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デフォルト:葉山 果穂【はやま かほ】青葉城西高校三年三組。予備校通いの電車通学。
真面目で努力家ゆえに慎重過ぎるところがある。
最近の悩み:「同じクラスの花巻君との“デコボコフレンズ”というあだ名を何とかしたい。」
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愛用の手帳に用事を2つ書いた日曜日がやってきて、1つ目の用事である予備校は何事も無く終了した。
私の通う予備校から学校までは自転車で30分程の距離なので、ユリとの待ち合わせには充分余裕がある。
その時間を使って途中にあるコンビニに寄り、ペットボトルのアイスティーだけ買ってリュックにしまった。
「.............」
自転車のスタンドを上げ、駐輪場からUターンしようとした矢先、コンビニのガラスにうっすら映る自分の姿を見て、思わず少しだけ足を止める。
オーバーサイズのパーカーにショートパンツ、足元には可愛さに惚れて思い切って買ったお気に入りのスニーカー。
今日は自転車を使うというのと、一応スポーツ観戦という本日2つ目の用事を踏まえ少しスポーティーなものを選んできたのだが、なんだかカジュアル過ぎた気がしないでもない。キャップも被ってきちゃったし。
やっぱり、ワンピースとかスカートスタイルの可愛い系の方が良かったかな......。
自分の服装に今更ながら後悔するも、今から自宅に戻って着替える時間なんて勿論無い為、結局そのまま自転車に乗って学校を目指した。
別に友達の部活の練習試合を見に行くだけで、そんなことを気にしてどうするという話でもあるのだけど......女子高生というものは、いついかなる時も見た目に気を遣ってしまう生き物である。
勿論個人差はあると思うけど、今回ばかりはあの人気の高い男子バレー部の練習試合を観に行くというイベントに対して、少しも意識しない女子が居るとは到底思えない。
......まぁ、ほぼ及川君の女子人気の高さにあやかってるだけとも聞いたけど。
しかしそれでも練習試合に誰かしら応援に来るというのは、数ある運動部の中でも人気のある方ではないだろうか。
『バレーやってる松川、めちゃめちゃ格好いいのになぁ?』
ふいに思い出した花巻君のニヤニヤとした笑顔に、思わず顔を顰めた。
花巻君と及川君が面白可笑しく話を転がしたせいで何となく松川君とは話しづらくなっていて、先日辞書を買った日から殆ど話してなかった。
元々クラスも違うし、一組と三組は合同授業もないのであまり顔を合わせることはない。
何回か校内で見掛けることはあったけど、話し掛けに行くほど親しくない気もして、結局そのままスルーしてしまっていた。
連絡先も交換したけどこっちからも向こうからも特に何もないし、そもそも連絡を取り合うような間柄でもない。
もはや、あの電車での出来事が最初にしてクライマックスだったのではとも思えてきた。
『まっつんは確かに良い男だけど、それを自分の気持ちから逃げる理由にしちゃダメだよ』
以前餅屋の及川君から言われた言葉まで思い出して、たまらず唇を噛む。
過ぎた正論は時として人を躊躇させることもあるということを、誰かあの餅屋に思い知らせてやってほしい!
▷▶︎▷
待ち合わせ時間10分前に到着すれば、その5分後にユリがやってくる。
オフショルのブラウスにタイトスカート、センスのいいパンプスを併せたユリのコーデは今日もすごく可愛い。
「お待たせ果穂~!予備校お疲れ様!ごめんね、待った?」
「全然。それよりユリの服本当に好き~♡今日も超可愛い~♡」
「本当?ありがと~♡男バレの応援とか初めてだし、ちょっと気合い入れてきちゃった」
バイトあるのに髪も巻いちゃったwと明るく笑うユリに同性ながらもきゅんとしてしまい、髪もめちゃめちゃ可愛いし似合ってると素直に伝えると、嬉しそうに笑った。
「でも私、果穂の服も好きだよ~。スポカジ可愛い~♡スニーカーいいよね、それ。私もちょっといいやつ買おうかなぁ」
「そう?ラフ過ぎたかと思ったけど、ユリがそう言うんならいいや。スニーカーいいでしょ?これは推せる!」
お気に入りのものを褒められ、思わずテンションが上がる。
今度バイト代入ったら買い物行こうか~というところで話が纏まり、私は自転車を押しながら、ユリはスマホを片手に休日の学校へ足を踏み入れた。
ひとまず駐輪場へ自転車を置き、二人で話しながら体育館へ向かう。
バレーボールのルール、あやふやなんだけど大丈夫かなとユリに話していると、体育館の入口付近で「きゃー!及川センパーイ!」という黄色い歓声が聞こえてきて、思わずユリと顔を見合わせた。
「......ひえぇ......男バレの試合ってこんな感じか......」
「及川君人気凄~い。これは楽しみですね~」
若干尻込みしてしまう私とは対照的に、ユリはどうやら俄然期待値が上がっているようだ。
さ、早く行こ!と楽しそうなユリに腕を取られ、半ば強引に体育館へ連れてかれてしまった。
バレーボール特有のボールを弾く乾いた音を聞きながら、体育館の二階、キャットウォークとも呼ばれる簡素な観戦スペースへ上がり、試合が一望できる場所へ腰を落ち着ける。
勉強道具が入ってるリュックを置き、身軽になった状態で落下防止の手摺へ腕を乗せると、審判のホイッスルが鳴り響いた。
試合は今どうなってるのかなと青葉城西のコートを見ると、丁度ウワサの及川君がサーブを打つ準備をしている。
「.......えッ」
黒のキャップのつばを上げてちゃんと見ようとした矢先、たまたまなのかそうじゃないのかはわからないが、うっかり及川君と目が合ってしまった。
思わずぎょっとする私だが、及川君はその端正な顔にニヤリと強気な笑みを浮かべ、ボールを持つ手でひっそりとこちらを指さす。
たまらずドキリと心臓が跳ねた後、隣りに居るユリが感心したようなため息をもらした。
「あらまぁ......早々に見つかっちゃいましたわね......及川君、抜け目なくてよ~?」
「.......あれはモテますわね......不覚にもドキッとしちゃいましてよ......」
及川君の観客キラースキルにそんな感想を述べながら、ユリと二人で及川君を見守る。
エンドラインから数歩離れ、助走と共にボールを上へ放った及川君は、勢いよくジャンプして力強いサーブを打ち込んだ。
「!!」
及川君が放ったボールはまるで弾丸のように敵陣を攻め抜き、相手チームが腕に当てたもののボールの凄まじい威力に耐えきれず、コートの外へ大きく弾かれた。
「.............」
バレーボールをよく知らない素人目からしても、今のサーブが凄いことは火を見るより明らかだ。
想像以上の及川君のプレーを見て、私もユリもぽかんと口を開けたまま黙り込んでしまった。
え、何今の。凄。及川君、めっちゃ凄いじゃん。めっちゃ格好良いじゃん。
頭ではそう思うのにびっくりしたままただぼう然としてしまう私を他所に、先に来ていた観客女子達は甘い歓声を上げて可愛くはしゃいだ。
「.......ハッ!果穂!私らも負けてらんないよ!」
「え、ヤダよ?確かに及川君めちゃめちゃ格好良かったけど、ああいうのはできないよ?種族が違うから」
「わかった。じゃあ松川君の時やろ!」
「もっとヤダよ!絶対ヤダよ!お願いだから変なこと言わないで!」
ユリの言葉に顔を青くさせながら彼女の肩を掴んで懇願する。
松川君とのあれこれをユリに話してしまったおかげで、友達想いの、そして恋愛好きな彼女は松川君と私を何とかしようと奮起していた。
やっぱり話すんじゃなかったと後悔しても、もう遅い。
「ほら、いいから試合見よ!応援しないと!まぁ、勝ってるみたいだけど」
「.............」
にこにこと可愛い笑顔を見せるユリに本当に頼むよと視線だけで訴えて、視線を再びコートの方へ移した。
私とユリが話している間にも当然試合は進行してて、今はどうやら両校ラリーが続いてるようだ。
相手チームの力強いスパイクを花巻君がレシーブで拾い、そのボールを及川君がフワリと上げる。
スパイクを打ったのは名前の知らない髪の毛を立てた背の高い男子で、強烈な打撃であったものの相手チームに拾われてしまった。
レシーブで上がったボールをネット近くにいた選手がフワリと上げ、飛び込んできたもう一人の背の高い選手が力強くスパイクを打ち込んだ、瞬間。
「!!」
青城側のネット近くで待ち構えていた松川君のブロックに阻まれ、ボールはそのまま相手チームのコートへ落ちる。
まるで透明の大きな壁でもあるかのような、その見事なブロックに思わず目を丸くしてしまうと、松川君は涼しい顔で岩泉君や花巻君達と軽いハイタッチを交わす。
「すごいね、今の。松川君、相手がアタック?する方向見極めて、腕動かしてた!」
「......動体視力と、反射神経......本当、どうなってるんだろう...」
絶対に自分では真似出来ない動きを目の当たりにして、驚異と感嘆の声が出る。
バレーボールの試合は初見であるものの、一つ一つのプレーが短い上にとても速く、どんどん進んでいく試合の流れにいつの間にか私もユリもすっかり夢中になっていた。
バレーボールをしている三年生の4人は普段教室で話す彼らとは全く違っていて、全力でボールを追い掛け、声を出し、至極真剣に、そして何よりとても楽しそうに試合をしていた。
「.............」
上から見ているだけでもしんどいくらい動き回っていて、みんな汗だくで呼吸もキツそうだ。
なのに、誰一人下を向かずにボールだけを目で追っている。
本気で、全力で、バレーボールに臨んでいる彼らの姿を見て、心がひどくざわついた。
現代の日常生活において、何かを本気で、全力を出し切ってやる経験なんて無い人の方が殆どだろう。
少なくとも、私の場合は今まで殆ど無かったし、これからあるかどうかもわからない。
だけど、今目の前にしている青城バレー部の選手達は、本気で、全力で、バレーボールに興じている。
「.............」
素直に凄いと思うし、羨ましいとも思う。
格好良い、尊敬する、憧れる、頑張ってほしい。色んな気持ちがない混ぜになりつつも、青城のバレーボールから目を離せずにただ黙ってボールを追う。
「ツーくるぞ!」
「させるか!」
岩泉君がレシーブしたボールが及川君へ来た時、相手チームが一斉にブロックを固めた。
及川君がスパイクのモーションを取ったからだ。
「.......まっつん!」
誰もが及川君のスパイクがどうなるのか注目した矢先、及川君は空中でスパイクモーションからトスへ切り替え、ボールを第三者へ器用に送った。
及川君のボールの先にはタイミングぴったりで助走してきた松川君が居て、しなやかに飛び上がり元からの長身に加えて更に高い打点でスパイクを打ち落とした。
ボールは大きな衝撃音を発しながら相手コートへ打ち込まれ、青城の勝利を告げるホイッスルが鳴り響く。
「.............」
あまりに鮮やかなセットプレーに、声援を送るのも忘れてただぼう然としてしまう。
目に焼き付くような、迫力のあるスパイクに視線を、意識を完全に奪われた。
ボールの勢いは凄まじかったものの、スパイクモーションはとてもしなやかで、まるでのびのびと泳いでいるような、その動きがとても綺麗で凄く驚いてしまった。
そして、及川君とハイタッチをする松川君が年相応の笑顔を見せていて、それにもとても驚いてしまい脳内が軽くパニックしている。
いつもの余裕のある笑顔とは少し違い、若干幼く見える松川君の笑顔を見て、松川君も私と同い歳なんだな初めて思ってしまった。
「.............!」
花巻君と及川君と話していた松川君をぼんやりと見ていれば、ふいに松川君がこちらへ顔を向けてきた。
その顔はもういつもの涼しげなものになっていたが、視線が重なった瞬間否応なしにドキリとしてしまう。
「.............っ、」
思わず逃げるように隣に居るユリへ引っ付いてしまえば、ユリも松川君の視線に気付いて「あ、お疲れ様~」と労りの言葉を掛けながらバレー部の方へ緩く手を振った。
ユリのこのコミュ力の高さには本当に頭が下がる。
「.......お、お疲れ様......」
私もおずおずと声を掛け、小さく片手を振ると松川君だけでなく、花巻君と及川君、岩泉君が「おー!」と返事を返してくれた。
「葉山ちゃんもユリちゃんも、私服超可愛いね~!イタぁッ!!」
「ミーティングやんぞボケ。後にしろ」
試合が終わった途端、いつもの調子に戻った及川君に岩泉君が綺麗な回し蹴りを繰り出す。
さっきまでとのギャップがあまりにも大きくて思わず笑ってしまうと、ユリがこつんと頭を当ててきた。
「......松川君、めちゃめちゃ格好良かったね。私もドキドキしちゃった」
「!」
「......いつでも協力するから、好きになったら言ってね」
周りに聞こえない音量で話すユリの言葉に、たまらずぎくりと身体を震わせる。
変なこと言わないでと返したいところだけど、私の心臓は未だにドキドキしていて、脳裏には先程の松川君のスパイクを打つ姿がばっちり焼き付いてしまっている。
物凄くベタで、そして物凄く安直な自分の心理に呆れてしまうものの、ここまできたらもう否定することはできないだろう。
「.............」
観念するように一つため息を吐いてから、ユリにくっついたまま目を閉じる。
瞼の裏には、先程の松川君のスパイクモーションが浮かび、そして、いつかの電車内で頭を撫でてくれた大きな手の感触が思い出された。
「.............松川君のこと、......好き、かも......」
黒のキャップを外し、それで顔を隠しながら小さな声で伝える。
口にした途端、ぶわりと体内温度が急上昇してもっと恥ずかしくなった。
まさに穴があったら入りたい衝動に駆られていると、私より少し背の高いユリから突然抱き締められる。
女子特有の柔らかさとセンスが光るいい匂いに包まれ、びっくりして思わず帽子を落としてしまう。
「え!なに、なに!?」
「果穂~~~♡やだもう超可愛い~~~!!一生推す~~~!!」
「やだ、ちょ、恥ずかしいから離して......っ!」
盛り上がってしまったユリから何とか抜け出そうとするが、向こうの方が何枚もうわ手のためなかなか脱出することが出来ない。
暫くどうにかしようと頑張ったものの、結局どうにもできずにそのままユリの気が済むまで彼女からのハグを受け入れるしかなく、次のゲームが始まるまでずっと離してもらえなかった。
恋に落ちる音がした。
(......松川、見過ぎ見過ぎw)