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デフォルト:葉山 果穂【はやま かほ】青葉城西高校三年三組。予備校通いの電車通学。
真面目で努力家ゆえに慎重過ぎるところがある。
最近の悩み:「同じクラスの花巻君との“デコボコフレンズ”というあだ名を何とかしたい。」
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土曜日である今日は9時から18時まで予備校があり、一先ず勉強以外のことは何も考えないようにしてガッツリ受験勉強に集中した。
その後はユリの家に泊まりに行くことになってる為、予備校が終わると共に連絡すると、どうやらすでにここの自習室に居るらしい。
この予備校は受験生という身分であればであれば、例えここの生徒で無くても自習室を提供してくれるので、おそらくユリも私の授業が終わるのを待ちながら勉強していたのだろう。
とは言ってもユリに待ってもらっていることに変わりはないので、勉強道具を手早くリュックにしまい、ユリが居る自習室へ急いで足を進ませた。
「......ごめん、お待たせ。もしかして、結構待たせちゃった?」
「あ、お疲れ様~。ううん、私もちょっと勉強したかったから、早めに来てただけ」
自習室で見慣れた姿を発見し、駆け寄りながら声を掛けると、ユリは直ぐにこちらへ顔を向けて可愛らしくにっこりと笑う。
透け感のある黒レースのトップスにスキニージーンズを合わせたパンツスタイルの彼女は、フレームの細い丸メガネも合わさって今日もとっても可愛かった。
「丸メガネ可愛い~。けど、今日はコンタクトじゃないんだ?」
「うん。だって今から葉山のことテイクアウトするし、家ではずっとメガネだしね~」
「テイクアウトってそんな、ハンバーガーじゃないんだから......」
「ハンバーガーwあぁでも、お腹空いた~。早く家行こ!今夜はしょうが焼きだよ~♪」
ニコニコと笑いながら机を片付けるユリの言葉に恐縮しつつ、「本日はお邪魔致します」と小さく頭を下げれば、「ハイ、喜んで~!」と明るく返された。
ユリの帰り支度が整うと、二人で自習室を後にする。
そのまま予備校の出入り口である自動ドアを通り、ユリとは他愛もない話をしながら最寄り駅へと一緒に向かうのだった。
▷▶︎▷
「ただいま~!果穂来たよ~!さ、上がって上がって!」
「お、お邪魔します......!」
元気に帰宅の挨拶を告げるユリの後に続き、落ち着いた色合いの玄関に入ると直ぐにユリのお母さんが迎えてくれた。
「ユリも果穂ちゃんもおかえり~。勉強もお疲れ様、ゆっくりしてってね」
「あ、ありがとうございます!これ、よかったら召し上がってください」
「あら、ご丁寧にどうも~」
小柄なユリのお母さんは私から菓子折りを受け取ると、にっこりと優しい笑顔を向けてくれる。その顔は、ユリと本当にそっくりだ。
「ご飯もう少し掛かるから、2人とも先にお風呂入っちゃいな~」
「ハーイ。じゃあ果穂、私の部屋行こ~。寝巻き貸すから、お風呂一緒入ろ」
「え!わ、私後ででいいよっ」
「何恥ずかしがってんの~w家のお風呂広いから2人で入れるし、修学旅行の時とか一緒に入ったじゃんw」
「だ、だってあれは学校行事だったし、お風呂の時間決まってたし......!」
「郷に入っては郷に従えだよ~」
ためらう私を他所に、ユリはにこにこと楽しそうに笑いながら私を一先ず自室へ招くのだった。
「果穂、髪乾かしたげる。ここ座って~」
結局一緒にお風呂に入らせてもらい、ドライヤーを片手にユリが私を呼ぶ。
「やった、ありがとう。あ、これ持ってきたから、よかったらユリも使う?」
お言葉に甘えることにして、私の家から持ってきた愛用のトリートメントを取り出せば、ユリはぱっと顔を明るくした。
「いいの?嬉しい!果穂の、本当にいい匂いだから1回使ってみたかった~」
「えー?言ってくれればユリの分も買ってくるのに......」
ユリの言葉にそう返せば、「でも、今使ってるやつも気に入ってるから」と眉を下げて笑う。
そのまま慣れた手つきで私の持ってきたそれを手に取り、濡れた髪に優しく染み込ませる。
ふわりと鼻をついたいつものいい匂いに、どこかほっとして思わず小さくため息を吐いた。
「......ん~、本当にいい匂い~。なんだろう、紅茶っぽい?甘い感じだけど、すっきりしてるよね~」
「なんか、緑茶と紅茶の配合?みたいな感じだったような......。これ、通ってる美容院にしか無くて、いつもそこで買わせてもらってるんだよね」
「美容師さん御用達か~!だからこんなにサラサラになるのね~」
納得した!とでも言うような顔をするユリに笑いながら、温かなドライヤーの風を髪に受け、その心地良さにゆっくりと瞳を閉じた。
髪を梳くユリの手つきも、ひどく心地良い。なんだか眠くなってしまいそうだ。
『.......一瞬でいいから、吸っていい...?』
「っ、」
途端、頭の中に甘い低音が響いた気がして、たまらずバチッと瞼を開く。
瞬間的に走った動揺を、この察しのいい友達が見逃すはずもなく、ユリはまるで私の頭を撫でるようにドライヤーを掛けた。
「.......無理して話さなくてもいいからね~」
「!」
優しい手つきで髪を撫でられ、好きな匂いに包まれながら、一番大好きな友達は穏やかな声音で優しい言葉を紡ぐ。
「今日、果穂を家に呼んだのは、この土日、一人で居て欲しくなくてっていう理由でさ~」
「.............」
「.......一人で考えてると、どうしても、......寂しい方に、思考が行きがちだから」
「.............」
「.......なので、今日は普通にタダのお泊まり会でもいいからね。私が葉山と居たいだけだから......あ、何なら久々ゲーム実況とか見ちゃう?最近面白い人見つけたの~!」
明るく励ましてくれるユリの優しさに、冷えた心がじわじわと熱を持つ。
本当に良い友達を持ったなと彼女の存在にありがたみを感じつつ、ゆっくりと深く息を吸った。
「.......本当、ありがと......なんか、......考えれば、考える程、よくわかんなくなっちゃって......」
「.......うん」
「.......松川君、優しいから......最初に電車で、頭支えてもらって......私、もしかして“特別”なんじゃないかってつい思っちゃって」
「.......うん」
「.......辞書買いに行ったりとか、バレー見に行ったりとか、......一緒に、ラーメン食べたり、カラオケ行ったり......私は、松川君と居られて、すごく嬉しかったけど......でも、考えてみればそれって、全部“普通の友達”との距離感でもあって」
「.......うん」
「.......元々、花巻君の友達って位置の私を、松川君は“普通の友達”として気に入ってくれてて、それで、私が花巻君の友達だから、よく絡んでくれてたのかなって......」
「.............」
「.......なんで、今まで気付かなかったかなぁ......」
言葉として口に出すことで余計にそれを実感してしまい、たまらず体育座りの状態で顔をうずめる。
どうして、“もしかして”みたいな不確かな可能性を見出してしまっていたんだろう。
「.............」
.......しかも、あんな、恩着せがましい告白をしなくても。
恋愛初心者な私なりに、ちゃんと存在していたであろう拙い恋心は、結局あんなちっぽけで空っぽな言葉にしか成らなかった。
あの流れで私に告白されたら、100%松川君は気まずいだろうし、実際あの時「しまった」という顔をしていた。
咄嗟に私の感情から飛び出したソレは、確実に松川君を困らせてしまっていた。
松川君が困ってるとわかったのに、私は何のフォローもしないでその場から逃げたのだ。
最悪だ。本当に最悪だ。自分の想いが実らなかった以上に、あの時取った自分の行動がひどく情けなくて、思い返す度に激しい自己嫌悪に苛まれる。
「.......でも、果穂、すっっっごく頑張ってた」
「.............」
「.......私は、頑張った果穂を心から尊敬してるよ」
「.............」
ユリの穏やかな声とドライヤーの温かな風に、心の奥の何かがプツリと切れた気がした。
途端、無意識に瞳からぽたぽたと涙が零れ落ちる。
「.............っ、」
.......あぁ、私の気持ちは、松川君に届かなかったんだな。
改めてしっかりと認識できた事実が思った以上に寂しくて、悲しくて、私の力ではもうどうしようもできないことだとわかっているのに、やるせない気持ちでいっぱいになった。
どんなに頑張っても、どんなに好きだと想っても、その相手には届かない。
努力すれば報われるなんて、所詮夢物語だ。恋愛しかり、勉強しかり、スポーツしかり、結果が如実に表れるもの程報われない努力の割合が増えていく。
.......だからこそ、きっと大事にするんだろう。
努力が報われた時、願いが叶った時、想いが届いた時。
それがひどく希少なもので、それでいてとてつもなく貴重なものであると知っているから。
そしてそれは、報われなかった経験が無ければ決して知ることのできない気持ちだから。
頑張って、へこたれて、また頑張って。
それをひたすら繰り返しながら、いつか来るかもしれない、もしかしたらずっと来ないかもしれない、そんな奇跡のような瞬間を、確固たる努力の結晶であると噛み締めるのだ。
.......今回の私は、残念な結果に終わってしまったけど。
でも、松川君を好きだと言う気持ちは、きっと、絶対、意味の無いものではなかったはずだ。
独り善がりだったかもしれないけど、でも、会えたら楽しくて、話せばドキドキして、一緒に居ると不思議なほど心の奥がふわふわと軽くなった。
「.......よく頑張ったね~」
「.......うん......っ」
良い結果は残せなかったけど、私なりに精一杯頑張って、その頑張りを認めてくれる人がそばに居る。
充分だ。もう、充分だ。悲しい気持ちと寂しい気持ち、やりきれない想いはどうやったって消えないけど、でも、心はもう充分満たされた。
「ユリ~、果穂ちゃ~ん。ご飯できたよ~」
「!」
ユリにドライヤーを掛けてもらいながらぐずくず泣いていると、ユリのお母さんの優しい声が部屋の外から聞こえた。
「ハーイ!......よし、ご飯食べよ!美味しいもの食べて元気出そ!」
「.......わ、私、1回顔洗ってくる......!」
「大丈夫大丈夫!うちのお母さん、そんな野暮じゃないから!」
泣いたことで酷い顔になっているんじゃないかと心配になるも、ユリは明るく笑いながら私の腕を引っ張って立たせた。
どう返していいのかわからず眉を下げて返答を考えあぐねていると、ユリはそんな私を笑ってスルーして部屋のドアを開ける。
そのままダイニングルームの方へ行くとお夕飯のいい匂いがふわりと鼻を掠め、その匂いにつられてかお腹が少し鳴ってしまった。
沢山勉強して、お風呂に入って、ユリに話を聞いてもらいながら情けなく泣いた後に頂いたしょうが焼きは美味しくて、本当に美味しくて、また少し泣きそうになるのを懸命に堪えるのだった。
失恋女子への処方箋
(恋路は長し、休めよ乙女。)