mint
name change
デフォルト:葉山 果穂【はやま かほ】青葉城西高校三年三組。予備校通いの電車通学。
真面目で努力家ゆえに慎重過ぎるところがある。
最近の悩み:「同じクラスの花巻君との“デコボコフレンズ”というあだ名を何とかしたい。」
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
そのまま暫くバレーボールの試合を見て、その面白さにドキドキしたりワクワクしたり、時にハラハラしたりしながら存分に青葉城西の試合を堪能した。
2セット目も見事勝利を手にしたのは青城で、試合終了のホイッスルが鳴った時、たまらずユリと手を取り合って「凄い凄い!」とはしゃぐ。
バレーの詳しいルールはわかってないものの、花巻君達の迫力満載のプレーは見ていてとても楽しくて本当に面白かった。
初めてのスポーツ観戦だったが、その魅力にうっかりハマってしまいそうだと内心ドキドキしていると、試合後のミーティングしていた花巻君達がそれぞれバラバラに動き出した。
先程購入したアイスティーを飲みながらその様子を見ていると、ふいに花巻君がこちらへ顔を向ける。
私とユリがそちらを見たことを確認してから、花巻君は「こっちおいで」と言うように片手で招くような仕草をした。
「え、なんだろう?」
「休憩時間とか?とりあえず下行こ~」
花巻君の行為に首を傾げるものの、楽しそうなユリに腕を取られてしまい、慌ててリュックを肩にかけて階段へ向かうのだった。
階段を降り、コートに面したアリーナの様子を2人でそろりと窺うと、直ぐに花巻君はこちらに気が付いて走ってきてくれた。
「おーす、応援ありがとな~。試合、どーだった?」
「お疲れ様!もう、めちゃめちゃ楽しかった!青城すっごい強いじゃん!」
「花巻君超格好良かったよ~!いつもああいう真剣な顔してればいいのに~!」
花巻君の言葉に私もユリも興奮気味にはしゃいでしまえば、花巻君は楽しそうに明るく笑う。
普段の制服姿と違い、Tシャツとビブス、ハーフパンツ姿の花巻君はいつもよりずっと男っぽく見えて少し印象が違うように感じる。
「あと及川君!すごいね?なにあれ、ファン?」
「ああ、あの後輩女子~ズな。代わる代わるだけど、よく来てるよ」
「ひゃ〜、もはやアイドルじゃん...!」
「さすが及川君。でも、本当に格好良かったもんね~、ファンクラブとかもあるのかな?」
「花巻君は?そういうのないの?」
「普通にねぇよwなんなら葉山が立ち上げてくれてもいいんだぜ?」
「じゃあ、花巻隊とか?」
「花巻隊w」
「おま、ネーミングセンスゼロかよw」
私の提案に花巻君とユリが可笑しそうにふきだす。
「えー、いいじゃん花巻隊w」と笑う二人に追い打ちをかけていると、「おーい、そこの三組~ズ!」と三人纏めて呼ばれた。
そちらへ顔を向けると、どうやら私達を呼んだのは先程話題に上がった六組の及川君だったようだ。
「何笑ってたの?俺も混ぜて~」
「及川君お疲れ様~」
「お前、ファンミは終わったの?」
「うん✩本日の営業は終了しました~」
花巻君の言葉に、及川君は爽やかな笑顔を浮かべてそんな返答をする。
さすがイケメン、営業とか言っちゃうんだ......と若干戸惑っていると、隣に居るユリが「及川隊はハートが強くなるね......」としみじみ呟き、思わず花巻君とふきだしてしまう。
「え、及川隊ってなに?もしかして俺のファンの子、そんな風に呼ばれてんの?」
「うん、局地的にだけど」
「そうなの!?ネーミングセンスゼロだね!?」
「ブフッ!だよなーw」
「えー、うそー、ショックー」
花巻君のみならず、及川君にもそう言われてしまえばきっとそうなんだろう。
ネーミングセンスゼロと言う悪評が立ってしまったが、思いのほか笑いが取れたのでまぁいいとしよう。
私の発言に冗談だと気が付いた及川君は、ほっとしながら気の抜けた笑いを見せた。
「なんだ、局地的ってここだけなんじゃん。それじゃ、葉山ちゃんは誰隊なワケ?及川隊?」
「あー、及川君めちゃめちゃ格好良かったんだけど......タッチの差で花巻隊になっちゃった」
「悪いな及川」
「えー!?うそでしょ!?じゃあユリちゃんは!?」
「私も三組なんで花巻隊ですね~」
「えー!?マッキーずるい!なんなのその三組の結束~!」
ユリと二人で花巻隊宣言をすれば、及川君は大袈裟なほど悔しがる。
その様子にけらけらと笑っていると、及川君はふと喚くのを止めてゆるりと私へ視線を寄越した。
目が合った途端、その端正な顔にニヤリと意地悪そうな笑顔が浮かび、思わずぎくりと身体を固くする。
うわ、これ、嫌な予感しかない!
「あっれ〜?でもぉ、葉山ちゃんは松川隊なんじゃないの~?」
「!!」
にやにやと笑う及川君から言われたからかい文句に、否が応でも過剰反応してしまう自分が腹立たしくてならない。
以前の私ならもう少し心に余裕があったので怒ったり流したりすることができたものの、自分の気持ちを自覚したばかりの今の私には到底上手くいなすことなんて出来なくて、反射的に顔に熱が集まった。
「~~~っ、っ、」
「え」
馬鹿みたいに真っ赤になる顔が恥ずかしくて、黒のキャップを目深に被る。
図星を突かれたせいか、今何かを言うと焦りが焦りを呼び全てが裏目に出てしまいそうで、結局何も言えずにただ押し黙ることしか出来なかった。
突然会話を離脱した私に、及川君は当然驚いた声をもらす。
そのまま及川君は黙ってしまい、そして花巻君も何も言ってこないので、奇妙な沈黙が訪れてしまった。
「.......そういえばさ、私、花巻隊だけどちょっと気になった人が居まして。さっきの試合出てた人で~、背が高くて~、髪の毛立てた人なんだけど、よかったらクラスと名前教えてくれない?」
私が作ってしまった沈黙に早々に居た堪れなくなっていると、ユリの明るい声がそれを破った。
私と及川君、花巻君の視線を一人占めにしたユリは、綺麗に巻かれた髪をふるりと揺らしながらにっこりと可愛く笑う。
「.......え、それってもしや、金田一?」
「わかんないから聞いてんじゃんwもう、及川君ちょっと一緒に来て~」
「え、ちょ、待って待って!エスコートなら俺がちゃんとするから!」
「果穂~、私ちょっとベンチの方行ってくるね~」
「え、あ、うん......」
あれよあれよと話が進み、ユリはそれだけ言うと及川君を連れて青城のベンチへ行ってしまった。
おそらくこの変な空気を変えようと動いてくれたんだろうけど、でも、なんだか色々唐突過ぎて、物理的にも心理的にも置いてけぼりをくらってしまった。
だけど、ユリの行動に呆気に取られてしまったのはどうやら私だけではないようで、隣に居る花巻君も喋らず動かずの状態で固まっている。
「.............」
「.............」
「.......まさか、金田一とは......咲田、男見る目あるな......」
「.......その人、花巻君から見ても良い男なんだ......?」
「おう、金田一はなかなか良い男だと思う。一年だけどな」
「一年生ってことは二つ下か......うん、全然いけるでしょ」
ゆるゆると少しずついつものペースへ調子が戻り、内心で少しほっとしつつユリへの感謝の気持ちを抱いていると、花巻君は私の黒のキャップをいたずらに奪った。
「え!?ちょ、なに!返して、っ、」
花巻君の突然の行動にびっくりしたが、キャップがなくなった分広くなった視界の端に“その人”を捉えてしまい、心臓がきゅっと縮こまる。
ぎくりと再び固くなる身体にどうしようもない羞恥と不安を感じていれば、花巻君は私から奪ったキャップを自分の頭に乗せてニヤリと笑った。
「......ま、葉山もなかなか見る目あると思うけど?」
「!!」
小声で伝えられた言葉にさらに恥ずかしさが増し、「そんなことより帽子返して!」と花巻君の頭に腕を伸ばすも、憎い程の身長差がジャマをして掠りもしない。
ジャンプしても器用に避けられ、余計に腹が立ってくる。
「花巻君!屈んで!返して!」
「ハイハイ、頑張って~」
「もー!なんなの!?怒るよ!?」
「......花巻」
一向に返す素振りを見せない花巻君に痺れを切らしてつい声を荒立ててしまえば、静かで甘い“彼”特有の声が花巻君を呼んだ。
たまらずぴたりと動きを止め、おずおずと声のした方へ振り返る。
そこには予想通りの相手、一組の松川君がゆっくりとこちらへ歩いて来て、花巻君の隣へ着くと盗られていたキャップをするりと外してくれた。
「............なに?当て付け?」
「......いや?どっちかっつーと焚き付け?」
「.............」
その際に交わされた2人の会話はよくわからないものだったが、松川君は静かに一つため息を吐いてからおもむろに私の方へ顔を向けた。
「......はい。これ、葉山さんのでしょ?」
そう言って差し出してくれたキャップを、おずおずと受け取る。
「あ......うん、ありがとう......」
戻ってきたそれを両手で持ちながらお礼を述べると、松川君は切れ長の瞳を少しだけ甘く弛めた。
たまらず、心臓がドキリと跳ねる。
「......じゃあ、青鬼はもう帰っていいよ」
「......お前、普通そういうこと俺に言う?ていうか、お前が赤鬼とか完全に確信犯じゃねぇか」
「......俺と花巻はズッ友だよ?」
「サイコかお前wつーか見た目的に俺が赤だろw」
松川君の視線は直ぐに花巻君へ行ってしまい、ほっとしつつも少しだけ残念に思っていれば、松川君の冗談に花巻君が可笑しそうにふきだした。
前も思ったけど、松川君と花巻君は結構仲が良いらしい。
「マッキー!ちょっとこっち来れるー?」
するとここでベンチの方へ行ってしまった及川君から呼び出しがかかり、思わず花巻君へ視線を寄せる。
「.......じゃ、松川、あとはヨロシク。またな、葉山」
「え......」
花巻君は松川君にそんな適当なことを言い、私に軽く挨拶だけしてさっさとこの場から離れてしまった。
突然の展開に頭が着いていかず、ただぼんやりと花巻君の背中を目で追う。
......ちょ、ちょっと待って......これって、つまり、松川君と1対1で話すことになるんじゃないの......!?
「......なんか、久し振り。今日来てくれるのは聞いてたけど、予定とか大丈夫だった?」
「!」
もしかして嵌められた!?と思考が追い付いた矢先、松川君から心配するような声を掛けられ、慌ててそちらへ顔を向ける。
「あ、私は午前中に予備校あっただけだから......ユリは夜からバイトあるみたいだけど、男バレの試合、見てみたいねってなって」
「予備校かぁ......疲れてる中ごめんね。来てくれてありがとう」
「全然!むしろ松川君こそお疲れ様だよ!バレー、にわか知識しかないんだけど、本当に凄いスポーツなんだなって思った......!」
松川君とちゃんと話すのはあの本屋の一件以来で、どぎまぎしながらも片耳に髪をかけ、何とか会話を繋ぐ。
先程バレーをしていた松川君は一方的にこちらが見ているだけだったから何ともなかったものの、今の松川君は私を認識して、話してくれている。
前まではそんなこと考えずに、少しどきどきしてはいたけど普通に話せていたのに、今はなんだか無駄に意識してしまい、松川君の顔を見ることが出来ずにいた。
「レシーブ?凄いね!あんなに速い球を一瞬で上にあげるの、なんか感動した!あと、ブロック!ユリとも話してたんだけど、動体視力と反射神経どうなってるの?って、びっくりした。でも、どっちも凄く痛そう」
「うん、結構痛いよ。腕とか赤くなるし、青くもなるし」
「だよね?あれ、相当痛いよね?なんか、音がやばいもん......」
話の途中、「ほら、」と見せられたのは松川君の左腕の内側で、私のひょろひょろなものとは全然違う筋肉質の逞しい腕は所々が青黒くなっていた。
痛々しい内出血の跡に、思わず身が竦む。
「うわ......本当、痛そ......」
「......でも、最初の頃よりはずっとマシ。一年の時はマジでグロ画像だった」
「ひぃ......」
思った以上に過酷なバレー部事情に冗談抜きで恐怖を感じ、思わず顔を青くすると松川君はゆるりと口角を上げた。
「......今では血管も強くなり、筋肉も付き、R18Gではなくなりました」
「ふはっ、まさかのR指定w」
松川君の冗談にたまらずふきだす。
口元をキャップで隠し可笑しさに身を任せて楽しく笑っていると、松川君は私に見せていた左腕をおもむろに動かし......いつかの電車の時のように、私の後頭部をその大きな手でさらりと撫でた。
「っ!」
まさかそんなことをされるとは全く思ってなかったので、大袈裟なくらいびくりと身体が跳ねる。
反射的に松川君を見れば、松川君は苦笑に近い笑いを零した。
「.......ごめん、嫌だった?」
私の頭から付かず離れずの距離に手を置いたまま、松川君は小さく首を傾げる。
......そ、その言い方は、ちょっとズルくない...!?
「......え......ぁ、そ、そうじゃ、ない、けど......あの、びっくりした、ので......」
否が応でも赤くなる顔を黒のキャップで隠しつつ、どもりながらも必死に言葉を返す。
だけどこんな露骨に反応してしまえば、私が変に意識してることが松川君にはおそらくバレバレだろう。
自意識過剰とか、思い込みが激しいとか、松川君にドン引きされたらどうしよう。
そんなことを考えたらどんどん居た堪れなくなってきて、気付けば手に持った帽子ですっかり顔を覆っていた。
「.............」
「.............」
羞恥のあまり目を瞑り、帽子で顔を隠したまま何も言えずにただ黙っていると......再び頭の後ろに手をあてがわれ、そして、頭上から温かい何かが触れた感触がした。
「っ、え......?」
思わずぱちりと目を開くも、視界は全て黒のキャップに覆われて何も確認が取れない。
何が起こっているのかわからずただ身体を固くしている私に、おそらく松川君であろう甘い低音が静かに降ってきた。
「.......一瞬でいいから、吸っていい......?」
思考回路の生存戦略
(......ああ、やっぱりこの匂い、好きだな......)