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デフォルト:葉山 果穂【はやま かほ】青葉城西高校三年三組。予備校通いの電車通学。
真面目で努力家ゆえに慎重過ぎるところがある。
最近の悩み:「同じクラスの花巻君との“デコボコフレンズ”というあだ名を何とかしたい。」
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「ごめんね松川君!お待たせしました!」
先日電車で助けて貰った男子生徒、松川君と劇的な再会を果たしてから早数日が経ち、月曜日である今日、私は松川君と放課後に英和辞書を買いに行く為昇降口で待ち合わせをしていた。
こんな日に限って担任の連絡事項やら何やらで帰りのホームルームが長引き、予定していた時間よりも遅れて昇降口に到着すると、やっぱり松川君の方が先に来ていて掲示板に寄り掛かりながらスマホを弄っている姿が見えた。
冒頭の謝罪を口にしながら走って彼の元へ向かうと、松川君は直ぐにこちらに視線を向けて「全然いいよ、お疲れ様」と小さく笑ってくれる。
「走らなくてもよかったのに。さっきホームルーム長引いてるって連絡くれたじゃん」
「いや、そうなんだけど......この前の御礼するつもりなのに、松川君待たせちゃ逆に迷惑じゃんって思って......」
「迷惑だなんてそんなそんな......それに、男を待たせるのは女の子の特権デショ」
「.............」
だからそんなに気にしなくていいよ?とさらりと格好良い台詞を言われ、思わず脳内がぐらりと揺れる。
そんないい声で、そんな格好良い容姿で、ヘタなことを言わないで欲しい。
「......いえ、今日は男女平等で行きましょう......」
むしろ男尊女卑でもいいかもしれないと馬鹿なことを考えながら赤くなった顔を必死に冷ましながらそう返すと、松川君は一瞬間を置いてから可笑しそうにふきだした。
「......なるほど、花巻が気に入る訳だ......」
「え?」
口元に片手を当て笑いながらぼそりと言われた言葉が聞き取れず聞き返すも、松川君は「いや、何でもない」とこれまた格好良く笑ってきたので余計な詮索はしない事にした。これ以上心臓に負担を掛けたくない。
「......じゃあ、出発しますか」
「そ、そうしましょうか......」
ゆるりと動き出した松川君の言葉につられて思わず敬語で返してしまうと、松川君はまた可笑しそうに小さく笑った。
▷▶︎▷
「うちは月曜が定休日なんだよ」
「へぇ、そうなんだ......でも、週一の貴重な休みを使っちゃってよかったの?本当、私に頼んでくれて全然よかったのに」
「いやいや、初対面の人をパシらせるのはちょっとね......。今日は別に何も予定なかったし、丁度良かったよ」
仙台駅へ向かう電車の中で、松川君となんのこともない世間話をする。
つい数日前までほとんど宛もなく探していた相手と、今普通に話していることがとても不思議だ。
そしてまさか同じクラスの花巻君のお友達だったとは......世間は狭いというか、灯台もと暗しというか。
とりあえず、松川君と再会できてちゃんと御礼を言えたのは本当によかったと思う。
「でも、まさか辞書借りた子が葉山さんなんて思わなかったから、本当にびっくりした」
丁度松川君も同じようなことを考えていたようで、思わず笑いがもれる。
「あはは、うん、私もめちゃめちゃびっくりした。あの時は松川君の顔もよく見られなかったし、名前も知らなかったから、もう会えないかもって思ってたのに......まさか、花巻君繋がりで会えるなんてね」
「ああ、なんだ、あの時俺の顔見てなかったの。なるほど、だったらわかんないよなぁ......」
私が松川君のことを直ぐにわからなかった理由を知り、松川君は何度か頷き納得する素振りを見せた。
「その節は大変申し訳ございませんでした」と再度小さく頭を下げると、「や、全然いいんだけど」と笑いながら軽く手を振られる。
「俺、この身長でしょ?だから結構人から覚えられること多いんだけど、葉山さん教室で会った時全然ピンと来てなかったじゃん。だから、俺に対して全く関心なかったんだなって少し思ってたんだよね」
「いやいや、全然そうじゃなくて!ちゃんと御礼言いたいなってずっと探してたんだけど、顔も名前も分からないからどうしたものかと思ってて......でも、松川君の声聞いたらこの声知ってるかも?ってなってね?それで、松川君が“後頭部大丈夫?”って言ってくれたから、なんかもうすごいテンション上がっちゃった」
「え、そうだったの?その割にはなんか、落ち着いて見えたけど......」
「あはは、その時は驚きの方が大きくて、上手くリアクション取れなかったというか......内心ではもう、やったー!会えたー!ってなってたよ」
先日のことを思い出しながらクスクスと笑う私に、松川君は「なんだ、そっか」と一人納得するように何度か頷いた。
ここで電車のアナウンスが入り、次の停車駅が目的地の仙台駅であること告げる。
「......よかった、俺だけじゃなくて」
「え?」
徐々に減速していく電車に、そろそろ降りる準備をしようとパスケースをカバンから出していれば、松川君の声が上から降ってきて反射的に顔を上げた。
私と目が合うと、松川君はゆっくりと口角を上げる。
「......俺も、また会えて嬉しかったから」
「.............」
切れ長の瞳を細め、嬉しそうに笑いながら言われた一言に、思わず頭と身体が固まった。
目を丸くしたままぽかんと口を開け、間抜けな顔で何も言えなくなる私に対し、松川君は相変わらず余裕綽々といった様子で窓の外の景色へ目を移す。
「......着いたよ。降りよう」
減速していた電車が完全に止まり、音を立ててドアが開く。
声を掛けてきた松川君が先に行くのかと思いきや、どうやら松川君は私が動くのを待っているようだったので、慌てて足を動かした。
駅へ降りると相変わらずホームには沢山の人が居て、ぶつからないように気をつけながら少しでも拓けた場所へ移動する。
こういう時、もう少し背が高かったら人混みの中をまともに歩けるのかなと考えてしまうが、今現在の私にどうこうできるはずもなく、取り敢えず邪魔にならないように注意するしかないのだ。
でないと相手が私に気付かず、どんどんぶつかってきてしまう。
「葉山さん」
いつものように細心の注意を払いながらホームを歩いていると、後ろから聞こえた声にハッとした。
そうだった、今日は松川君という背の高い人と一緒なんだった。
一先ず松川君の近くに居れば、普段とは違ってどかどかぶつかられないのではないだろうか!
「松か、痛ッ」
慌てて振り向くも、私のすぐ後ろには知らないサラリーマンが居たようでまんまとぶつかってしまった。
「す、すみません......」
急に立ち止まってしまった私が明らかに悪いので即座に謝ると、サラリーマンの方は機嫌悪そうに舌打ちだけしてさっさと私を追い抜いていく。
いやもう、本当ごめんなさい......と内心で大反省会をしていれば、後ろから右腕を緩い力で引かれた。
何事かと顔を向けると、眉を下げた松川君の顔があった。
「ごめん、間にヒト入られちゃって......さっきぶつかってたみたいだけど、大丈夫?」
「あ、全然......私の方こそ、さっさと行っちゃってすみませんでした......」
腕を引かれた相手が松川君であったことにほっとした後、ついいつもの癖でちょこまかと歩いてしまったことを詫びる。
日本人の一般男性の平均身長よりずっと背が高い松川君の近くにいると、やはり他の人は大きな彼をちゃんと認識し、避けて歩いてくれることが分かる。
背が高いということ、それだけでメリットがあるんだなぁと少し羨んでいると、松川君は「えーと、どっち口だっけ?」とホームの案内板を見ながら私の右腕から大きな手をするりと離す。
......これがデートだったら、このまま手を繋げたのかな。
離された大きな手に一瞬そんなことを考えてしまい、己の図々しさにぐらりと世界が揺れる。
自意識過剰なのも大概にして私......!
「......葉山さん?どうした?もしかして具合悪い?」
「......ううん、大丈夫。出口は確か、こっちだったかな」
恥ずかしさと居た堪れなさから片手で口を隠す私に、優しい松川君は直ぐに調子を心配してくれる。
体調的には全く問題ないことを返し、とにかく松川君を目的地の書店へとナビしなければと頭を切り替え、私はカバンを背負い直してから一先ず駅の出口へ松川君をお連れするのだった。
月曜日の放課後
(Love or Like?みんなどうやって見分けてるの?)