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チケットをご用意することができませんでした。
スマホの小さな画面に無情に並ぶ文字の羅列を見て、ガクリと机に突っ伏す。
この一文以上にヒトを落胆させる文章を、私はまだ知らない。
なんでなんでなんでなんで???
ちょっと小狡いけどスマホのメアドとパソコンのメアドで二つアカウントとってどっちからも応募したのに、どちらかといえば人気なさそうな日付、時間帯を希望したのに、なんで落選したの!?
今までちゃんとどこかしら当選してたのに!!
「......あ?お前何しとん?」
「.............」
「オイ。シカトすなブタ」
「.............」
スマホを両手で握ったまま撃沈している私に、前の席の男子、宮侑が声を掛けてくる。
無視した私に乱雑な言葉を寄越してくるが、いつもなら即迎撃するものの、今はだいぶ心がやられている為か声を出すのも顔を上げるのも全てが億劫だった。
「.......なんや、腹でも痛いんか?生理?」
「.............」
立て続けに投げられる言葉に、マジこいつデリカシーないなと心底呆れ返りながら、すっかり暗くなったスマホの画面を操作し、非情な文章を金髪の彼にかざす。
「......“チケットをご用意することができませんでした。”?」
「.......読ーむーなー......」
これで察してくれるだろうと思ったのに、何ならもう放っておいてくれとすら思ってるのに、宮侑は画面のそれを口に出した挙句「しょーもな」と心底どうでも良さそうに吐き捨てた。
流石にそれはカチンときて、机に突っ伏してた顔を上げ、その端正な顔を思いっきり睨み付ける。
「うっさいわ!アンタにはしょーもないことでもなァ!私にはめっちゃ大事なことやねん!何でもアンタの物差しで測るなアホ!!」
「!」
突然顔を上げてピシャリと一喝した私に、宮侑は目を丸くして驚いたように少しだけ肩を揺らした。
ビックリしてもイケメンとか、遺伝子レベルから格の違いを見せ付けられたような気がして、どんどん腹が立ってくる。
......ああもう、イケメンはイケメンでも楽しくて、優しくて、面白くて、にこにこ笑ってくれるイケメンじゃないとやっぱり嫌だ。
そんなイケメンに、最高の推しに会いに行こうと思ってたのに...まさか、落選するなんて。
推しに会う為に美容院だって予約してたし、可愛い服も新調したし、手紙も書こうと思ってたのに。
化粧して、爪整えて、ボディケアとかも入念にやって、一番可愛い私で会いに行こうと思ってたのに。
......このままチケット取れなくて、会えなかったらどうしよう。
「.......っ......」
「あ、アホにアホて言われたないわ!......って、はッ!?な、......泣くなや!?」
「~~~っ、うっさいアホぉ......!」
目の前の金髪にムカついていたらどんどん思考が落ちていき、気が付いたら両目からぼろぼろと涙が溢れ落ちた。
宮侑には直ぐに気付かれ、驚き半分戸惑い半分といったような様子で泣くなと言われて、ぐずぐず鼻をすすりながらも目元をワイシャツの袖で拭う。
......でも、だって、ずっと推しに会いたかったのだ。
推しに会うためにバイトも増やして、推しに会えるから頑張ってきたことだってあったのに、......本当、落選って一体どういうことだ。
「......もぉ、どっか行け......!」
「.............」
考えれば考える程悲しくなるので、とりあえずこの喧しい金髪を放り出すことにした。
今はコイツの減らず口に言い返す元気も無いし、下手すれば普通にそのままヘコみそうだ。
もう頼むから放っといてくれと内心で願いながら、両手で顔を覆って俯いた。
「.............」
「.............」
「.............」
「.............」
暫くお互いが黙り込み、教室の喧騒しか聞こえない時間が続く。
どっか行けと伝えたのに、宮侑は何故か席に座ったまま、その場を動かなかった。
「.......なんでそこ居んの......」
「は?ここ、俺の席やし」
「......そらすまんかったなァ。私がどっか行くわ」
「待てや」
「は?」
どっかりと自分の席に座り、全く動こうとしない金髪に何だかどっと疲れてしまい、そしてコイツにいつまでも泣き顔を晒すのも嫌だったので、こちらから離れようとすればまさかの“待った”を掛けられた。
......え、何?もしかして、先程までの無礼を謝ってくれるのか?
予想外の展開に思わずそんなことを期待して、涙を拭いながら宮侑へと視線を寄越した。
「.......お前の席、そこやろ」
「.............」
言葉の続きを待っていれば、その先は私への謝罪では無く、よくわからない事実確認だった。
......は?だから何?と返したい気持ちをグッと堪えて、文句の代わりにため息をひとつ零す。
そんな私に宮侑はぴくりと右手の指先を震わせたが、その端正な顔をムスッと歪ませたまま、そっぽを向いていた。
「.............」
この金髪、宮侑とは一年、二年とクラスが同じで、何の因果か席替えをすれば近所になることが多かった。
運動部特有の大きくて逞しい身体やキラッキラに輝く金髪。それに引けを取らない端正な顔。
だけど喋れば意外と口が悪い相手に、最初こそ迫力に負けて上手くコミュニケーションを取れなかったものの、話す機会が増えれば徐々に慣れていき、今となっては言い合いすら出来る相手になった。
......そして、今までこの人と色々とバトル...会話してきて、理解したことがある。
宮侑という男は、基本的に謝らないのだ。
あ、これはちょっと自分が悪いなと思っている時でさえ、この男は謝らない。
ただし、自分に非があると思ってる時は急に口数が減り、あからさまにバツの悪そうな顔をする。
正直、そんな顔すんなら謝れやとも思ってしまうが、まぁ、この男はもうこういう人間なんだとこちらが折れた方がずっと付き合いやすい。
口は悪いし、性格だって良いとは言えないけど、...でも、どこか憎めないというか、別に嫌いではないというか。
良くも悪くも、宮侑は自分に正直な人間で、私は彼のそういう所が気に食わなくて、気に入っていた。
「.......はー、もうええわ......」
「あ?何やその態度」
ひとまず、謝罪はないものの彼が反省してそうなので、落選したことを「しょーもない」と言われたことは腹が立つけど水に流すことにした。
落選して悲しい気持ちは何やったってきっと消えないけど、別にわざわざ教室で落ち込まなくてもいいだろう。
かまってちゃんになるつもりはない。
「...謝罪とか慰めとか要らんから、明日のアンタの昼休みつこて気晴らしさせてもらいます」
「は?」
「それでチャラや」
気持ちを切り替えて、前に居る宮侑にそんな言葉を寄越す。
スマホの画面を閉じて涙を拭き、ティッシュで鼻をかむ私を見て、彼は怪訝そうな顔を向けた。
「.......何やそれ、意味わからん。つーかなんで明日やねん。今日でもええやんか」
「あかん。今日は道具持ってへん。気晴らしは明日や」
「どッ......!?道具てお前、俺に何するつもりや!?」
「.......ナイショ~」
「はァ!?きっしょ!!」
詳細を話さずニヤリと笑ってやると、宮侑は私を罵りながらも少し顔を青くする。
明らかに怯えた様子を見せる相手の反応が可笑しくて、たまらずふきだしてしまった。
▷▶︎▷
落選してから翌日の昼休み。
さっさとお昼ご飯を食べた私は、教室の隅に宮侑を呼び椅子に座らせ、その色素の薄い明るい金髪を存分に弄らせてもらっていた。
家から持ってきた道具、コードレスのヘアアイロンにワックス、ヘアスプレー、ヘアブラシ等を友達の机の上に置き、ちょっとやってみたかったメンズのヘアセットをやらせてもらう。
「......こんなんが気晴らしになるんか......」
「なるなる。アンタ顔良いし、髪綺麗やし、1回弄ってみたかった」
「......ほーん......」
触り心地の良い金色の髪に指を通しつつ、すっかり楽しくなってにこにこ笑ってそう返せば、最初は怪訝そうだった宮侑もその実満更ではないのか、緩く相槌を打つだけに終わった。
世界的に人気の某動画サイトで見ただけの知識だが、その動画で使ってるのと似たような道具を使い、似たような髪型になるよう髪をセットしていく。
「ユズ、メンズでもアイロン使うん?」
「んー、別にブローでもええけど、教室じゃコンセント使えへんからアイロン持ってきた」
「侑、くせっ毛やからスプレー要らんとちゃう?」
「あー、せやな~。どうせ後でバレーしてボッサボサになるし、ワックスあればええか。豚に真珠やな」
「オイ、ブタはお前やろ」
「ハイハイ。頭動かさんといて~」
私が宮侑に色々とやり出すと、クラスの友達がその面白さにつられてワラワラと集まってくる。
椅子に座る宮侑の周りを囲むようにして、好き好きに話す私達の会話に一度ムッとした顔を向けたが、直ぐに両手で金色の頭を抑えれば案外素直に大人しくなってくれた。
そのまま友達と話しながら暫くヘアセットを続け...ワックスで毛先を整えてから、目の前の金色からそっと手を離す。
「......こんなもんか?どー?」
「おー!侑めっちゃ格好良えやん!」
「うんうん!なんか、垢抜けた感じするわ~!」
「雰囲気全然ちゃうもんな~。ユズ~、今度私も頼んでええ?」
「ええよー」
前に見た動画と似たような仕上がりになったところで、友達の反応を見ると満場一致で「イイネ」をもらえた。
よっしゃーと思いながら今度は本人に「ど?格好良えやろ?」と鏡を寄越しながら聞くと、宮侑はいつもと違う髪型をしげしげと見ながら「......まぁ、元がええからなァ......」と完全に負け惜しみだろう一言を零す。
それにも内心でよっしゃーと思いつつ、残り少なくなったお昼休みの間に広げた道具をなおさなければとワックスやヘアアイロンをトートバッグの中にしまった。
「なー、ユズは写真撮らへんの?アンタがセットした侑、めっちゃイケメンやん」
「んー。じゃあ、今撮ってたヤツ私にも送ったって~」
片付けてる途中に後ろからそんな声が掛かり、じゃあまぁ記念に?その写真貰っとくかと思っていると......急に右腕を強い力で掴まれ、驚いている間にグイッと右後ろ方向へ引っ張られた。
危うく転びそうになったものの何とか踏ん張り、一体何だと顔を向けると、何やら機嫌の悪そうな金髪と視線が重なる。
「お前が髪遊びしたんやろ。最後サボんなや」
「......えぇー......だる......」
「あ゛?」
威圧的な態度で投げられた言葉に、つい本音をもらしてしまえば更にドスの効いた声を寄越された。
どうやら、友達の撮った写真を貰うのではなく、ちゃんと自分で撮れと言いたいらしい。
本当にこの金髪、妙な所こだわるんだよな...。
若干面倒くさいと思いつつ、自分のスマホを持ってきて仕方なくカメラを起動する。
「......ハイ、じゃあ撮るで」と取って付けたような断りを入れ、スマホのカメラを宮侑に向けた。
「.............っ、」
ピントを合わせ、画角を調整し、カシャリと撮影ボタンを押すと......スマホ越しに驚く程真っ直ぐな視線を向けられて、たまらず心臓がどきりと跳ねる。
まるでこちらを射抜くような鋭い眼差しにすっかり気圧されてしまえば、今度はニヤニヤと意地悪そうな笑顔を見せた。
「......なんや、照れとんのか?すまんなァ、格好良過ぎて」
「は......ッ!?」
急に無言になった私の心境なんて筒抜けだったのか、宮侑は調子に乗ってそんな戯言を寄越してくる。
アホか!と言い返したいのは山々だが、不覚にもドキッとしてしまったのは事実なので、そしてここで慌てて否定するのも相手の思う壷だと気付き、......少し頭を回して、別の角度から反撃してやろうと言葉を整えた。
「.......アンタ何言うてんの?当たり前やん」
「は?」
私の言葉による迎撃ミサイルに、宮侑はきょとんと目を丸くする。
まさか自分の発言が肯定されるとは思ってなかったんだろう。
まんまと隙を見せた金髪に、にっこりと笑いながらトドメを刺した。
「私がセットしたんやで。それで格好良くならんヤツは、そいつがポンコツなだけや」
「!!!」
本気で恋する7秒前
(クッソ......!なんやコイツ!めっちゃ格好ええやん!!)
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