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デフォルト:葉山 果穂【はやま かほ】青葉城西高校三年三組。予備校通いの電車通学。
真面目で努力家ゆえに慎重過ぎるところがある。
最近の悩み:「同じクラスの花巻君との“デコボコフレンズ”というあだ名を何とかしたい。」
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「そういやさ、最近一組で葉山が可愛いって言われてんの、知ってる?」
「え?」
授業と授業の中休み、次の時間の英語の準備をしていれば、突然前の席の花巻君から素っ頓狂な話を寄越された。いきなり何と思いながらつい眉を寄せて相手を見てしまうと、花巻君は「いや、本当の話な。別に盛ってねぇよ」と何だか妙に楽しそうにその話を続ける。
「最近さ、お前ちょこちょこ一組行ってんじゃん?ちっちゃくて可愛い♡って一部の男子が盛り上がってるみたいよ?」
「......それ、本当に褒められてるの......?」
「いやいや、身長だけの話じゃないって。髪形変えてきたりとか、松川探してきょろきょろしてる所とか普通にキュンとくるって」
「............」
次の授業の準備がてら英単語の暗記もやろうかと思ってたけど、花巻君の話で何だか一気に気が削がれてしまい、手元に開いた英単語帳をパタンと閉じた。
「......なんか、これから一組行くの、やだな......」
「なんでテンション下げんのw葉山サン、ついにモテ期来たんじゃないの~?」
「............ちなみにそれ、誰情報?」
「え、松川とよく居るメンズ」
「............」
「............ちなみに?松川一静君からもお聞きしてましてよ?葉山サン可愛いって」
「!!」
少しでも松川君に近付く為に、最近花巻君やユリとちょこちょこ一組に行ってることを大方面白おかしく話されてるんだろうけど......松川君本人がそう話していたと聞けば、あっという間にテンションは上がる。
「......ほ、本当に?本当に、ウソじゃない......?」
「マジマジ、本当にウソじゃない」
「 ............!!」
一応念を入れて聞き返すと、花巻君は楽しそうにニコニコ笑いながら肯定した。......頷いたということは、本当の話なんだ。松川君、私のこと可愛いって話してくれてるんだ。とは言え、きっと十中八九お世辞というか、多分そこまで本気で言ってはないんだろうけど......でも、好きな人から軽くでもそう言われるのは、ちょっと嬉しい。なんか、努力が少しずつ報われてる感じがする。
「......おーおー、食い付き全然違うじゃん」
「う、うるさいな......ほっといて......! 」
「マジで一途だねぇ......よかったですねぇ~ w」
「ああもう、うるさい!やめて!腹立つ!」
不特定な噂話なのかと思いきや、予想に反して嬉しい話に転じたのでつい顔が熱くなってしまえば、ここぞとばかりに花巻君がからかってきた。今度はニヤニヤと意地悪そうに笑う花巻君に恥ずかしい気持ちと普通にイラッときて、先程閉じた英単語帳で相手を叩くも、強豪バレー部のレギュラーである花巻君には残念ながら全く効いてないようだった。
▷▶︎▷
午前中の授業が終わり、今日はお弁当を持って来てないので購買にお昼を買いに行った。狙っていたたまごサンドとアンパンを無事に買えた満足感にほくほくとしつつ、ユリが待つ三年三組の教室へ戻っている途中......廊下の曲がり角でうっかり正面衝突してしまった。お互いそこまでスピードは出してなかった為、軽い感じでトンッとぶつかり......私の手元にあったアンパンがその衝撃でコロリと床へ落下した。あぁ、しまったと思った矢先、無情にもその上に大きな足が乗ってしまい、重圧に耐えきれなかったアンパンの包みが悲鳴のような破裂音を上げる。
「ぉわ゛ッ!?え、なん、......だ、え、パン!?うわ、すんません!」
「............」
あまりにも予想外のことに頭がついていかず、目を丸くしたまま呆然としてしまえば、アンパンを踏み潰した相手が慌てて謝ってきた。その声にハッと我に返り、こっちにも非があることを告げる。
「......すみません。こんな所で落としたこっちが悪いので、気にしないでください」
「いやいや!こっちが下見てなかったん、で......あれ?もしや葉山サン?」
「え?」
とりあえず落としてしまったアンパンを回収すれば、ものの見事にあんこが飛び出していた。パン目線にしたらなかなかグロッキーな光景だなと明後日なことを考えていると、名前を呼ばれてたまらずぎくりとする。聞き覚えのない声だったのでてっきり知らない人だと思ったら、どうやら何かしら関係がある男子だったらしい。おずおずと相手を確認すれば、そこにはうっすら見たことがあるような顔があった。
「あ、一組の杉崎です。松川の友達」
「......あぁ......!えと、前に松川君に松ヤニ?付けてた人......?」
えーと、まずい、誰だっけと内心で焦りながら思考回路をぐるぐる回していると、その男子は直ぐに名乗ってくれる。松川君の友達と聞き、記憶の引き出しからそれっぽいものを引っ張り出すと、松川君の友達改め杉崎君は「あ、そうそう!ソレ!......でも覚えられ方めっちゃ不本意!」と眉を下げて笑った。私も笑い返しながら、記憶が合ってたことに少しほっとしてしまう。これでもし違かったら、ちょっと気まずかった。向こうは私のことを覚えてくれてるのに、こっちは全然覚えてないですと言ってるようなもんだ。
「てか、本当にごめん!これ昼飯だよな?新しいの買ってくるからちょっと待ってて!」
「え、いいですいいです!事故だし、パンならもう1個あるし......というか、別にこれ袋の外には出てないから、」
「いやいやそれは俺が貰うから!すぐ戻るからちょっと待ってて!」
「いやいや本当に大丈夫!行かなくていいです!本当に!」
軽い自己紹介が終わると、気のいい相手は私の手元にある潰れたアンパンを見て買い直してくると申し出てくれる。流石にそれは気が引けて大丈夫だと伝えるものの、杉崎君は罪悪感からなのか一歩も引かずに購買へ足を向けようとするので慌てて「ちょっと待って!杉崎君!」と彼のワイシャツの裾を掴んだ。これでようやく止まってくれて、だけどそれでも弁償すると言って聞かないので......お互いの折衷案として、杉崎君の買ったパンと潰れたこのアンパンを交換することになった。
杉崎君と一緒に一組に着くと、彼は一旦自分の席に戻り、直ぐにこちらへ戻って来る。その間ちょっとだけ教室を見回して松川君のことを軽く探したけど、残念ながら今の時間は別の場所に居るようだった。そういえば、教室に花巻君も居なかったから、今日は男バレメンツでお昼ご飯を食べてるのかもしれない。
「......本当にごめんなぁ......アンパンがメロンパンに変わっちゃって......」
「いえいえ、本当に気にしないで。むしろ貰っちゃってごめんなさい......でも、本当にいいの?杉崎君、メロンパン食べたかったんじゃないの?」
「大丈夫大丈夫!アンパンめっちゃ好きだし!......まぁ、おもっきり踏んじゃったけど」
「んふふッw......めっちゃいい音したよねぇ~、面白かったw」
「いやぁ、マジで何かと思ったよ......俺、これからアンパ●マン見る時どんな顔すればいいんかな......」
「あははッw気にするのそこなんだ?w大丈夫だよ、アンパ●マン優しいから許してくれるよw」
潰れたアンパンとトレードするにはめちゃめちゃ忍びないのだけど、頑なに折れない杉崎君を論破できる程の話術も無く、結局綺麗なメロンパンを貰うことになった。申し訳ないなぁと眉を下げていれば、某国民的ヒーローアニメの話になり、随分と素っ頓狂なことを気にするからついふきだしてしまう。松川君といい杉崎君といい、一組の男子ってどうしてこんなにみんな話上手なんだろう?ほぼ初対面だというのに、スルッと自然に話せてしまうのが不思議だ。
「......はー、笑った......じゃあ、そろそろ戻ります。メロンパン本当にありがとう、アンパン●ンの供養も兼ねて美味しく頂きます」
「いやいや別にアンパン●ンは死んでないだろwその仲間は潰しちゃったけど、アンパン●ン死んだら日本中の子供敵に回すことになんじゃん?そこまでの罪は背負えんて」
「あ、確かに......ごめんごめん、潰したのは彼のご親族でしたね」
「葉山サン??可愛い顔でえげつないこと言うのやめて??」
アンパ●マンのくだりが面白くてついこちらも冗談を口にしてしまうと、勘弁してくれと言わんばかりにそんな言葉を寄越されたのでまた笑ってしまった。......なんだ、よかった。花巻君から一組の男子が私のことを云々って話をされたけど、どうやらこんな感じで軽口混じりに言われてるだけらしい。松川君もそんな感じなのかなと思うとほんの少しだけ気落ちするところもあるけど、正直に言えば安心感の方がずっと大きかった。......松川君のことを好きになってから、恋愛というものがいかに大変なものなのかを身に染みて実感したおかげで、そういう類の話には少しだけ敏感になっていた。
「......でも、葉山サンてめちゃめちゃ話しやすいな。さすが花巻や松川と連んでるだけあるわ~」
「いやいや、杉崎君が話上手なだけで......というか、松川君とはこんな変な話してないし......」
「変な話w......でも、松川も変な話いっぱいするけどな?あんな見た目のくせにさァ、すげぇ面白いこと言うのマジこいつ何?って思うw」
「あー、わかる......!普通にしてたらめちゃめちゃ格好良いのに、ふとした時にすっごい面白いこと言うからズルいよね......そんなの、こっちは笑うしかなくない?」
「だよなーw......あ、でもこの間松川のヤツ岩泉に蹴られてさ。なんか、借りたもんに落書きして怒られたらしい」
「ウソでしょwあの見た目でそんなことやる?」
「マジマジw見事なタイキック食らってたw」
話の流れで松川君が出てきて、あんなに大人っぽい見た目なのに小学生みたいなことをして岩泉君に怒られる姿を想像して、ついまたふきだしてしまった。松川君のことを見た目しか知らなかったら絶対信じない話だけど、彼の性格を知っていれば何となく想像出来てしまう。松川君、意外とお茶目なところがあるし、男バレメンツに対しては殊更にソレが表に出るだろうから、きっと本当の話なんだろう。頭に浮かぶその光景がどうにも可笑しくて暫くくすくす笑っていれば、一緒に笑ってた杉崎君がおもむろに息を吐いた。
「......つーか、葉山サンさぁ......」
「ん?」
「......連絡先、交換しない?」
「え?」
ここで突然、話がコロリと違うものに転換して思わずきょとんと目を丸くする。杉崎君を見ると、彼は潰れたアンパンを少し強めに握った。......あぁ、余計潰れちゃうよと咄嗟に思ったけど、慌てて思考を修正する。
「......あ......ごめん、スマホ、教室で......今、持ってない、です......」
「............」
そのアンパンと交換して頂いた綺麗なメロンパンを持ち直しながら、事実を正直に返す。今は財布しか持ってなくて、スマホは三組の自分の机の上に置いてきてしまった。......別に、杉崎君に連絡先を教えるのが嫌な訳ではないのだけど......松川君の時のように舞い上がることもなく、正直な気持ちは「あ、どうしよう......」というものだった。
「......そっか!じゃあ、また今度トライするわ!」
「............あ、」
「じゃ、葉山サン、また一組来てな~」
一瞬にして戸惑う私を察してくれたのか、優しい杉崎君は相変わらず気をつかってくれる。それが申し訳なくて何か言わなきゃと思ったものの、じゃあなと笑顔で別れを切り出されれば、私もただ手を振り返して三組の教室に戻るしか無かった。
瓢箪から駒が出る?
(......あぁ、もう、花巻君が変な話するから......!)