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デフォルト:葉山 果穂【はやま かほ】青葉城西高校三年三組。予備校通いの電車通学。
真面目で努力家ゆえに慎重過ぎるところがある。
最近の悩み:「同じクラスの花巻君との“デコボコフレンズ”というあだ名を何とかしたい。」
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花巻君と約束した土曜日。
午前中は予備校で勉強して、少し遅めのお昼を食べてからユリと合流する。
待ち合わせのカラオケ店から近いファーストフード店に入り、飲み物だけ頼んでから参考書やノートをテーブルに広げた。
本当はこの時間ゆったりと過ごしたい気持ちもあるが、受験生という立場である以上スキマ時間に勉強しておいた方が後悔は少ないと思う。
これからのカラオケを思いっきり楽しむべく、今はぐっと我慢して勉強に取り組んだ。
「果穂、ごめん、ここわかんない......」
「ん、どこ?」
カウンター席に横並びで座り、ヘルプを寄越したユリのノートを確認する。
三つ編みをハーフアップにしたユリは顔の横にかかる髪をするりと耳にかけ、難航している問題を綺麗な指でさし示す。
「.......あ、コレね、(1)の数式使って(2)を解くんだと思う。α>1で、β>1で、コレを証明するんなら、左辺がまずこっちになるのね?で、そのまま分解してって......」
ユリのノートを見ながら、式の展開のズレを指摘すると、止まっていたユリのシャーペンが少しずつ動き出した。
そのまま少しだけアシストしてあげると、正しい解を導き出せたようで「解けたっ」と顔を明るくさせた。
「果穂の数学ナビ超ありがたい......いつも隣りにいて欲しい......」
「あともう何回か同じ感じの問題やれば大丈夫だよ。で、ついでに私も英語ナビしてほしいんだけど......」
「あら、どこ?」
「ここの長文読解、なかなか訳せなくて......助けて~」
ギブアンドテイク、持ちつ持たれつの精神で今度は私がヘルプを寄越すと、ユリはどれどれと私の参考書を覗き込んでくれる。
一人で黙々と勉強するのもいいけど、分からないところを誰かに聞ける環境があるとモチベーションも持続する気がする。
ユリの分かりやすい解説を聞きながら、私の止まっていたシャーペンも少しずつ動き始めるのだった。
▷▶︎▷
花巻君から部活が終わったと連絡が入り、ユリとの勉強会はお互いにキリのいいところまでやって幕を閉じる。
広げていた参考書やノートをカバンに片づけ、御手洗に寄ってから待ち合わせ場所のカラオケ店へ向かった。
何歌おうか?フリータイムでいいよね?そういえば花巻君が三組で何か歌いたいって言ってたよ。そんな他愛も無い話をユリと続けていると、思っていたよりもずっと早くに花巻君は現れた。
「オース、待たせて悪ぃな」
「あ、花巻君お疲れ様.......」
声のした方へゆるりと顔を向ければ、花巻君以外に三人の男子がそこに居て、その内の一人を見て思わず身体と思考回路が固まった。
「及川君岩泉君、松川君もお疲れ様~!男バレ仲良し三年生ズ勢揃いじゃ~ん」
「やっほーユリちゃん♪今日もオシャレだねー!花柄清楚系可愛い!」
「本当?ありがとう!」
開口一番ユリを褒めたのは青葉城西高校一のプレイボーイである六組の及川君だ。
黒のトップスに青ベースの花柄のスカートを合わせたユリの私服は、今日も本当に可愛い。キレイめの服も本当に似合う。
「お前、女子褒めさせたらピカイチだよな。語彙力がすげぇ」
「ダメだよ岩ちゃん!男子たるもの、女の子が頑張ってることに気付いたらすかさず褒めてあげなくちゃ!ね、まっつん!」
皮肉なんだか本気なんだかよくわからない五組の岩泉君の言葉に、及川君は誇らしげにそんな発言を返した後、同意を求めるようにその人......一組の松川君に視線を寄越した。
途端、私が呼ばれた訳でも無いのにどきりと大きく心臓が鳴る。
「あぁ、うん、ソウネ。でも、本当に可愛いと思ってる時以外は言わない方がいいよ。コイツみたいになっちゃうから」
「ちょっと!?俺はいつも本当に可愛いって思って言ってるから!!風評被害出るからやめてくんない!?」
「なんだ~、リップサービスか~」
「ユリちゃん!違うから!本当に可愛いよ!髪型も可愛いよ!」
わいわい盛り上がるユリと及川君達を見ながら、花巻君のジャージの袖を少し強めに引く。
「おわっ、え、なに?」
「なに?じゃないでしょ!?なんで松川君が居るの!?私誘わないでって言ったじゃん!」
驚いた顔を向ける花巻君に小声でそう言うと、花巻君は「あー」とかなんだか言いながらエナメルバッグを背負い直した。
「言っとくけど、俺は誘ってねぇよ?」
「絶対うそ!じゃあ何で今日居るの!?」
「本当だって。俺が誘ったの及川だけだもん」
「俺が岩ちゃんとまっつん誘ったの☆」
「!!」
あっけらかんと返してくる花巻君に疑いの目を向ければ、花巻君の後ろからひょっこり顔を出したのは先程まで向こうに居た及川君だ。
その綺麗な顔には眩しいくらいの笑顔が浮かんでいるが、今の私にはイラッとさせるだけだった。
「だって絶対そっちの方が楽しいじゃん?あとまっつんマジで歌上手いから葉山ちゃん絶対聞くべき!」
「.......そういう問題じゃない!!」
「あイタッ!!」
バチコン☆なんて音が聞こえてきそうな程軽快にウィンクし、楽しそうにこちらへ指をさす及川君に対して、どうしても我慢できずその広い背中を叩く。
松川君が歌が上手いのはわかる!松川君だから!完璧なイケメンだから!
でも、今日はそういうことじゃなくて私の好きな歌を好きなように歌いたかったのだ。
松川君の前じゃ、そんなこと絶対できないじゃないか!
というかもう来るなら来るって言ってくれれば、髪の毛とか服とかもっとちゃんとしてきたのに!!
「~~~~っっ!!」
「イタッ!ちょ、葉山ちゃん!無言でバシバシ叩くのやめて!?」
「イッテ!え、何で俺も叩かれてんの?約束は守っただろ?」
明らかに悪意のある二人のやり取りにムカついて、感情のまま及川君と花巻君を叩き続けるも、運動部特有の鍛え抜かれた身体を持つ二人は軽い悲鳴を上げるだけで反省の色を全然示さない。
それがまた面白くなくて胸やら腕やらをバシバシ叩いていると、後ろから伸びてきた大きな手に利き手をするりと攫われた。
「......十中八九、コイツらが悪いんだろうけど、あんまり叩かないであげて?手も痛くなっちゃうでしょ?」
「!?」
頭の上から降ってくる彼特有の低くて甘い声に、思わずびくりと身体が震え、二人を叩いていた腕も止まる。
まるで金縛りにあったみたいに身動きが取れずただ固まっていると、及川君と花巻君は面白そうな顔をして私の背後へ視線を滑らせた。
「助かったよ~、まっつん。俺が言っても全然止まってくれないからさ~」
「え?俺は葉山さんの手が心配だっただけで、別に及川のことは助けてないよ?何なら俺が代打でお前に顔パンしてもいいけど?」
「ちょ、っと待って!?顔はやめよう!?まっつん目が本気じゃん!!」
「俺はいつでも本気デス」
及川君と松川君のやり取りに花巻君が可笑しそうにふきだし、「ハイハイ、俺らが悪ぅござんしたw」と及川君の背中を一度強めに叩く。
まさに踏んだり蹴ったりな及川君が不満をもらすも、花巻君は何食わぬ顔で及川君を連れてユリと岩泉君の元へすたこらと行ってしまった。
二人の後ろ姿を見ながら、ふと気付く。
......あれ?もしかしてこれ、また嵌められた!?
松川君と二人、しかも片手をいまだ取られた状態でこの場に残されてしまった。
途端、みるみるうちに鼓動が速くなり、全身に緊張が走る。
「.......随分怒ってたみたいだけど、何言われたの?」
「っ、え......」
どうしようと固まる思考回路を前に、松川君がふわりと質問を投げてくる。
聞かれたからには何かを返さなきゃと思うものの、まさか本人を前にして「恥ずかしいから嫌だと言ったのに、松川君が今日来ていることに腹を立てていた」なんて口が裂けても言えない。
「.......あー......え、と......」
「.............」
「.......そ、の......っ」
どう言い訳しようかと必死に頭を回す間、松川君は掴んだままでいる私の指先をふにふにと柔く握り、まるでその感触を楽しむように長い指でいたずらに弄ってくる。
そんなことを男の人にされたことがなくて、反論も反抗も出来ずにただされるがままになっていれば、松川君は小さく笑いを零した。
「.......手、ちっちゃいね。可愛い」
「!?」
頭の上から落とされた爆弾は私の羞恥心を確実に撃ち落とし、反射的に松川君の綺麗な手からパッと自分の指を外した。
「.......ま、松川君と比べたら、大体の人が小さくなるんじゃないかな......!?」
「.............」
咄嗟に離してしまった手をもう片方の手でおさえ、視線を外して誤魔化すように少し早口でそんな言葉を告げれば、松川君は一瞬目を丸くしたものの、すぐに「確かに」と眉を下げて小さく笑う。
そんな顔もとても格好良くて、心臓が更に早鐘になりつつも「は、早くあっち行こ!」と半ば無理やりこの乙女的空間から脱出するのだった。
▷▶︎▷
学生六人、フリータイムでドリンクバー付き。
ユリ名義で部屋を借り、各々ドリンクを用意して席に着く。
「誰最初に歌うー!?誰も居ないなら及川さんが」
「三年三組咲田ユリ、トップバッター行きまーす!」
「どーぞー!」
「いいぞ咲田ー、どんどんいけー」
「ちょ、えぇー!?」
テンションの高い及川君の言葉に被せるように、ユリが意気揚々とトップバッター宣言をしてデンモクを操作する。
横入りされた及川君は不満そうな声を上げるが、岩泉君や花巻君はユリの行動に肯定的な言葉を送った。
カラオケが好きで、そして歌もとても上手いユリが選曲したのは流行りの女性歌手のもので、アニメの主題歌でもあるその曲はこの場にいる全員がわかるものだった。
「え、初っ端それいくの?すげぇな」
「これ、1回ちゃんと歌ってみたかったんだよ~」
花巻君とそんな短いやり取りをした後、ユリは軽く息を吸い込み綺麗な口元にマイクを当てた。
曲の冒頭部分を歌い出した途端、花巻君以外の男バレの三人が一瞬にして静かになる。
「.......は、はぁッ!?めちゃくちゃ上手いじゃん!!え、本人!?」
「すげぇな咲田......びっくりした......」
「トップバッター宣言するだけあるわ......」
及川君、岩泉君、松川君とそれぞれいい反応をしてくれて、私と花巻君はこっそり目を合わせて笑う。
うん、なんかちょっと楽しくなってきた。
「さぁさぁ、ユリの次は勿論男バレですよね?」
「では、及川君どーぞー!」
「待って!?この後とかすげー歌いづらいんですけど!?岩ちゃん行ってよ!」
「何歌うかまだ決まんねぇからお前いけ」
「何それずるい!!」
ユリの綺麗な歌声が響く中、二番手は誰にするかで男バレがわいわい盛り上がる。
その様子が可笑しくてくすくす笑いながらも、ユリの歌を一緒に歌っていると誰かが次の曲を予約する音が聞こえ、ちらりとそちらへ視線を寄せる。
結局二番手は誰になったんだろうとデンモクを持つ人物を確認すると、そこには涼しい顔をした松川君が長い足を組んで座っていた。
どうやら次に歌うのは松川君に決まったらしい。
思ったよりも早く松川君の歌が聞けることにたまらず心が浮き足立ってしまうと、私以外のメンツがいきなりどっと笑いだした。
「え?な、なに?」
「松川おま、ウソだろ!?w」
「ちょっと笑わせないで~!ちゃんと歌わせてよ~!w」
「なんでその曲選んだの!?落差がすごいっていうか、まっつんの声で想像できないんだけど!?w」
曲を入れる瞬間、テレビ画面を見ていなかった私だけが松川君の選曲が分からず、一人乗り遅れてしまう。
ケラケラと楽しそうに笑う花巻君に「松川君は何を入れたの?」と聞けば、「後でわかるからまぁ待っとけよw」と勿体ぶるように返されてしまった。
松川君の選曲がすごく気になるものの、ユリの歌をBGMにするのはとても勿体ないので、仕方なく今はユリの歌声を聞き入ることにして、松川君が歌う順番を待つ。
程なくしてユリの歌が終わり、歓声を送りながらもドキドキして松川君の歌を待っていると...画面には見た事のあるアニメが映り、直ぐに聞き覚えのあるメロディーが流れ始めた。
《勇気の鈴がりんりんりーん♪不思議な冒険るんるんるーん♪》
松川君の低くて甘い、とてつもなく格好良い声が可愛らしい歌を紡ぐ。
魅惑のバリトンボイスと言っても過言ではないくらいイイ声で、そしてとても上手い。
だからこそ余計に可笑しくて、部屋中に笑い声が響き渡る。
イケメンの松川君がまさかこんな可愛らしい歌を選曲するなんて思わなくて、予想外の展開にただひたすら笑うことしかできなかった。
一撃必殺!効果は抜群だ!
(松川!俺のメロンソーダ返せ!w)