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デフォルト:葉山 果穂【はやま かほ】青葉城西高校三年三組。予備校通いの電車通学。
真面目で努力家ゆえに慎重過ぎるところがある。
最近の悩み:「同じクラスの花巻君との“デコボコフレンズ”というあだ名を何とかしたい。」
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「それで?まっつんはその後どうした訳?」
「.......何でお前キレてんの」
「俺のことはいいから!」
「及川、水危ねぇw退けるぞ~」
露骨に不機嫌な様子を見せる及川が思い切りテーブルを叩いた矢先、近くにある水の入ったコップが危うく倒れそうになるのを隣に座る花巻がおさえ、ニヤニヤと笑いながらそれを及川から遠のかせる。
金曜日の部活後、花巻と及川にほぼ強制的に馴染みのラーメン屋に連れ込まれた俺は、ただ夕飯を食べに着いてきた岩泉も一緒にいつもの三年レギュラー勢で4人がけの席に座っていた。
全員のメニューを注文してから直ぐに及川が本題を持ち出し、時折茶化す花巻や興味なさげな岩泉を他所に至極ご立腹な様子で俺に詰め寄ってきた。
及川の言う本題......三組の葉山さんに告白されたのは今日の放課後直ぐのことだというのに、どういう訳か彼女と同じクラスの花巻ではなく六組の及川がその情報を知っていて、いつもならやっかみがてらからかってくることが多いのに、今回は至って真面目に腹を立てているようだ。
「告白されて、どうした訳?」
「.......別に、何もしてないよ。まさかあのタイミングで言われるとは思ってなかったから、こっちもびっくりしちゃって。驚いてる間に葉山さん帰っちゃったし」
「そこは追いかけなよ!あイタッ!?」
「ギャンギャンうるせぇ。店に迷惑だろ、静かに話せ」
ついにはテーブルを叩いて立ち上がろうとした及川の脛を、岩泉がノールックで蹴り飛ばした。
やり方は些か乱暴だが、岩泉が言うことは最もなので俺も花巻も、そして及川本人も文句を口にすることはなかった。
強制的に着席する及川に若干の哀れみの目を向けつつ、小さく息を吐く。
「.......葉山さん、何か言ってた?」
ひとまず及川のことは置いといて、彼女と同じクラスの花巻にちらりと視線を寄越すと、花巻はスマホを弄りながらゆるりと俺と視線を重ねた。
「そおねぇ......俺には特に何も」
「.......じゃあ、咲田さんには?」
「......ウン、それはまぁ、ご想像にお任せします?」
「.............」
葉山さんと仲の良い女子の名前を出せば、花巻は眉を下げながらへらりと笑う。
...これは、少し厄介だ。下手を踏めば今後、葉山さんと話しをするどころじゃなくなってしまう恐れがある。
「......というかさァ......まっつん、何でスギヤンのこと勧めたの?葉山ちゃんがまっつんのこと好きなの知ってるくせに、あからさまに別の男のこと勧められたら“あぁ、脈無いんだな”って思うに決まってんじゃん」
「......ちょっと待って。及川......違うか、花巻?お前どこまで知ってんの?」
「いやいや、今回は俺、マジで知らねぇから。完全に蚊帳の外」
「......俺、ユリちゃんと結構仲良いんだよね」
「......えぇー......ウソでしょ......」
スマホを持ちながらゆるく片手を振る花巻と、まさかの情報源を開示した及川の言葉に思わず脱力する。
どうやら先程からずっと及川が怒っていたのは、渦中の彼女の友達と密に連絡を取り合っていたからのようだ。
男には何かとおちょくられることが多い及川だが、一旦女子が絡めばそれはもう別人かと疑う程、頼りになる逞しい男になってしまうのを今までの付き合いでよく知っていた。
......そんなイケメン及川の矛先が、まさか自分に向く日が来るなんて全く思ってなかったけど。
「もしかして、まだ新しいものがどうのこうのとか考えてないよね?その理屈が通るなら、お互いフレッシュミントな初恋じゃなきゃ付き合えないって言ってるようなもんだからね?」
「......なぁ、この話、男同士でラーメン食いながらするもんじゃなくない?せめて後にしない?」
「今!します!そんなこと言ってまっつん、どうせのらりくらり逃げるつもりでしょ!」
及川の鋭い指摘に内心で舌打ちしていれば、先程注文したラーメンが運ばれてくる。
誰だって美味い食事は楽しくしたいだろうと思うものの、追求モード全開の及川を止める術は、残念ながら持ち合わせていなかった。
花巻も岩泉も特に何も言わずに食事を始めてるところを見ると、この話題を変えるつもりは更々無いらしい。
孤立無援という言葉を肌で感じながら、俺も諦めて運ばれてきたラーメンに箸をつけた。
「.......松川、葉山のこと振ったのか?」
「.......え?」
暫くズルズルと麺をすする音だけが響く空間に、突如として爆弾発言を投下したのはまさかの岩泉だ。
思わぬ刺客にたまらず間抜けな反応を返してしまえば、岩泉は食事の手を止めないままおもむろに言葉を続ける。
「前に体育館で葉山のこと抱き締めてたり、部活でもアイツのこと話してっから、てっきりお前も好きなのかと思ってた」
「.............」
いつもの調子で淡々と話す岩泉に驚きを隠せず、ただ黙ってしまう。
あの岩泉が色恋の話に付き合ってくれていることに驚愕しているのはどうやら俺だけではないようで、向かいの席に座る花巻や及川でさえ、ぽかんとした顔で岩泉を見ていた。
「.......いや......返事はまだ、してないけど......」
「でもお前、葉山に他の奴勧めたんだろ?それが返事だって思われてもしゃァないべや」
「.............」
思わずぼんやりしてしまい、はたと我に返って確認するようにそう返すと、岩泉からはピシャリと厳しい意見を返されてしまった。
反論したい気持ちはあるものの、あの時の葉山さんの表情や態度から考えれば...おそらく、俺からは「振られた」という認識をしているのだろう。
実際に「ごめん」と断った訳では無いが、話の流れや日本人特有の行間を読むといった行為から、彼女が「断られた」と思うには十分な状況ではあったからだ。
俺としては別にそんなつもりは無かったのだけど、相手がそう思ってしまっている今、どうしたものかと少し頭を悩ませていて、それを今、岩泉に叩き付けられてしまった。
「というかさァ、正直なところ、まっつんは葉山ちゃんのこと好きなの?それとも彼女としては見れない感じ?」
「.............」
岩泉に続いて、今度は及川からド直球なことを訊かれる。
この幼馴染みコンビは一見てんでバラバラな者同士に見えるが、その実二人の心根は驚く程似通っていて、時折コイツら本当は兄弟なんじゃないかと思う瞬間もあった。
そんな二人から真っ直ぐに視線を寄越され、たまらず箸を揃えてどんぶりの上に置く。
葉山さんのことは可愛いと思うし、良い子だとも思うし、話してて面白いし一緒に居ると楽しい。
抱き締めた時にふわりと香るいい匂いも本当にツボだし、指通しの良いサラサラとした髪の毛も密かにグッとくる。
勉強とかその他諸々、一生懸命に頑張ってる姿もいいなと思う。
.......だけど、彼女のことを好きかもしれないと思えば思う程、頭の中でブレーキが掛かるのも事実だった。
今まで付き合ってきたヒトとは明らかにタイプの違う女の子だということもあるが、多分それだけではないと思う。
「.......友達だったら、大したことないことも...彼女になったら傷付けちゃうことってあるじゃん?」
「.............」
「.......葉山さんて本当、凄く良い子だから......なるべく仲良くやっていきたいんだと思う......」
「じゃあ、まっつんは葉山ちゃんが他のヤツと付き合ってもいいんだ?」
「.............」
我ながらもだもだしてる気持ちをゆっくり吐露すると、及川のエッジの効いた言葉がグサリと胸に刺さる。
「例えば、......マッキーと葉山ちゃんがデートしたり手ぇ繋いだり、ハグしたりキスしたり、その先のことしても大丈夫なんだ?」
「おいバカやめろ!なんで俺にした?月曜顔合わせ辛くなんだろ!」
「俺だと生々しいし、岩ちゃんだと怒られるじゃん」
「俺も怒るわ!!」
途端に向かいの席に座る及川と花巻が言い合い始め、空気が少しゆるんだ所で少し息を吐くと、隣りに座る岩泉から「......で、どうなんだよ?」と小さく訊かれた。
こういう時だけ幼馴染みでタッグ組まないでほしい。
「.......そりゃ、気にはするデショ......」
「でしょ!?ていうか、スギヤンのことであんな意地悪言うんだから、まっつん絶対気にするに決まってんじゃん!どうせアレでしょ?自分のこと好きなクセにスギヤンと仲良く喋ってたのが面白くなかったんでしょ?」
「......えー......何この羞恥プレイ......ヤメテ居た堪れない......」
岩泉から及川のダブルプレーに思わず片手で目元を覆い、目を閉じて俯く。
だけど、確かに及川の言葉は悔しいことに的を射ていて、己の器の小ささを浮き彫りにされたようで内心苦い思いでいっぱいになった。
だってまさか、同じクラスの近しい友人が葉山さんのこと気になっていたなんてちょっと予想してなかったし、それが原因で彼女が俺を少し避けるようになったのも全くの想定外だった。
俺の所へ足繁く通って来てくれていたのに、杉崎の件があってからはそれがぱたりと途絶えてしまい、暫く彼女の姿すら見ない日々が続いていた最中、自分の教室前の廊下で仲の良さそうに渦中の杉崎と葉山さんが話していたのだ。
見た目的にも内面的にもきっとお似合いな二人の姿に、もやもやとしたモノと軽い諦観を胸に抱いた俺は、つい声を掛けてしまい、そして例の一言を彼女に告げてしまった。
今にして思えば少し大人げなかったかなとも思う。だけど、俺よりも杉崎の方が葉山さんを傷つけずに済むのかなとか、そんな勝手なことも考えてしまう訳で。
「.......俺さァ、葉山からは松川に余計な事言うなって言われてるから、今から及川と岩泉にだけ話すな」
「.............」
ぐるぐると同じ場所を廻る思考回路の先で、花巻はおもむろにそんな前置きを口にした。
あからさまな言葉に思わず花巻へ視線をやると、その口元をニヤリと楽しそうに歪める。
「葉山のヤツ、最初は松川のこと好きになるの嫌がってたんだよ。英和辞書一緒に買いに行った時とか、自分の身の丈にあったヤツとしか付き合わないって言っててさ。あれは相当警戒してたんだろうなァ......松川一静の毒牙に」
「毒牙wホントそれw」
「.............」
花巻の話に及川が可笑しそうにふきだす。
もう少し他の例えは無かったのかと思うものの、話の腰を折るのも気が引けたので反抗的な目を花巻に向けるだけにした。
「......アイツもさ、うだうだ色々考えてたけど......結局のところ、傷付くのが怖かったんだろうな。元々恋愛に対して及び腰だったし」
「.............」
「でも、腹括ってちゃんと頑張って、行動してたろ?練習試合見に来たり、ラーメン行ったり、カラオケ行ったり、うっかり松川の元カノ見ちゃったり、色々あったけど葉山のヤツ、勇気出して頑張ってた訳じゃん。だから、そこはきちんと評価してやってほしいと俺は思う訳よ」
「.............」
花巻は俺を見ないまま、頬杖をついてゆっくりと俺に秘密の話を続ける。
「......あとさァ、これは俺の憶測だけど、松川って俺らのこと超大事にしてんじゃん?で、葉山って俺らと割りと仲良い友達じゃん?だから、そこ辺りもヘンに気にしてんじゃないかと思うんだけど、どう思う?」
「.......は?」
ここで唐突に先程までの話とは一変し、俺の事を俺の前で話し出した花巻に思わず間抜けな声をもらすと、及川と岩泉が声を揃えて「あぁ、確かに」とまさかの同意を示した。
「なるほどねぇ......だからやたらとまっつんも徐行運転な訳だ」
「......いや、いやいや、ちょっと待ってよ......」
「松川お前、そこまでアホだったか......?」
「......えー......理不尽......」
俺の意思に関係なく話が進み、堪らず不服の声をあげると「それが無意識ってのが厄介だよな......」と花巻がやれやれと言うように溜息を吐いた。
ウソでしょ、何この空気。納得いかないんだけど。
「いいかね、まっつん。俺もマッキーも岩ちゃんも、葉山ちゃんの友達だけどまっつんの友達でもあるんだから、どっちも同じくらい可愛いんだからね」
「いや、可愛いとは思ってねぇな」
「ちょっと岩ちゃん!!」
及川の言葉に岩泉が正論をかます。
180オーバーの男を可愛いというのは一般的に歳上のお姉さん方のみに限られるというか、間違っても同い歳の男同士で遣われる言葉じゃないだろう。
俺の気持ちを代弁してくれた岩泉に及川は一度大きく吠えると、そのテンションのまま俺へ飴色の瞳を向けた。
「とにかく!まっつんが葉山ちゃんを振っても付き合っても、俺らの絆は何も変わらないからねって話!」
「.............」
「うわぁ、アオハルかよ~☆」
「うっさい!っていうか、これマッキーが言い出したことだからね!?」
及川と花巻が再び言い合い出す様子をぼんやりと見ていると、隣りでラーメンを啜っていた岩泉がこちらを見ずに淡々と話を続けた。
「......要はまぁ、始めたモンはちゃんと落とし前付けてこいって話じゃねぇの?」
「.............」
「間違ってもうやむやにはすんなよ。このままだったら普通にぶん殴るぞ」
「あ、それなら俺も!葉山ちゃん振るつもりなら止めないけど、思わせぶりなコトはしてたと思うから、振ったら俺がぶん殴るね☆」
「あー、じゃあ付き合うことになったら、成功報酬として俺にシュークリームな」
「.............」
岩泉の発言を筆頭に、向かいで言い合っていたはずの及川と花巻までそんなことを言い出した。
次々と勝手なことを告げる三人にすっかり押し負けてしまうも、段々可笑しく思えてきて、ついふきだしてしまう。
「何それ......どう転んでも痛いじゃん......」
あまりにも理不尽な条件にクスクスと笑ってしまえば、三人からは「俺らにしたら安いもんだろ?」と平然と返され、更に可笑しさが込み上げてきた。
どうしようもないそれに暫く笑い続ける中、ふわりと彼女の匂いが唐突に思い出されて、これはもう認めるしかないなと密かに白旗を上げるのだった。
コートを制す
(無性に今、君に会いたくなった。)