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デフォルト:葉山 果穂【はやま かほ】青葉城西高校三年三組。予備校通いの電車通学。
真面目で努力家ゆえに慎重過ぎるところがある。
最近の悩み:「同じクラスの花巻君との“デコボコフレンズ”というあだ名を何とかしたい。」
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宣戦布告、とまではいかないが、それにだいぶ近いようなことを松川君に告げてしまったので、その後の羞恥心と後悔の大波といったら本当に酷いものだった。
その日は一日中ポンコツに成り果てて、花巻君やユリにわりと真面目に心配されてしまい、改めて自分の器の小ささを実感した日となった。
あの日から何日か経ち、とにかく今の自分じゃ完璧な松川君には全く手が届かないということを痛感したので、ユリの助けを借りながら自分のレベルアップに日々勤しんでいた。
とは言っても、人間急に色々と変えることは出来ないので、そして高校生ゆえに金銭的な余裕もそこまでなく、あくまで意識改革のようなことをしているだけなのだが、これがなかなか難しい。
「あ、指先ささくれしてんじゃん。ハンドクリーム塗ってあげるから、ちゃんとケアしときな~?」
「ひぇ、ありがとうございます......」
お昼休み、お弁当を食べ終えてゆっくりお茶をしていると、ユリから目敏く指摘が入りおずおずと頭を下げる。
色々と大雑把な私と違い、常日頃から美意識の高い彼女はまさに女の子のお手本のような存在だ。
可愛い水色の化粧ポーチからハンドクリームを取り出し、ユリの細い指が私の両手を柔らかに包む。
その気持ちよさとハンドクリームの良い匂いに思わず息を吐くと、ユリは可笑しそうにふきだした。
「ふふ、本当果穂って可愛い」
「え、なに、いきなり」
「だって果穂、気持ちがそのまま顔に出るんだもん。今のふにゃってした笑顔、めっちゃキュンとした」
「え、えぇ〜?そんな顔してた......?なんか恥ずかしい......」
クスクスと笑うユリの言葉にたまらず眉を下げてしまえば、「きっと松川君もソワッとするよ」と素っ頓狂なことなことを言われ、「そういうの本当いいから......!」と赤い顔を両手で隠すと良い匂いに包まれて、余計情緒が不安定になる。
「そ、そういえばスキンケアってやっぱり変えた方がいいかな?良いヤツって結構高いんだよねぇ......」
良い匂いと共に思い出した話題を提供すると、ニヤニヤと笑っていたユリは途端に好きな話題に飛び付いた。
「別に肌荒れしてなければ変える必要無いんじゃない?確か果穂ってヘアケアの方、良いヤツ使ってたよね?」
「そう、そうなの。今使ってるの、本当に髪の毛サラサラになるし、匂いもすごく気に入ってるから変えたくなくて......でも、スキンケア変えるならちょっと厳しいかなって思ってたんだけど......」
「だったら、とりあえずそのままでいいんじゃないかな?私も果穂の匂いすごく好き~♡ヨシ、残りの時間で髪の毛セットしてあげる!」
「急にスイッチ入ったね?じゃあ、お願いしま~す」
ユリのオシャレスイッチがいきなりONになることはざらにあるので、特に驚くこともなく楽しそうな彼女に身を委ねる。
先程のポーチからブラシやヘアピン、ヘアゴム、ワックスなどを取り出して私の背後へ立ちながら、鼻歌混じりに手馴れた動きで私の髪に指を通した。
「編み込みのハーフアップにするね!可愛く出来たら松川君に会いに行こう!」
「え!?それは無理!というか向こうは部活あるし!」
「一組は確か今日、最後が体育だから直ぐに行けば少し会えると思うよ~」
「なんでそんなこと知ってるの!?」
思わぬ展開に慌てふためく私とは対照的に、ユリは至って落ち着いた様子で「ハイ、頭動かさないで~」と優しい手つきで私の頭を固定する。
「ちょっとユリ、私も予備校あるから......!」
「少し会うだけなんだから大丈夫でしょ?それに、ちょこちょこアピールしておいても損はないと思うよ~?」
「.............っ、」
髪型変えるだけでも、色々違って見えるしね。
言葉巧みなユリの誘いに、意志の弱い私の気持ちはグラグラと揺らいでしまう。
「私も一緒に行ってあげるから、頑張ろ?」
しっかり可愛くしてあげるからね。
そんなユリの甘い誘惑に、私は為す術もなく項垂れるしかなかった。
▷▶︎▷
宣言通り、ユリはお昼休みの時間きっちりに髪をセットしてくれた。
手先の器用な彼女が整えた編み込みのハーフアップは本当に見事で、対象が自分であっても素直に可愛いと思えてしまう。
そのまま5時間目、6時間目を終えて、放課後の時間が始まった。
帰りのホームルームが終わった直後、「果穂行くよ~!」と元気よく声を掛けられ、クラスの何人かに何事かと顔を向けられてしまう。
「え、何?これからおデート?」
「や、そういうんじゃないけど......じゃあ花巻君、部活頑張ってね」
少しだけ席の離れたユリがこちらに歩いてくる間、前の席の花巻君がきょとんと目を丸くしつつ私に尋ねた。
まさかこれから松川君に会いに行くなんて口が裂けても言えないので、曖昧に笑いながら「また明日」と逃げるようにユリの方へ向かう。
「ちょっとユリ、花巻君にバレたらどうすんの!」
「え~?そしたら一緒に行けばいいじゃん。花巻君と松川君、仲良いんだし」
「絶対ヤダ!花巻君、絶対松川君に変なこと言うじゃん!」
「え〜?俺ってそんなに信用ない?ショックなんだけど」
「え゛ッ」
ユリに近付き、声を潜めながら二人で話していると、ふいに背中から不満そうな声が聞こえてたまらずぎくりと動きを止めた。
ウソでしょ......と顔を青くしながらおずおずと振り返ると、そこには予想通りの相手、花巻君の姿が直ぐ後ろに見えた。
その顔は不満そうにしつつも、楽しいオモチャを見つけた子供のようにキラキラと輝いている。
「一組行くんだろ?俺も着いてってい~?」
「いいよ~♪じゃあ、三組~ズで行きましょ」
「.......私、やっぱり帰る......」
イヤにテンションの高い花巻君とユリに軽く目眩を覚え、たまらず逃げようとするも二人にガシリと捕えられた。
「オイオイ、主役が帰ってどーすんだ?その可愛い頭、褒めてもらえって」
「そうそう♪ついでにハグとかちゅーとかしてもらうといいよ~」
「本っ当そういうのやめて......!居た堪れない......ッ!」
ある意味下心満載の行動をはっきりと言葉にされ、羞恥と嫌悪の感情がダブルパンチで襲ってくる。
しかしそれでもこの二人から逃れる術などなく、半ば連行される形で一組の教室へずるずると歩みを進めるのだった。
▷▶︎▷
「あれ?」
「お?」
一組の教室の前まで来ると、どうやら先客が居たらしい。
顔を確認すると、不運なことに男バレの主将と副主将......六組の及川君と五組の岩泉君が一組の教室の前に顔を揃えていた。
「三組~ズじゃん!え、どうしたの?もしかしてまっつんに用事?」
「おう、そんなとこ。もしやお前らも?」
「岩ちゃんはまっつんに用があって、俺は別件。あ、葉山ちゃんその髪可愛いね!凄く似合ってる!」
「あ、ありがと......ユリがやってくれて......」
こちらに顔を向け、真っ先に反応したのは及川君で、その綺麗な顔に人懐こい笑顔を浮かべながら私の髪型を褒めてくれる。
さすがのプレイボーイっぷりに眉を下げて笑いながらそう返すと、今度はユリのことを凄い凄いと嫌味なく褒めちぎった。
及川君からの素直な賞賛に、ユリも満足そうにニコニコと笑う。
「松川、まだ居ないの?ていうか岩泉の用事って何?」
「あー、大した用じゃねぇんだが......コレずっと借りっぱになってたの思い出して、返しに来た」
花巻君からの質問に、岩泉君は制服のポケットから修正テープを取り出した。
「え、こんなん部活ン時に返しゃいいじゃん。なんでわざわざ?」
「いや、俺もそう思ってたんだけど、部活ン時だとついコレの存在忘れちまって......気付いたら1ヶ月くらい持ってるから、流石にやべぇかなと」
「それ、絶対松川新しいの買ってるヤツな」
「むしろそれもう貰っちゃっていいんじゃないの?」
岩泉君の話に花巻君と私が思わずそう返してしまえば、根が真面目な彼は「いや、でも借りパクはダメだろ」と律儀に断ってくる。
それなら直ぐに返せばよかったのにと思ってしまうものの、結局私も花巻君も何も言わずにちらりと目を合わすだけに終わった。
「.......え、何?なんでここに集合してんの」
「!」
花巻君と岩泉君と話していると、特有の低くて甘い声がこの場に聞こえ、反射的にドキリと心臓が跳ねる。
顔を向けた先には、一組の男子グループの中に松川君の姿を見つけた。
「松川オツカレ~。今日なんだった?サッカー?」
「いや、ハンドボール。見てよコレ、松ヤニべっとり付けられたんだけど」
「うわ、ヒッデェことすんなァ。うちの松川クンいじめたのどちら様ァ?」
花巻君と松川君の会話に、一組の男子が「いやいや、わざとじゃないんだって!」と焦ったような声をあげた。
どうやら彼が松川君に松ヤニを付けてしまったようだ。
「熱烈なマーキングすんのは彼女だけにしとけ~?」
「なッ、うるっせ!女子居るのにそういう話すんな!」
「アラ、私じゃ役不足だって言うの?こんなコトしておいて、ヒドイ男......」
「だから!この、お前ら組むと本当ヤダ!!」
二人にからかわれた一組の男子は、逃げるように教室へ入っていった。
それに周りの男子がどっと笑い、私もユリもうっかり一緒になって笑ってしまった。
松川君て、クールそうに見えて意外とお茶目なところが多い。以前行ったカラオケの選曲とか、今日のオネエ発言とか、完璧なイケメンの松川君がやるから余計に笑ってしまう。
「.......で、お前さん達は何してんの?もしや俺待ち?」
男バレと私達が一頻り笑ってから、松川君は改めてこちらに視線を寄越した。
他の一組の男子達はすでに教室へ戻っていて、廊下に居るのは男バレの四人と私達だけだ。
「俺は別件だけど、岩ちゃんと三組~ズはまっつん待ちらしいよ」
「そっか。ごめん、お待たせ」
「っ、え......」
及川君の言葉に松川君は小さく頷き、あろうことかゆるりと私へその切れ長の目を向けた。
まさか真っ先に声を掛けられるとは思ってなかったので、思わずびっくりした声を零してしまう。
「......あっ、岩泉君、松川君に返すものがあるって......!」
「え?」
目を合わせたら途端にパニックしてしまい、咄嗟に先程話していた岩泉君の件を口にしてしまった。
私の発言に松川君はきょとんと目を丸くした後、岩泉君の方へ顔を向ける。
「......あー、ずっと借りてたもん返しに来た。遅くなって悪ィ」
「俺何かお前に貸してたっけ?」
若干気まずそうな岩泉君を見て、松川君は目を丸くしたまま首を傾げる。
しかし、岩泉君に寄越された修正テープを見た途端、可笑しそうにふきだした。
「あぁ、貸したの完全に忘れてた。いいよもう、岩泉にあげる」
「マジですまん。部活の後、なんか奢る」
「え、いいの?じゃあチャーシュー麺ヨロシク」
「ブタメンでガマンしろ」
「いや、ウソでしょ?w」
岩泉君と松川君のやり取りが可笑しくて、先程までパニックしていたというのについふきだしてしまった。
笑ったことで気持ちが切り替わったのか、心臓はドキドキしているものの変な緊張感はかなり薄まった気がする。
「先に悪ィな、葉山」
「えっ、あ、ううん、全然!」
先に用事を済ませた岩泉君は律儀にそんなことを言ってくれて、だけど別に岩泉君に気を使ったとかそんな理由ではなかった為に、何だか返って申し訳ない気持ちになってしまう。
岩泉君は本当に真面目な人だなぁとうっかり明後日な事を考えてしまえば、その岩泉君からとんでもない爆弾を落とされた。
「コイツら邪魔なら、全員退かしてくぞ」
「.......えッ!?」
さらりと投下された発言に、私だけではなくユリや花巻君、及川君と松川君まで一様に驚きの色を浮かべた。
ここに居る全員の視線を一斉に集めた岩泉君は、眉間に皺を寄せて「なんだよ?」と不愉快そうに呟く。
「.......ちょ、ちょっと岩ちゃん!?え、今のってもしかして、葉山ちゃんのこと気遣った発言!?え、ウソでしょ!?いつの間にそんな恋の空気を読めるヒトになったのフガッ!?」
「うるせぇうぜぇきめぇ」
岩泉君の発言に対して一番驚いたのは及川君だったようで、混乱する中とんでもない事を喋り出す彼の両頬を岩泉君が片手で鷲掴みにする。
付き合いが長いせいなのか、及川君の端正な顔を遠慮無く歪めて「お前が空気読めクソ川」と罵詈雑言を吐き捨てた。
「.......岩泉、ブタメンは要らないから外野回収してって?」
「!?」
及川君に対して全く容赦の無い岩泉君を呆然と見ていれば、隣りに居る松川君がふいにそんな言葉を告げた。
驚いて反射的に松川君へ顔を向ければ、ゆるりと視線を重ねられて静かに微笑まれる。
その仕草にたまらず心臓が飛び跳ねると、指示を受けた岩泉君は「お安い御用だ」と呟いて、掴んでる及川君のみならず私と一緒に来た花巻君とユリまで連れて、本当にこの場から去って行ってしまった。
「.............」
「.............」
唯一ここに残された私は、どうしてこんなことになったんだろうと必死に思考を回すものの、最適な検索結果は全く出てこない。
私も松川君も喋らず、奇妙な沈黙が居た堪れない雰囲気をさらに増幅させたところで、松川君はおもむろに私の後頭部をさらりと撫でた。
「.......そんな可愛くして来るなら、ちゃんと一人で来てよ」
「.............っ、」
ぽつりと上から零された言葉に、たまらず息を飲む。
否が応でも急上昇する体温に頭が沸騰しかけていると、松川君は涼し気な目元を緩ませながら「似合ってるよ」とひどく甘い声で囁くので、私はトドメを刺される以外為す術はなかった。
当たって砕けて何になる!
(砕けた先には、何がある)