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昨晩、予備校の課題を遅くまでやっていて、すっかりアラームを掛け忘れたままベッドに入ってしまった。
目が覚めた時にはいつも家を出る15分前の時間になっていて、大慌てで身支度を整えて、机の上にあったパンの袋らしきものだけカバンの中に押し込んで最寄り駅へと走った。
おかげで遅刻することは何とか免れたが、朝ご飯を食べ損ねてしまったので一時間目の日本史の授業は空腹と戦いながら必死に板書するはめになった。
食べることが好きな方なので、小さく鳴るお腹にいまいち授業に集中できず、授業終了のチャイムが鳴ったら直ぐに御手洗へ直行し、手洗いうがいをすませてから早足で自分の席へ戻る。
とにかく朝ご飯を食べなければと、自宅のテーブルから持ってきたパンの袋をカバンの中から取り出すと、隣りの席から「あ、それ美味いよな~」と明るい声を掛けられた。
パンの袋を開きながらそちらを見ると、アイボリー色の髪に泣きぼくろが特徴的なクラスメイト、菅原君が私の手元にあるパンを指差してゆるりと柔らかに笑う。
「俺もよく買って食べるよ」
「そうなんだ?家にあったから持ってきたんだけど......あ、菅原君、少し食べる?」
「......や、大丈夫。城崎のが腹減ってるっぽいし?ちゃんと食べなさいよ」
「う......いや、あの、今日は寝坊しちゃってね?朝ご飯食べ損ねちゃって......だから、これは別に早弁とかじゃないからね?」
菅原君との会話の途中、もしかして早弁かと思われてたら嫌だなと思い直ぐにそんな言葉を述べたものの、相手は「それは分かってるよ」と少し可笑しそうに笑った。
変に誤解されていなくてほっとしたものの、授業と授業の合間の休み時間は昼休みと違いえらく短い為、なるべく早く食べてしまおうと手元のパンを一口齧った。
「.......んンッ!?」
見た感じ、ソーセージとレタスが挟んであるホットドッグみたいな惣菜パンだったので、特に何の躊躇も無く口に含んでしまったが......咀嚼する内にピリリとした辛味が口に拡がり、思わず変な声が出た。
「え?なに、どうした?」
「ン゛~~~ッ!!」
片手で口元を抑え、奇声を発する私を見て、菅原君は一体何事だと怪訝そうな顔を向けてくる。
でも、まさか、この惣菜パンがこんなに辛いとは思わなかったのだ。
元から辛味には滅法弱いので、口の中に燃え広がる辛味に軽くパニックになった。
とにかく早く飲み込んでしまいたくて、お茶を飲もうとするもカバンの中にしまいっぱなしだったことに気が付く。
どうして食べる前に机の上に置いておかなかったのと数分前の自分の行動に後悔しつつ、半泣きでカバンに手を掛けると、ふとすぐ横に開封されたペットボトルのお茶が差し出された。
「辛いのダメなんだろ?これで流し込んじまえ」
「~~~~っっ!!」
そんな男前な台詞とお茶を寄越してくれたのは菅原君で、苦手な辛味と戦っていた私はすぐに根を上げ、差し出されたお茶を受け取り必死に口の中のパンを流し込んだ。
「っぷはぁ!!し、死ぬかと思った......ッ」
「大丈夫か?......つーか、いきなり何かと思ったわ......何で辛いの食えないのにそれ持ってんの?w」
「いや、家の机の上にあったから......うぅ......まだ口の中ピリピリする......」
「なら、もうちょい飲んどけよ」
何とか無理やり飲み込んで、口の中を空にしてから半泣きで顔を顰めれば、菅原君はまた可笑しそうに笑いながらも心配してくれる。
素直にお茶をもうひと口飲み、少しだけ口の中の辛味が薄れたところで大きくため息を吐いた。
「.......はぁ~......びっくりしたぁ......」
「うん、俺もだいぶびっくりしました」
「あ~、ごめんねぇ......お騒がせしました......」
驚きのあまり飛び出た涙をゴシゴシと拭ってから、ペットボトルの蓋を締める。
「お茶、ありが......いや、ごめん、口付けちゃったし新しいの買ってくるね。同じのでいい?」
「や、別にいいよ。そんな気にしないで」
「え、いや、でも、結構飲んじゃったし......」
「あ、ほら、コレやるよ」
「え?」
ここでふと、このお茶が自分のものではなかったことを思い出し、しまったと思いながらも菅原君にそんな提案をすると、菅原君はそれをさらりと流してから別の話を持ち込んでくる。
何だろうと視線を向けると、馴染みのパッケージに包まれた携帯栄養食のお菓子が差し出され、思わずきょとんと目を丸くした。
「そのパン、食えないなら俺に頂戴。コレと交換しようぜ」
「え、え?い、いいの?」
「いいよ。俺辛いの好きだもん」
「え、本当に?ご、ごめんね、ありがとう......超助かる......」
優しい菅原君のありがたい提案に思わず飛び付いてしまい、特に深く考えず私のパンと菅原君のお菓子を交換する。
正直、これ以上食べられる気はしなかったし、だけど食べ物を残してしまうのも心が痛いと思っていたので、菅原君が食べてくれることが本当にありがたかったのだ。
しかもお菓子まで貰っちゃって、これは私がとても得をしてしまっているのではと呑気に考えていた、矢先。
そういえば先程のパンを一口齧ってしまっていることを思い出し、せめてそこだけはちぎろうと慌てて菅原君へ顔を向けた。
「っ、あ!ちょ、っと待っ......」
「へ?ふぁに?」
「.............」
しかし、時すでに遅しの状態で、菅原君はすでに惣菜パンをもぐもぐと食べていた。
私の慌てようにきょとんと目を丸くしている彼の反応を見て、何だか私だけ変に意識しているのが途端に恥ずかしくなり、結局ごにょごにょと謝るだけで視線を菅原君から逸らした。
「っ、あー......ごめん、何でも、ない......」
「......あぁ、もしやパン代?いいよ、ちょっと待って」
「えっ、違う違う!それは全然要らないから!むしろ私がこれの代金お支払いします!」
「え、何言ってんのwどう見てもこっちのパンのが高いでしょうがw」
私のおかしな態度に菅原君は首を傾げるが、直ぐに思いついた顔をして自分のカバンから財布を取り出した。
自分が食べられないパンを食べてもらってるうえ、お菓子まで貰っているので必死にそうじゃないと首を振ると、菅原君は「本当にいいの?じゃ、お言葉に甘えて。ごちそーさんです」と明るく笑ってくれた。
......うう、なんて素敵な笑顔なの。相変わらず格好良いが過ぎる。
「つーか朝練後って普通に腹減るし、このパンめっちゃ好きだし、俺としてはメリットしか無いんだけど?」
「え、本当に?」
「ホントホント。だから城崎が気にすることなんて一つも無いんですよ~っと」
「......あっ」
菅原君は爽やかに笑いながらそう言うと、私の机の上に置きっぱなしになっていたペットボトルのお茶を颯爽と攫った。
せめてそれくらいは新しいものを買わせてほしかったのに、まるで先手を取るかのように菅原君は事も無げにお茶に口を付ける。
そ、それもさっき、私、飲んじゃってるんだけど......!
「......ほら、とっととそれ食っちまわないとチャイム鳴るぞ~?」
「.......あ......う、うん......」
頭の中が軽くパニックになりながらも、いつも通りの菅原君に促されてもだもだとお菓子を開封する。
向こうが全然、これっぽっちも気にしてないのに、私だけ変に意識して恥ずかしがるのは、おそらく自意識過剰というやつだ。
男女であろうと友達同士な訳だし、気のいい菅原君は困ってる友達を助ける為に今の行動を取ってくれたんだろう。
菅原君の純粋な優しさを、勝手に下世話に変換したら駄目だ。
「......ご、ごめんね......あと、本当、ありがとう......」
惣菜パンとお茶のことと、菅原君の優しさを誤変換してしまったことを合わせたお詫びとお礼を述べて頭を下げると、菅原君はニッと歯を見せて笑い、「いいってことよ」と快活に返してくれた。
その笑顔に胸がキュンとときめきつつも、私と間接キスをしても全く平気ということは、菅原君にとって男友達と何ら変わらない立ち位置なんだなと思い、ひっそりと落胆してしまうのだった。
▷▶︎▷
「......ということがありまして。これ、なんて言うラッキースケベ?」
「いや、後半結構無理やり持ってってたけどな?...でもまぁ、よかったな」
昼休み、同じクラスの大地と昼飯を食べながら、午前の授業間の休みに遭遇した城崎との話をすると、どうやら大地も遠目に見ていたようで、呆れ半分で笑われながらも「オメデトウ」と祝ってくれた。
「俺と間接キスOKなら、もう俺の彼女と言っても過言じゃないよな」
「過言だな。城崎絶対びっくりするからそれはやめてやれ」
「.............」
俺の言い分にピシャリと正論を叩き付けられ、思わず大地を睨み付けるも烏野男バレ主将は素知らぬ顔でおにぎりにかぶりつく。
......しかしながら、思いがけず直面した好機に秒で頭を働かせ、現在俺の隣りの席の女子、城崎と自然に間接キスができるよう、何とか上手く誘導した俺は本当に凄いと思う。
何より、俺が好きなパンを城崎も持ってたことが先ず嬉しかったし、なのに辛いものが苦手でそれを食べた瞬間慌てふためく姿が超可愛くてびっくりした。
それに、俺が惣菜パン食べてるのとお茶飲むとこ見た時の、「あっ」っていう表情。あれ、マジで可愛いが過ぎる。
これもう、俺の彼女でよくね?って大体の男は考えると思う。
別に男子高校生がアホなのは今に始まったことじゃない。
「.......じゃあ、何かの拍子でちゃんとキスするしかないな......」
「落ち着けスガ。先ずはきちんと告白してからにしなさい」
......ただし、一部の大地は除かれるらしい。
戦略的と言ってくれ
(俺は断じてヘタレじゃねぇからな?)