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小学一年生の可愛い妹が学童で習ってきたのと私に寄越したのは、赤い毛糸を切って繋いだあやとりだった。
この遊びを妹はいたくお気に召したようで、わざわざ姉の私の分としてこの赤いあやとりを作ってくれたらしい。
自分用には青、黄色、緑と三つも作成したようで、ネックレスよろしく首に引っ掛けてご機嫌に笑っていた。
その後、何かあって首が絞まったら大変だからと取り外そうとした私に、オシャレな可愛いお姫様から一変、ギャンギャン泣く怪獣と化した妹のご機嫌取りが本当に大変だったと友達に話せば「柚の妹ちゃん本当に可愛いよねぇ」と朗らかに笑われた。
別にハートフルストーリーを話した訳では無いのだが、下の兄弟が居ない友達にはおそらく妹関連の何を愚痴っても「可愛い」の一言で済まされてしまうんだろう。
いや、私も確かに可愛いとは思っているのだけど、妹の怪獣化だけはちょっと御遠慮して貰いたいというのが姉としての本音である。
早く大きくなってくれと願うばかりだ。
「でも、あやとりとか懐かしいねぇ。私も小学生の時よくやったなぁ」
「ね。昨日久々にやったら結構忘れててさ。最初らへんずっと妹大先生に教えてもらっちゃったよ」
「ふふ、ドヤ顔の妹ちゃんが目に浮かぶ」
「大正解。ここぞとばかりにマウント取られたわ」
私の言葉に友達は可笑しそうに笑う。
そんな友達の笑顔を見ながら、カバンのポケットにしのばせた赤いあやとりを彼女の前にかざして見せた。
「なので、今度は私にマウント取らせてもらいます」
「あはは、この負けず嫌い~」
「負けるのが好きな人なんて居ません~」
友達の言葉に屁理屈で返しつつ、私は手首に赤いあやとりを巻き、2人あやとりの最初の型を友達に差し出す。
「えー?覚えてるかなぁ?」
「忘れてていいの、私が教えるから」
くすくすと楽しそうに笑いながらも、友達は正しい位置の紐を掬い取り、正しい手順で次の型である“田んぼ”を作った。
彼女の指にあやとりが移り、今度は私が定位置の紐を掬い取る。
再び私の指にあやとりが戻ってくると、ちゃんと“川”の形になっていた。
「うわ、ちょっと待って、これどーだったっけ?」
少し焦った顔をする友達にニヤニヤと笑っていれば、おずおずとした手つきでありながらも彼女は正しい紐を掬い取る。
「え、これ合ってる?」
「合ってる合ってる。これは“舟”ですね~」
動揺する友達の顔が何だか可笑しくて、次は私の方がクスクスと笑いながら“舟”から第二形態の“田んぼ”へ変化させた。
「あれ?また“田んぼ”に戻るんだっけ?」
「残念ながら、さっきとはちょっと違う“田んぼ”なんだなぁ」
「あれ、そうだっけ?」
実はこのやり取り、昨日妹ともやったんだよね。
そう言うと友達はまた可笑しそうに笑いながら、多分ここだった気がするとまた正しい紐を掬い取り“ダイヤ”の型へ変化させた。
「ふふ、結構覚えてるもんだね~」
「......ここからが本番ですってよ」
完全に油断してる友達の指から紐を掬い取り“かえる”の型に変化させると「ごめん全然覚えてなかった」と早々に白旗を上げてきた。
友達の変わり身の速さが可笑しくてけらけらと笑いつつ掬い取る紐を教え、次の型である“ダイヤ”に戻させる。
「あれ?また戻った?」
「そうそう。1回これ戻るのね?で、ここを取りまーす」
ついにマウントを取ることに成功し、昨日の妹さながらのドヤ顔をしつつ紐を掬い取り“鼓”を作った。
おそらく一番ややこしいであろう型に友達は「無理無理、全然覚えてない」と首を横に振る。
「分かりにくいけど、ここの交差してるとこと反対側の下のところ掬ってもらって......」
彼女の細い指を何とか定位置まで誘導し、正しい手順で掬い取ってもらえば赤いあやとりは再び“川”の形へ姿を変化させた。
「はい、大成功~」
「わ〜!凄い、戻った~」
一通りの型を作り終わり、友達と2人でついはしゃいでしまう。
久しぶりにやると結構楽しいよねぇと達成感が胸に残る中話していると、隣の席の男子が興味深そうにこちらを見ていることに気が付いた。
「......あ、影山君ごめん。うるさかったよね......?」
180センチもある背丈にすらりと長い手足、さらさらの黒髪にあくなく整った小さい顔。
普段は座ったまま机の上に俯せて眠っていることが多い彼だが、今は切れ長の瞳をじっとこちらへ向けている。
睡眠を妨げてしまったかなと瞬時に考え直ぐに謝ってみたものの、影山君の目は一向に友達の指先...赤いあやとりから離れなかった。
「......もしかして、影山君あやとり好き?」
友達も影山君の視線に気が付いたようで、赤いあやとりを影山君の前にかざすとようやくこちらへ顔を向けてくれる。
「......いや、やったことねぇ」
「そうなの?まぁ、男の子だもんねぇ」
「......ちょっと見せてくれ」
友達の手から赤いあやとりを受け取ると、影山君はしげしげとそれを見つめた。
そんなに珍しいものかなと思っていれば、顔を上げた影山君と視線が重なる。
「俺もさっきのやってみてぇ」
「え?」
言葉が聞こえなかった訳では無いが、あまりに予想外な展開に思わず聞き返してしまうと、タイミングを図ったかのように次の授業のチャイムが鳴った。
「あ......えーと、次の休み時間でもいい?」
別に私が悪い訳ではないのだが、何となく気が引けてしまい咄嗟にそんな言葉が口をついた。
きいてしまった直後に「いや、そこまでは別にいい」とクールに断られる光景が容易に想像でき、なんでこんなことを言っちゃったんだと軽く後悔していると、影山君はあやとりを返しつつ「おう、じゃあ後でな」とだけ言って再び寝る体勢へ入ってしまった。
「......影山君、次世界史だよ」
早々に机にうつ伏せる影山君に友達がそう声を掛けるも、聞こえているのかいないのか、影山君の頭は上がることなくそのまま世界史の授業が始まってしまうのだった。
▷▶︎▷
授業終了のチャイムが鳴り響き、筆記用具やノートを片付ける音や生徒同士の話し声が一斉に広がる中、私も軽く息を吐きつつシャーペンや消しゴムをペンケースへしまい込む。
次の授業なんだったかなとぼんやり考えた矢先、隣の席から「城崎」と小さな声で呼ばれた。
顔を向けると、少し眠そうな目をした影山君が机にうつ伏せたままこちらを見ている。
「......さっきの、やってくれ......」
「......でも、影山君、お疲れなんじゃない?まだ眠そうだよ?」
「.............」
私の言葉に、影山君は自分の調子のことを考えているみたいだ。
眉間に皺を寄せ、目を瞑ったまま黙り込んでしまった彼を見てから、前の席の友達とちらりと視線を合わせる。
世界史の授業よりあやとりをしたがる影山君の興味関心の方向性が極めて謎だなと若干失礼なことを考えていれば、影山君はゆるりと上半身を起こして私の方へ体の向きを変えた。
「......でも、それ、なんか面白そうだし、指鍛えられそうだから、やる」
「......いやぁ......指は、どうかなぁ......?」
「いいからやってくれ」
あやとりで指が鍛えられるなんて考えたことも無いけど、何故かノリノリの影山君に水を差すことも出来ず、結局またカバンから赤いあやとりを取り出し2人あやとりの最初の型を作る。
「ここの交差してるところ、左右に掬って内側に通してもらっていい?」
「こ、こうか?」
「そうそう、しっかり摘んでてね?ぐしゃぐしゃになったら絡まっちゃうから」
先程の友達よりも遥かに辿々しい手つきで、影山君はおずおずと赤い紐を掬い取る。
不安定ながらも影山君の長い指で何とか形作られた“田んぼ”に私の指が入り込み、次の型である“川”を形成した。
「すげぇ」
「ふふ、次は影山君の番だよ」
まるで新しいオモチャを見る子供のような目を向ける影山君が少し可愛くて、普段とのギャップも合わさりつい笑ってしまった。
まさか影山君とあやとりをする日が来ようとは、人生なにがどう転ぶかわからないものである。
「こ、これはどうすんだ?」
「こことここ、左右で交差させながら小指で掬ってもらっていい?」
「え、え、こうか?」
「そうそう、合ってる合ってる。あ、指離しちゃ駄目ね?そのままここを親指と人差し指で掬ってもらって......」
「え、あ?どれだ?あ、待て城崎、取れる」
「じゃあ、1回変わろうか。はい、影山君パス」
早々に焦り始めるあやとり初心者の影山君からバトンを受け取り、影山君の指に移した“川”の掬い方をゆっくりとレクチャーする。
「......で、こうなります。わかった?」
「......も、もう一回頼む......」
影山君の指から掬い取った“舟”を見せると、至極難しい顔をした影山君が素直にリテイクを頼んできたので直ぐに“舟”を崩した。
そのまま再度一番最初の型を作り影山君へ差し出すと、恐る恐ると言った感じでゆっくりと紐を掬い取る。
再び“田んぼ”の形になると、影山君は満足そうに小さく息を吐いた。
もしかして、影山君は意外と子供っぽいところもあるのかもしれない。
普段クールな表情か顰めっ面かのどちらかだから、全然気が付かなかった。
「......城崎?俺何か間違えたか?」
考え事をしていたらすっかり動きが止まっていたようで、ごめんごめんと謝りながらも影山君の指から赤い紐を掬い取った。
“川”の形になったところで再び影山君へあやとりを移し、ゆっくりとした動きで紐を掬い取る。
「こことここ、小指に掛けてね......」
なるべく見やすいように手元を動かしていると、ふと影山君の長い指が目に入り思わずじっと見つめてしまった。
私の手なんかよりずっと大きくて、1本1本の指が長くてとても綺麗な手だ。
ささくれも無ければ手荒れもしていない。男の子なのに、爪も綺麗に整えられている。
赤いあやとりが長い指によく映えて、とても綺麗なモノに感じた。
そういえば、影山君はバレー部だったはずだから、指や爪には人一倍、細心の注意を払っているのかもしれない。
「......城崎の手、ちっちぇえな」
「!」
途端、頭の上から降ってきた言葉に思わず体温が顔を中心に急上昇した。
何となく影山君の綺麗な手と比べられた気がして、咄嗟に両手を隠すように胸の前へ寄せる。
私の行動に驚いたのか、影山君はぽかんと口を開けて目を丸くしていた。
影山君の綺麗な手には赤いあやとりの“川”が未だ残ったままだ。
「......あ......えと、ごめん......」
「.............」
「......か、影山君の手は、大きいね。指長いし、ちゃんと整えられてるし、凄く綺麗な手だなって思う」
「.............」
反射的に何か言わなきゃと思った頭が、つい先程まで考えていた思考をそのまま口にする。
言ってしまった後にこれじゃあ何だか手フェチの変態みたいだなと思い直し、再び顔を赤くしながら私は何を言ってるんだと早々に後悔した。
「......えっと、じゃあ、もう一回掬うので、わからなかったらストップかけてね?」
キモいと思われたらどうしようという不安の念に駆られながらも頑張って先程までの続きをやれば、影山君はただ黙って私の指先を凝視していた。
「......で、こうなります。わかった?」
とりあえず掬い取った“舟”を見せながら再度確認を取ると、影山君は私の指先からゆっくりと視線を上げ、切れ長の瞳の先を私の瞳にしっかりと重ねた。
「......城崎の手も、綺麗だと思う。ボール掴みにくそうだけど、結構好きだ」
「.............」
真顔の影山君から唐突に言われた一言に私が赤いあやとりを落としたのと、次の授業開始のチャイムが鳴り響いたのはほとんど同時だった。
掬い取ったは、赤い糸
(違うから。絶対違うから!お願いだから勘違いしないで私!)