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お腹が空き始める四限目。ふと思いついた食べ物をどうしても食べたくなって、お昼休みのチャイムと同時に友達に断りを入れて教室を出た。
本当はいけないんだけど、自転車で一度学校を出て超特急で坂を下る。
坂ノ下商店を通り過ぎ、暫く自転車を漕いで目的地へ到着。お目当てのものを手に入れてから、再び自転車に乗りダッシュで学校へ戻る。
先生やお巡りさんにバレたら即アウトだし、冷めたら美味しさも半減だ。
食欲をそそられる香ばしい匂いに心を躍らせながらも、細心の注意を払って烏野高校へ、そして一年四組の教室へと戻った。
「ただいまー!お腹空いたぁ!」
よく一緒にいる友人達の机に到着し、買ってきたそれと持参したサンドイッチをドサドサと机に置く。
「おかえり〜。めっちゃいい匂いする~」
「でしょ?ちょっと食べていいよ」
「でも、お昼休みによく行くよねぇ...もしバレたらなんて言うの?」
「ポテト冷めたら美味しくないんで食べ終わってからにしてください」
割と本気で答えたのに、友達は揃いも揃っておかしそうにふきだした。
何がおかしいんじゃいと眉を寄せながらも、買ってきた赤いパッケージのポテトとようやくご対面だ。
この色、この形、この匂い。1度食べたらみんなヤミツキで、時々無性に食べたくなる食べ物。
そわそわしながら一つ摘み、口に入れる。
少し冷めてしまっているけど、程よい塩味とポテトの食感が堪らない。
「うん、美味しい!」
「しけってふにゃふにゃしてる」
「ふにゃふにゃのポテトも美味しいでしょうが!文句言うなら食べないでクダサイ!」
ポテトを食べた友人の言葉に一喝すると、友人達はまたどっと笑う。
私にとっては全然笑い事じゃないけど、ポテトが美味しいから今は何も言わずに食べることに専念した。
お昼休みだって無限にある訳じゃない。ポテトを買いに行ったことで半分ほどお昼休みをロスしてしまっている為、さっさと食べないとチャイムが鳴ってしまう。
「それ、少し貰っていい?」
サンドイッチとポテトをもりもり食べていると、頭上から落ち着いた声が降ってきた。
誰が聞いても「あ、良い声だな」と思ってしまうテノールに顔を向ければ、そこにはこのクラスで一番の高身長を誇る金髪、眼鏡のイケメン...月島君が私達の机のすぐ側に立っていた。
正直そこまで仲良くない、いわゆる高嶺の花である月島君に突然声を掛けられ、びっくりしたのと同時にポテトが少し喉に詰まって慌ててアイスティーで流し込む。
「.......え、それってどれ?サンドイッチならダメだよ」
なんだなんだと混乱しながらも一先ず私のメインディッシュはあげられないことを告げると、月島君は淡々とした様子で「違う、ポテトの方」と私の机の上を指さした。
途端、友人達は「ど、どうぞどうぞ!」と勝手に差し出し始める。おいコラ、私のポテトだぞ!
「......いいの?」
友人達の言葉に、月島君はポテトの保有者である私の顔をちらりと見る。
私の取り分が少なくなってしまうのは非常に悲しいが、このクラスで一番のイケメンである月島君の頼みなら仕方ない。
美味しい食べ物は分け合って食べた方がずっと美味しいものだ。
「うん、いいよー。山口君の分も持ってって」
私のサンドイッチが入っていたランチボックスにザラっとポテトを出し、赤いケースに残った少量を「ハイ」と差し出す。
ちなみに山口君というのは月島君とよく一緒にいるこのクラスの男子だ。
今日も仲良く一緒にご飯を食べているようだったので気を利かしたつもりだったのだが、月島君は眼鏡の奥の瞳を少しだけ丸くした。
「あ、ごめん。ポテト食べない人だった?だったら全部月島君にあげるよ」
「.............」
月島君の様子に咄嗟に謝ると、月島君は静かに私と視線を重ねてからおもむろにため息を吐き、片手で眼鏡をかけ直しながら「......どうも」とポテトを受け取った。
そのまま何も言わずに自分の席へ戻ってしまったので、一体何だったんだろうと思いながら再び食事を再開させると、「ちょっと柚!」と声を潜めた友人に呼ばれる。
「いつの間に月島君と仲良くなったの!?」
「え、今初めて喋ったけど?」
「え、そうなの?なんだぁ......」
「月島君、ポテト好きなんじゃん?」
「え~?でも、それだけで私らに話しかけるかなぁ?」
席が離れているとはいえ、同じ教室にいるクラスメイトのことを話しているので普段よりずっと声を小さくして友達と話し合う。
月島君はとてもイケメンだけどあまり多くの人と関わらないタイプの人で、クラスの中でも同じバレー部の山口君か数名の男子くらいにしかまともに話さない。
とは言っても礼儀はちゃんと弁えている人で、こちらが話し掛ければ答えてくれるし、連絡事項もきちんと伝えてくれる。人付き合いが苦手という訳では無さそうだが、ただ単に面倒なのかなという印象を受けるので、今回話し掛けられたのは非常にレアなケースというか、女子としては少し浮き足立ってしまうことなのである。
とは言っても、お昼休みも残り10分にせまり、私のお昼ご飯はあと半分程残っている。
ポテト好きな月島君の話もしたいが、お昼ご飯を食いっぱぐれるのも嫌なので、ここは食事に専念して残りのサンドイッチとポテトをしっかりお腹に収めるのだった。
▷▶︎▷
放課後になり、よっしゃー部活じゃー!と意気込んでいると、背中から「城崎さん」と控えめな声が掛けられた。
相手を予想しないまま振り向いた先には同じクラスの山口君が居て、私と目が合うとニコッと小さく笑ってくれる。
「お昼はご馳走様。ポテト、美味しかった」
「あぁ。いえいえ、わざわざどーも」
「あれ、持ってきたの?それとも買ってきたの?」
「お昼休みに買ってきた。ナイショね?」
危険を冒してポテトを買ってきたことを話すと、山口君は眉を下げて笑う。
「ちなみにポテト食べた人は加担したと見なすので、私が怒られる時は一緒に怒られるんだよ」と話すと、「食べさせた後に言うの、ずるくない?」と山口君は可笑しそうにふきだす。
「少なくとも、ツッキーは絶対逃げるよ」
「え、逃がさないし。ポテト大好き月島君も一緒に怒られるんだよ」
「ぶふっ!え、何その芸人みたいなあだ名!?ていうか違うからね?ポテト好きなのは俺で、お昼休みは匂いにつられてずっとそっち見てたら、ツッキーが貰ってきてくれて......」
「え、そうだったの?なんだ、てっきりめちゃめちゃポテト好きなのかと思った。髪色もポテト色だし」
思わぬところでお昼休みの件の真相を知り、そうだったのかと思いつつ私の勘違いを山口君に話すと、今度は大きくふきだしてケラケラと可笑しそうに笑う。
「ちが......っ!あははッ!髪がポテト色って......何その考え......っ!ツッキー怒るよ......!」
「え、怒るの?じゃあこれもナイショにしてクダサイ」
「城崎さん、本当に面白いこと言うね......!」
「......ありがとうございます?」
ん?でもこれ褒められてるのか?微妙なとこだな。
語尾を上げつつお礼を言うと、山口君はまた楽しそうに笑った。
山口君、結構ツボが浅いのかもしれない。
月島君はあまり笑わない人なのに、この二人が仲良く一緒に居るのだから不思議だなと思っていると、先程山口君から聞いた話の中でふと気が付いたことを口にした。
「そういえば、さっきポテト好きなのは山口君の方って言ってたよね?でも、こっちに月島君が来たのはなんで?もしかしてパシッた?」
「まさか!絶対そんなことしないから!俺がその、話し掛けてもいいのかな~てもだもだしてて、それを見兼ねたツッキーが欲しいなら貰えばいいじゃんって、城崎さんのとこ行ってくれたんだ」
「へぇ......月島君、優しいねぇ」
山口君の話に軽く頷く。いつも無表情で淡々としていて、クールなイメージがある月島君だったが、どうやら非常に友達想いな一面を持っているようだ。
「類友ってやつだね。優しい世界~」
「え?」
「え?......あぁ、類は友を呼ぶって言うじゃん?」
途端、きょとんと目を丸くする山口君に慌てて話の補填をすると、「いや、意味はわかるけど......」と何とも言えない顔をしながら不可解な視線を寄越してくる。
どうやら話が上手く伝わってないらしい。
「えーと......月島君、友達想いで良い人だなぁって思ったんだけど、山口君も月島君にすごく優しいじゃん?だから、優しい人には優しい人が、良い人には良い人が集まってくるものなんだなぁと思いまして」
「.............」
「......あ、これこそハッピーセットってヤツなのでは?」
「.............」
思いついた事を直ぐに言うのは、私の悪い癖である。
山口君のポカンとした顔を見て、あー、やっべー、スベッたなー、と確信した私は、「ハイ、オアトガヨロシイヨウデ」と無理やり話を畳んでからじゃあまた明日と早々に敵前逃亡をはかったのだった。
山口君のツボは、浅いようで海より深かった。
月と山の公約数を求めよ
(翌日、二人から話し掛けられたのでポテトすごいと思った。)