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デフォルト:葉山 果穂【はやま かほ】青葉城西高校三年三組。予備校通いの電車通学。
真面目で努力家ゆえに慎重過ぎるところがある。
最近の悩み:「同じクラスの花巻君との“デコボコフレンズ”というあだ名を何とかしたい。」
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早朝の電車の混雑と言ったら、最悪の一言に尽きる。
社会人の通勤組と、私達のような学生の通学組が合わさり狭い車内は更に狭くなる。
その上今日は雨も降ってるから、普段歩いて通勤、通学している人達も余分に乗車しているのだろう。
ああ、もう最悪。すしずめ状態の車内にウンザリしながら溜息を吐くも、混雑は緩和することもなく電車は走り続ける。
元からそこまで背が高くない為、混雑する場所に居る時はなるべく潰されないように細心の注意を払うのだが、今日は同じ青葉城西高校の背の高い男子生徒が前にいるからかいつもより少しだけ潰されてないように思えた。
おそらく向こうも私を認識していて、下手に触りたくないのだろう。
身長差もあり、私もずっと俯いているからその男子が知人かどうかは全くわからないが、お互い向かい合って立っていても声を掛けてこない辺り多分知らない者同士である可能性が高い。
私の目線からは彼の靴と制服しか見えない為、大きい足だなぁと明後日のことを考え始めた矢先、電車が勢いよく揺れた。
途端、前の男子プラスアルファの圧力が扉前に立つ私の身体にのしかかり、その重さに耐えきれず扉にガツンと頭をぶつける。
後頭部の痛みに耐えながら何とか体勢を立て直そうとするも、貧弱な私の力ではどうすることもできず、電車が揺れる度にガツガツと頭をぶつけてしまう。
痛い、これ結構、いや、かなり痛い。一体何の苦行だ、っていうかお願いします退いてください!
連続する後頭部強打に生理的な涙が滲み、押さえつけられる圧力にも心と身体がひしゃげそうになっていると、私を押し潰している男子が少しだけ体勢を変えた。
「......ごめん、ちょっと失礼」
頭の上から降ってきた声に思わず息を止めると、流れるような動きで頭の後ろに右手を回された。
先程足が大きいと思ったけど、どうやら手も大きいらしい。私の頭が殆どすっぽり収まってしまった。
びっくりして瞬きすら忘れたまま身体を固くしていると、再び電車が大きく揺れる。
だけど、今は彼の右手が扉と私の頭の間に挟まってくれているため、先程みたいに頭をぶつけることはなかった。
右手を緩衝材として私の頭を守ってくれていることに漸く気が付き、慌てて彼の顔を見ようとするも俯いた角度のまま顔が上がらない。スペースが無いのだ。
相手を確認しないままお礼を言ってもいいものかわからず、思考ばかりが焦る。
それどころか頭の後ろの大きな手は緩衝材になるだけでなく、長い指で患部を優しく撫でてくれるものだから余計に思考がこんがらがるのだ。
お、男の人にこんな風に頭を撫でられたことなんてない!何これすごく恥ずかしい!
「.......っ......」
あっという間に顔が熱くなり、今度は羞恥心による涙が滲む。
ああ、もう、嫌だ、なんで、こんな、ああ、もう!
何の意味もない言葉だけがぐるぐると頭を巡る中、後頭部にある大きな手はまるで壊れ物を扱うような優しさでゆっくりと撫で続けてくれる。
こうなるともう頭の後ろにしか意識が集中しなくなり、あれ程嫌悪していた混雑すら認識出来なくなってきた私は、為す術なく思い切り目を瞑るしかなかった。
「......ハイ、到着。お疲れさん」
暫く真っ暗な視界でいると、再び上から先程の声が降ってきた。
反射的に瞼を開けた瞬間、後ろの扉が音を立てて開く。どうやら最寄り駅に到着したようだ。
慌てて扉から背中を離せば、私のバランスが安定するのを待ってから頭の後ろの手をゆっくりと離される。
あんなに恥ずかしかったのに、大きな手の温もりが離れてしまうことがとても名残惜しく感じてしまい、そんなことを思う自分がまた恥ずかしくて結局顔を上げることが出来なかった。
「っ、あ、ありがとう、ございましたっ」
せめてお礼だけはと早口でそう伝えるも、降車する学生達の荒波にすぐに呑まれてしまったので相手にちゃんと伝わったかどうかまではわからなかった。
ああ、もう、最悪の一言に尽きるのは満員電車じゃなくて、自分自身のことじゃないか!
▷▶︎▷
「おーす、松川。右手どーした?」
駅の改札を出たところで聞き慣れた声に名前を呼ばれる。
振り向いた先には花巻の姿があり、その視線の先は俺の顔の前にある右手に固定されていた。
「なに、もしかして痛い?突き指?」
「......おはよ。別に怪我とかじゃないから、全然平気」
「......あ、そ?」
間髪入れず、抜け目なく訊いてくる花巻にそう返してやると、緩い相槌を打ちつつも何処と無くまだ俺の右手を気にする感じが残る。
同じバレー部の花巻は大雑把に見えて、実は細かいところによく気が付く所がある。
花巻相手に下手に言葉を濁すのは良くないだろうと踏んだ俺は、直ぐに軌道修正に掛かった。
それに、花巻ならこういう話をしても大丈夫だろう。
「いや、実はさっきさ、俺の目の前に立ってた女子がめちゃめちゃドアに頭ぶつけちゃってて」
「うわ、そりゃ可哀想に」
「結構痛そうだったから、少しだけ頭抱えてあげたのよ。そしたらすげージャストフィットで。髪の毛サラサラだし」
「ジャストフィットwで、その感触思い出してたんですか?やだ~、松川君ムッツリ~w」
「あー、うん、それもあるんだけど......なんか、匂いがね、めちゃめちゃ好きな匂いで」
「オイオイそれムッツリどころじゃねぇしドスケベじゃねぇかwまだ朝ですよ?w」
「あれってシャンプーとかリンスなんかね?それとも香水付けてんのかな?」
「無視かよ!」
俺の話を面白可笑しく受け取る花巻には悪いが、俺は結構気になっている案件だ。
もう少しだけ嗅いでおきたかったし、あわよくばあの子の頭に顔を填めて存分に匂いを堪能したかった。
そんなことしたら絶対チカン扱いされるから理性で止めておいたけど、正直今はめちゃめちゃ名残惜しい。
そんなこんなでついあの子の頭を撫でていた右手を鼻先に近付けていた所を、花巻に見られてしまったという訳だ。
「......あーあ、あの子、俺の事探しに来てくれないかなァ」
「いや、お前が探せよ。女の子頼みにすんじゃねーよ」
「んー、じゃあ花巻探して。身長これくらいで、いい匂いする子。黒髪ストレートでセミロングくらいだった」
「いや、だからお前が探せっつーの!つーかわかるかそんなヒントで!いっぱい居るわ!」
冗談半分で言った言葉に思いっきり反論され、思わず笑いが漏れた。
でも、たしかに花巻の言う通り、該当する女子生徒は沢山居るだろう。
......やっぱり、危険を冒してでもあの匂いを堪能しとけばよかったかな。
後悔先に立たずとはよく言ったものだ。まぁ、実行したらしたで今とは正反対の後悔をしていただろうけど。
そんなことを考えながらも未練がましく右手を鼻先に近づければ、あの子の匂いはキレイさっぱり無くなってしまっていた。
気になる人ができました
(だけど、全く知らない人でした。)