそう思うの?」
まるでこの世の終わりのような雰囲気すら醸し出している木兎君を無下にする訳にもいかず、ひとまず彼の話を聞こうと体勢を整えれば、木兎君はしょぼんとしたままぽつりぽつりと理由を話し出した。
そのまま10分弱彼の話は続き、要所要所で相槌を打ちながら木兎君の話を頭の中で纏める。
木兎君にとって何よりも大切な部活に使っている愛用のバレーシューズのヒモが、不運なことに右足分だけ切れてしまったそうだ。
それにより、木兎君は盛大に転けて痛い思いをした上にチーム対抗戦でも負けてしまったらしい。
靴の紐が切れるのは縁起が悪いことらしいぜと同学年の木葉君にひやかされ、その後、後輩の赤葦君が自分の替えヒモを寄越した直後になぜか赤葦君のシューズのヒモが切れ、それを見た木兎君は自分が諸悪の根源であるのかもしれないと考えた。
赤葦君に寄越された替えヒモを断り、自分は体育用シューズのヒモで代用しようと考え、目的のものが置いてあるここのロッカーまで来たはいいものの、今日はロッカーの鍵を家に忘れてきてしまったという事を今、思い出したのだと言う。
それで先程の「俺はダメだ」という台詞に繋がるらしい。
すべての話を聞き終わり、再び黙ってしまった木兎君を前にして、さてどうしようと考える。
とりあえず、シューズの替えヒモがあればいいんだよね。
それなら私の体育用のシューズのヒモを抜いて、渡してしまえばいい話だろう。
幸いにも女子の体育の授業は今陸上競技なので体育用シューズは使ってないし、体育館へ行くような集会等のイベントもない。
暫く体育用シューズを使わないのであれば、新しいヒモを用意するまで時間的猶予はたっぷりあるし、そんなに高いものでもないので木兎君さえ気にしなければそのまま貰ってくれて一向に構わない代物だ。
「.......それは、気の毒だったね......私のやつで良ければあげるよ」
そう返して、自分のロッカーから体育用シューズを取り出した矢先、なぜか木兎君は「それはダメだ!」と力強く拒否した。
まさか却下されるとは思わなかったので、目を丸くしたまま理由を聞く。
「さっき、あかーしは俺にヒモを渡そうとして、自分のヒモが切れた。だから、城崎もきっと、そうなっちまう......!」
「.......いや、大丈夫なんじゃないかな......?」
「俺はもう、誰の縁起も悪くしたくない......!」
「.......うん、大丈夫なんじゃないかな......?」
あまりに壮大なことを言われ、正直な感想を伝えるも、真剣な表情の木兎君にはどうやら右から左へ聞き流されてしまうようだ。
「縁起を悪くする存在なんて、エースとして相応しくない......!」
「.......あの、大丈夫なんじゃないかな?」
「そんな俺は、チームに必要ない......!俺は......要らない......!」
「いや、いやいや、話飛躍しすぎでしょ。そんなことないよ」
「あるの!!」
「.............」
段々雲行きが怪しくなってくる話の内容にたまらず反論するも、涙目で半ギレの木兎君にピシャリと言い切られてしまった。
「......こんな俺にはあかーしだってトスくれないし......木葉や小見やんだってレシーブしてくれないし......サルも鷲尾もブロック飛んでくれないし......尾長も自主練付き合ってくれない......」
「いやいやいや、木兎君主将でエースじゃん。バレーめちゃめちゃ上手いし強いじゃん。人望あるし大丈夫だよ」
「......でも、俺、縁起悪くするもん......俺なんか、皆要らないんだ......」
「.............」
何とか木兎君のマイナス思考を立て直したいところだが、私のボキャブラリーの低さと木兎君の予想以上の面倒くささが絶妙にマッチしてなかなか上手くいかない。
そんなことないよ、大丈夫だよと伝えても響かないのであれば、これはもう切り口を変えるしかないな。
一旦関わってしまった以上、何らかの形で決着をつけなければならないだろう。
できたら、いい方向に転がってくれると有り難いんだけど。
「.......木兎君のこと、本当に誰も要らないの?」
「......うん......」
「.......そっか。じゃあ、私が木兎君貰おうかな」
「え?」
私の言葉に、一本調子だった木兎君がやっと別の反応を示した。
その変化を見逃さず、今が好機と言わんばかりに一気に畳み掛ける。
「だって木兎君、誰も要らないんでしょ?なら私が貰い受けましょう」
「......え、でも、俺......」
「今から木兎君私のだから、私の言うこときいてください」
目に見えて戸惑っている木兎君を他所に、私は自分の体育用シューズからヒモを抜き取り木兎君の大きな手にそれを握らせた。
「これを、何も言わずに貰ってください」
「え、あ......城崎、あの、」
「うん、喋らないで」
「!!」
私よりずっと大きな身体を持ち、多方面で私よりずっと強くて凄い人なのに、素直に私の言葉に従い慌てて口を閉じる姿が少し面白くて、思わず笑ってしまった。
そんな私を見て、木兎君は何かを言いたげにしたが、それよりも先にわざと言葉を続ける。
「木兎君はそれを使って、今日の部活を頑張ります」
「!!」
「私に返すことはしません。新しいヒモも要りません」
「え!それはダメだろ!」
「うん、喋んないで」
「!!」
私の言葉に再び口を噤む木兎君は、まるで小さな子供みたいで何だかとても可愛かった。
「その代わり、木兎君は縁起のいい時も悪い時も、健やかなる時も病める時も、バレーボールを愛し、楽しみ、とても幸せな毎日を送ります」
「.............」
私の頭上にある大きな金色の瞳が、更に丸くなる。
少し子供っぽい、そして演技っぽい言い回しになってしまったかなと内心で心配するものの、木兎君はびっくり顔のまま何も言ってこないのでとりあえず訂正はしないことにした。
言い方はどうあれ、縁起が悪いだの俺は要らないだのネガティブなことばかり言う木兎君をどうにかしたかったし、言った言葉自体に嘘偽りはない。
それは木兎君がバレーボールを心から楽しんでいるのを知ってるからであり、これから先もその楽しさが続くことを願うからでもある。
まぁ、私が願わなくても木兎君はずっとバレーボールを楽しんでくれそうな気もするけど。
「.......じゃ、さっき貰った木兎君を木兎君に返しますので、後は自分のしたいことをやってください」
「......え......」
「でも、私の木兎君の時に言ったことはちゃんとやってね」
「!!」
片方のヒモを抜き取った体育用シューズをロッカーにしまい、落としてしまった世界史の資料集を拾い上げた私は、木兎君がしょぼくれてないことを確認してから「じゃあ、また明日ね」とだけ告げてこの場を後にした。
人を励ますというのは本当に難しいことだなと改めて感じ、もう少しまともな事が言えるよう語彙力を上げておかなければと自分自身の課題を発見した日となった。
俺、お前のものになりたい。
(翌朝のホームルーム直後、教室が一時騒然とした。)
時は放課後。部活中に今夜宿題で使う世界史の資料集をうっかりロッカーに置き忘れていたことに気が付き、友達や先生に断りを入れてから慌てて教室へ向かった。
世界史の授業以外ほとんど出番の無いそれはいつもロッカーに入れたままにしているので、ついいつもの流れでロッカーに戻してしまったのだ。
帰宅する前に何とか思い出した自分を褒めたたえながら教室外に設置されている自分のロッカーに辿り着き、よかったよかったと内心でほっとしつつお目当ての資料集を取り出す。
念の為他に必要なものはないかとロッカー内をぐるりと見回し、おそらく無いだろうと判断してからロッカーを施錠する。
資料集を胸に抱きながら、さて部室に戻ろうと踵を返したところでいつの間に直ぐ後ろに立っていた大きな身体に驚いて軽い悲鳴を上げた。
慌てて後ろに下がるとこのクラスのロッカーに頭をぶつけ、鈍い音と共に痛みが走りとっさに両手で後頭部を抑える。
おかげで先程まで胸に抱えていた資料集はぐしゃりと嫌な音を立てながら廊下へと落下した。
頭はぶつけるし、資料集はぐしゃぐしゃになるし、何よりとてもびっくりしたのでむかっ腹を立てながらそこに突っ立っている相手を睨むと、相手はこのクラスで有名な...むしろ、この学年、この学校で有名なクラスメイト、木兎光太郎君が何やらしょんぼりとした様子で黙って立っていた。
この梟谷学園高校が誇る強豪男子バレー部の主将とエースを務めている木兎君は、その肩書きに見合う高身長にがっしりとした体格で、近くに居るとまるで自分の背がとても小さいように錯覚してしまう。
彼の自慢でありトレードマークでもあるモノトーンのアップバングなヘアスタイルはいつもはきっちり纏まっているものの、何だか今日は少しだけへちょんと下がっているように見えた。
普段とても明るくて常に全力で喜怒哀楽を表現する人なのに、今はとても静かでどこか沈んだ表情をしていることに驚いてしまい、先程までの怒りが一気に雲散される。
「.......え、木兎君?どうしたの?」
落とした資料集も拾うのを忘れて、黙ったまま私の前に突っ立っている彼に戸惑いながらも声を掛けた。
背の高い彼と視線を合わせるべくこちらも少し顎を上に向けると、男の人のわりに大きな金色の瞳が一度ぱちりと瞬きして、私の視線にゆっくりと重なった。
「.......俺は、ダメだ......」
「.......ん?」
普段の大きな声とは一変し、蚊の鳴くような声で告げられた言葉を何とか聞き取り、その上で小さく首を傾げる。
なんだなんだ、いつものめちゃめちゃ元気いっぱいで何事もなぜか自信満々なあの木兎光太郎君は一体何処へ行ってしまったんだ。
「.......えーと、なんでそう思うの?」
まるでこの世の終わりのような雰囲気すら醸し出している木兎君を無下にする訳にもいかず、ひとまず彼の話を聞こうと体勢を整えれば、木兎君はしょぼんとしたままぽつりぽつりと理由を話し出した。
そのまま10分弱彼の話は続き、要所要所で相槌を打ちながら木兎君の話を頭の中で纏める。
木兎君にとって何よりも大切な部活に使っている愛用のバレーシューズのヒモが、不運なことに右足分だけ切れてしまったそうだ。
それにより、木兎君は盛大に転けて痛い思いをした上にチーム対抗戦でも負けてしまったらしい。
靴の紐が切れるのは縁起が悪いことらしいぜと同学年の木葉君にひやかされ、その後、後輩の赤葦君が自分の替えヒモを寄越した直後になぜか赤葦君のシューズのヒモが切れ、それを見た木兎君は自分が諸悪の根源であるのかもしれないと考えた。
赤葦君に寄越された替えヒモを断り、自分は体育用シューズのヒモで代用しようと考え、目的のものが置いてあるここのロッカーまで来たはいいものの、今日はロッカーの鍵を家に忘れてきてしまったという事を今、思い出したのだと言う。
それで先程の「俺はダメだ」という台詞に繋がるらしい。
すべての話を聞き終わり、再び黙ってしまった木兎君を前にして、さてどうしようと考える。
とりあえず、シューズの替えヒモがあればいいんだよね。
それなら私の体育用のシューズのヒモを抜いて、渡してしまえばいい話だろう。
幸いにも女子の体育の授業は今陸上競技なので体育用シューズは使ってないし、体育館へ行くような集会等のイベントもない。
暫く体育用シューズを使わないのであれば、新しいヒモを用意するまで時間的猶予はたっぷりあるし、そんなに高いものでもないので木兎君さえ気にしなければそのまま貰ってくれて一向に構わない代物だ。
「.......それは、気の毒だったね......私のやつで良ければあげるよ」
そう返して、自分のロッカーから体育用シューズを取り出した矢先、なぜか木兎君は「それはダメだ!」と力強く拒否した。
まさか却下されるとは思わなかったので、目を丸くしたまま理由を聞く。
「さっき、あかーしは俺にヒモを渡そうとして、自分のヒモが切れた。だから、城崎もきっと、そうなっちまう......!」
「.......いや、大丈夫なんじゃないかな......?」
「俺はもう、誰の縁起も悪くしたくない......!」
「.......うん、大丈夫なんじゃないかな......?」
あまりに壮大なことを言われ、正直な感想を伝えるも、真剣な表情の木兎君にはどうやら右から左へ聞き流されてしまうようだ。
「縁起を悪くする存在なんて、エースとして相応しくない......!」
「.......あの、大丈夫なんじゃないかな?」
「そんな俺は、チームに必要ない......!俺は......要らない......!」
「いや、いやいや、話飛躍しすぎでしょ。そんなことないよ」
「あるの!!」
「.............」
段々雲行きが怪しくなってくる話の内容にたまらず反論するも、涙目で半ギレの木兎君にピシャリと言い切られてしまった。
「......こんな俺にはあかーしだってトスくれないし......木葉や小見やんだってレシーブしてくれないし......サルも鷲尾もブロック飛んでくれないし......尾長も自主練付き合ってくれない......」
「いやいやいや、木兎君主将でエースじゃん。バレーめちゃめちゃ上手いし強いじゃん。人望あるし大丈夫だよ」
「......でも、俺、縁起悪くするもん......俺なんか、皆要らないんだ......」
「.............」
何とか木兎君のマイナス思考を立て直したいところだが、私のボキャブラリーの低さと木兎君の予想以上の面倒くささが絶妙にマッチしてなかなか上手くいかない。
そんなことないよ、大丈夫だよと伝えても響かないのであれば、これはもう切り口を変えるしかないな。
一旦関わってしまった以上、何らかの形で決着をつけなければならないだろう。
できたら、いい方向に転がってくれると有り難いんだけど。
「.......木兎君のこと、本当に誰も要らないの?」
「......うん......」
「.......そっか。じゃあ、私が木兎君貰おうかな」
「え?」
私の言葉に、一本調子だった木兎君がやっと別の反応を示した。
その変化を見逃さず、今が好機と言わんばかりに一気に畳み掛ける。
「だって木兎君、誰も要らないんでしょ?なら私が貰い受けましょう」
「......え、でも、俺......」
「今から木兎君私のだから、私の言うこときいてください」
目に見えて戸惑っている木兎君を他所に、私は自分の体育用シューズからヒモを抜き取り木兎君の大きな手にそれを握らせた。
「これを、何も言わずに貰ってください」
「え、あ......城崎、あの、」
「うん、喋らないで」
「!!」
私よりずっと大きな身体を持ち、多方面で私よりずっと強くて凄い人なのに、素直に私の言葉に従い慌てて口を閉じる姿が少し面白くて、思わず笑ってしまった。
そんな私を見て、木兎君は何かを言いたげにしたが、それよりも先にわざと言葉を続ける。
「木兎君はそれを使って、今日の部活を頑張ります」
「!!」
「私に返すことはしません。新しいヒモも要りません」
「え!それはダメだろ!」
「うん、喋んないで」
「!!」
私の言葉に再び口を噤む木兎君は、まるで小さな子供みたいで何だかとても可愛かった。
「その代わり、木兎君は縁起のいい時も悪い時も、健やかなる時も病める時も、バレーボールを愛し、楽しみ、とても幸せな毎日を送ります」
「.............」
私の頭上にある大きな金色の瞳が、更に丸くなる。
少し子供っぽい、そして演技っぽい言い回しになってしまったかなと内心で心配するものの、木兎君はびっくり顔のまま何も言ってこないのでとりあえず訂正はしないことにした。
言い方はどうあれ、縁起が悪いだの俺は要らないだのネガティブなことばかり言う木兎君をどうにかしたかったし、言った言葉自体に嘘偽りはない。
それは木兎君がバレーボールを心から楽しんでいるのを知ってるからであり、これから先もその楽しさが続くことを願うからでもある。
まぁ、私が願わなくても木兎君はずっとバレーボールを楽しんでくれそうな気もするけど。
「.......じゃ、さっき貰った木兎君を木兎君に返しますので、後は自分のしたいことをやってください」
「......え......」
「でも、私の木兎君の時に言ったことはちゃんとやってね」
「!!」
片方のヒモを抜き取った体育用シューズをロッカーにしまい、落としてしまった世界史の資料集を拾い上げた私は、木兎君がしょぼくれてないことを確認してから「じゃあ、また明日ね」とだけ告げてこの場を後にした。
人を励ますというのは本当に難しいことだなと改めて感じ、もう少しまともな事が言えるよう語彙力を上げておかなければと自分自身の課題を発見した日となった。
俺、お前のものになりたい。
(翌朝のホームルーム直後、教室が一時騒然とした。)