days
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※120% 4 Uという中編になりました。
元々乗り気じゃない合コンだった。
夜ご飯までは保てたテンションはその後のカラオケで一気に下がり、お酒の力を借りて1時間は頑張れたものの現時点で私の気力は見事に底を尽きた。
トイレに行くと友達に告げて、そのまま向かったのは外付けの非常階段だ。
鉄筋コンクリート造りの階段を何段か上に昇り、踊り場の柵に両腕を置く。
夜も遅いと言うのにピカピカと輝く繁華街の光をぼんやりと見ながら、お酒で火照った身体を夜風にあてて少しずつ酔いを覚ましていく。
アウターのポケットにしのばせたスマホの時計を確認すると、時刻はもうすぐ22時を告げようとしていた。
画面の上端にいくつか通知が来ていたが、それらを全て無視してワールドワイドの動画投稿サイトを開く。
マイページには最近視聴した動画の関連動画がおすすめとしてリストアップされていた。
わざわざ検索しなくても興味のあるものが勝手に上がってくるのは便利だなと思う反面、見えない何かに自分の挙動を把握されているようで少し気味悪くも感じてしまう。
かと言って便利なものにケチをつける気はさらさらないので、ここは有効に活用させて頂きます。
勝手におすすめされた動画、プロのバレーボールの国際試合のサムネをクリックする。
まるで映画を見る前の予告のような無駄に長いCMをスキップしつつ、スマホを横向きにして全画面設定のボタンを押す。
音はどうしようかと少し悩んだが、イヤホンを持ってきていないのと非常階段には私しか居ないのをいいことに、小さめの音でそのまま流すことにした。
踊り場の柵に腕をつき、上半身の体重を乗せた状態でスマホの小さな画面を眺める。
リアルタイムの試合ではないものの、今後のゲーム展開や勝負の結果を知らないその試合は、私にとって新鮮味のあるものだった。
「.............」
.........とは言え、私がバレーボールの試合動画を見るようになったのは至極最近のことである。
なぜかおすすめとしてたまたま上がってきたバレー動画を、移動時間の暇潰しに何となく見てみたのが始まりだった。
学生時代、バレーボール部に所属していたなんてこともなく、ルールもほとんどわからないスポーツのプレー動画だったものの、一度見たら病みつきになってしまったのだ。
バレーの試合自体、とても面白いと感じたのだが、私が強く惹かれたのはある一人のバレーボール選手だった。
『ヘイヘイヘーイ!!』
ガッチリとセットされた特徴的なモノトーンの髪、強靭さを物語る逞しい身体、迫力のある見た目とは対照的な底抜けに明るい性格。
まるで大砲のようなダイナミックなスパイクをかましてから、小さな画面の中の木兎光太郎は気持ちよさそうに両方の拳を上へ突き上げた。
バレーボールのルールもよく知らないというのに、この人のプレーにうっかり魅了されてしまったのである。
動画を見ているだけで爽快感が凄い。木兎光太郎の攻撃が決まると本当にスカッとする。
それだけでなく、心底楽しそうにバレーをする人だから見ているこちらも楽しくなってくるし、何より言動が真っ直ぐで心地良い。
そんな木兎光太郎のプレーを見るのが最近のマイブームであり、最高の癒しとなっていた。
「バレー、好きなんですか?」
画面の中の木兎光太郎を目で追っていると、背後から落ち着いた声がすぐ近くで聞こえた。
とっさに顔を向けると、いつの間にか私の背後に眼鏡をかけた背の高い黒髪の男性が音もなく静かに張り付いていた。
動画に夢中になってしまい、背後に誰かが近寄っていることに全く気が付かなかったのだ。
一先ず見知らぬ男性に背中を見せていることは不味いと思い、彼と対面する形をとる。
一瞬ナンパかと考えたが、私と向き合うことになっても男性の視線は変わらず私の手元にあるスマホのままだった。
「.............」
「.............」
......え、なに?この人、誰?
突然現れた男性に頭がめいっぱい混乱を示すが、向こうは私のことなんて微塵も気にしていないのか、長身の身体を少し屈ませてしっかりと試合動画を眺めている。
「.............」
ここまで他人にガッツリと動画を見られたのは初めてだ。これ程遠慮なく見られると流石に盗み見するなとは言えないし、むしろもうどうでもいいと謎の降伏感すら頭に浮かんでくる。
......まぁ、おそらくバレーボールが好きな人なんだろうし、よくわかんないけど、まぁ、いっか。
未だに酔いが覚めていないせいもあり、そしてあまりにもよく分からない事態に陥っていたせいでもあった為、私は思考を回すことを放棄して画面の中の木兎光太郎に集中することにした。
見知らぬ男女が、カラオケの非常階段の踊り場で向かい合ってバレーボールの動画を黙々と見ているこの光景は、何とも奇妙なものだったに違いない。
動画は木兎光太郎のチームが2セット先取したところで途切れ、次の動画の準備が自動的に始まった。
特に会話をすることもなく、ただ黙々と試合動画を見てしまったことに今更ながらどうしようかと少し困っていると、少し屈んだまま微動だにしなかった相手がゆっくりと上半身を起こした。
「......動画、見せてくれてありがとうございました。突然すみませんでした」
次の動画のロードがそろそろ終わりそうなところで、御礼と謝罪が上から降ってくる。
案外普通のことを言われたので、目を丸くして相手の顔を見た。
身長差があるため、この距離だとだいぶ顔をあげないと向こうの顔を確認できない。
改めてしっかり相手を確認すると、変わった人だと認識していたその人は意外と綺麗な顔をしていて更に驚いてしまった。
「外で少し涼もうとしたら、下からバレーの実況が聞こえたんで、気になって降りてきてしまいました」
黙ったままの私を気にしてか、相手は眼鏡をかけ直しながら自身の事情を話してくれる。
「......とは言え、いきなり他人のスマホを覗き見していい理由にはなりませんね。失礼なことをしてすみません」
「.............」
最初はなんだこの人と思ったが、意外と普通の感覚を持ち合わせてるのかもしれない。
律儀に頭を下げてくる相手に恐縮しつつ大丈夫だと伝えれば、彼はまたゆっくりと上体を起こした。
「......さっきも聞きましたが、バレー好きなんですか?」
おそらく世間話として訊かれた話題に、どう答えようか少し悩む。
バレーボールは面白いと思う。だけど、どちらかというと木兎光太郎を見ているという方が正しい気もする。
そうなると、ただ純粋にバレーボールが好きというのとは少し違うだろう。
「......にわかですけど、好きです。あと、木兎光太郎が好きなんです」
「.............」
「......て言っても、見るようになったのはつい最近で。バレーのルールとかもよくわかってないんですけど、それでも木兎光太郎が出てるととても面白くて、この人の試合ばっかり見てます」
意味もなくスマホの角を指でなぞりながら、バレーボールに対する実直な感想を返す。
なんだ、結局イケメン選手が目当てかよ。
そう思われたら思われたでそれでいいとも思っていた。別に、知らない人だし。
「......なんか、木兎光太郎見てると元気出ません?やる気分けてもらえるっていうか......。この人、時々調子悪かったりするじゃないですか。でも、それを何度も乗り越えて、こうやってプロの世界で結果出してるんだから強い人なんだなぁって思うし、ひたむきにバレーが好きなんだろうなぁって......」
向こうが黙ってるのをいいことについ木兎光太郎愛を熱弁してしまったが、初対面の人にここまでベラベラと自分の感想を言うのは流石に気持ち悪かったかなと直ぐに反省した。
私一人盛りあがってバカみたいだ。
「......わかります、それ」
勝手に熱く語り、勝手に居心地悪く思っていると、相手から返されたのはまさかの肯定意見だった。
たぶん、空気を読んでくれただけだろうと申し訳なく思っていると、向かい合っている彼が黒いジーンズの後ろポケットから自分のスマホを取り出し、いくつか操作をしてからおもむろに私の前へ画面を掲げた。
「......俺も、木兎さん好きです」
スマホの画面はどうやらスポーツ観戦系の動画サイトのマイページリストのようで、そこには木兎光太郎が出ている試合動画がずらりと並んでいた。
「えー!いいなー!これ何のサイトですか?アプリですか?」
「フフ、いいでしょう?ただ、残念なことに有料なんですが......」
「あ、そうなんですね......おいくらですか?」
目の前に癒し動画の宝庫を見せられ、先程の居心地の悪さはどこへやら、あっという間に相手から貰ったエサに食いついた。
もしこれが彼の手腕であるなら、この人はきっと相当のブレーンだ。
「......教えてくれてありがとうございます!明日休みなんで一日中見ます」
教えてもらったアプリをダウンロードし、テンションの上がったままお礼を言うと相手は「どういたしまして」と少しはにかむように笑った。
元々が綺麗な人だから、笑うとさらに魅力が上がる。
つい見惚れてしまうと、私の視線を不思議に思ったのか小さく首を傾けられ、慌てて視線をスマホへ戻した。
「でも、一回でいいから、スマホ越しじゃない木兎光太郎のバレーを間近で見てみたいです」
「.............」
スマホ画面の木兎光太郎を見ながら、何の気なしに自分の意見を述べる。
スポーツ観戦は今まで行ったことがないが、きっと木兎光太郎のバレーは生で見た方がずっと迫力があって面白いのだろうと思う。
いつか、いや、できれば今年中に、行けたら行きたいな。
「......その、木兎光太郎と......」
ぽつりと、降り出した雨のような静かな声で、彼はゆっくりと話し出した。
「......高校が一緒で、木兎さんはバレー部の主将とエースをやっていて、俺は副主将とセッターで......木兎さんに、毎日トス上げてたんですよ」
「.............」
「......て、言ったら......どうします?」
「.............」
唐突に言われた言葉に、思わず目を丸くして黙り込んでしまう。
瞬きすら忘れてあ然としてしまう私に対して、相手はその切れ長の瞳で私を射抜いたまま、悪戯に小さく笑った。
本気とも冗談ともとれる雰囲気であり、頭が再び思考回路を放棄しそうになるが......考えるよりも先に、感情のままの言葉が口をついた。
「......この幸せ者!」
「!」
「......て、言ってやります」
私の返答に驚いたのか、相手は初めて目を丸くして動揺している様子を見せた。
彼の言葉の真意について訊きたいところだったが、私のスマホが着信を伝え、そういえば合コンを抜け出してきていることを思い出す。
スマホの時計を確認すると23時近くになっていて、1時間も戻らなければ流石に電話も来るよなと少し反省した。
「......そろそろ戻ります。アプリ、教えてくれてありがとうございました」
ブルブル震えるスマホを片手に、もう一度お礼を言ってから早足で階段を降りた。
電話に出ると友達から心配する言葉が直ぐに聞こえてきて、それに謝りながら個室への道を早足で辿る。
......あの人の名前くらい、聞いておけばよかったな。
折角バレーボールの話を、そして木兎光太郎の話をできる人だったのに、名前も連絡先も聞かずに別れてしまったことを今更になって少し後悔したが、すべて後の祭りだった。
▷▶︎▷
あの夜から数日後、たまたまつけたテレビに木兎光太郎が映っていて、お昼ご飯を食べながら楽しく鑑賞していた私の目に、衝撃的な映像が映る。
『これ、高校の時のセッターで、副主将だった奴です!俺のバレー人生の中で、多分あかーしに一番トス上げてもらったんじゃないかな?すげー仲良くて、今でもたまに遊び行ったりしてます!おーい、あかーし、見てるー?』
天真爛漫といった感じで楽しく話す木兎光太郎の直ぐ隣りにあるパネルは、彼の人生の目次録みたいになっていて、年表と共にいくつかの写真が掲載されている。
その中で今、ズームアップされている高校時代の写真の中に、おそらく“あかーし“であろう人物が丁度木兎光太郎に指さされていた。
その顔には見覚えがあり、思わず持っていた箸を落としてしまう。
......ああ、もう、こんなことってある!?
この、幸せ者!
(テレビの前で、思わずもう一度口をついた。)
元々乗り気じゃない合コンだった。
夜ご飯までは保てたテンションはその後のカラオケで一気に下がり、お酒の力を借りて1時間は頑張れたものの現時点で私の気力は見事に底を尽きた。
トイレに行くと友達に告げて、そのまま向かったのは外付けの非常階段だ。
鉄筋コンクリート造りの階段を何段か上に昇り、踊り場の柵に両腕を置く。
夜も遅いと言うのにピカピカと輝く繁華街の光をぼんやりと見ながら、お酒で火照った身体を夜風にあてて少しずつ酔いを覚ましていく。
アウターのポケットにしのばせたスマホの時計を確認すると、時刻はもうすぐ22時を告げようとしていた。
画面の上端にいくつか通知が来ていたが、それらを全て無視してワールドワイドの動画投稿サイトを開く。
マイページには最近視聴した動画の関連動画がおすすめとしてリストアップされていた。
わざわざ検索しなくても興味のあるものが勝手に上がってくるのは便利だなと思う反面、見えない何かに自分の挙動を把握されているようで少し気味悪くも感じてしまう。
かと言って便利なものにケチをつける気はさらさらないので、ここは有効に活用させて頂きます。
勝手におすすめされた動画、プロのバレーボールの国際試合のサムネをクリックする。
まるで映画を見る前の予告のような無駄に長いCMをスキップしつつ、スマホを横向きにして全画面設定のボタンを押す。
音はどうしようかと少し悩んだが、イヤホンを持ってきていないのと非常階段には私しか居ないのをいいことに、小さめの音でそのまま流すことにした。
踊り場の柵に腕をつき、上半身の体重を乗せた状態でスマホの小さな画面を眺める。
リアルタイムの試合ではないものの、今後のゲーム展開や勝負の結果を知らないその試合は、私にとって新鮮味のあるものだった。
「.............」
.........とは言え、私がバレーボールの試合動画を見るようになったのは至極最近のことである。
なぜかおすすめとしてたまたま上がってきたバレー動画を、移動時間の暇潰しに何となく見てみたのが始まりだった。
学生時代、バレーボール部に所属していたなんてこともなく、ルールもほとんどわからないスポーツのプレー動画だったものの、一度見たら病みつきになってしまったのだ。
バレーの試合自体、とても面白いと感じたのだが、私が強く惹かれたのはある一人のバレーボール選手だった。
『ヘイヘイヘーイ!!』
ガッチリとセットされた特徴的なモノトーンの髪、強靭さを物語る逞しい身体、迫力のある見た目とは対照的な底抜けに明るい性格。
まるで大砲のようなダイナミックなスパイクをかましてから、小さな画面の中の木兎光太郎は気持ちよさそうに両方の拳を上へ突き上げた。
バレーボールのルールもよく知らないというのに、この人のプレーにうっかり魅了されてしまったのである。
動画を見ているだけで爽快感が凄い。木兎光太郎の攻撃が決まると本当にスカッとする。
それだけでなく、心底楽しそうにバレーをする人だから見ているこちらも楽しくなってくるし、何より言動が真っ直ぐで心地良い。
そんな木兎光太郎のプレーを見るのが最近のマイブームであり、最高の癒しとなっていた。
「バレー、好きなんですか?」
画面の中の木兎光太郎を目で追っていると、背後から落ち着いた声がすぐ近くで聞こえた。
とっさに顔を向けると、いつの間にか私の背後に眼鏡をかけた背の高い黒髪の男性が音もなく静かに張り付いていた。
動画に夢中になってしまい、背後に誰かが近寄っていることに全く気が付かなかったのだ。
一先ず見知らぬ男性に背中を見せていることは不味いと思い、彼と対面する形をとる。
一瞬ナンパかと考えたが、私と向き合うことになっても男性の視線は変わらず私の手元にあるスマホのままだった。
「.............」
「.............」
......え、なに?この人、誰?
突然現れた男性に頭がめいっぱい混乱を示すが、向こうは私のことなんて微塵も気にしていないのか、長身の身体を少し屈ませてしっかりと試合動画を眺めている。
「.............」
ここまで他人にガッツリと動画を見られたのは初めてだ。これ程遠慮なく見られると流石に盗み見するなとは言えないし、むしろもうどうでもいいと謎の降伏感すら頭に浮かんでくる。
......まぁ、おそらくバレーボールが好きな人なんだろうし、よくわかんないけど、まぁ、いっか。
未だに酔いが覚めていないせいもあり、そしてあまりにもよく分からない事態に陥っていたせいでもあった為、私は思考を回すことを放棄して画面の中の木兎光太郎に集中することにした。
見知らぬ男女が、カラオケの非常階段の踊り場で向かい合ってバレーボールの動画を黙々と見ているこの光景は、何とも奇妙なものだったに違いない。
動画は木兎光太郎のチームが2セット先取したところで途切れ、次の動画の準備が自動的に始まった。
特に会話をすることもなく、ただ黙々と試合動画を見てしまったことに今更ながらどうしようかと少し困っていると、少し屈んだまま微動だにしなかった相手がゆっくりと上半身を起こした。
「......動画、見せてくれてありがとうございました。突然すみませんでした」
次の動画のロードがそろそろ終わりそうなところで、御礼と謝罪が上から降ってくる。
案外普通のことを言われたので、目を丸くして相手の顔を見た。
身長差があるため、この距離だとだいぶ顔をあげないと向こうの顔を確認できない。
改めてしっかり相手を確認すると、変わった人だと認識していたその人は意外と綺麗な顔をしていて更に驚いてしまった。
「外で少し涼もうとしたら、下からバレーの実況が聞こえたんで、気になって降りてきてしまいました」
黙ったままの私を気にしてか、相手は眼鏡をかけ直しながら自身の事情を話してくれる。
「......とは言え、いきなり他人のスマホを覗き見していい理由にはなりませんね。失礼なことをしてすみません」
「.............」
最初はなんだこの人と思ったが、意外と普通の感覚を持ち合わせてるのかもしれない。
律儀に頭を下げてくる相手に恐縮しつつ大丈夫だと伝えれば、彼はまたゆっくりと上体を起こした。
「......さっきも聞きましたが、バレー好きなんですか?」
おそらく世間話として訊かれた話題に、どう答えようか少し悩む。
バレーボールは面白いと思う。だけど、どちらかというと木兎光太郎を見ているという方が正しい気もする。
そうなると、ただ純粋にバレーボールが好きというのとは少し違うだろう。
「......にわかですけど、好きです。あと、木兎光太郎が好きなんです」
「.............」
「......て言っても、見るようになったのはつい最近で。バレーのルールとかもよくわかってないんですけど、それでも木兎光太郎が出てるととても面白くて、この人の試合ばっかり見てます」
意味もなくスマホの角を指でなぞりながら、バレーボールに対する実直な感想を返す。
なんだ、結局イケメン選手が目当てかよ。
そう思われたら思われたでそれでいいとも思っていた。別に、知らない人だし。
「......なんか、木兎光太郎見てると元気出ません?やる気分けてもらえるっていうか......。この人、時々調子悪かったりするじゃないですか。でも、それを何度も乗り越えて、こうやってプロの世界で結果出してるんだから強い人なんだなぁって思うし、ひたむきにバレーが好きなんだろうなぁって......」
向こうが黙ってるのをいいことについ木兎光太郎愛を熱弁してしまったが、初対面の人にここまでベラベラと自分の感想を言うのは流石に気持ち悪かったかなと直ぐに反省した。
私一人盛りあがってバカみたいだ。
「......わかります、それ」
勝手に熱く語り、勝手に居心地悪く思っていると、相手から返されたのはまさかの肯定意見だった。
たぶん、空気を読んでくれただけだろうと申し訳なく思っていると、向かい合っている彼が黒いジーンズの後ろポケットから自分のスマホを取り出し、いくつか操作をしてからおもむろに私の前へ画面を掲げた。
「......俺も、木兎さん好きです」
スマホの画面はどうやらスポーツ観戦系の動画サイトのマイページリストのようで、そこには木兎光太郎が出ている試合動画がずらりと並んでいた。
「えー!いいなー!これ何のサイトですか?アプリですか?」
「フフ、いいでしょう?ただ、残念なことに有料なんですが......」
「あ、そうなんですね......おいくらですか?」
目の前に癒し動画の宝庫を見せられ、先程の居心地の悪さはどこへやら、あっという間に相手から貰ったエサに食いついた。
もしこれが彼の手腕であるなら、この人はきっと相当のブレーンだ。
「......教えてくれてありがとうございます!明日休みなんで一日中見ます」
教えてもらったアプリをダウンロードし、テンションの上がったままお礼を言うと相手は「どういたしまして」と少しはにかむように笑った。
元々が綺麗な人だから、笑うとさらに魅力が上がる。
つい見惚れてしまうと、私の視線を不思議に思ったのか小さく首を傾けられ、慌てて視線をスマホへ戻した。
「でも、一回でいいから、スマホ越しじゃない木兎光太郎のバレーを間近で見てみたいです」
「.............」
スマホ画面の木兎光太郎を見ながら、何の気なしに自分の意見を述べる。
スポーツ観戦は今まで行ったことがないが、きっと木兎光太郎のバレーは生で見た方がずっと迫力があって面白いのだろうと思う。
いつか、いや、できれば今年中に、行けたら行きたいな。
「......その、木兎光太郎と......」
ぽつりと、降り出した雨のような静かな声で、彼はゆっくりと話し出した。
「......高校が一緒で、木兎さんはバレー部の主将とエースをやっていて、俺は副主将とセッターで......木兎さんに、毎日トス上げてたんですよ」
「.............」
「......て、言ったら......どうします?」
「.............」
唐突に言われた言葉に、思わず目を丸くして黙り込んでしまう。
瞬きすら忘れてあ然としてしまう私に対して、相手はその切れ長の瞳で私を射抜いたまま、悪戯に小さく笑った。
本気とも冗談ともとれる雰囲気であり、頭が再び思考回路を放棄しそうになるが......考えるよりも先に、感情のままの言葉が口をついた。
「......この幸せ者!」
「!」
「......て、言ってやります」
私の返答に驚いたのか、相手は初めて目を丸くして動揺している様子を見せた。
彼の言葉の真意について訊きたいところだったが、私のスマホが着信を伝え、そういえば合コンを抜け出してきていることを思い出す。
スマホの時計を確認すると23時近くになっていて、1時間も戻らなければ流石に電話も来るよなと少し反省した。
「......そろそろ戻ります。アプリ、教えてくれてありがとうございました」
ブルブル震えるスマホを片手に、もう一度お礼を言ってから早足で階段を降りた。
電話に出ると友達から心配する言葉が直ぐに聞こえてきて、それに謝りながら個室への道を早足で辿る。
......あの人の名前くらい、聞いておけばよかったな。
折角バレーボールの話を、そして木兎光太郎の話をできる人だったのに、名前も連絡先も聞かずに別れてしまったことを今更になって少し後悔したが、すべて後の祭りだった。
▷▶︎▷
あの夜から数日後、たまたまつけたテレビに木兎光太郎が映っていて、お昼ご飯を食べながら楽しく鑑賞していた私の目に、衝撃的な映像が映る。
『これ、高校の時のセッターで、副主将だった奴です!俺のバレー人生の中で、多分あかーしに一番トス上げてもらったんじゃないかな?すげー仲良くて、今でもたまに遊び行ったりしてます!おーい、あかーし、見てるー?』
天真爛漫といった感じで楽しく話す木兎光太郎の直ぐ隣りにあるパネルは、彼の人生の目次録みたいになっていて、年表と共にいくつかの写真が掲載されている。
その中で今、ズームアップされている高校時代の写真の中に、おそらく“あかーし“であろう人物が丁度木兎光太郎に指さされていた。
その顔には見覚えがあり、思わず持っていた箸を落としてしまう。
......ああ、もう、こんなことってある!?
この、幸せ者!
(テレビの前で、思わずもう一度口をついた。)
1/15ページ